表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/65

〈16〉幼なじみの王子さま

 メアリが魔の森へと追放されてから2週間が過ぎた、その日。


 魔の森から1番近いルリアルナの村に、一頭の早馬が駆け込んで来た。


「お待ちしておりました」


「ウィルソン! メアリ嬢は見付かりましたか!?」


 焦りを滲ませた声に続いて、馬の背中からラテス王子が飛び降りる。


 軽く膝を曲げながら着地し、見上げた先に見えたのは、困惑を絵に描いたような部下の姿。


「そ、そのことなのですが……」


 メアリ嬢の手掛かりを見つけた。


 そんな報告を受けて王都を飛び出して来たのだが、何事だろうか。


 まさか、メアリ嬢が遺体で!?


 などと言う悪い予感をかき消すように、部下の男が1歩だけ身を下げる。


「まずは、こちらを」


「む?」


 左足を後ろに引き、掲げた手の先で森の方角を指し示す。



 その先に見えたのは、





『メアリの宿屋。御予約承り中』




「…………は?」



 巨大な木の看板だった。



「メアリ、の、宿屋……?」


 これは確かに、メアリ嬢につながる手掛かりだろう。


 女性の足跡や、ドラゴンとの戦闘痕、野宿の跡。


 そんな予想たちとは大きく違うが、たぶん手掛かりだ。


「予約いたしますか?」


「そっ、そう、ですね。予約をしてもらえますか?」


「かしこまりました」


 恭しく頭を下げた部下が、看板の下へと駆けていく。


 その動きに合わせるように、森の影からプニプニとした大きなキノコが姿を見せた。


「あれは。メアリ嬢の召喚獣……」


 幼い頃に一度見たきりだが、独特な雰囲気ゆえに良く覚えている。


 正直、誤報も覚悟していた。


 魔の森に入った人間をペンダントも使わずに見つけるなど、不可能に近い。


 それ故に、ペンダントを持つ見届け人を探すのが一番の近道なのだが、それはバカ王子(リアム)も分かっているだろう。


 そう思っていたのだが、どうやら現実は、良い方向にハズレてくれたらしい。


「そうか、無事だったのか。さすがはメアリ嬢」


 幼い頃から不思議な令嬢だと思ってはいたが、どうやら見積がまだまだ甘かったようだ。


 ホッとした気持ちと共に、クスリとした笑いが漏れる。


「殿下、こちらを」


「む?」


 どうやら話し合いも終わったらしい。


 部下が持ち帰ったのは、1枚の紙。


『メアリの宿屋は、現在 工事中に付き、同伴者は1名まで。料金は見届け人であるリリの解雇。および雇用権の譲渡』


 そんな文字が、書き込まれていた。


「メアリ様の字でしょうか?」


「おそらくは、そうですね」


 メアリ嬢が好んで使うフロックスの花を模した判子も押されているし、間違いないだろう。


 花言葉はたしか、『協調』と『同意』だっただろうか。


 文字も非常に丁寧で、綺麗だ。


 それにしても、


「すでにインクが乾いているね。この紙を用意したのは、最短でも昨日の夜かな」


「……つまり、メアリ様は、ラテス殿下の来訪を予想していたと?」


「ええ、間違いないでしょう」


 見届け人の雇用に口を出せるのは、王族のみ。


 次男(コリウス)兄さんが、魔の森(ここ)に来る理由などないし、バカな兄(リアム)なら、高笑いして破り捨てるであろう文章。


「現状の把握は出来なくても、僕なら動いてくれると思ったのかな」


 信頼と言うよりは、冷静な分析だと思う。


 理由はどうであれ、彼女のためなら造作もない。


「直ぐに根回しを済ませます。予約日時は明日だと伝えておいてくれますか?」


「かしこまりました」


 深く頭を下げて立ち去る部下を後目に、ラテス王子が、ふぅ、と空を見上げる。


「やはりアナタは、面白い女性ですね」


 肩をすくめた小さな声が、村の片隅に揺れていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ