第95話:国家直属軍の腕前
アカデミアで暴れるロボットたちを止めるべく、エコノミア国家直属の軍隊が援軍としてビジナからやって来た。バッジを付けているアカデミア兵が、それよりも立派なバッジを付けているエコノミア兵に駆け寄り、ひざまずいた。
「ヨ、ヨヅ総隊長! ご足労頂き誠にありがとうございます」
総隊長と言うからにはエコノミア軍のリーダーだろう。まさかトップまで来るとは思ってなかったのか、慌てている様子だ。
「機械風情に後れを取るとは、情けない。あれほど剣以外の武器も用意するようにと伝えていたはずだが」
「面目ありません・・・!」
アカデミア兵の方の役職が分からないが、武器の仕入れの権限があるレベルのようだ。
「今回の分はこちらで用意した。これを機に整えておくように」
「はっ!」
「立て、アスカラ。敵はまだ動いているぞ」
「はっ!」
アスカラと呼ばれたアカデミア兵は立ち上がった。
「ところで、エンリ様は・・・」
「奴はビジナに残った。この程度のことで首都の戦力をこれ以上減らせるものか」
「め、面目ありません・・・!」
そこで会話が一旦止まり、
「・・・そこの魔法使いは」
ヨヅ総隊長が視線をこちらに向けた。
「お、おそらくは旅の者かと」
「そうか。・・・好きにするといい。ここの役立たず共よりは結果を出しているようだしな」
「っ・・・!」
辛辣だな。旅人に後れを取るということは襲撃されると守れない訳だし、当然か。現に今、ロボットから街を守り切れていない。
ヨヅ総隊長はアスカラを一瞥し、自身の背中にある大きなハンマーを取り出した。こっちの隊は指揮官自らも戦うようだ。そして、後ろにいる部下たちを振り向くこともせず、
「かかれ!」
その一言で、エコノミア軍兵士たちがワッと散らばった。そのうちの1人を目で追った。アカデミア兵が応戦しているロボットの後ろに回って横腹に一発、ロボットが傾いたところに真上から肩にもう一発、地面に倒れ込んだところに再度真上から頭を目がけてトドメの一発。ロボットの頭はグシャリと潰れ、内部の部品が無残にも飛び散った。
そのエコノミア兵は顔を上げ、ただ見ていただけのアカデミア兵に対し、とある方向をハンマーで指し示した。その先には、山のように積まれたハンマーがあった。既に何人かのアカデミア兵が駆け寄っている。周囲を見回してみると、ロボットの残骸が増えていた。さすがは、国家直属の兵士。
視線を戻すと、頭が無くなったロボットが立ち上がっていた。
「!」
エコノミア兵も驚いた様子を見せる。人工知能の脳ミソにあたる部品は、頭には無かったようだ。エコノミア兵は再度、ロボットを地面に倒すところまで運び、今度は腹部にハンマーを振り下ろした。破片が飛び散り、反動で浮いていた足が力なく地面に落ちて横たわった。エコノミア兵はしばらくロボットを眺めていたが、今度こそ再起の様子はなく、その場から走り去った。
「満足か」
ヨヅ総隊長が話しかけてきた。
「ええ。さっきまでは、ロボットのバッテリー切れまで戦わなればならないのかと気が滅入っていたところです」
「ふんっ。全く、情けない限りだ」
ハンマーを手に入れたアカデミア兵であるが、扱いに慣れていないのか動きがぎこちなく、2人掛かりで何とかロボットを破壊できている。1体たりも壊せなかったさっきよりは向上したが、エコノミア兵と比べると情けない限りだ。
「先ほども言ったが、好きにするといい」
「では遠慮なく。こちらとしても良いトレーニングになりますので」
「そうか」
ヨヅ総隊長もロボットの元に向かった。重そうな巨大ハンマーを片手で振り、一撃でロボットの腹をえぐっていた。今後の状況いかんによっては、あれが敵に回るのか。
「そろそろ僕たちも戦おっか。随分と気が楽になったし、レベル上げぐらいのつもりでいこう」
「そうね。ふ~っ、一時はどうなるかと思ったわ」
「やっぱ兵士でも強ぇのは強ぇんだな」
門番とか見張りしか見ないし、グリンタウンの兵士は平和ボケしてて微妙だったからな。
この付近にいたロボットは兵士たちが一掃してしまったので、兵士の流れを追うように移動した。ふと交差点で左を見ると、GLAND HOTEL ACADEMIAの文字。ラッキーだ、すぐ近くで回復できる。
「僕らだって、兵士さんに後れを取る訳にはいかないよね」
ロボットに壊された石造りの塀の瓦礫を集め、直径2メートルほどの拳を作った。
「グランドブロウ!」
真上から拳を勢いよく落とすと、ロボットを潰して地面に激突した。拳を崩すと、ロボットの姿はなく破片や部品が散らばっていた。なんだ、ロボの瞬殺、俺にもできるじゃないか。MP70食ったけど。でも放り投げるよりは、気持ちがいい。
「よっしゃ俺も行くぜ!」
中野がロボット目がけてダッシュ。
「ぬおぉぉぉぉおおお! 新技いくぜぇ!」
ロボットに近づくと足を緩め、野球のバッターの様に杖を構えてその先端に光を発生させ、
「ライトニングヘッドバット!!」
そのまま杖を振ってロボットの頭を打ち抜いた。ヘッドバットは本来頭突きであるはずなのだが、中野はそれを知らないのか勢い余ってそう名付けたのか、杖をバットの様に振って光属性で敵の頭を打ち抜く技となった。
「ごほっ!」
ロボットが中野の腹を殴った。
「うぐっ・・・! くっそ、頭飛ばしても死なねぇんだったコイツ。もういっちょだぁ!」
中野はもう一度さっきと同じように杖を構えて、
「ライトニングヘッドバット!!」
今度は胴体をえぐり抜いた。そう名付けてしまったものは仕方なく、攻撃する側される側ともに頭部がかかわらなくても、この技はライトニングヘッドバットだ。
「つつつ・・・痛って」
「中野君、大丈夫」
花巻さんが回復。
「おおぉ、サンキュ、葵ちゃん」
「うん」
「でもMP減っちまったな。回復してくるわ」
「さっきのとこまで行かなくても、そぐそこにホテルがあるよ」
「お? あっマジだ。サンキュ葵ちゃん!」
中野は花巻さんにお礼を言って走り去った。近くに宿屋あるの知らずにMP大量に消費したのかよ。
「あたしも。MP節約って結構ストレスなのよね」
今度は高松さんが、ロボットに向かって走り出した。
「標準魔法って接近戦に向かないし、あたしも新技作っとこうかしら」
へえ。どんなのが出るんだろ。高松さんは走りながらも槍のように杖を構え、ジャンプ。
「アクセラライトッ!」
前方に被害で出ないようにするためか、やや斜め下に腕を伸ばし、その杖の先から一瞬だけ細いひと筋の光を出した。ロボットの胴体に小さな穴が開いたようだ。今更だが、光とか闇の魔法って、物理的にはどんな働きなんだろうか。
高松さんは着地後、微妙に腰を落とした態勢のままロボットを見ていたが、そのロボットは何事もなかったかのように動き出した。どうやら、心臓部は外したらしい。
「あれ?」
しかもロボットは、高松さんには見向きもせずに破壊活動をつづけた。
「・・・っ~~~~~~~もう!!」
高松さんが杖を斜め上に振り上げたと思ったら、ロボットが浮かび上がった。風を起こしたようだ。高松さんは2~3歩前に進んでロボットの真下へ行き、杖を上に向け、
「んん~~~~~~~っ」
と言いながら先ほどの光の線をマシンガンの様に連射した。ロボットの胴体に、小さな穴が増えていく。文字通りの蜂の巣だ。
しばらくしたところで光の連射をやめ、風魔法を使って飛び上がった。さらに、杖を両手に持ち直し、杖の先がかかとの辺りにくるまで体を反らして振りかぶった。そして、
「ダズリングショット!!」
杖を振り下ろし、閃光を放つと共に強風を起こした。元々穴ボコだらけだったロボットは、その場でバラバラになった。風に吹かれた破片が、周囲に舞い落ちる。高松さんもゆっくりと着地。
「フーーーーッ。あ~スッキリした」
相当に溜め込んでおられたとみられる。俺も、気を付けよう。中野が見てないところで発散したのは、狙ってやったのかどうかは分からない。
「ゴメン、あたしもMP回復してくるね」
恥ずかしがるような素振りもなく、晴れやかな笑顔で両手を首の前で合わせてそう言い、GLAND HOTEL ACADEMIAの方に向かった。
「あ、はは・・・」
花巻さんは、苦笑い。
「とりあえず、中野くんが戻って来るまでは普通にやるよ」
「うん。お願い」
拳で潰すのはMPコスパが悪いので上に放り投げる戦法に戻した。エコノミア兵が数を減らしてくれたこともあり、かなり楽に戦えるようになった。
中野と高松さんも戻り、さっきので気が済んだのか、時おり新技を使いつつもMP消費は抑えている。その後も兵士たちに混じってロボットを壊しては宿屋に駆け込んで回復を繰り返し、
「手持ち無沙汰になってきたわね」
ロボットの数が少なくなり、遂に俺たちが手を出す必要がなくなった。そして、
「ヨヅ総隊長、北西地区、掃討完了しました」
「よし、これで全てだな。仮に数体残っていたとしてもアカデミアの兵士だけで十分だろう。撤収だ」
「「「はっ!」」」
エコノミア軍が整列やら敬礼やらの後、南門に向かって歩き出した。拠点ビジナに戻るようだ。姿が見えなくなると、アカデミア兵たちは腰を下ろし始めた。疲れたのだろう。でも残党がまだいるかも知れないからパトロールしてくれよ?
「僕らも帰ろっか」
「だな」
一旦GLAND HOTEL ACADEMIAに寄って回復ついでにロボの全滅を伝え、コンビニに寄った後チェックインしていた方の宿屋に戻った。騒動が収まったことをスタッフに伝えると館内放送が入り、念のため外出は控えるようにと言葉も添えて宿泊客たちにも伝えられた。
俺たちはコンビニで買ったものをロビーで広げ、休憩。
「ふぃ~~~っ。何とか全部壊せて良かったな~~」
中野は串に刺さった鶏の唐揚げに豪快にかぶりついた。
「ホント、援軍来なかったどうなってたことか」
高松さんがタピオカミルクティーを飲んでいる。
「ロボット、何で暴れちゃったんだろうね」
花巻さんはホットの緑茶をひざの上で抱えたままそう言った。騒動が収まったのはいいが、そこが問題だ。原因が分かっていない。周囲から聞こえてくる話だと、ロボットが暴れ出したのはアカデミアだけらしい。一応、他の街では電源を切る流れになったようだが。
「多分AIが異常を起こしたんだと思うけど、分かんないや。メタリックカンパニーが回収なり何なりするはずだから、それ頼みしかないね」
「ま、あたしたちが気にしてもしょうがないか」
「だね」
俺はスポーツドリンクを飲み干した後、テーブルに広げてあるポップコーンをひとつかみ口に放り込み、立ち上がった。
「んじゃ僕は先に寝ちゃうから、また明日」
「おう」
「おやすみ~」
「おやすみなさい」
風呂、もっかい入るか。体洗ってなかったし汗も結構かいた。スタッフに頼んでタオルを1枚もらって部屋に戻った。
今の騒動でレベルが54になった。結構増えたが、この手のイベントバトルは経験値多めになっているのだろうか。だが、MPが365になっている一方で、さっきは敵の数が多かったとは言えMPの消費と宿屋での回復を繰り返した。まだまだ、足りないな。
風呂から上がっても中野は戻って来ていなかった。そういえば明日の朝食の時間を決めてなかったな。今日は疲れたし、自分のタイミングでいいか。部屋の入口から遠い方のベッドに向かい、横になった。
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翌朝。自然に目が覚めたのは、7時24分。中野は寝ている。テレビを付け、まずは消音ボタン。音量を5にして消音を解除、聞こえるところまで上げた。
トップニュースはやはり、昨日のロボット暴走。メタリックカンパニー経営陣が昨夜のうちに会見を開いており、電源投入をしないことを呼びかけ、全出荷品の回収と原因究明を急ぐと発表した。
それと並列で大ニュースになっているのが、メタリックカンパニーの株価大暴落予想。昨日の騒ぎを受けて売り注文が殺到し、サーバーのパンクを理由に受付が中止された。
ロボット暴走の情報が入るのが遅れた人は一切売ることができずに今日を迎えた訳だが、受付の再開を正午からとしている一方で市場オープンは9時半なので大暴落スタート必至、値幅制限はなく何十パーセント下がるか分からないという見解になっている。インタビュー映像が流れており、注文が通ってホッとしている人や、それができずに大泣きしている人が映った。全財産の半分を投入していたらしい
・・・。
ニュースキャスターが慌てて注文を入れないよう呼びかけ、この話を締めくくった。どうあっても再開直後に殺到するだろ。
テレビを消し、身支度を済ませて朝食へ。ここにいる人たちは無事にメタリック株を売ることができただろうかと見渡してみた。何となく、雰囲気が暗い。この街にいたことでいち早く情報が入ったと思うが、売り損ねた人が多いようだ。
さっきテレビで、夜中に注文が通った人は今日の始値―――昨日の終値と同額らしい(この世界に時差は存在しない)―――で売ることができると言っていた。で、売られた株の数によってストンと落ちる。メタリックは業界最大手、株を持っていた人は多いだろう。もはや悪夢の領域だな。テレビでは大々的に扱われていたのに、朝食会場では株価どころかロボ暴走の話さえ誰もしない。
朝食を取り、空いているテーブルを探す。うわ、泣いてる人いた。心中お察しするが、投資判断を誤ったあなたが悪い。メタリックカンパニーが責任を取るのは、製品の故障だけだろう。株価が下がった影響は受けると思うが、投資家の損失を補償する必要は全くない。
ファイナンスの人たちは、大丈夫だろうか。さすがに全財産の半分を1社に投じるバカはいないと思うし、情報仕入れるも早そうだからな。彼らからすればメタリック1つの大暴落は何ともないのか、むしろこれを利用してひと稼ぎするのか。てかサーバーパンクさせたの彼らかもね。
1人で呑気にスクランブルエッグを食べていると、女性陣が来た。
「なんか雰囲気暗くない・・・?」
高松さんが小声でそう言った。「株」の単語は口にしない方がいいかも。
<多分、株のことだと思うけど・・・>
<やっぱり・・・>
女性陣もニュースを見て来たようだ。全員食べ終わっても中野は現れず、朝食会場は人の入れ替わりがあっても暗い雰囲気のままだったので、男部屋に集まることにした。
戻ると、中野はまだ寝ていた。昨日はこいつも頑張っていたし、寝かせておいてあげよう。テレビを付け、メタリックの件やらスポーツのネタやら流れるのを眺めた。
中野の目覚めは9時を過ぎた。宿屋の朝食は終わったので外に出て、喫茶店に行くことに。やはり、心なしか雰囲気が暗いような気がする。誰もメタリックや株価の話をしないのが何よりの証だ。
「これから、どうするの?」
切り出したのは高松さん。
「この街にいてもしょうがないから一旦ビジナに戻ろっか。ちょっと街の様子を確認したら、コンペテイートに行こう」
この街は各企業の開発拠点だからか、経済的に余裕がある人が多い。そういった人たちは株をやってることが多い訳で、大損して気落ちしている人たちが世間話に花を咲かせるようなことをするはずもなく、情報が入らない。
「そうね」
<なんか、ドコ行っても暗いし誰も何も話さないしね>
「ま、昨日ロボの破壊で十分に活躍したしな。また取材とか来ねぇのかな~」
「そう簡単には来ないでしょ・・・」
業界最大手の売れ筋商品の暴走と、サーバーがパンクするほどの株価の売り殺到。これらと比べたらロボの暴走を止めた中に魔法使いがいるとか、些細なことだ。大半はエコノミア軍が壊したし。
「はぁ~~」
「かあぁ・・・」
「っ・・・」
乾いたようなため息が、あちこちから聞こえてきた。時計を見ると、9時半。メタリックの株価が下がったのだろう。市場が開いているのに注文できないのは、もどかしいだろうな。どれくらい落ちたんだ? いずれにしても、彼らにとっては午後からが勝負だな。
「あ、やっぱさ、」
高松さんは申し訳なさそうな表情で両手を顔の前で合わせた。
「ビジナに着いたらさ、美術館に行かない・・・? ちょっと、気分変えたくて。コンペティートには、夕方までに着けばいいよね・・・?」
口調も、これまで聞いたことがない程に申し訳なさそうだった。高松さんがこういうことを言うのは珍しい。
「おとといの夜に調べたんだけど、入館無料の国立の美術館があって、行ってみたいって思ってて、今がその時じゃないのは分かってるんだけど、どうしても気分を変えたくって」
高松さんは両手を顔の前で合わせたまま3人に目配せをする。
「俺は別に、いいけど」
「私も、大丈夫」
3人の視線が俺に集まった。俺はフウッと息をつき、
「ま、いいんじゃない? 確かに、昨日の朝から気が滅入るような話ばっかり聞いて、夕べの騒動に、それが解決したと思ったら今日はこんな状態。一旦、市民生活から距離を置いて気分転換するのもいいかもね」
3人とも、ホッとしたように息をついた。この中で一番、今のを断りそうなのは俺だからな。
「みんな、ありがと」
高松さんが両手を合わせたまま見せた笑顔は、少々ぎこちなかった。
中野の朝食と他3人の当分摂取が終わり、喫茶店を出た。
「ビジナは、もう少し明るい雰囲気だといいんだけど」
「んだな」
株をしてない人、やってても少額な人の割合が多いだろう。いずれにせよ、美術館と、ちょっと歩き回るぐらいにしてコンペティートに向かうつもりだ。
ロボットの暴走を止め、その翌日に当たる今日は好天に恵まれた。にも関わらず暗い雰囲気に落ち込んでいる街を後にして、首都ビジナに向かった。
次回:気分転換




