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〈24〉新たな出会いへ 4

 魔法の光を灯した大きなキノコを先頭に、メアリたちが魔の森を奥へと進んでいく。


 頭上は黒い葉が所狭しと生い茂っていて、この辺はもう、闇夜に近い。


 周囲を確認するのも、街灯のように輝く魔法の光だけが頼りだった。


「まっ、まだ、行くんですか?」


 なんて声を漏らしながらも、必死にメアリの背中を追いかけて行く。


 立ち止まり振り向いた彼女が、キノコたちの傘を指先でつついていた。


「マッシュ。どうかしら?」


「きゅ? きゅ~」


「あらら、まだみたい」


「そっ、そうですか……」


 いったいどこまで行くのだろう。


 せめて目安の時間くらいは教えて貰えないだろうか?


 そんな思いがリリの胸に広がり、迫り来る恐怖が足を鈍らせる。



ーーそんな時、



 不意にリリの側で、ガサガサと音がした。


「ひっ!!」


 木の根に躓きそうになる足を必死に動かして、迫り来る音から距離をとる。


 そんなリリと入れ替わるように、側にいた大きなキノコが飛び出した。




「…………。きゅ?」



 ぷるぷるボディの先にあるのは、頭上から落ちてきた小枝が1本だけ。


 敵の姿はどこになくて、命の危険も存在しない。


「……ごめんなさい。見間違いだったみたい。ほんと、ごめんね」


「きゅっ、きゅー」


 ぽてんぽてんと振り向いたキノコが、右足に寄り添うように、じゃれてくれる。


 ぷにぷにの感触が、なんだか気持ち良い。


 確証はないけど、きっと、励ましてくれているのだろう。


「うん、ありがと! 頑張るね!」


 なんて言葉と共に視線を合わせて、リリがふわりと微笑んた。



 黒い葉が揺れる音。


 小枝が落ちる音。


 踏まれた落ち葉が鳴らす音。



 時折聞こえてくる竜の遠吠えに、リリの心臓が飛び出しそうになる。


 それでも自分はメイドだからと、必死に足を動かしていた。



 だからと言って、生きるのを諦めた訳じゃない!



「めっ、メアリ様。どんどん森の奥に進んでますよ! 死んじゃいますよ!!」


 魔の森の奥には、古竜がいる。


 強力な魔物どころか、魔族までいるなんて言う噂もある。


 出来れば、今すぐに帰りたい!


 魔の森を進むとか、バカですか! バカなんですか!!


 なんて訴えも、どこ吹く風。


「あら、心配事? でも、この辺ならまだまだ大丈夫よ。たぶん」


「たぶん!? たぶんってなんですか!!」


 ぐわー! とリリが吠えても、メアリは静かに微笑むばかりだ。


 前に5体。後ろに5体。

 左右に10体ずつ。


 普段は槍や剣を持つキノコたちも、今日はスコップだから、不安は山積みだ。


「まだ進むんですか?」


「きゅ~?」


「まだみたいね」


 柵を越えてから、体感で半日。

 お腹の減り具合で考えて、1時間くらい。


 信用すべきは後者なのだが、どちらにしても、かなりの距離を進んだ気がする。



 生きて帰れますように。

 生きて帰れますように。

 もう一度、弟の顔を見れますように!



 そんな言葉を脳内で繰り返しながら、先を行く背中を追いかける。



ーーそんなとき、



「「「キュ!!」」」


「え??」

 

 不意に、周囲のキノコたちが立ち止まった。


 先頭のキノコが光の玉を変形させて、スポットライトのように、前方の地面を照らし出す。


「そこなのね?」


「「「きゅっ!」」」


 メアリの問いかけに、キノコたちがスコップを掲げて答えていた。


 恐る恐る覗き込むと、その場所の地面だけ、色が違って見える。


 不自然に土が盛り上がっていて、黒い葉も木の根も、黒い苔の姿もなかった。


 それはまるで、誰かが掘り返したような跡。


「さてと、はじめようかしら」


 楽しげなメアリの声が聞こえていた。


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