ぷろろーぐ。
名前は、セレス。
覚えているのはそれだけ。
随分と長いこと旅をしている。
何故旅をしているのかは、忘れた。
何処へ向かっているのかなんてわからない。
この、終わりのない、長い旅路の終着点。
そんな場所が存在するのかすら曖昧なんだ。
それでも、ただひたすらに歩き続けるしかない。
今ここに存在している意味さえわからいのだから。
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昔から人の顔色を伺うことが苦手だった。
…というより、私には【空気を読む】という事が出来ないらしい。
誰かの顔色を伺って、自分を押し殺して生きるなんてまっぴらだ。
そう思っているのだから仕方がない。
そして、隣にいる『コイツ』も私とは違った種類の【空気が読めない】奴なのだ。
つい先刻も、こんなことがあった。
数日前から共に旅をしてきた者達がいた。
私とコイツは、よく言えばマイペース。
そう言えば聞こえは良いが、言いかえればただただ協調性がないのだ。
彼等は後から来て私達に追いついてきた。
突然声をかけられ、旅路を共にすることになった。
それ自体は良くあることだ。
そして、この先の出来事も、等しく良くあることなんだ。
私達は相手に合わせてペースを変えない。
彼等は先を急いでいたようだ。
だが、私達には急ぐ理由などない。
ここらで少し休もう。
彼等も提案に乗った。
そこで私の悪い癖が出てしまった。
一度休憩を挟むと、往々にして動くのが億劫になる。
仕方がないことだ。
別に急ぐ理由などない。
行き先も、目的も不明なのだから。
どれくらい休んだのかは分からない。
『時間』という概念が曖昧な世界。
それでもまだ動く気にはなれない。
彼等は先を急ぐので、出立を促してきた。
そもそも、そんなにも先を急ぐ理由などあるのか?
すると、『コイツ』が言った。
「この先を進むのにも飽きたから、今来た道を戻ってみませんか」
彼等は怒って、私達と決別した。
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『コイツ』とばかり呼ぶのも不便だから、呼び名を考えなければ。
今からコイツのことは『プラム』と呼ぶ事にしよう。
「なぁ、今からお前のことをプラムと呼ぶことにするよ」
「別に構わないけれど、ボクにはルースと言う名前があるんだけどね」
あぁ、そうだった。
コイツには既に名前があったんだ。
うっかりしていると忘れてしまう。
「なぁ、プラム、それじゃあ、そろそろ戻ろうか。」
今来た道を指差すとルースは言った。
「ルースだけどね。戻るのはやっぱりやめよう。それより、こっちの方が面白そうだ」
先程から道だの旅路だのと散々言ってきたが、そもそもここには【道】と呼べるものがない。
あるのは永遠に広がる平原。
何処へ向かうのも自由な、果ての見えない地平があるのみ。
プラムが指差す方角に、特段面白そうな物は見当たらない。
まぁ、良いだろう。
何処へ向かうも自由なのだから。