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〈55〉マリリンの魔法

 周囲からは人々が姿を消していて、いつの間にか、ひそひそと話す声もおさまっていた。


 遠くに目を凝らすと、マッシュに案内されて安全な場所へと避難する、市民の姿が見える。


 メアリとドレイク、2人の王子とマリリン、ガマガエルのような神殿長。


 それに60人くらいの兵士たちだけが、その場に残されていた。


「ぉぃ、俺達だけ場違いじゃね?」


「ぁぁ……。でもよ、今更避難も出来ねぇだろ?」


「だよな……」


 はぁー……、と兵士たちが大きく溜め息を吐く。


 そんな人々を横目に見たメアリが、チラリと男爵令嬢を流し見て、首を横に振っていた。


「マリリンさんの話はひとまず置いておくわ」


 心からのお礼を言いたかったのだけど、無理そうだから。


 そう言葉にして、リアムの方に視線を向ける。


 男爵令嬢が何か言いたげに口を開いたものの、複雑そうな表情を浮かべたリアムが、慌てて手を当てて、その口を閉じていた。


「偽物の声を出すな。余が必ず元のマリリンに戻してみせる。それまで我慢せよ」


 モガモガと何やら言っているみたいだけど、さすがに男性の手は振り解けないみたい。


 言葉がうまく通じなかった女性が静かになったのは良いのだけど、リアム殿下もなかなかに面倒なのよね。


 だけど、交渉出来る相手は、リアム殿下だけなのだから、仕方がない。


 そんな思いを胸に、メアリが大きく息を吸い込んだ。


「何をそんなに怒っているのかわからないのだけど、私たちは安全にここを出たいだけよ。迷惑はかけない予定だから、構わないでくれないかしら?」


 そちらの言い分も、あるなら聞くわよ?


 そう言葉にすると、マリリンを押しとどめていたリアム殿下が、真っ直ぐに見返してくる。


 奥歯がグッと噛み締められて、顔がより赤く染まっていた。


「ふざけるな!! 余のマリリンをこのような状態にして、連れ去ろうとするなど! 万死に値する! 今すぐにもとのマリリンに戻せ!」


「……結局はそこに戻るのね。どうしたいのかしら?」


「キサマらを遠ざけて、魔法を封じる! その上で、マリリンに解除の魔法をーー」


「あら? そんなことでいいの?」


「なっ!?」


 何故か驚いたような表情を浮かべるリアムを余所に、彼らから距離を取って、たくさんのマッシュたちを呼び寄せた。


「ドレイク殿下も、ラテス殿下も、こっちに来てくれるかしら?」


「……メアリくんが決めたことなら」


「そうだね。僕も従うよ」


 2人が顔を見合わせて頷いて、近付いてくれる。


 竜の姿のドレイクと、ラテス王子、メアリの3人を中心に、沢山のマッシュが散らばっていった。


「「「キュァ!」」」


 大きな鳴き声と共に魔力が張り巡らされて、足元に魔法陣が浮かび上がる。


 10や20にとどまらない数の魔法陣が複雑に絡み合い、一般の兵士が目視出来る結界を生み出した。


 中にいるドレイクが1歩、2歩と前に出て、爪の先で結界をつつく。


「これは、これは……」


 楽しそうに目を細めた彼が、強度を確かめるように寄りかかって見せた。


「さすがはメアリ嬢、ってことかな」


 ラテス王子も同様に、魔法の発動を試みるも、ロウソクの炎すら生まれない。


 その強すぎる効果故に、クスリと笑いが漏れていた。

 

 そんな中でゆったりとしたテーブルセットに腰掛けたメアリが、紅茶を片手にリアムに視線を向ける。


「あとは、解除の魔法だけよ。兵士さんたちと力を合わせれば出来るわね?」


「……そっ、そうだな」


 大きく目を見開いていたリアムが、オホンと咳をして、兵士たちへと向き直る。


「……すげぇ」


「あの結界を一瞬でかよ……」


「話を聞く限りじゃ、魔封じも完璧な結界なんだろ? やべぇって……」


 切りかからなくて良かった。

 絶対に勝てねぇ。


 そう言ってざわめく兵たちを前に、リアムが左手で剣を掲げた。


「力を貸せ! 次期王としての命令だ!」


「……はっ!」

「了解いたしました!」


 そう言われれば、断れるはずもない。


 兵たちが集まる中で、リアムがマリリンの顔を覗き込む。


「痛くはない。余の魔法に身を任せるのだ、マリリン」


 切っ先から青い光が漏れ出して、マリリンの体を包み込んでいた。


 両手、両足を縛るかのように光が集まり、彼女の体がふわりと宙に浮く。


 足を下にしたまま浮かぶマリリンと対峙するように、リアムや兵士たちが剣を構えた。


「ふはっ! 何をしているのよあんたたち! 私は正常よ! 産まれてから、……いいえ! 産まれる前から白竜様が、大好きだから! 無駄なことをしていないで、この魔法で白竜様を縛りなさいよ!」


 身動きが取れなくなった所を私が、ってのも斬新で素敵じゃない!?


 どう考えても最高でしょ!!


 ナウよ! ナウ!!


 今すぐに、この魔法を、白竜様に!!!!


「くっ……!! しばしの辛抱だ、マリリン。すぐに余の力で!」


「だーかーらー! 私の話を聞きなさいって言ってるじゃない!!」


「頑張れ、マリリン。すぐに余が!!」


「白竜様! 私があなたを縛り上げて、そして2人きりになって! それで! それで!!」


「マリリン、気を確かに持て!!」


「白竜様! こっちを向いてー!!」


 そんな2人の叫び声が、広場にこだましていた。


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