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〈58〉桃子の魔法 2

「竜の一族にも、同じような話が残っているよ。2000年前の方は、竜族が一番詳しく覚えているだろうね」


 人族は寿命が短いから。


 そう言葉にした白竜様が、主人公(マリリン)である私を睨んでくる。


 有り得ない話だけど、白竜様が睨んでいる。


 本当ならその目を向けられるはずの悪役が、なぜか彼の隣に立っていて、何かを考えていた。


「そうね……。帰りが大変になるのだけど、ドワーフを2人 呼んでも良いかしら? 1000年前の勇者は、ドワーフたちが当事者だもの」


「そうだったね。あの2人なら構わないよ。小さくて簡単に運べそうだ」


 そう得意げに話して、白龍様が両手を大きく開いて見せる。


 だけどそれは、罠だったらしい。


「あら、やはり、あの2人を知っていたのね。ドレイク殿下が住む崖には、案内していないから、会う機会は無いはずなのだけど?」


「うっ……」


 悪役らしくニヤリと微笑んだメアリが、楽しそうに指先をパチリと鳴らして見せる。


 ぼんやりとした紫色の大きな魔法陣が浮かび上がって、彼女の側にとどまった。


「魔の森を歩くドワーフの存在を教えてくれる神なんて、ドレイク殿下しか思い浮かばないもの。夢で見せなくても、直接言えば良かったと思うのだけど?」


「……さて、どうだったかな」


 そんな昔のことは、良く覚えていないよ。


 そう言って、頬を赤らめた白竜様が、メアリの視線を避けて空に目を向けた。


 そのやり取りは、今の私に向ける物とは違う、優しいもの。


 画面越しに愛し合っていたあの頃と同じもの。


 ……なんで? どうして!?


 肩を並べているだけでもムカつくのに、どうしてあんなに楽しそう笑い合っているの!?


 そんな思いを胸に、奥歯を噛みしめていると、不意に誰かの声が聞こえてくる。


「あん……? なんだ、メアリ姉さんかよ。どうしたんだ? ってか、どこだよ、ここ」


「そうそう、いい感じだよ兄さん。首筋や耳が真っ赤になってるけど、言葉遣いは自然な感じ!」


「ばっ……! 真っ赤になんて、なって、ねぇし……」


 魔法陣が消えた後に残ったのは、半ズボンを履いた2人の男の子。


 メアリの方を向いてわちゃわちゃしてるから、後ろ姿しか見えないけど、


 たぶん、ゲームで出会える、攻略対象(ヒーロー)の2人だ。


 個別ルートなのに、唯一両手に華が出来て、


 その2人の仲の良さ故に、“2人の愛を見守るスペシャルファンディスクR18”が発売された人気者。


 そんな2人が、


「なんで、ここに……?」


「あん?」


 思わず漏れた私の声に、ツンデレの兄(シラネ)くんが振り向いた。


 懐かしくて、すっごく可愛い顔が向けられて、


「ぷはっ! おい、見ろよコイツ。やべぇって! ガマガエルと瓜二つだぜ!? 似すぎだろ! ガマガエルと双子かよ!」


 腹を抱えて、アヒャアヒャと笑い出しやがった。


 初対面で恋に落ちて、顔を赤らめるはずのシラネが、人のことを指差して笑い転げている。


 そんな兄の声につられたのか、腹黒ショタの弟(ロマーニ)くんも、こちらに視線を向けていた。


「やめなって兄さん。女性を見て、笑うものじゃない、って……」


 そして何故か途中で言葉を切って、私の顔を観察でもするように、目を凝らしていた。


 追加コンテンツでしか手に入らない眼鏡まで取り出して、こちらに視線を向けてくる。


「えっと、すいません、女性、ですよね?」


「…………」


「というか、人間ですよね? ガマガエルと人間のハーフ、なんて聞いたことありませんが、そのような種族の方ですか?」


「…………」


 いくら可愛いショタとは言っても、我慢も限界だった。


 純粋で透き通った瞳で見詰めてくる分、余計にたちが悪い。


「ちょっと可愛くて、白竜様よりも人気ランキング高いからって調子に乗るなよ?」


「……えっと、何の話?」


「シラネとロマーニがここにいるぞー、って、ドワーフの国にバラしてやろうか? あぁん!?」


 さらに脅しをかけようかと思ったけど、キノコが持つ槍に止められた。


 そんな私を見詰めて、2人が1歩2歩と後退る。


「てめぇ、何で俺たちの名前を!」


「アナタのような人とは、会ったことはないはずですが?」


「…………」


 言われてみれば、画面越しでしか会ったことがない。


 もしかして、やっちゃった?

 どう言い訳するべき?


 そんな事を思っていると、2人の肩に、メアリの手が回される。


「気を付けなさい、2人とも。恐らくだけど、簒奪の勇者よ」


「なっ!?」


「……へぇ」


 浮ついていた雰囲気が消え去って、それぞれが得意の武器を取り出していた。

 

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