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〈9〉王都の王子たち 4

「メアリ嬢が行方不明!? 護送中に襲撃されて、連れ去られた!?」


「そうらしいな。おおかた、天罰にあったのだろうよ」


 ククク、と喉を鳴らしたリアムが胸に手を当てて、楽しげに祈りを捧げる。


 そんなクズ王子に向けて槍を構え直す2人の兵士を押し止めたラテスは、投げ落とされた書類を拾い上げて視線を走らせた。


「護衛は誰もが天啓に従って、馬車には乗り合わせず。襲撃の直前に御者を振り落とした馬車が、メアリ嬢だけを連れて行方を眩ませた……。なんですかこれは!!」


「見てわかるだろ? そこに書いてある通り、悪魔を輸送した詳細だよ。神は無意味な殺生をしないらしい。神は優しいからな」


 ふざけるな! そんな馬鹿な話があるか!


 そう叫んだ所で、意味がないことくらい、わかっている。


 わかっては、いる。


「なぜ、護送が!? 地下の牢屋であれば、必要ないはずでしょう!!」


「ああ、それも神の意思だな。余もまだまだ修行が足りぬのか、その意向は計り知れぬよ。いずれは知りたいものだ」


 そんな言葉と共に、唇を歪めて笑って見せた。


「あなたはどこまで……!!」


「なんだ、平民王子? 余に背く気か?」


「くっ……!!」


 相変わらず、腐っている。


 たが、こんな男でも長兄であり、教会派と呼ばれる貴族の支持がある。


 教会から送り込まれた貴族たちに実績はないものの、その手足は国の端々にまで届いていた。


 今ここで殺せば、国を割る戦争に……。


「おいおい、そんなに睨むなよ。不敬罪だぞ?」


「…………」


 まだだ、今は耐えろ。


 こんなヤツを殺す暇があるなら、その時間を有効に使え!


 血が滲むほど強く唇を噛み締めて、ラテスは身を翻した。


「捜索を始めます! すべての兵を使って、メアリ嬢の捜索を! 兄の勢力に強力な賊を使える者はいない! メアリ嬢であれば、逃げ延びて、生きているはずです!」


 口に広がる血の味を強く感じながら拳を握りしめて、兵たちに指示を出す。


 武力こそないが、知識が豊富で、誰にでも好かれる彼女のことだ。


 兄の企みなど事前に見抜き、タイミングを見て逃げ出しているだろう。


「捜索は小さな村を中心に! 私が知るメアリ嬢なら、そうするはずです!」


 平民の暮らしにも強い興味を持っていた彼女のことだ。


 おそらくは街道近くの村に溶け込み、平民として暮らしているのではないだろうか。


 そうあって欲しい。


 そんなラテス王子の思いも、リアムが笑い飛ばす。


「無駄な金を使うな。天の導きに抗える者などおらぬよ」


「なにをーー」


「古竜は天使の使い。今頃は、神の元へ旅立っているだろうさ」


「なっ……!!」


 慌てて報告書を手に取り、馬車の方向を見定める。


 目的地を誤魔化すためか、いくつかの町を経由して動いていたようだが、その方角にあるのはただ1つ。


 古代から生き続けた竜が住まう場所。


「魔の森……」


「余の天使をイジメたのだ。相応しい末路だろ」


「だから、それは!!」


 マリリンが考えた妄想だと言っただろ!!


 そう言葉にしても意味はない。


 もし、この報告書も大半が嘘だとしたら?


 国境にある森も、魔力補助を受けた馬車を使えば、1日とかからない。


 どんなに遅くとも、今日で3日目。長ければ5日。


 相手は、嘆願書を剣で切るような男だ。


 書類を偽造し、メアリを死の森に放り出すなど、造作もないだろう。


「私はまた、間に合わないのか……」


 最悪の予想が、ラテス王子の脳内を通り過ぎていく。





ーーそんな時、




「リアム殿下、ラテス殿下、両殿下にお届け物が届きました!」


 張り詰めた空気の中に、年若いメイドが駆け込んで来た。


 次いで姿を見せた2人の兵士が、抱えていた物を目の前で広げて見せる。


「なっ!?」


「リトルドラゴンだと!?」


 それは、魔の森に住む竜の皮。


 考えられる送り主は……。


「付属された音声を再生します」


「……」


「あぁ! 始めてくれ!」


『暑中見舞い申し上げます。今日はドラゴンの皮がいっぱい取れました。おすそ分け致しますわ。メアリより』


 場に似つかわしくない軽やかな声が響き、王子たちが動きを止める。


 やがて顔を真っ赤に染めたリアムが、付属された手紙を握りつぶし、


「ふっ、ふふ、ふははははははは。そうですか。メアリ嬢は、天使の使いを返り討ちですか」


 ラテス王子は、どこまでも楽しげに笑い続けていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 武力がない? 無敵のマッシュ君軍団持ってる人がですかw
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