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4人の魔法使いの冒険  作者: 藤見倫
第3章:巻き起こせ、労働革命
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第99話:分裂

 宿屋の向かいが無理心中によって火事になったが、何とか鎮火して朝食へ。昨日美術館で気分転換したはずが急転直下、今日も朝っぱらからこれだ。暗い雰囲気は変わらない。明るいのは、太陽の光だけだ。灰色の煙が多い街でも、空は青いんだな。


「どう、しよっか・・・」


 朝食を食べ終えた高松さんがそう切り出した。決めなければ、ならない。1日中適当にウロつくのは、有り得ない。


「一旦、部屋に戻ろう。男子部屋でいい?」


 出張で来ていると思しきビジネスパーソンもチラホラいる。それと、やはりこの街には港があり、プレイヤーかトレジャーハンターか分からないが、同業者の姿も見える。こんな所で話す内容ではない。


「そうね」



 部屋に戻った。椅子は2つなので、それらは女性陣、俺と中野はベッドに座った。


「ドアの隙間も結構あるから大きな声は出さないようにしよう」


「で、今日はどうするんだ? また盗み聞きすんのか?」


「いいや、もう盗み聞きはしない」


 ここまで酷いと、喫茶店で愚痴を言い合うような余裕もないだろう。ビジナやアカデミアの人たちが如何に平和な日々を過ごしていることか。盗み聞きが使えないとなると、情報収集する手段は、やはり・・・。


「僕は、潜入してみようと思う。メタリックカンパニーに」


「「え?」」

「は?」


 3人とも目を見開き、驚いたような反応を見せた。


「ここの、メタリックカンパニーの工場で働いてみる。もう既に、この街の人たちの不満は愚痴をこぼすレベルを超えてる。情報を集めるにはそれしかない。経験豊富な中堅世代が、世間知らずの若者に色々教えてくれるだろうから、直接聞いてみるよ」


「でも、そんなこと、できるの?」


「分からない。市役所に行って聞いてみるけど、何年もこの世界に住みつくプレイヤーもいるし、働ける制度ぐらいあると思うよ。なくったって、工場に直接行ってタダ働きでも何でもするって言えばルール無視してでも雇ってもらえるよ」


「でも、」


 今度は花巻さんだ。


「大村君は、大丈夫なの? 夜遅くまで仕事なんでしょ? その、自殺する人も、出るぐらいに」


 心配するような目を向けられ、思わず逸らしてしまった。


「幸いにも、僕はこの世界では死ねないからね。それに、いざとなったら魔法を使って工場ごと壊すよ」


 この腐りきった社会を建て直すなんて、不可能だ。一旦壊して、新しく構築し直すしかない。さすがに初めからそんな短絡的な手段は使わないが。


「そうしなくてもいいように、潜入して、どうすれば諸悪の根源を潰せるか調べてみる」


 そこまで話して、再び花巻さんの目を見た。心配の色を残しつつも、その目は鋭くなっている。


「死ななきゃいいって訳じゃないよ。辛いのは変わらないんだから、絶対に無理しないでね。帰りが何時になっても毎日ご飯を一緒に食べて、無理してるように見えたら止めるから」


「っ・・・」


 まさか花巻さんが、そんな強い口調で、そんなことを言うとは。


「それは構わないけど、本当にいつまでになるか分からないよ? 花巻さんも何日も大気汚染間違いなしの不衛生な街に滞在することになるけど」


「それは大村君も同じ」


 それは、そうだ。


「そ。じゃあ止めないよ」


 俺は続いて高松さんと中野に目配せをした。


「とりあえず僕は潜入することにしたけど、はっきり言ってどうすればいいか分からないから、2人がどうするかも任せるよ。働くなり、この街の人に話を聞くなり、スノーウィーンに行ってもいい」


「だな。さすがに俺はブラック企業に行くとか勘弁だし、この街もきったねぇし、魔人滅殺剣ついでにスノーウィーンに行くとするわ」


 助かる。戦力としての中野が抜けるのは痛いが、正直、ここから先のシビアな展開では中野がついて来れるか怪しい。乱闘騒ぎになる前に合流してもらえれば、それでいいだろう。


「じゃあ一旦別行動だね。もしかしたらブラッキに来てもらうことになるかも知れないけど、僕もスノーウィーンに向かうつもりだから、後でまた合流しよう」


「おう。じゃあ俺たちだけでも行くか、千尋ちゃん」


「え? あたしも残るわよ、ここに」


「は?」


 まあ、そうなるか。


「いやいやいやいや、葵ちゃんは何か残るみたいだからさ、千尋ちゃんはこっちに来てくれよ」


 別に俺は、2人ずつに分かれようと言った覚えはないのだがな。男女2人ずついれば男女ペア二手に分かれると暗黙裡に思っているのは中野だけだ。


「大村君は、1人でもここに残るつもりだったみたいだけど、葵も残るって言ったのは葵の意志でしょ。あたしも、あたしの意志で残るわ。もう少しこの街のこと調べたいし」


「なあ、千尋ちゃんだけでも頼むよ?」


 中野が両手を合わせて頼み込む。


「葵はよくて、あたしはダメなの?」


 高松さんから、強い意志を感じる。この人は元々、こういう人のはずだ。社会に適合できるよう周囲に合わせる術を身に着けているだけで。


「いや、でもよぉ、ホラ」


「ホラって言われても、あたしだって自分のやりたいことあるんだから」


 これは、高松さんも相当に溜め込んでるな。普段から中野のノリに合わせることでフラストレーションが溜まっている。コミュニケーション能力の高さに任せて、押し付けてしまって申し訳ない。


<謝らないでいいわ>


 ・・・完全に読まれている。この人、何者なんだ。


「じゃあさ、千尋ちゃんの気が済んだら行くってのでいいからさ」


「それならいいけど、」


 中野の顔が少し明るくなる。が、


「いつになるか分からないわよ?」


 再び中野の眉間に皺が寄った。


「え? どういうことだよ? 2~3日ぐらいのモンだろ?」


「はぁ、じゃあ正確に言うわね。この街を離れるのは、大村君や葵と一緒になるわよ」


 やはり、そのつもりだったか。


「はあ? 何でだよ? やりたいことって調べものじゃねぇのか?」


「明らかに無茶しようとしてる人を、放っておける訳ないじゃない」


「俺だって1人であのザコが強いとこに行こうとしてんだぞ?」


「だったら待ってればいいじゃない。4人中3人が残るって言ってるのよ。スノーウィーンには後でみんなで行けば大丈夫よ」


「いま大村置いて3人で行っても平気だろうが」


「それは無理って言ったでしょ。待てないなら1人で行って」


 高松さんは、これまで中野に見せてきた顔とは打って変わって、突き放すようにそう言った。


「はあ!? 何だよそれ!? 結局千尋ちゃんも大村かよ!?」


「声が大きいわ」


「だってそうだろ。俺と大村が分かれるってなって、2人とも大村につくなんて」


「そうね。でもこれまでのことを考えてみれば、大村君のいる方にいた方が上手くいきそうな気がするのは、仕方ないと思うけど」


 高松さんは淡々とそう告げた。驚いた。はっきりと、そう言うとは思わなかった。結果が全て、それが俺のモットーだ。自分で言うのもなんだが、チームへの貢献度は中野よりも俺の方が大きいだろう。


「チッ。んだよそれ・・・」


 高松さんはそれっきり、何も言わなくなった。もう、どうしようもないな。


「で、どうするの」


「ぁあ?」


 さすがに苛立っているようだ。このゲームを楽しめればいいと思っている中野にとって、女性陣が自分についてくれないのはモチベーションに関わるだろうな。だが、中野がどうするかも決めてもらわなければならない。


「ここに残るか、2人の説得を続けるか、1人で行くか、決めて」


「先に言っとくわ。あたしは、何を言われても変えるつもりはないから」


「私も」


 2人の意志は、固い。既に相当な発言をしている。説得に応じるぐらいだったら初めからあそこまで言わないだろう。


「2番目の選択肢は消えたね。残るの、行くの、どうするの」


「んだよテメェ余裕ぶりやがってよぉ?」


 それはそうだ。俺は仮に女性陣が2人とも中野側についても構わないのだから。この程度のことで怒っている中野の神経が理解できない。


「2人が僕の説得に応じるとも思えないけど」


「そもそもテメェがブラッキに何日もいるって言わなきゃいいだろうが」


 第4の選択肢、俺の説得か。ふざけるな。


「そんなの知らないよ。僕は僕で好き勝手させてもらうだけ。女性陣がどうするかも本人に任せるし、中野君も自由にしてもらっていいよ。だけど、本人の意志を無視して強引に連れて行くことは許さない」


「だからさぁ、そこは空気を読んでだなぁ」


「ねえ、話長いんだけど」


 随分と棘のある、高松さんの声。結論が決まっていることに長話をするなということだろう。


「そうだね。こうしてる間にも自殺する人が出るかも知れない。早く市役所に行こう」


 ドンッ!!


 中野が壁を殴った。隣に誰かいたら迷惑だろうが。


「じゃあもういい!! 俺1人でも行くから!」


「そ。じゃあまた後でね」


「別に合流する必要もねぇだろ」


 それは困るな。この先で起こる、様々な事件を解決することはできても、4人揃ってない状態でクリア認定されるかどうかが分からない。だが、中野はマウントさえ取れればいいだろうから、女性陣も味方にして、土下座でも何でもして合流させてもらおう。プライドなど、必要ない。そんなもののためにゲームクリアの道が断たれることの方が屈辱だ。


「僕ら3人が宿屋に揃ってる時に戦闘不能になったら強制送還だから気を付けて」


「死なねぇよ!!」


 中野はそう吐き捨ててバンッ! と扉を閉めて部屋を出て行った。

 なぜ女性陣がついて来なかったか、よく考えることだな。人が自分の思うように動いてくれなかった時、八つ当たりするのはお門違いだ。お前に、ついていくほどの価値がないのだ。自分の行動を顧みろ。



 改めて、女性陣の方を見た。2人とも、不機嫌を隠すつもりもない様子で下や横を向いている。


「フーーーーッ。やっと、どっか行ったわね」


 高松さんの顔に、色が戻る。


「どう? 爆発した気分は」


「こんなんで爆発なんて言われたら困るわ。でも、スッキリした。ああいうのに合わせるの、結構ストレスなのよね」


「高松さん頑張り過ぎ。尊敬を超えて笑える」


「せっかく上手く取り持ってやってるんだから、笑わないでもらえるかしら」


「ごめん。でもさっきのは傑作だったよ。僕もスッキリした」


「見世物でもなかったんだけどね」


 高松さんの顔に笑みが浮かんだ。機嫌が戻ってきたようだ。


「葵、ごめんね。あたしがアイツについて行けばこんなことにならなかったのに」


「ううん、大丈夫。千尋ちゃんも、いつもごめんね。中野君の話相手になってもらってて」


「それこそ大丈夫よ。慣れっこだから」


「あんまり、無理しないでね」


「葵もね。大村君の面倒みるなんて、1人じゃ無理よ。絶対無茶するんだからこの子」


「んっふふ。そうだね。千尋ちゃんも、よろしくね」


「ええ。2人いれば大丈夫よ」


 俺が大丈夫じゃないんだが。

 だが少し、気分が晴れたな。中野には悪いが、奴がいなくなるだけでこうも変わるもんなんだな。さっきまでの暗い雰囲気も、自殺の現場に何度も居合わせたっていうのもあるが、“これどうする? どこまで真面目にやる?”みたいな考えが巡っていたからだろう。だがこの3人は基本的に行動理念が一致していて、“どこまでも真面目にやる”というのが決まっているから、その手の駆け引きが不要な分だけ楽になる。


「でも、どうしよっか。中野君」


 花巻さんが、困惑の口調でそう言った。


「さすがに、」


 俺はベッドから降りて床に立った。


「いつまでも分裂したままじゃクリアできないかも知れないから、最終的には中野くんに土下座でも何でもして合流させてもらう。もちろん2人にも手伝ってもらうよ」


 せっかくだ。この2人を試してみよう。


「その前にまずは、このエコノミアの一件への協力をお願いしようと思う。最悪は僕1人でも何とかするつもりだけど、味方は多い方がいい。だけど、中野くんに好きにしてもらったように2人にもその権利があるから、やらなくてもいい。それでも、最終的に匠くんを探し出すのに全力を尽くすことは約束する」


 土下座をすべく、腰を下ろし始めた。


「エコノミアの闇は深い。敵の規模も分からない」


 床に左手をつき、正座をするべく左膝も床につけた。


「1人でどこまでできるか分から…」


「やめて」

「やめてっ!」


 2人の声で俺は動きを止めた。右足の膝はまだ浮いている。


「立って。その膝もつけたら許さないから」


 土下座で満足するような人ではないことは、知っていた。


「わざとやったでしょ。失礼ね」


「バレちゃったか」


「“バレたか”じゃない」


「大村君って、ときどき意地悪だよね」


「いや~それほどでも」


「・・・・・・」


「・・・・・・」


「・・・・・・」


「ぷっ」


「「あっははははははは!」」

「っ・・・・・・!」


 2人して、声を上げて笑い出した。花巻さんも、両手で口を押えて笑っていた。何が面白いのか、全く分からない。こんな所で笑っている場合ではないのだが。傍から見たら、怪しい集団だな、俺ら。


「何なのよ・・・もう・・・」


「知らないよ。なんか急に笑えてきたんだから」


 それから数分、時々こみ上げてくる笑いに苦しめられたが、ようやく落ち着いてきた。何だか、中野をのけ者にしてしまっている感じがするのだが、ここに残る選択肢も与えたのに出て行ったのは中野だ。こっちだって(特に高松さんが)普段は(表面上だけは)中野に合わせる一方で、あいつが俺たちに合わせようとしたことなんて無かったはずだ。ものの一度、俺たちが中野に合わせるのをやめただけで不貞腐れられても困る。


 現実世界では中野のようなタイプが多数派だから、奴は俺や花巻さんのようなタイプに合わせる術を知らない。と言うよりは、合わせる必要性自体を感じてないだろう。なので俺たちが中野に合わせざるを得なくなるが、いつまでもそれでは俺たちは対等な関係になれない。


「でも、本当に大丈夫かな・・・。ちょっと謝ったぐらいじゃ許してくれなさそうだけど」


 ここで心配する辺りが、さすが花巻さんだ。


「大丈夫よ。あたしたちも一緒に土下座すれば確実ね。悪いけど、葵にもやってもらうことになるから」


「それは、当たり前だけど・・・」


「大丈夫だって。アイツ、女子にチヤホヤされたいだけだから。そのあともご機嫌取り続けなきゃいけないのが面倒だけど、匠君と大村君のためだと思って我慢するしかないわね」


「うん」


「別に僕のためにそこまでしなくていいけど」


 中野がいなくても花巻さんの弟探しはできる。だけどゲームクリアはできないから、“大村君のため”という言葉が出たのだろう。わざわざ確認しないが。


「するわよ。ここまで来れたのも大村君のおかげなんだから」


「そうだよ。それに、クリアできなくなったら大村君はどうするの?」


「別に何も。匠くんを元の世界に戻したら、中野君が戦闘不能になってるタイミングで3人とも自滅するだけでしょ。そうすれば全部カタが付く」


「でも大村君、クリアして1億円が目的なんじゃ・・・」


「中野君が戻らなきゃ諦めるしかないね。しょうがないよ。怒らせてしまったのは失敗なんかじゃない。もちろん2人も悪くない。こうなるのも時間の問題だったんだ。言うなれば、中野君が同じチームにいた時点でクリア不可能だったってことになるね」


「そんな・・・」


「大丈夫だって。みんなで土下座すれば確実に戻って来るから。悪いけど、花巻さんもお願いね」


「うん・・・」


 まだ、納得してない様子だ。中野に土下座することではなく、自分だけ弟を連れ戻す目的が達成できて俺の目的・ゲームクリアを諦めるのが嫌なのだろう。そのような反応が自然にできる人はそうそういない。つくづく、優しい心の持ち主だと思った。


「んじゃちょっと休んだら市役所に行こっか。開くの9時ぐらいでしょ」


「そうね」

「うん」


 メンバーが1人怒って出て行ったにも関わらず明るい雰囲気に回復した俺たちは、時間までしばらく談笑して過ごした。


次回:潜入、メタリックカンパニー

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