俺は、出会った
駅前の人通りを、俺はタバコを吹かしながらボーっと眺めていた。
どいつもこいつも、この季節と世知辛い世の中の所為か、俯きがちで溜め息ばかり吐いているようなどうしようもない大人たちばかりだ。
俺が穿ち過ぎか?
いや、そんなことはないだろう。
現に俺だって、疲れた錆びたような、大人だ。
「キャハハ」
「だってー」
耳を付くような高い声が聞こえたから、そちらを見遣ると若い連中が腕を組みながら疲れた大人の群れを掻き分けるかのように歩いていた。
若いっていいな。
そんな一言が浮かんでは消える。
若い頃は、そんな年を取った先のことなんか微塵も考えていなかった。
このまま若いまま、一生を謳歌していくもんだとか、真面目に思っていたっけな。
「ねえ、なんか変な人がこっち見ているよー」
「嫌だー」
「どうせ、このコロナで仕事が無くなったんだよ」
「かわいそー」
チッ、と悪態をついて俺は明後日の方向を見る。さも、あちらに待ち人が居ますよー、決して仕事がないあぶれた人ではないですよー、という雰囲気を醸し出して。
若者連中が去っていくのを目の端で確認すると、俺は溜め息をついた。
……事実。俺は、さっき働いていた飲食チェーン店から解雇された。
この不況下、流行りの感染症の影響で職を失った奴は多い。
俺もその一人ってワケだ。
そんなことをつらつらと心の中で誰へとなく語っていると、俺の足を突く、というかジーパンを引っ張る奴が居た。
「ん?」
俺は足元を見下ろした。
自慢じゃないが、顔はイケメンじゃなくとも俺は背だけは高い方だ。
その俺が見下ろすというと……。
子どもだった。
子どもが、俺のジーパンをツンツンと尚も引っ張っている。
男の子か、女の子か、どちらか分からないくらい整った顔立ちの子だが、おそらく男だろう。
俺は、ゆっくりとしゃがんだ。
「どうした? 迷子か?」
「……」
何も喋らない。
周りを見渡しても、親らしき人物もいない。
「なあ」
お巡りさんトコ行こうか。と続けようとした俺に、男の子は後ろ手に持っていたボード俺に見せた。
『詩 買ってください』
「は?」
思わず咥えていたタバコが落ちた。