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〈27〉2人の王子さま 2

 かすかに感じられるのは、土の魔力が持つ香り。


 顎に手を当てて2人の男の子を見詰めていたメアリが、大きなキノコの傘を指先で撫でながら、小さく頷いた。


「この子たちはドワーフね。たぶんだけど、かなり強いんじゃないかしら?」


「え? ドワーフ? ドワーフって、あのドワーフですか?」


「えぇ、そのドワーフね」


 聞いたことがある。


 魔の森の奥には壮大な山々がそびえ立っていて、そこには古竜のブレスにも耐える壁に守られた街があるらしい。


 そこの住人は、高い技術を誇る亜人がほとんどで、人知れず新しい技術を生み出しているとか。


「200年前に魔王を討伐した勇者が、剣を作ってもらったのって、たしか……」


「えぇ、彼らの一族ね」


 その影響もあって、鍛冶師の中にはドワーフを神のように崇拝する者もいる。


 言い伝えが本当なら、壁の外には出ない種族らしいが、なぜここに?


 そんな思いを胸に、リリが男の子たちに目を向けた。


「あん? 何見てんだよ?」


 そして即座に睨まれた。


「ぃっ、いえいえいえいえ! 見てません! 何も見てません!」


「ああん!? ドワーフの王太子であるこの俺を醜くて見たくもないだと!?」


「ちょっ!? なんで、醜いなんて話しに!??? 違いますよ! すっごく可愛ーー」


「可愛くねぇ!! 漢だって言ってんだろうが!!」


「ヒィィイイ!!!!」


 なにこの子! すっごくめんどくさい!!


 でも、メアリ様もかなり強いって言ってるし、ここは下手に出た方が良いよね!!


 なんて思いが半分、本気の恐怖が半分。


 見た目が10歳くらいの男の子であるが故に、リトルドラゴンの時よりは、リリの心に若干のゆとりがあった。


 だがそれも、一瞬で崩れ落ちていく。


 この子、いま、なんて言った?


「おう、たいし? キミ……、じゃない! あなた様が!?」


「あん!? 次の王様っぽいオーラを感じるだろ! この辺から!!」


 グッと拳を握った自称王太子が、二の腕を見せ付けるように、袖を捲る。


 見えてくるのは、男の子らしいもちもちの腕。


 無論、王太子らしさなんて微塵もない。

 ただただ、可愛いだけだ。


 そもそも、王太子の二の腕なんて見たことないし、王太子らしさが腕に宿るなんて聞いたこともない。


 ドワーフ特有の文化だとしたら、なおさらだ。


 だけど、正直に言うわけにはいかなかった。


「もっ、もちろんです! 感じます! すごく感じます!! よっ、王太子さま!」


「だよな、だよな! 父が引退したら、国を背負う漢だからな!!」


 それって、ラテス王子より上じゃん!


 国は違うけど、最高峰だよね!?


 やばい! すっごくやばい!!


「そんな俺が、可愛い?」


「いっ、いえ、それは! その!!」


 ヒィイイイイ!!!!


 なに!? なんなの!???

 なんでそんな子が、地面に埋まってたの!????


 はい、私、死んだ! どう考えても不敬罪!!


 ごめんね、ユウ。

 お姉ちゃん、今度こそダメみたい。


「俺様が一声かければ、おまえなんか、窓枠の一部にしてーー、クホッ」


「はいはい。兄さんは、ちょっとだけ黙ってようね。それとも、永久に黙りたいのかな?」


 ヒヤリとした空気がその場を包み込み、ドワーフの王太子が、お腹をおさえてうずくまる。


 速すぎて見えなかったけど、もう1人の子が彼のお腹を殴ったのだろう。


 痛みに顔をひきつらせた王太子が、苦しそうに顔をあげた。


「ヒッ!? ロマーニ、そんな怒らなーー」


「あれあれ? 誰が口を開いて良いって、言ったのかな?」


 ちいさな指が王太子の口を塞いで、感情を感じさせない瞳が見下ろしている。


 王太子の目に大粒の涙が浮かび、壊れたオモチャのように、その首がゴクゴク揺れていた。


「うん、さすがは王太子である兄さんだね。そのまま、黙っていようね?」


 コクコクコクコク!


 どうやら O・HA・NA・SHI も終わったみたい。


 ホッと息を吐いた男の子が、クルリとこちらを振り返った。


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[一言] うわぁおとぅとつよぃ
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