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〈60〉桃子の魔法 4

「え……?」


 今の声って……。


「アルスルン?」


 そう問いかけながら振り向いた先に見えたのは、教会の服を着た青年の姿。


 ネクタイを身に着けれるのは教会のえらい人だけ、とか言う設定の影響で、


 ネクタイを結って解くシーンだけを集めた動画が、10万回良いねとリツイートされた男。


ーー6人目の攻略対象(ヒーロー)のアルスルンだった。


 そんな彼も、私を見る目が画面越しだった頃と全然違う。


「……なるほど。名乗ってもいないのに、声だけで当てられるのは怖いですね」


「ふざけるんじゃないわよ! アナタもバグってるのね!」


「は? ……いったい何を言ってーー」


「うるさいのよ! ネクタイと一緒に第3ボタンまで外れる男が! ネクタイで口も縛ってろや!!」


 もう嫌! みんなクソすぎる!


 どうして主人公である私に、全員が冷めた視線を向けてくるの!?


 馬鹿なんじゃないの!?


 それに誰よ! 後ろに居る2人は!


「メイドとショタの癖に、私を見て怯えるな!!」


「ひゅっ……! おっ、お姉ちゃん……」


「大丈夫よ! 何があってもお姉ちゃんが守ってーー」


「モブのくせにキャラデザが良いなんて、誰得なのよ!!」


 ショタはまだ良いにしても、幼い弟を守る健気なメイドなんて、誰も望まないに決まってる!!


 これは乙女ゲームなのよ!?


 女性向けよ?


 悪役でもないのに、攻略対象を奪われそうなキャラ作ってどうするつもり!?


 本当にイライラする!!


 もういっそのこと、みんな死ねばいい!


 プログラマーもシナリオライターも、バグった攻略対象たちも、全員いらない!!


 死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね!


 そう思っていると、不意に背後から声が飛んでくる。


「お帰りなさい、リリ。私の予想よりもだいぶん早かったわね。その子が、弟くんかしら?」


「はい! 自慢の弟です! メアリ様のおかげで、歩けるまでに回復したみたいなんですよ! ソラ、挨拶して」


「うっ、うん。はじめ、ま、して。ソラと申しますです。お姉ちゃんがお世話になってます」


 メイドの背後から顔を覗かせたショタが、お姉ちゃんのスカートを握り締めながら、ペコリと頭をさげた。


 その視線の先にいるのは、もちろん私じゃない。


「あら、私の方がお世話になっているのだけどね」


 そう言ってメアリが微笑んで、ソラくんがコテリと首を傾げる。


「2人とも、こっちにいらっしゃい」


「わかりました! 行くよ?」

「う、うん……」


 主人公であるはずの私を無視するかのように、2人がメアリの方に走っていく。


 仲良く、手をつないで……。


「ありえない! 何なのよ!!」


 攻略対象であるアルスルンと、主人公(マリリン)の出会いのシーンなのよ!?


 今の姉弟(きょうだい)の演出はなに!?


 どう考えても無駄よね!?


 プレーヤーの怒り(ヘイト)をあのメイドに集めたかった?


 なぜ??


 最終的には、あのメイドからショタを救出する流れなの!?


「仲良さそうに見えて、実はイジメを繰り返していて……」


 あのメイドも断罪される悪役! そういう事ね!


 だから、メアリの隣に行ったんだわ!


 それに彼女たちと一緒に来たアルスルンは、教会の法の番人!


 つまりは、彼を落として、メアリとメイドを断罪! その上で、全員との仲を進めて……!


「なるほど! そういう事なのね!!」


 不完全に終わったメアリ投獄のイベントを、もう一度 ここでやるのね!


 思えば、バグが始まったのは、メアリが追放されてから。


 そう! そうに違いない!!


 彼を使って、ゲームを正常に戻せばいいのね!!


「アルスルン! あなた、こちら、に……?」


 クルリと振り向いて、視線を彼の方に向けると、


 星形のペンダントが視界に映りこんだ。


 いつの間にかアルスルンが掲げていたそれは、彼が罪を裁くときに罪人に見せるもの。


 それが、


「なんで私の方に……?」


「無論、あなたを裁くためですよ。相模原 桃子さん」


「え……?」


 私を、裁く……?


 メアリじゃなくて?


「なん、で……? 私は、主人公で……。光の天使で……」


「もう一度言いましょう。まずはあなたの称号を剥奪させて頂きます」


「はく、だつ……」


 称号の剥奪?


 そんなイベント聞いたこともないわ。


 この男は、何を言っているの?


 それに何で……、


「なんでアナタまで、メアリの側に行くのよ! それじゃぁ まるで、メアリの仲間みたいじゃない! 裁くべきは、その女でしょ!!」


「これは異な事を。なぜそう思ったのかは、わかりませんが。今からアナタの裁判を始めますよ。相模原 桃子さん」


 どうして!?


 あなたはリアムと一緒に、メアリを断罪するのが仕事でしょ!!


 その立ち位置のせいで、リアムの腰巾着のようだ、なんてSMSでーー、


「そうか、リアム!!」


 あいつを忘れてた!


 彼が先頭に立って、初めてイベントが進むんだ!!


「ねぇ、リアム! あなた、メアリをーー」


「きやすく……、呼ぶな……」


「え……?」


 リアムが私から目を背けて、ゆっくりと離れていく。


「ちょっと、リアム! なんで!?」


「黙れ!! お前みたいなヤツが、マリリンのはずがない!! 恥を知れ! 魔女が!!」


「なっ……!?」


 ノーマルエンドのくせに、主人公である私に口答えをした!?


 選択肢をどれだけ間違っても絶対に好感度が下がらない、あのリアムが!?


「ちょっ、待ちなさいよ! 全員でメアリを牢屋に入れるんじゃないの!?」


「わかりました、言い方を変えましょう。我々(・・)はアナタを裁きます。相模原 桃子さん」


 リアムにラテス、ロマーニ、シラネ、アルスルン、白竜様。


 いつの間にか、すべてのヒーローがメアリの側に並んで、敵意のある視線を向けていた。


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