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〈6〉王都の王子たち

 メアリが魔の森へと追放されてから5日が過ぎた、その日。


「殿下、嘆願書が届いております」


「嘆願書?」


 城で紅茶を楽しんでいた第1王子(リアム)の元に、紙の束が届けられた。


 それは牢屋に入れられた(・・・・・・・・)メアリの解放を願う貴族たちの声。


 公爵家の当主や、隠居した伯爵、冒険者ギルドの本部長、商業ギルドの取締役。


 末端ではあったが、王家に連なる者の名前まである。


 王太子であるリアム自身や、病に伏せた国王の名前はないものの、その効力は計り知れる物ではない。


 そんな国の重鎮たちが名を連ねる嘆願書をパラパラと流し見たバカ王子(リアム)は、


「くだらんな」


 鼻を鳴らしてゴミ箱へと投げ捨てた。


「悪女を追放して何が悪いと言うのだ。クズ共め」


 小さく舌打ちをして、頬杖を付く。


 切れ長の目尻に、力を込めていく。


「民を思う税率の引き下げ、魔物を駆除するための軍部の増強。慈悲深い余の政策に反対するような女と、結婚など出来るものか」


 そして何よりも、


「光の天使である男爵令嬢(マリリン)へのイジメを先導し、階段から突き落とすような女など、死刑に決まっている。検討の余地もない!」


 それ故に、投獄ではなく魔の森へと追放した。

 あんな女など、1秒でも早く死ぬべきだ。


 ただ殺すのでは、マリリンの気持ちも晴れぬ。

 絶望に顔をゆがめながら、生きたまま喰われて死ぬべきだろう。


 これは、次期国王としての決定だ。


 動きの鈍い文官どもの手続きを待つ必要などない。


「今頃は野生の竜たちに食われている頃だろうよ」


 くくく、と笑い、リアムは嘆願書が入ったゴミ箱を蹴り飛ばし、転げ落ちた資料を流し見る。


「死人をどうやって檻から出すつもりだ? 情報に乏しいクズどもが」


 やはりコイツらは、バカに違いない。


「不敬罪に問われないだけ、有り難く思え」


 散らばった紙を踏みつけて、リアムは唇の端を吊り上げた。


「あいにくと忙しい身でな。クズと戯れる時間はないのだよ」


 今は嘆願書を破り捨てる時間すら惜しい。


 麦の価格低下に喜ぶ民を観察するついでに、愛しのマリリンに会いに行く時間だからな。


「優先順位を考えろ、クズども」


 そんな言葉と共に嘆願書を蹴り飛ばして、リアムは出入り口へと視線を向ける。


「兄さん、正式書類を捨てるとか、正気かい?」


「なっ!?」


 そして聞こえてきた声に、出しかけていた足を止めていた。


 ドアの影に17歳の青年――第3王子であるラテスの姿がある。


 緩やかな癖のある髪を手で抑えた彼は、普段と変わらぬ様子でニコニコと微笑んでいた。


 いや、ほんの少しだけ、やつれているだろうか?


 だが、そんなことはどうでも良い。


「護衛は何をしていた! 即刻つまみ出せ!」


 ここは、次期国王である余に与えられた部屋だ。

 母が平民でしかないクズが入って良い場所ではない!


「抵抗するようなら、切り捨てろ! 非番の者もたたき起こせ!」


 ちょうど良い機会だ。

 抵抗しなくても、切り捨ててやろう。


 断りもなく部屋に入ってきたのだ、大義名分はこちらにある。


 そんな思いでリアムが声を荒げるも、ラテスはなぜかその場を動こうとしない。


「残念。それは出来ないんだよ。これを見てもらえるかい?」


 何かを覆い隠すような笑みと共に、彼は1枚の紙を掲げて見せた。


「なんだと!?」


 思わず声が漏れて、己の正気を疑った。


 そこにあるのは、すべての大臣の印が押された正式書類。


 王が床に伏せている現状では、何よりも効力が高い書類だ。


「まさか、本物か……?」


 あり得ない。


 あり得ないが、本物に見えるのはなぜだ!?


「余が命じた時は押さなかった物をなぜ貴様が!!」


「誰が頼んだのかなんて関係ないよ。彼等にも信念がある。知らないのかい?」


「何が信念だ! あのような悪女を庇い立てするような行為が――」


「黙れ!!」


 普段とは似つかわしくないラテス王子の声に、リアムの肩がピクンと跳ねる。


「これ以上、メアリ嬢を侮辱することは止めて貰おうか」


 全身から殺気を滲ませたラテスが、流れるような仕草で腰の剣に手を伸ばしていた。

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