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4人の魔法使いの冒険  作者: 藤見倫
第3章:巻き起こせ、労働革命
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第92話:技術革新の要、学術都市アカデミア

 昼食後、北門から出てアカデミアに向かった。既に、遠くに街が見える。


「おっ、あれじゃね? アカデミア」


「意外と近くて良かったわね」


「首都からあんまり離したくなかったんじゃない?」


「だったらもっと近くにすればいいのに」


「そんなことしたら出張手当もらえないじゃん。高速鉄道ひくぐらいの距離は離さないと」


「そんなことのために・・・」


 “そんなこと”が全てでしょ。この国の公務員は移動手当が出るんだから。でも“電車移動があれば”と言うのはマー君の勤め先の話であって、公務員は徒歩だけでも出るかもね。


「あとはあれかな。歩くには微妙なぐらいに離して電車を作れば儲かる」


「うげっ! ずっり!」


「ビジネスとはそういうもんだよ」


「大村君なんでそんなことばっかり分かるの? 会社で働いたことあるの?」


「僕自身はないけど、身近にいるでしょ、働いてる人」


「ああ~~。ご両親に聞いたとか?」


「そうだね。基本的には父親。一応大手だから、さっきミィちゃんが言ってたような手当も出てるよ」


「へえ」


「まあ後は色々、ミィちゃんたちも後半で話してた、あんまり聞きたくなかったようなことも話してくるよ。若いうちから知ってた方がいいって」


「大村君のお父さんらしいわね・・・」


 高松さんには俺の父親の人物像まで浮かんでいるらしい。大体合ってます。


 イエローウルフが出て来たのでお喋りはここまで。あっさりと倒し、次が出てくる前にフェザーローブを試着してみた。


「おお~~っ」


「あっ軽~い」


「マジだ! 凄ぇ!」


 確かに、ジャンプした時の滞空時間が少し長くなっている気がする。走るのも、こころなしかスピードアップ感あり。本題である風魔法での浮遊も、何だか楽になった感じがする。気のせいではないと信じよう。



 その後も現れたモンスターを倒しつつアカデミアを目指した。距離は大したものではなく、モンスターもこれまで見たものしか登場せず、あっさりとアカデミアの近くまで来た。


「雰囲気としては、何だろう・・・似たり寄ったりって感じもするし、独特な感じもするね」


「でもエコノミアって、ナチュレほど街に変化がないから何か物足りないわね」


「日本も似たようなもんでしょ。大きな街は大体こんなだよ」


「いやでもゲームの世界だぜ?」


「だからこそだよ。作った人の自由なんだから。でも強いて他の街と違うところを挙げるなら、なんか敷地が広いのが多いね」


「ほんとね。目の前のやつは塀? みたいのが続いてるし、あっちは大きなホールみたいなのもある」


 大学とか企業の研究所だろうか。工場にしては建物のデザインが凝っている。ちょっと、そそられる。


「あ、そうだ。さっきの続き。大村君って、お母さんとお姉さんもいるのよね。家ではどんな話するの? そもそも話したりするの?」


 え、俺の家族の話? 確かにさっき、父親がどうとか言った気もするけど。


「用があれば話すよ。母親は・・・なんか色々世間話ふっかけてくるけどぶっちゃけあんまり覚えてない。姉は、ここ最近は小間使いにされてる思い出しかないよ」


「用があればって・・・家族ってそんなんだっけ」


「まあ2人とも僕のことは見限ってるからね。母親はたまに“やっぱりあの人の子ね”とか言ってくるし、姉は“一周回って尊敬する”ってさ」


「何が一周回るのよ・・・」


 本人に聞いてくれ。でも絶対に会わせたくない。


「お母さんとお姉さんは仲いいんじゃないの? 男衆が大村君と、大村君をそんなにしたお父さんなんでしょ?」


「先に言っとくけど、僕は父親には感謝してるんだよ? その教育のお陰で道を踏み外さずに済むんだからね」


「社会に出ても道を踏み外すことにはならないわよ」


 どっちかと言うと結婚の方が道を踏み外すことに相当するのだが、ここでそれを言うほど俺も馬鹿じゃない。


「大村君のお父さん、結婚したことも後悔してそうよね・・・」


 これは、結婚も道を踏み外すことだと思ってるのもバレてるね。


「話を戻すけど、母と姉、よく楽しそうに話してるよ。僕や父がいてもガールズトーク全開だね。まるで当て付けのように男選びについて話したりしてるよ」


「素晴らしい家族ね・・・。てか、大村君のご両親、どうやって出会ったの?」


「社内恋愛だって聞いてるよ。母親はもう退職しちゃってるけど」


「へえ・・・意外と普通じゃん。アプローチは、やっぱりお母さんから?」


 “やっぱり”って単語から一種の諦めを感じる・・・。確かにあの親父が、絶世の美女や大和撫子が現れても自らアプローチするとは思えない。


「まぁそうなのかな? 細かいことは知らないけど、父親が言うには、”逃げ場がなかった”。母親が言うには、”既定路線”」


「何があったのよ・・・」


「知らないよそんなの」


「でもまあ、そのおかげで大村君がいるんだもんね」


「このゲームで1億円手に入れてご隠居生活送るから社会の役には立てないけどね」


「匠君を連れ戻せれば、大村君が生きた意味は十分あるんじゃない?」


 ここでそれをふっかけてくるか。高松さんには返事をせずに、花巻さんの方を見た。


「僕の1億円と優雅なご隠居生活のためにも、見つけ出すから期待してて」


 そう言うとすかさず、


「いだっ」


 右からチョップが飛んで来た。その手はもちろん高松さん。


「んっふふ♪ それじゃあ、期待しちゃおうかな」


「匠くんのこともあるけど、この国、何かありそうだからね。じっくり調べて回ろう」


 おそらく、いやほぼ確実に、首を突っ込まずには居られない事態が起こる。


「そうね」


「どんな闇が潜んでるか、さっそく聞き込み調査だね」


「オイ闇ある前提かよ」


「あと、聞き込み調査って、また盗み聞きでしょ」


「人聞きの悪いこと言わないでよ。偶然にも、近くにいる人たちの話が聞こえてくるだけなんだから。偶然にも」


「偶然起こることが既に分かってる時点でダメじゃん・・・」


 とは言え昼飯からそんなに時間が経ってないから喫茶店に入る気も起きない。とりあえず宿屋に行ってチェックインと回復を済ませ、ロビーで15分ほど休憩した後また外に出た。シングルとツインの部屋しかなく、この街はみんなそうらしいのでツイン2部屋にして男女で分かれた。


 宿屋にあったガイドマップを確認。うわ、やっぱ大きな施設が多いな。ド真ん中にある高速鉄道駅の周辺には、国立研究所が1つと、大手企業のものと思われる研究所が4つ(メタリックカンパニー、グレイン食品、カテル医療機器、AGクリエイティブソリューション)、さらにエコノミア大学アカデミアキャンパスと、アカデミア工科大学。これらで街の面積の1/4は使っている。

 あとはこれらより規模が小さめの企業や大学、イベントホール、それから所々に集落みたいな感じで居住区がある。


「せっかくだから、さっき見かけた大きなホールに行ってみよっか」


 と、その前に教会に寄った。が、特にこれと言った収穫はなく、そのままホールの方に向かった。



 で、着いた。ある程度近づいた辺りから“アカデミアインターナショナルインベンションホール(アカインホール)はこちら→”といった道案内看板があったので、それに沿って進んだら迷わず来れた。

 自動ドアの上には、“第92回 ザ・スチールワールド”の横断幕がある。何かのイベントのようだが、スチールワールドって何だよ・・・。


 アカインホールに着く前からスーツ姿の人がウロチョロしていたが、中はもっと凄い。名刺交換をする者、ベンチに座って談笑する者、この建物内に喫茶店まであり、ストローで何か飲んでる者、パソコンと睨めっこしている者。スーツ、スーツ、とにかくスーツ。


 当然のことながら、俺たちに視線が集まる。


「何だあれ?」

「さあ・・・?」

「何かのイベントか?」


 むしろイベントにつられてやって来ました。


「フツーの参加者がコスプレしてるって線も・・・」

「さすがにそれは無いんじゃない?」

「でもああいう奴に限ってタダ者じゃなかったりすんだよな」


 どうも、魔法使いです。“タダ者”の枠からハミ出してますか?


「うわメッチャ注目の的じゃん」


「ちょっと、恥ずかしいかも・・・」


 “ちょっと”で済むんだ・・・。しかし入って来てしまった手前、場違いだからと言ってすぐに出るのも怪しまれる。仕方なく俺が先頭で、ズケズケと進み始めた。


「あの、すみません」


 イベントのスタッフだろうか、銀色のジャンパーを着た人が話し掛けてきた。


「スチールワールドにお越し、でしょうか・・・?」


 どこか自信が無さそうだ。ビジネスパーソンの舞台に魔法使いの恰好をした4人組が来たんだ、無理もない。


「いえ、旅の者なんですが、人が集まってたので何なのかな~と思って」


「え・・・あ、そうですか。・・・えっと・・・、」


 反応に困っているようだ。


「おい、マジモンの旅人らしいぜ」

「え、何でここに?」

「すごーい。初めて見たぁ~」パシャリ。


 こら、見世物じゃないぞ。スーツ姿の皆さん、意外とノリが軽いな。


「ザ・スチールワールドの世界へようこそ」


 誰かが近づいて来て、声を掛けられた。見ると、銀のジャンパーを着たダンディな人がいた。


「ここは私が。下がっていいですよ」


「あ、はい。ありがとうございます」


 最初に声を掛けてきた方のスタッフは一礼して立ち去り、持ち場に戻っていった。


「あの者が失礼しました。ボランティアでして、もちろん普通の接客対応はこなせるのですが、まさか旅の方までお越しになるとは。私はサブマネージャーを務めております、ゼシルと申します」


 ゼシルと名乗ったその人は、右手を左胸に軽く当てて、おじぎをした。


「えっと、ありがとうございます。スチールワールドとは、一体・・・?」


「今年で92回目となります、ザ・スチールワールドは、金属材料を用いた製品の展示会でございます。年に一度、各メーカーの技術の結晶が、このアカインホールに集うのです。せっかくですので、ご覧になられてはいかがですか? 本来は業界関係者しか入れないのですが、もちろん登録不要で、私自らがアテンドいたします」


 そういうことなら、お言葉に甘えるか。この国の闇を探りに来たつもりだったが、光の部分も見ておこう。この人の付き添いがあるのも助かる。銀のジャンパーを着た人がそばにいれば周囲からの視線も和らぐだろう。

 あと、この世界の歴史が92年以上あることが分かったのも1つの収穫だ。


「では、せっかくなので、お願いします」


「ありがとうございます。きっと、お楽しみ頂けるものと思います。お仲間の皆様は、どうなさいますか?」


 高松さんがニコッと笑って、


「では、私たちもお願いします」


 3人とも割と乗り気なようだ。まあ、盗み聞き、もとい聞き込み調査しかやることないからな。


「では、さっそく参りましょう。こちらです」


 ゼシルさんに招かれ、会場に通じるゲートへ。一般の参加者は首から下げているカードにバーコードでピッとされているが、俺たちはゼシルさんの顔パスで通れた。



「「おお~~っ」」

「ううぇ~~い」


 なんか、それっぽい。通路と、その両脇に各社の展示スペースが並んでいる。会社ごとにエリアが決められているらしく、等間隔で壁があって仕切られている。これと同じような列が、左右の方にもいくつかあるようだ。


「ちょうど、もうすぐメタリックカンパニーの演説が始まりますね。まずはそちらに向かいましょう。このままずっと真っ直ぐです」


 メタリックカンパニー。確か、カルちゃんの隣人の子の就職先。その時のカルちゃんと、今のゼシルさんの口ぶりからして大手だろう。


 両サイドに展示スペースが並ぶ通路を通って進む。超高精度を謳うネジ、人力で外せない程の強力磁石、完全金属製扇風機、アルミフレームとアクリル板の箱の中でウィーンウィーンと動く機械、色々ある。

 人々の様子は、自信満々に製品をアピールする人、その話を興味津々で聞く人、距離を取って眺めているだけの人、大声で呼び込みをしている人、来客がなく椅子に座ってスマホいじってる人、これまた色々だ。


「すっげー! ロボがたくさんあんじゃねぇか」


 ロボだけじゃなくて、ネジや鉄板も見てあげよ? でも、ロボ、無機質に動いているだけのはずなんだが、なんか、テンポよく小刻み動いたりもして、ちょっと可愛い。人間よりも愛着が持てそうだ。


「すっごいわね~。たまにテレビでこういうのニュース見るけど、こうなってるんだ」


 あまりロボとかには興味なさそうな女性陣も、感心した様子で辺りを眺めている。


 途中で、交差点。交差点に面している会社のエリアは広めだ。人も多くて賑わっている。体験型アトラクションやクイズ大会、PRビデオを流したりと色々だ。

 さらに奥に進む。両サイドはさっきと似たような光景だが、突き当たりの壁の所に大きなエリアがあるのが見えた。


 Metalic Company --- with you ---


 メタリックカンパニー、あれか。キャッチコピー、with youって・・・。

 目の前まで来ると、やはり賑わっていた。演説のためのステージは常設されており、時間が近づいているためか準備しているようだ。


「こちらが業界最大手、メタリックカンパニーのブースになります。ここ4~5年で大半の事業を分社化したので製品の多くは子会社化が担ってるのですが、鉱山での採掘から加工、機械装置の製造に至るまで全ての工程を自前で行っている、由緒ある会社です」


 へえ。材料を採るところから最終製品を作り上げるところまで自分たちでやってるのか。で、子会社同士で買い物し合ってるってことですね、分かります。

 それと、これが俗に言う“ブース”か。よく聞くけど、知らなかったんだよな。


 程なくして、ステージ上にビシッと決め込んだ感じのオジサマが登場した。辺りが少し静かになり、時間潰しでブース内を歩き回っていたと思われる人たちも集まって来た。ステージ上のオジサマはゴホンゴホンと咳払いをして、


「えー、皆様、本日はザ・スチールワールド、並びに弊社ブースへのご来場、誠にありがとうございます。わたくし、営業統括本部長のクシナダと申します。10分ほどお時間を頂きましてつまらない話をさせて頂きますが、どうぞよろしくお願いします」


 パチパチパチパチ、拍手が巻き起こる。パチパチパチパチ。


「えー、我々メタリックカンパニーは創立50周年を迎え・・・」


 本当につまらない話だった。メタリックカンパニーの歴史、注力事業、最新技術、地域貢献活動の紹介など、ホームページに載ってそうな内容だった。周囲の人たちは、途中で飽きてスマホをいじり出す人もいれば熱心にメモまで取ってる人もいた。最新技術の部分だけは、新情報もあったのか多くの人が関心を寄せている様子だった。

 個人的には、とりあえず現実世界と変わらない文明があることへの実感が強くなったので良しとしよう。


 演説が終わり、人々がばらける。ブース内に入って行った人もいるが、これぐらいなら俺たちも入れるだろう。演説中のスクリーンでも出てきた鉱山や採掘場の写真、それが加工されていく工程の図解、新製品の展示などがあった。


「うおっ! まじロボじゃねぇか!?」


 中野の視線の先には、二足歩行タイプのロボット。全身シルバーでありながら、上品な仕上がりになっている。


「こちらは、」


 ゼシルさんの解説が入るようだ。


「昨年リリースされた、AI内蔵のお手伝いロボットですね。本当に、ちょっとした単純作業なら任せられるので、非常に人気があるんですよ。AIがあるのはですね、例えば包丁が自分の指に当たったとなれば、食材の握り方を変えたり、包丁を動かすスピードを緩めたりするんですよ」


 AI。人工知能だな。現実世界でもよく聞くけど、本当に自分で学ぶんだな。


「もちろん、できることは家事だけにとどまりませんよ。ネジ回し、ハンダ付け、段ボール箱の運搬なども可能です。既に量産体制が整っておりまして、なんと1体10万円。維持費は電気代と年に一度のメンテナンスだけですから、人件費の大幅削減になると評判で、売れ行きも凄いそうですよ」


 それは凄いな、マジで人いらなくなるじゃん。


「特にこのアカデミアには単純作業を好まない研究者が多いですから、そういったことは全部このロボットにやってもらうという訳です」


 で、このロボがどんどん普及していけばカルちゃんやその旦那さんのような人たちは職を失う訳だ。


「現在は音声認識の開発を進めているそうでして、そしたらそのうち、ザ・スチールワールドのスタッフにも導入できるのではないかと思ってます。メタリックカンパニーに期待ですね」


 ゼシルさんがメタリックカンパニーのスタッフに顔を向けると、苦笑いが返ってきた。どうやら、来年には間に合わなさそうだ。早く開発してボランティアを解放してあげようね。この国はいずれ単純作業だけじゃ金が稼げなくなりそうだから、タダ働きなんてさせるのは酷だ。


 メタリックカンパニーのブースを離れ、せっかくなので別のルートで戻ることにした。と言っても、景色はほとんど変わらないが。


「なぁなぁ、アレやってみようぜ!」


 中野が指差したのは、ストラックアウトの拳銃版、射的の電子版? どう呼べばいいか分からないが、そんな類のものだ。ビンゴ賞はちゃっちい時計、パーフェクト賞品はホワイライト産の高級牛肉。


「いいんじゃない、別に」


「よっしゃ、大村勝負だ!」


 え? なんでだよ。まあやるけど。


「2人とも、魔法はナシね」


 俺たち、そんなに信用ないですか・・・。ジャンケンの結果、中野が先行になった。が・・・、


「うがーーー! 難しすぎだろコレ!?」


 的は3×3の9枚、中野の成績は12回の射撃で1枚だけ。お前が下手なだけなんじゃないのか? 俺は、7発目で2枚目を抜いた。


「くそーー! 負けたーーー!」


 いや1枚しか抜けなかった時点で諦めろよ。最終的に、俺は4枚止まり。ビンゴにはならなかった。別にあの時計いらないけど。


「葵、あたしたちもやろっ」


「え・・・う、うん」


 結果、高松さん4枚、花巻さん2枚。


「マジかよ・・・俺ビリかよ・・・・・・」


 精進しなさい。その分だと敵への遠距離攻撃も外すんじゃないのか?


 ここは照明器具のメーカーのようだが、製品の方は軽く眺めただけで離れた。このブースのスタッフも、俺たちがビジネスパートナーになるとは欠片ほども思ってないようで、終始自然な笑顔で対応してくれた。魔法使いの恰好も悪くない。来場者サービスのキャンディ、地味に美味しい。


 展示会場を出て、エントランス的な場所に戻って来た。


「いかがでしたか? 楽しんで頂けましたでしょうか」


「はい。今日はありがとうございました」


「いえいえ、これを機に一般人の呼び込み、あるいは旅人向けへのビジネス展開をするのもアリかと思えるようになりましたよ」


 せいぜい商売頑張ってくれ。

 お礼の挨拶を済ませ、ゼシルさんと別れた。


「ねえ、ちょっと休憩しない?」


 高松さんが喫茶店を指差している。


「さんせ~。歩き過ぎて疲れたぜ~」


 という訳で建物内の喫茶店に入った。当然この中にも、休憩中のスーツ姿の皆さん。もう俺たちの存在になれたのか、最初この建物に入った直後ほどの視線はない。飲み物はオレンジジュースでいいや。何を食べようかとスイーツの部分を見ていると、女性陣が顔を見合わせて揃って笑った。やめてくれないかな。


 オレンジジュースと、頼んだチーズケーキwithバニラアイスが届いた。チーズケーキだけでも良かったのだが、開き直ってみた。高松さん、ニヤけないで。


「ナタロさん、さっきはお疲れさまでした~」


 近くのテーブルから声。声のした方を見ると、2人掛け席で男女のペアが座っていた。ナタロさんと呼ばれた男性はメニューをじっくり見ている。昼の2時を過ぎているが、女性のセリフからして飯はこれからだろう。


「ああ、ホントに疲れたよ。でも、結構反響があったみたいで良かったよ」


「ホントですよ~。結構お客さん来てくれてましたね~」


 ちょっとまだ会話の内容がつかめないが、接客対応でもしていたのだろう。あとこの2人の関係、会社の先輩後輩だろうか。男の方は若く見積もっても35、女性の方は25前後に見える。フレンドリーに話してるように聞こえるが、ご機嫌取り感が凄い。大変だねぇ。


 だけどこういう時、先輩男性は何かと知識を披露したがることが多い。面白い話が聞けないか、期待しよう。


<それじゃあ僕は話聞くのに集中するから適当に場をもたせといて>


<オッケ>


「中野君は兄弟とかいるの?」


「え、俺か?」


 2人が上手い具合に世間話を始めた。花巻さんは4次元空間から本を取り出し、開いた。さあナタロさん、話をどうぞ。


次回:国家予算の行方

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