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〈12〉メイドの役割 3

「あの子と会ったのは、ここに到着した翌日だったわね。引っ越しの挨拶に伺った時よ」


 え!? 会いに行ったの!? 自分から!???


 あの儚げな瞳の意味は!?


 なんて思いが、リリの中に広がっていく。


 まぁ、でも、引越の挨拶は大切だろう。


 それがたとえ竜が相手でも、今後の人間関係? が円滑になるかも知れない。


 語り出しからすでに常識など吹き飛んでいるが、リリは声を出さすにゴクリと唾を飲み、話の続きを促した。


「久し振りの人間を見てビックリしたのか、古竜さん、少しだけ慌てちゃったみたい。突然襲いかかって来たのよね」


 でしょうね! なんで生きてるんですか!!


 メイドの矜持を総動員して、その言葉を飲み込んだ。


「そのときに、持参した菓子箱(かしばこ)を落としちゃって、ぺちゃんこ。お菓子の代わりに炎魔法をプレゼントしたら、大人しくなったから、お話をして、許可を貰ったのよ」




「O・HA・NA・SHI ! 古竜相手に、O・HA・NA・SHI !」



 さすがに限界だった。


 どうやら目の前にいるメアリと名付けられた人間に似た何者かは、生物最強と言われる古竜を恐喝してきたらしい。


 控え目に言っても、人間じゃない。


「そうですかー。古竜さまの許可があるのなら、安心ですねー」


 うふふー、とリリは目を虚ろにして、頷いて見せる。


 もうどうにでもなれ! 私の手に負える案件じゃない! 無理だから!


 リリは考える事を放棄した。


 あはは、うふふ、なんて声が、魔の森に溶け込んでいく。


「きゅ!」


「ん? どうしたの?」


 そんなリリの裾を、ここまで案内してくれた大きなキノコが優しく引いていた。


「わっ、ちょっと!?」


 そのまま連れて行かれた先は、台所らしき一角。


 目の前には、茶葉を持つキノコや、陶器を持つキノコ、中にはコンロに火を灯すものまでいる。


「そう言えば、この子たちって何者なんだろう?」


「言ってなかったかしらー? 召喚獣よー? わたしのー」


「ぶぇっ!?」


 いやいやいやいや。


 ないでしょ! 召喚獣は、適性がある人に1匹。


 これ、常識!!


 なんて思いも、今更だった。


「確かに魔法陣っぽい光から出てきてたけどね! けどね!」


「可愛いでしょー? プニプニよー?」


「それも認めますけどね! プニプニですよ! プニプニ!」


 近くにいた子を持ち上げて、抱きしめる。


 肌に吸い尽くような感触に、腕が埋まっていく。


「わっ、すべすべ……。うらやましい! コイツめ!」


 もちもち、もちもち、と手の中で弄んで、床の上へと返してあげた。


 そんなリリの手に、1体のキノコが小さなポットを押し付ける。


「きゅ!」


 茶葉にヤカン、2組のカップまで押し付けて、キノコたちが深々と頭を下げた。


 チラリと振り向いた先に見えたのは、手元が空になったメアリの姿。


 メイドの矜持が、ぐわっと熱くなる


「任せといて。こう見えても、お茶は得意なの」


 お茶の扱いはメイドの基本だ。


「ってか、これ。最高級品じゃない! なんでそんな物が、処刑場(ここ)にあるのよ!」


 突っ込む場所は、どこにでも隠されている。


 メイド長に叩き込まれた鑑定眼が、リリの肩をわなわなと震わせていた。


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