〈59〉桃子の魔法 3
シラネ王子が大きなハンマーを肩に担いで、
ロマーニ王子が二本の短剣を両手に握る。
「ほんとかよ、メアリ姉さん。コイツが……」
「簒奪者……」
まるで親の仇でも見るかのような視線が、主人公であるはずの、私に向けられていた。
そんな2人の可愛い男の子が、悪役であるはずのメアリを守るかのように、愛用の武器を構えて見せる。
白竜様も、ラテス王子も、その側に寄り添っていた。
彼らの目付きも、立ち位置も、言葉も、おかしい!
何もかもおかしいのよ!!
「ちょっと待ちなさいよ! さっきから何をワケのわかんないことをーー」
「千葉の出身。そう言ったのはアナタでしょ? 桃子さん」
「え……?」
だからそれにどんな意味が……?
そう思っていると、メアリが2人のショタの頭を撫でながら、切れ長の目をさらに細めていた。
「今から1000年前に、5歳にして自らを勇者だと名乗る少女が居たそうよ。後に16人の王族と結婚した女性がね」
「だから、何の話よ!? そんなの私と関係ーー」
「自分は別世界の生まれ変わりです。そう言っていたと記録が残っているわ」
「え……?」
アナタが口にした“転生者”と同じ意味じゃないかしら?
そう言ったメアリが、なぜか優しそうに微笑んでいた。
「贅沢の限りを尽くした彼女は、新しい財産と素敵な王子様を求めて、世界中に戦争を仕掛けたそうよ。そして最後は、たった1人で檻に入れられた」
その際の取り調べや、監禁された檻の中でずっと言っていたらしい。
日本に帰りたい。
東京に行きたい。
一目だけでも良いから、もう一度、遊園地に行きたい。
「他にもいろいろと話をしているのだけど。その中でも一番思い入れのあったのが、千葉の遊園地だったみたいなのよ」
「それって……」
「あら、やっぱり心当たりがあるのね」
「…………」
心当たりと言うか、1000年前ってのが意味不明だけど、千葉で遊園地といえば、あの夢の国のことだと思う。
それにたぶん、その女は私と同じ日本人の転生者。
もしかしたら、そいつがバグをこんなに生み出したの!?
そんな思いを胸に私が考えを巡らせていると、白竜様が一歩だけ前に出た。
「2000年前にも同じような女性がいたんだ。何人もの男を虜にして、国を崩壊させる女性がね」
だから、どの国でも簒奪の勇者を気にかけている。
そう言った白竜様の言葉を2人のショタが引き継ぐ。
「一番酷いのがうちだな。1000年前の簒奪者が双子だったから、今でも双子を敵視している。バカな話だ」
「それって……」
「なるほど、ドワーフの王子である僕たちの情報も簒奪していましたか……。その反応の通りです。僕たち2人は、あなたのような人のせいで忌み嫌われて、殺されかけた」
「…………」
なによ、それ……。
「そんな設定聞いてない!!」
「あん? 設定とか知らねぇよ」
「僕たちは、あなた方を許さない。それだけですよ」
なによ、それ……。
どうするのよ!?
顔が桃子に戻って、2人のショタに敵対されて、
ここからどうやって、ハーレムルートに入るのよ!!
何で未だに選択肢が出てこないのよ! クソが!!!!
「2人の言う通りね。桃子さんが知っているか、知らないかなんて関係ないわ。郷に入れば郷に従え、あなたの国の言葉よね?」
「……チッ!」
なによ、全く。
悪役の癖して、ムカつくことばかり!!
調子に乗りすぎでしょ!
「…………だから?」
「え?」
「だから何だ、って言ってんの!!」
黙って聞いていれば気持ち悪い事ばっかり!
悪役のクセして、正義ぶったこと言ってんじゃねぇよ!
私は頭良いんです、的な態度が気に入らない!!
「ええ、そうね! 私は転生者よ。リアム王子と婚約もしたわ。それで? だからなに?」
この国の罪人は、法律によって裁かれる。
日本人が作ったゲームだから、法律も大枠は一緒。
その上に、ゲームらしい特権が加えられている。
攻略本の裏話として書かれていた内容を、私が知らないとでも思っていたの?
悪役はやっぱり、詰めが甘い!!
「疑わしきは罰せず。知ってるわよね? 証拠はあるのかしら? 私の妄言を根拠に処刑にでもするつもり? 本当に出来るの?」
その場にいる全員がポカンとしているけど、私はまだ何かをした訳じゃない。
王子様と婚約して、何が悪い!
国を転覆させるとか、そんな計画がどこにあるって言うのかしら?
これは戦争ゲームじゃなくて、乙女ゲームなのよ?
バカなんじゃないの?
それに、
「私は光の天使よ! 教会から認められた存在よね?」
日本にはない、ゲーム特有の法律。
一度認められれば、たとえ国王でも処罰は出来ない。
主人公なんだから、優遇されるに決まってるでしょ!
「まずは、このキノコから退けなさい! 私に暴れる気は無いわ! 不当に拘束しないで!」
そういって、キノコたちを下がらせる。
メアリは涼しい顔をして、召喚を解除したけど、たぶん悔しい思いをしてるはず!
槍がなくなった中でそんな事を思っていると、
「そうですね。まずはその称号の剥奪をさせて頂きましょうか」
不意に背後から、誰かの声がした。




