表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/65

〈54〉令嬢の戦力 4

「毎日をのびのびと!? 余を引き取って、ありがとうだと!? キサマ! 死人の分際で生意気な口をきくな!!」


「……死人?」


「あぁ、そうだ! メアリはすでに死んでいる! 神々がそう告げたのだ!」


「……あら、そうだったの」


 意味がわからないのだけど、リアム殿下の中では、そうなっているみたい。


 神々が、なんて言っているから、たぶん教会の関係ね。


「一応聞くわ。ここにいる私は何者なのかしら?」


「知れたこと! キサマは、禁術で操られている死体に決まっている! マリリンが見ている幻と同じだ!」


「……なるほどね」


 死んだはずの私が生きているのも、


 自分に惚れているはずのマリリンが、そっぽを向いているのも、


 すべては白竜を名乗る者が、禁術を使ったから。


「……最低限の筋は、通っているみたい。リアム殿下にしては、出来の良い答弁よ。驚いたわ」


「キサマ! バカにしているのか!!」


「いいえ、純粋な気持ちで褒めているの」


 自分にとって都合が良すぎるけど、ほんの少しだけでも理解が出来る部分があるだなんて、すごい進歩だと思う。


 余の言葉が理解出来ないのは、お前が無能だからだ、と言われていた頃が懐かしい。


 そんな思いを胸に、クスリと肩をすくめていると、不意に鋭い視線が突き刺さった。


 無視するのは、やめたみたい。


「悪役のくせに、アドリブで話してるんじゃないわよ! イベントを正確にやりなさいよね!!」


「イベント?」


「……ちっ! 使えないバグが!!」


 どこまでも苛立ちながら、男爵令嬢が殺意のこもった視線を向けてくる。


 何を言っているのかもわからないけど、その苛立ちは嫌でも伝わっていた。


 何をそんなに? なんて思うのだけど、リアム殿下と同じタイプなら、悩むだけ無駄よね。


 それにしても、


「ドレイク殿下。アドリブや、イベントって、何の話しをしているのだとーー」


「だから!!!! 糞みたいな声しか当ててもらえないクズキャラが! 白竜様に話しかけるなって言ってるだろうが!!!!」


「あら、そうだったわね。ごめんなさい」


 軽く会釈をすると、彼女の怒りが更に燃え上がって見えた。


 あまりにも対処が面倒で、顔を下げたドレイク殿下と視線をあわせて、肩をすくめる。


「死ねよ! すぐ、死ねよ!!」


 どうやら、それもダメだったみたい。


 おそらくだけど、私がドレイクと仲良くしているのが気に入らないのだと思う。


「1つ聞くわね? マリリンさんは、リアム殿下と婚約したのではないの?」


 お金のため、地位のため、国の発展のため。


 理由はわからないのだけど、男爵家から王家に嫁ぐのであれば、吟遊詩人が語り継ぐほどの功績だ。


 本人も望んでいたと思うのだけど、どう見ても違うみたい。


「ノーマルエンドと婚約? そんなもの、前座よ、前座! サブイベントに決まってんだろ! こんなクソ王子の婚約者なんて、絶対にイヤよ!」


 お前も登場人物(キャスト)なら、進行表(タイムテーブル)くらい把握しとけよな!


 なんて、令嬢があざ笑う。


 理解出来ない部分が多いけど、リアム殿下との婚約はイヤだ、の部分だけは、この上なく同意出来てしまった。


「それで? あなたはどうしたいのかしら?」


「決まってるじゃない! 私は白竜様と結婚するの! それが主人公(マリリン)の運命だもの!!」


「……そう言っているけど?」


「悪いね。キミみたいな子と結婚する気はないよ」


「いいえ! そんなことはないです! 白竜様は、私と結婚する以外の未来(ルート)はないんです」


「…………」


 ダメね。


 この子には、何を言っても無意味みたい。


 さてと、どうしたものかしら。


 リリたちの到着までは、もう少し時間が必要だから……。


 などと思っていると、不意に周囲が慌ただしくなった。


 聞こえてくるのは、焦りを含んだ男性の声と、馬の駆ける音。


「メアリ嬢! 無事か!?」


「ラテス殿下……?」


 聞こえて来た声に振り向くと、立派な馬に跨がった王子様が単身で駆け寄っていた。


「すまない、待たせてしまったね」


 颯爽と馬から下りたラテス殿下が、リアムと男爵令嬢に向けて剣を抜く。


 緊張感をまとったまま、メアリを守るように肩を並べた。


「どうしてここに?」


「天空を回る白き竜の姿は、王都のどこからでも見えるからね。背に乗る人物の存在を聞いて、駆けてきたんだ」


「そうね。確かに愚問だったわ」


 王都での出来事は、王宮に伝わり、王子にも伝わる。


 小さな子でも予想出来ることを聞くなんて、私も言葉の通じない2人に当てられていたみたい。


「ラテス! 一度や二度に飽きたらず、また余の邪魔をするのか!」


「いえいえ。それは心外ですね。私は国をより良い方向へと導く、そのお手伝いをしているだけですよ」


「キサマぁ!!!!」


 ラテスと、リアム。


 2人の王子が向かい合って、にらみ合う。


「準備は整ったわね」


 口元に優雅な笑みを浮かべたメアリが周囲を見渡して、静かに微笑んでいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ