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〈52〉 令嬢の戦力 2

 焼け焦げた匂いと 肌を照らす熱量が、呆然と立ち尽くす人々を包み込んでいく。


 ふと隣に目を向けると、優しい笑みを浮かべたドレイクが、より強い魔力を両手に蓄えていた。


「役目を終えた教会に終焉を与えるよ。おつかれさま」


 口元だけでふわりと微笑んで、空を焦がすほどの火柱を打ち立てていく。


 その姿は本当に楽しそうで、その火力は、どう見てもやり過ぎだった。


 リリたちの到着を待ってから穏便に脱出する。

 そのために必要な措置なのだけど、私怨が過分に混じっているように思う。


「今までのイメージを壊しているわね。今のドレイク殿下は、神じゃなくて、悪魔にも見えるわよ?」


「おや、そうなのかい? でもまぁ、悪魔に転職するのも、悪くないね」


 私利私欲に走る者に使われる神なんて、必要ないと思わないかな?


 そう言ったドレイクが、爽やかな笑みを振りまいていた。


 リアム殿下も神殿長も、叫び続けていたあの女性も、


 面倒なメンバーを含めた広間にいる者すべてが、唖然とした表情で、燃え盛る教会を見上げ続けている。


「王都の、教会が……、私の財産が……」


「なによ……、何なのよ! こんなイベント知らない! こんなの、知らない……!!」


 教会のトップである神殿長と、聖女に認定された女性。


 本来なら彼らが中心になって消火に動くべきなのだが、神と崇める古竜様が放火の犯人だ。


 理解の及ばない状況ゆえに、逃げ出した者以外は、燃えゆく教会をただぼんやりと見上げる事しか出来ていない。


 そんな人々の注目を集めるように教会の前に立ったドレイクが、炎を背景にして両手を大きく広げて見せた。


「神の意志を伝えるよ。聞いてくれるかな?」


 有無を言わせない優しい微笑みが、淡い色の瞳に浮かんでいた。


 バチバチと爆ぜる木々の音を背中に聞きながら、ドレイクが言葉を紡いでいく。


「この世の中には、理不尽が溢れている。裕福な者が、飢えるものからパンを奪っている。違うかな?」


 でもね。それが悪いことだ、なんて言う気はないよ。


 弱肉強食が世の習いだからね。

 強い者がより強くなろうとする事を、否定する気はないよ。


 でもね、


「古竜の意志だから、古竜様に捧げる為だから。そう言って騙して、金品を巻き上げるのは、見苦しく思うよ」


 それにね。


「教会にとって邪魔な人物を、悪魔に認定する。魔女や魔物に認定する。そんな行為を竜は、絶対にしないよ」


 人にとっての善や悪なんて、竜には理解が及ばない範囲だからね。


「理解してもらえたかな?」


 そう言って、より一層笑みを深めたドレイクが、神殿長の姿を流し見ていた。


 人々の視線が、一斉に神殿長へと向かい、


 ボロボロの服を着た市民からは、親の(かたき)を見るような視線が向けられる。


 そんな中にあっても、顔を真っ赤に染めた神殿長が、唾を飛ばしそうな勢いで怒鳴り散らす。


「キサマ!! いったい何の権限があって、神殿長であるこの私にそのようなデタラメをーー」


「なるほど。キミは、崇める神と人との違いもわからないのか。嘆かわしい事だね」


 はぁー……、とわざとらしく溜め息を吐いたドレイクが、キラキラとした光をまとって、一瞬にして竜の姿へと形を変える。


「なっ!?」


 兵士に両脇を捕らえられたままの神殿長が、ガマガエルのような瞳を大きく見開いていた。


 だけど、その様子もたいして興味はない。


「まぁ、いいさ。忠告はしたからね」


 そう言葉にして、視線を空へと向けた。


「白竜様! あなたのマリリンが会いに来ました! メアリの呪いなんて、私がすぐに!!!!」


 キンキンとする声が聞こえて来るけど、そちらに割く魔力はないから、聞こえないふりをしておいた。


 メアリが歩み寄る方の翼を下げて、彼女が乗りやすいように体制を整える。


「マリリン! どうしてだ! 正気にもどってくれ! マリリン!!」


「うるさいのよ、クズ王子風情が! 私の邪魔をしないで! 離しなさいよ!」


「古竜じゃない……! そいつは、古竜を騙る偽物だ! 兵士たちよ! この偽物を切り捨てろ! 報酬は言い値ではずんでやる!!」


 次第に慌ただしくなる人々に溜め息を吐き出して、歩み寄るメアリの足音を翼の端に感じる。


 そして不意に、その歩みが止まっていた。


 おそらくは、叫び続ける女性の方を振り向いたのだろう。


「マリリン? ……そう、あの子が、男爵家の令嬢だったのね」


 なぜか楽しそうに声を弾ませたメアリの声が、背中の上から聞こえていた。


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