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〈53〉令嬢の戦力 3

 乗りかけていた足を止めたメアリが、騒いでいた女性に視線を向ける。


 幼い顔立ちに、可愛らしいドレスと髪飾り。


 彼女は、リアム殿下に羽交い締めにされながらも、ツインテールを振り回すかのようにもがいていた。


「退けよ、ノーマルエンド! 私と白竜様との逢瀬を邪魔するな!!」


 いまはちょっとだけ取り乱しているみたいだけど、確かに、バカな王太子(リアム)殿下が好みそうなタイプに見える。


「マリリン、どうしてなんだ! 正気に戻ってくれ!」


「うるさい! 白竜様、違うの! このうるさい虫は、全然知らない人でー、私はあなたがーー」


「神殿長! 混乱解除の魔法をかけろ! 今すぐにだ! 白竜に光の天使(マリリン)を奪われる!」


「奪うだなんて、そんな……。奪って、くれる、よね?」


 少しばかり、場が混乱しすぎている。


 見た目は素直な良い子だけど、中身が残念なタイプなのだろう。


 周囲からの視線を気にしないどころか、始めからいない者として扱っているように見える。


「すべての兵士に告ぐ! あのトカゲを殺せ! 次期王である余の命令だ!」


「きっ、聞いたか! 報酬は教会が出す! いくらでも出す! あの偽物のトカゲを殺すのだ!」


「……ぉ、ぉぉ。了解しま、した?」


「ぉぃ、本当に行くのか? どう見ても、本物の古竜様だろ?」


「あぁ、だが、上の命令に背くわけには……」


 戸惑いを隠しきれずに、ひそひそと話す兵士たちに対しても、マリリンは見向きすらしていなかった。


 彼女はただ、白竜であるドレイクだけを見上げている。


「私は白竜様ルートだけを目指して来たの! 信じて! 私にはあなたしかいないの!」


 背を向けても、空を見ても、尻尾で追い払おうとしてみても、


 マリリンはずっと、見上げていた。


 さすがに無視も出来なくなったドレイクが、少しだけ視線を下げる。


「ぁぁ……、白竜様、やっと、私を見て……」


 ついには、泣き出してしまった。


 はぁ……、と大きく溜め息を付いたドレイクが、諭すように言葉を紡いでいく。


「ルートとは、何の話かな? そもそも、キミと会うのは今日が初めてーー」


「違います! 何千回、何万回と愛し合った仲です! 白竜様は、私を絶対に幸せにしてくれるんです!!」


「…………」


 いったい、なんの話だろうか。


 思い込みが激しくて、理解力も乏しい。


 周囲の冷ややかな視線も気付かない。


 マリリンと呼ばれる生物は、どうやら、そんな人間らしい。


「ふざけるな! 清らかな天使であるマリリンが、余以外と愛し合うはずがない! そのような言葉を言わせたキサマは極刑だ!」


「あなたこそふざけないで! 白竜様を処刑するなんて、主人公(ヒロイン)であるこの私が許さないわ! あなたが死になさいよ!」


「くっ! 余の天使が、有り得ない言葉遣いを……、よくも!!」


「放しなさい! 離して!」


 ドングリ背比べ、いや、似た者夫婦とでも言うべきか。


 理解力の無さも、思い込みも、どちらも同じように見える。


 この2人が互いに手を取り合って、国を治めていれば、教会の素敵な操り人形になっていただろう。


 ぼんやりと そのような事を思っていると、不意にドレイクが振り向いた。


「すまないね、メアリくん。人間の時の姿も、竜の時の姿も、白竜の名も知っているってことは、少なくともーー」


「その女と話さないで! 白竜様は、私以外の女と話をしたらダメなの! 私を幸せにして」


「…………」


 面倒が過ぎるね。頭からバリバリと食べても良いと思わないかな?


 悲しげに見下ろす視線が、そう訴えていた。


 だけど、それもまた、次なる面倒が起きるだけ。


「ここは、私に任せてもらえるかしら? 彼女とは、一度話をしたかったのよ。それに、私の監督不行き届きも、問題の一端なのよね」


 そう声に出して、ドレイクの前へと進み出る。


 凛々しい顔が降りてきて、耳元で小さく囁いた。


「知り合いなのかい?」


「えぇ。とは言っても、ついさっき気付いたのだけどね。私を魔の森に追放した元凶って、あの子みたい」


「……ほぉ、あの娘が」


 不意に、ドレイクの声が厳しくなり、鋭い視線が前を向いた。


 踏み出そうとしていた足を、手を掲げて押し止めて、ふわりと微笑む。


「大丈夫よ。私なら気にしてないわ」


 むしろ……。


 そんな言葉を飲み込んだメアリが、男爵令嬢であるマリリンに視線を向ける。


 まずは、初対面の挨拶からだろう。


「ごきげんよう。貴方には一度会ってみたかったのよ」


 淑女らしく膝を軽く曲げて、スカートをちょこんと摘まんで見せたけど、相手は当然のように無反応だ。


 そんな様子は気にもとめずに、言葉を続ける。


「リアム殿下を引き取ってくれてありがとう。あなたのおかげで、毎日伸び伸びと暮らせているわ」


 心からの笑みが、口元に広がっていた。


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