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〈23〉新たな出会いへ 3

 艶のある指先を村の方に向けたメアリが、大きなキノコに問いかける。


「こっちかしら?」


「きゅ~」


 目をギュ~と閉じたキノコたちが首を横に振って、大きな傘をプルプルさせていた。


 20体近くが同じように動く光景は、可愛いような、ちょっとだけ怖いような。


「あら、違うのね」


 なんて言葉と共に顎に手を当てたメアリが、今度は指先を柵の奥へと向けた。


「それじゃぁ、こっちかしら?」


「キュ!」


 ぷるぷる震えたキノコたちが、むにむにと飛び跳ねる。


「そう、わかったわ。リリ、こっちに行くわよ」


「あっ、はい!」


 なんて反射的に答えたけど、意味がいまいちわからない。


 ……え? こっちに、行く?


 メアリが差した先にあるのは、柵に区切られていない、魔の森の奥地。


 進めば進ほど森は深くなり、魔物も強くなるに違いない。


「いやいやいやいや! ちょっと待ってくださいよ! そっちって、ダメでしょ! どう考えても死ぬじゃないですか! あっ、ちょっと!!」


 なんて叫ぶリリの声に止まることなく、メアリの体が柵を飛び越えた。


 何かに吸い寄せられるように1歩、2歩と前に出て、黒い表皮に指先が触れる。


 腰まである長い髪を揺らしながら、メアリが微笑みと共に振り返ってくれた。


「大丈夫よ。何が出てもマッシュたちが守ってくれるわ」


 なんて言葉が聞こえてくるけど、見えている木々のせいで、不安しか感じない。


 もちろん、キノコたちの強さは知っている。


 今いる場所も魔の森だけど、どう見ても安心感が違いすぎた。


「もしもの話しなのだけど。マッシュたちが勝てない敵が出ても、大丈夫だと思うわよ? リリは私のメイドだもの、勝てるわ」


「…………え?」


 両手を胸に当てたメアリが、綺麗な笑みを浮かべているけど、普通に意味がわからない。


 キノコたちが負けでも勝てる?


 メイドだから????


「それって根拠ないですよね!?」


 メアリの言うメイドとは、いったい何者なのだろう。


 少なくとも、S級冒険者や王家の筆頭魔道士を越える存在なのは間違いない。


「大丈夫よ。リリだもの」







「いやいやいやいや! もっとわかりませんよ!!」





 そう叫んでも、メアリはニコニコ笑うばかり。


 まったくもぉ! メアリ様は、本当にメアリ様なんですから!!


 なんて言葉と共に肩をすくめて、リリもとぼとぼ歩き出した。


 リリの立場は、昨日から正式に、メアリのメイドだ。


 ご主人様が行くと言えば、行くしかない。それがメイドの生き様だった。


 真っ黒い木々を見上げて、リリがゴクリと唾を飲む。


 私はメイド!

 私はメイド!

 私はメイド!


 そう自分に言い聞かせて、柵に手を伸ばした。


「お給料の分は働かないと!」


 残念ながら、給料は昨日もらったばかりだ。


 本当に、金貨が1枚。

 今までの10倍だ。


 魔の森の整備が終わるまでは、弟を連れて来れないけど、メアリがツテを使って、食べ物の仕送りや、医者などを手配してくれたらしい。


 故に、断ることなど出来なかった。


 むしろ自分から、行きたいです! と言いたいくらいだ。


「お姉ちゃん、頑張るからね!」


 ギュッと右手を締めて、リリが柵に手をかける。


「キュッ!」


「あっ、うん。ありがと!」


 ぷにぷにの傘に持ち上げてもらって、メアリの前に降り立った。


 木の柵を越えただけなのに、周囲の森が恐ろしく見える。


「リリ。こっちを向いてくれるかしら?」


「え?」


「はい、あーん」


 気が付くと、口の中に銀色の果実が押し込まれていた。


 素敵な香りと甘味が、口の中に溶けていく。


「んー! おいひーー!!」


 お城1個分がお腹の中に消えていくけど、気にしない。


 辛いことや大変なことがある度に、メアリが口の中に放り込むから、すでに慣れっこだ。


 辛いとは言っても、王都にいた頃の100倍ましだけど。


「って、メアリさま? 私のこと、餌付けしておけば良い、って思ってません!?」


「あら、良くわかったわね」


「うきーー!!!!」


 なんて言う叫び声と、クスクス笑うメアリの声が、魔の森にこだましていた。

 

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