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〈25〉新たな出会いへ 5

 先頭を進んでいた大きなキノコが、魔法の光をその手に持ち替えて、リリのもとにトテトテ歩み寄る。


「きゅ!」


「え? あっ、うん。持ってたら良いんだね?」


「きゅ~!」


 何となくの雰囲気で言ってみたが、楽しそうに揺れているから、たぶん正解。


 膝を曲げて視線を合わせたリリが、光の玉を両手ですくいとった。


「これで良い?」


「きゅ!」


 正解だったらしい。


 体をぽてぽて弾ませた大きなキノコが、楽しそうに飛び跳ねていた。


 傘の中に手を入れて、スコップを取り出していく。


 どうやら先頭を進んでいた彼も、穴掘りに参加するらしい。


「準備は良いわね?」


「「「キュッ!」」」


 メアリの声に続いて、威勢の良い鳴き声が聞こえてくる。


 色の変わった地面を中心にキノコたちが並び、木で出来たスコップを高らかに掲げられた。


「きゃっ! えっ、なに!?」


 持っていた光が当然消えて、誰の姿も見えなくなる。



 はじめに聞こえてきたのは、メアリが奏でるフルートの優しい調べ。


 バーベキューの時よりも、ゆったりとした曲が、森の奥へと流れていく。


 魔法の光がメアリの姿だけを照らし出し、艶のある長い髪がリズムにあわせて揺れていた。


 それはまるで、闇夜に浮かび上がった天女のよう。


「キレイ……」


 メアリが奏でる音も、手入れの行き届いた指先も、楽しそうに微笑む唇も、


 そのすべてが、キレイだった。


 魔法の光が、ひとりでにリリの頭上へと上り、大きなキノコたちの姿を照らし出す。


「きゅきゅきゅー♪ きゅきゅきゅー♪」


 ぽてぽての体で飛び跳ねて、大きな傘をぷにぷに揺らす。


 メアリが奏でる音に導かれるように、スコップを持ったキノコたちが踊り出していた。


「「「キュー、キュキュ! キュー、キュキュ!」」」


 ぷよんぷよん、ぽてんぽてん、ペチンペチン。


 自身の鳴き声と、スコップを地面に差し込む音、掘り起こした土を盛り上げて叩く音。


 そこにあるすべてを織り交ぜて、全員が音楽を作っていた。


 それはまるで、ミュージカルの舞台を見ているかのよう。


「わっ、中央の子、他の子を足場にして、すっごく高く飛んだ! すごい、すごい!」


 時折、アクロバティックな動きも見せつけて、観客であるリリを飽きさせない。


 なかなかにエンターテイメントだ。






ーーいや、でも、なんだこれ?


 いやいや、本当になにしてんの!???


 穴掘り? 私の知ってる穴掘りと 全然 違うけど!???



 そんな思いがリリの中に広がるも、割り込むだけの隙がない。


「「「きゅきゅきゅー♪ きゅきゅきゅー♪」」」


 クルリと回りながら場所を入れ替えて、飛び跳ねて。


 縦横無尽に踊るキノコたちは、どこまでも楽しそうで、


 フルートを吹くメアリも、やっぱりキレイだった。


(うん、まぁ、良いや! 常識なんて知るか!! 人生は楽しむが勝ち! そういうことだよね! たぶん!!)


 そんな思いを胸に、とうとうリリまでもがボーカルとして参入する始末。


 リリにとっても馴染み深い曲だったのが、悪かったようだ。


 こうして死の森と恐れられた最悪の処刑場に、楽しげな踊りとステキなメロディ、透き通るような歌声が溶け込んでいった。


(意外と楽しいかも! ここで亡くなった人も、きっと楽しんでくれると思うし!)


 最早、なにをしているのかなど、誰もわかっていない。


 実際のところ、キノコたちが地面に穴を掘っているだけなのだが、全員が楽しそうに笑っているし、誰かに迷惑をかけている訳でもない。



ーー少なくともリリは、そう思っていた。





 不意に、掘っていた地面が、宝箱のようにパカリと開く。

 


「へ……?」



「うるせぇええええええ!! 静かにしろやぁぁあああああ!!!! 弟が寝れねぇだろうがぁぁぁああああああ!!!!!!」


「まぁまぁ、落ち着いてよ兄さん。冷静に話し合わないとダメじゃないかな、って僕は思うよ?」


 幼い2人の男の子が、ひょっこりと顔を覗かせていた。

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