ルート:ジェフとザカリー
あなたは、ジェフとザカリーの住む家に一緒に住まわせてもらう事に決めた。
ジェフは可愛いし、ザカリーも悪い人物ではなさそうだ。ジェフ曰く、ではあるが。
二人はあなたに空いている部屋を与えてくれた。
ザカリーはどこかに出かけてしまい、あなたはジェフと二人で部屋の掃除をする事になる。
掃除をしている間に、ジェフは色々教えてくれた。
彼はまだ十八歳で、両親を亡くしたのは十歳の時だったそうだ。ジェフの両親とザカリーは元々友人同士で、その縁もあってジェフを引き取ってくれたらしい。
「ザカリーは、見た目はちょっと怖いし口も悪いんだけど、裏表がないから分かりやすいよ。思ったことはぜーんぶ口に出しちゃうタイプだから」
そう言ってジェフは笑う。
言われてみれば確かに、銀縁眼鏡参謀のジョッシュに比べると、腹黒い感じはザカリーには見えない。
「まぁでも、オバハンって言ったのは許せないけどね!」
「気にしないで良いよ。お姉さん、すごく綺麗だと僕は思うから」
お世辞だと分かっていても、目を細めて褒められるとつい口元が緩んでしまう。
あなたは嬉しくなって、思わずジェフの金髪をいい子いい子してあげた。ジェフは照れ臭そうな顔をあなたに向けてくる。その愛らしい顔がもうたまらない。
「ジェフ、かわいい〜〜っ」
わしゃわしゃわしゃわしゃとその髪を撫で付けていると、「お姉さん!」とその手を取られた。
ちょっと調子に乗り過ぎたかとあなたは反省する。でもやっぱり、少し頬を膨らませているジェフは可愛い。
「そんなに僕って子どもっぽい?」
「あ、いや、ごめんね……子どもっぽいというか、かわい……えーと、とっても魅力的で」
あなたが言葉を選んで言い訳すると、ジェフは唇を尖らせながらも少し嬉しそうにしてくれた。
掃除が終わると、ジェフはクローゼットから女物の服を出してくれる。その顔が少し申し訳なさそうで、あなたはどうしたのと言うように小首を傾げてみた。
「これ、僕の母さんが着てたやつなんだけど……」
「え、借りて良いの?」
「あ、故人の服なんて嫌だったら、着なくても大丈夫だから!」
「そんな事はないけど……私なんかが着ても良いのかな」
「巫女姫さまが着てくれるなら、死んだ母さんも喜ぶよ。それに僕も嬉しい」
ジェフがそうキラキラして言うものだから、あなたはその服に袖を通すことにした。
服は何枚かあったが、裾がふわりと膨らんだロング丈の服が多い。
少し悩んで、一番シンプルな淡い黄緑色の物をあなたは選んだ。
「わぁ、お姉さんすごく似合ってるよ!」
「あ、ありがとう……ジェフ」
まるでおとぎの国に紛れ込んでしまった主人公のようだと、あなたは少し照れた。おとぎの国にいるにしては年齢がごにょごにょではあったが。
「おい」
ノックもなしにザカリーが部屋を開けてくる。
あなたはデリカシーのなさそうな男をジロっと睨むと、ザカリーは少し驚いたような顔をしていた。
「……ナタシアの服か」
「うん、母さんの服を着てもらったんだ。似合ってるでしょ?」
「どうだかな」
どうやらこの男はお世辞を知らないらしい。確かに、正直と言えば正直かもしれないが。
「おい、お前。団長から金をせしめてきたから、買い物に付き合ってやる。必要なもんはなんでも買って良いとよ」
「買い物?」
「行っておいでよお姉さん。僕はこの部屋を掃除しておくよ」
ジェフがそういうので、あなたはザカリーと街に出掛けることにした。
北にある騎士団の本陣周辺は、竜の離着陸のためか何もない場所にあったが、逆に南側はとても賑わっていた。
細く狭い道が入り組んでいるが、お店の人の声が路地まで響いていて活気がある。
赤いレンガの石畳が、ファンタジー感を掻き立ててくれて、あなたの足取りは自然と軽くなった。
「買いたいもんは?」
「えーと、何がいるんだろ……服とか、下着とか、かなぁ。」
「んじゃ、あっちの店だな」
連れて行かれた先の洋服店で、数点買わせてもらった。ワンピースはジェフの母親のがあったので、動きやすそうな服を中心に選ぶ。
ザカリーは荷物持ちに徹してくれるようで、買ったものは全部持ってくれた。
「他には?」
「特に、これと言って思い浮かばないけど……」
「お前、欲がねぇな。豪遊してやれよ、巫女姫だぜ」
「巫女姫じゃないかもしれないじゃない」
「ここに呼ばれた時点で巫女姫に決まってんだろ。宝石の一つくらい身に纏え」
そう言ったかと思うと、ザカリーは雑貨店に入っていく。
そしてアクセサリーを数点手に取ると、「これくれ」と店の人にお金を渡している。
服を買った時は一点五千ジェイアから二万ジェイアだったが、アクセサリーは千ジェイア程度だった。
宝石、というより、本当に単なるアクセサリーだ。
ザカリーはそれを、すぐに耳と首と髪に飾ってくれた。あなたに似合う色のアクセサリーを選んでくれたようで、安物でもとても映えた。
「これでちょっとはマシになっただろ」
「マシってなによ?!」
「マシはマシだ」
ザカリーはフッと笑って、ぽんっとあなたの頭を叩いた。
もう、と言いつつも、何故か顔はにやけてしまう。
思えば、アクセサリーのプレゼントをもらうのなんていつ以来だろうか。
あなたは、もうずっとこんなものをもらっていなかった気がした。
久々に女扱いを受けた……その事実が、あなたの胸をそわそわとさせる。
「本当にもう買うもんねーのか?」
「うん、今すぐには思いつかなくて……何か美味しいものがあれば、買って帰ってジェフと一緒に食べたいな」
そう言うと、ザカリーはアップルクリームパイを三つ買ってくれた。
パイからただよう、バターのいい香り。途端にお腹がグーっとなる。
「あっ」
「腹減ってんだったら食えよ」
「う……じゃあ、一口だけ」
あなたは我慢できず、そのアップルクリームパイにかぶりつく。
サクッと音がしてパイ生地が口に入った。と同時に、中にあったリンゴのシャキシャキ感と、クリームチーズとカスタードを混ぜ合わせたようながアパレイユが交錯し、口の中いっぱいに広がる。
「わーーー、おいっしい!!」
「女はこれが好きなんだよな」
「やだ、いくらでも入っちゃう!」
一口のつもりがもう一口、もう一口と、ついつい口に運んでしまう。
「良い食いっぷりだな」
あなたは少しはしたなかったかと思ってザカリーを見上げると、彼はフッと笑った。
「何つけてんだ」
彼の唇がするりと落ちてきて、あなたのほっぺをはむりと食べられる。
「ななな?!」
カッと顔が熱くなってザカリーを見ると、彼はニッと笑って。
「クリームついてたぞ」
「そ、そりゃどーも!」
わたわたと目を逸らし、平常心を試みた。十代の少女じゃあるまいし、こんな事で慌てるのは恥ずかしい。
チラと見上げると、彼はまだ笑っていた。目付きは悪いながらも、笑うザカリーの顔は悪くない。
恥ずかしさを隠すようにパイに食いつくと、家に着くまでに全部食べ切ってしまった。
「っは! いつの間にかもうない! 不思議……っ」
「全部食ってただろうが」
「ジェフと一緒に食べようと思ってたのに!」
「俺の分やるよ。ジェフと一緒に食ってやれ」
「え、いいの?! ザカリーって意外にいい奴!」
「意外には余計だ!」
ザカリーはそう言って、あなたの頭を乱暴に撫で付けた。
家に帰ると、ジェフは部屋をきれいに片付けてくれていた。
労いの意味も込めて、アップルクリームパイを食べようと言うと、外で食べる事を提案される。
景色の良いところで頬張るパイは最高だ。ジェフもニコニコ顔で頬張っている。
「僕、このパイ好きなんだ」
「すっごく美味しいよね! 私も好きになっちゃった」
「女の人ってこれ好きだよね。母さんも昔、よく作ってくれたよ」
そう言ったジェフの笑顔が少し寂しそうに見えて、あなたは彼の金髪を優しく撫でた。
苦笑いしている顔は、やはりどこか子供っぽさが抜けない。
「ねぇ、お姉さん……ううん、巫女姫様」
「なあに?」
「僕と、結婚して?」
「はええええええ?!」
いきなりのジェフからのプロポーズに、あなたは素っ頓狂な声を上げた。
ジェフは大真面目な顔で、あなたをじっと見つめている。
「え、ちょ、今日会ったばかりだし……っ」
「時間なんて関係ない」
「親子ほど年が離れてるよ?!」
「巫女姫さまは、僕をそんな対象として見られない?」
あなたは四十歳。ジェフは十八歳。その差、二十二歳だ。
日本人の感覚で言うと、なくはないものの、周りの視線が気になる年齢差である。
しかしここは、あなたの知り合いが誰もいない異世界。
金髪碧眼の彼は、すっとあなたの手を取った。
「巫女姫さまが現れた時、僕は本当にドキドキしたんだよ。これ、絶対に恋したんだと思う」
「いやいや、そのドキドキは違うんじゃないかな?!」
「巫女姫さまは、僕が嫌い?」
「嫌い、とかでは、ない、けど……」
全てを言い終える前に、取られた手の甲に、ちゅっとキスをされた。
こんな王子様のような美形の若い男の子にそんな事をされたのは初めてで。
年甲斐もなくカアっと顔が熱くなる。
「僕の事、ちゃんと考えてみて。絶対に巫女姫さまを幸せにするから」
「う、うん……」
真剣なジェフを相手に、誤魔化しなど無意味だと思ったあなたは、そう頷いた。
この世界でいる限り、誰かと結婚しなければいけないらしいのだ。
ならば、ジェフかザカリー……どちらかになるだろうとあなたは思った。
次の日、あなたは二人から出掛ける事を提案される。
「巫女姫さま、僕とデートしよう?」
「竜に慣れといた方が良いだろ。バキアの鱗洗いについて来い」
あなたはジェフとザカリー、どちらと一緒に出掛ける?
①ジェフと一緒にデート
②ザカリーと竜の鱗洗い
下のリンクからchoiceで次の小説に飛べます!