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4人の魔法使いの冒険  作者: 藤見倫
第3章:巻き起こせ、労働革命
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第91話:格差の理由

 某喫茶店。中野と高松さんが他愛もない話を繰り広げ、花巻さんが読書に勤しむ中、俺はマダム3人組の会話に耳をそば立てている。

 夫婦仲が微妙なヨッちゃん、旦那が大手勤めで自身も尽くすタイプっぽいミィちゃんに続いて、旦那も自身も派遣で共働きのカルちゃんの話が始まった。


「旦那のとこは割と役割分担されてて、どんな測定するとか装置のプログラム作るとかは正社員、それを動かす単純作業だけを派遣がやるって感じなんだけど」


 へえ、そんなのもあるんだ。線引きがあると公平感が出そうだな。他に目を向ければ表向きだけ線引きアリっていうパターンも存在してそうだが。


「アタシのとこは事務だから正社員と派遣の仕事内容が同じなのよ~」


「「ふんふん」」


 ヨッちゃんもミィちゃんも興味津々なような口調だ。この人たち、どれくらいの頻度で会ってるんだろ。


「一応はね、決定権的なの? は正社員が持つんだけど、総務課なんて事なかれ主義で責任問題なんてそうそう無いから実質一緒なんだよね~」


「あ~、マー君も似たようなこと言ってた。総務はお役所みたいって」


「でさ~、派遣には権限なくて分かんないことも多いんだけど、技術系の社員からは”総務なんだから知ってろよ”みたいな言い方されるし。派遣には知らされてないって言うと”なんで派遣ばっかなんだよ”って言ってくるんだよ? 信じられないよね。こっちだってなれるんなら正社員なりたいわボケ」


「うわうわアタシ無理。ブチギレちゃいそう」


 ヨッちゃんには無理だろうな。金を稼ぐことの難しさ、あんたも知っといた方がいいんじゃないの。


「で、結局最終的には正社員の所にいくから、みんな溜め息ついてんだよね~。たまに睨んでくる人いるのがホント腹立つ。テメェらが決めたルールでこっちは派遣だし知らない情報もあんだよっ、てね。まあ総務とは言えヒラじゃその辺の決められないんだろうけどさ~」


 派遣と正社員の間の給料の差は、”最終的には正社員の所にいく”ってところか。いやでも精神的ストレスを考えると、派遣は派遣で結構負担あるな。聞く限りだと明らかに効率悪そうなのに、それでもそんなシステムになってるのは、人件費削減か。同じ労働をさせるなら、コストは低い方がいいだろうからな。


「あとあとあれ、1年縛り」


「あー知ってる~。ヒッドいよねアレ~」


 ”1年縛り”の単語にミィちゃんが強く反応。派遣で、〇年縛り、そしてその数字が1。


「何それ?」


 ヨッちゃんは何のことか分かってないようだ。


「去年の10月に法律が変わってさ~、派遣労働はおんなじの1年しかできなくなったのよ。政府は、1年経ったら正社員登用を促してんだけどさ~、そんなことしないから切られるだけなんだよね~」


「うっそ、最低じゃん」


「そぅそぅ、そろそろカルちゃんに聞こうと思ってたんだけどぉ、10月からどうするの?」


「アタシは、なんか嘱託採用ってやつで続けさせてもらうことにしたの」


 嘱託採用? 何だそれ。


「嘱託採用? 何それ?」


 ミィちゃんも知らないようだ。


「なんかよく分かんないんだけど~、1年縛りからの救済的な? 会社としても人がコロコロ変わるの嫌だから続けてもらうために新しい制度作ったみたいで~」


「普通に採用するんじゃダメなの?」


「ダメなんじゃないの? ウチの会社だけじゃないけどさ、採用って新卒がほとんどじゃん。派遣からの登用なんてルールなくって、それ用に作ったのが嘱託採用らしいよ」


 エコノミアは新卒採用の文化か。アメリカは転職文化だと聞くから、ここの就業形態は日本に近いようだ。


「給料は派遣の時と変わらないの?」


 それよりも気になるのが、正社員との差だ。一緒に言ってくれるだろう。


「それがさ、聞いてよ! ・・・あ、いや、大声出してゴメン。今と比べたらちょっとは上がるんだけど、正社員よりは低くって、しかもボーナス出ないんだよ?」


 うっわ。こりゃマジで1年縛りの抜け穴を作ったようなもんだな。


「でさでさ、それよりも困るのが、アタシは今いってる派遣しかないから困んないんだけどね、バイトとかも禁止されんの。一応、社員だからってさ」


「「ええーーっ」」


 どっはー。そりゃエグい。ボーナスはあげない、副業は禁止、悪いとこ取りだな。


「派遣の仕事の後にバイト入れてる人とかはさ、残業させてくれって頼んでるみたいなんだけど、嘱託社員は残業禁止だって言われたみたいで、もう他んとこ行って派遣とバイトの掛け持ち続けるって言ってた。仲良かったのにな~」


「ヒドくない?」


「マー君のとこもそうなのかなぁ」


 そうだと思うぞ? コストカットできるもん。


「正社員登用する企業には補助金出すって言ってんじゃん? 嘱託がどうとかなんて社内のシステムなんだから政府わかんない訳じゃん?」


「ちょっ、それって」


 ヨッちゃん、その予想は多分正しいよ。そして次の言葉をミィちゃんが紡ぐ。チームワークは抜群だ。


「絶対補助金だけ会社がもらってアタシらに分けないつもりだよねぇ。正社員の給料も増える訳じゃないしぃ」


「正社員の給料だけ増えてもアタシは許せないけどね」


 派遣、未来の嘱託社員からすればそうだ。


「嘱託で給料増えるって言っても10%ぐらいだし、どうせ税金とか何とかで手取り変わんないよ。ここまでくるとさ~、政府と企業がグルになってそうだよね~」


「絶対そうでしょ。消費税増えるし、医療費負担も増えるし、その分は上層階級にしかいってないって。富裕税、年収1000万あたり月1万じゃ足りないって。年金よりやっすいじゃん」


 ヨッちゃん、やはり旦那の給与明細は見てるか。年金で数万取られると親父が言ってたが、エコノミアもそうかもね。そして富裕税、安いな。低所得層への配慮を示すためだけに導入された感が強い。


「何でこんなことする政府の支持率が80%もあるのか分っかんないよね~」


 はぁ!? 支持率80パァ!? 頭おかしいだろ。思わず3人組の方に顔を向けてしまった。


<さすがに今のはあたしもビビった>


 高松さんも聞いていたようだ。俺もビビり過ぎて現実に戻って来てしまった。とりあえずオレンジジュースをひと口飲み、再び3人組の話に神経を集中する。


「マー君の話だとねぇ、」


 再びミィちゃんが”ここだけの話”感を出した。聞かせていただきます。


「マー君の会社、国民党に入れるのが義務らしいよぉ」


 国民党、与党である第一国民党のことだろう。


「「うっそ、そんなのアリ?」」


「あ、もちろんルール化されてる訳じゃないんだけどぉ、でも前に野党に投票した人がブラッキどころかスノーウィーンに飛ばされちゃったんだって」


「「うそでしょ!?」」


 喫茶店内が静まり返り、マダムたちに視線が集まる。3人は軽く立ち上がり「ごめんなさ~い」とか言いつつペコペコしながらまた席に着いた。店内の人たちも、それぞれの世界に戻る。俺も、この3人の話の続きを聞こう。


「そんなのアリ? 反則でしょ」


 冗談抜きで法律違反だな。ここは知らんが、現実世界じゃ大抵の国でアウトだ。マー君の勤め先、ナチュレにも工場(?)があるとは中々の規模だな。


「てかさ~、それバレる時点で政府と企業グルじゃん」


 確かに。何で投票先が会社にバレるんだよ。


「ミィちゃんには悪いんだけどさ、大手の人たちが勇気持って経民党に入れなきゃダメなんじゃないの?」


 さすがにミィちゃんの眉間にシワが寄った。その発言をするヨッちゃんの勇気、恐れ入ります。経民党って言うのは野党第一党だろう。


「でもみんな一斉にだよ? 無理だって。もし自分しか入れなかったらド田舎に飛ばされるんだから」


 すかさずカルちゃんがフォローを入れた。あと、スノーウィーンはド田舎のようだ。ビジナ市民からすれば、ウォーターランドはともかくグリンタウンですら田舎だろう。


「そこはさ、何とかバレないように結託してさ」


 さすがにそれはキツいだろ。ネットなんて使ったらバレるし、結構な数の大手が似たようなもんだろうし、80パーともなると中小や零細もあるはずだ。その全てを結託させようなんて、無茶にもほどがある。


「さすがにそれは・・・」


 ミィちゃんも反応に困っている。


「ま、大手だと稼ぎいいもんね。今の生活が崩れるようなことはできないんでしょ。そんなんだから格差が無くなんないのよ」


「ご、めん・・・」


「ちょっとヨッちゃん言い過ぎよ。マー君が昔から頑張り屋さんだったの見てたでしょ」


「あっ。 ごめんねミィちゃん、マー君は自分の努力で大手に行けたのにね」


 ヨッちゃんが両手を顔の前で合わせ、俯くミィちゃんに謝る。一度言ってしまったことは、戻せない。心の中にずっとあったからこその発言だし、お詫びを言ったところで妬みが消えるものでもない。


「あ、ううん。大丈夫だよ。言いなりになってるのは事実なんだから」


「そこなのよね~。結局、大手でも末端だと言いなりになるしかないのよね~」


 カルちゃんのコメントも入り、何とか落ち着いたようだ。だが、”ヨッちゃん言い過ぎ”の”言い過ぎ”、カルちゃんも少しは同じことを思っているようだ。黙って国民党に入れてれば生活が安定する大手社員と、絞り取られていく一方のその他。


 格差と言えば格差だが、カルちゃんが言うように、マー君が自分の力で大手に入ったのなら文句を言うのは筋違いだ。子ども世代に目を向けると、ガリ勉もいれば宿題サボるわ授業中に寝るわの奴もいる。で、後者はテスト前だけガリ勉に助けてもらっている。


 俺の話をすると、ガリ勉と言われたことはないが中学では上位1割ぐらいで、「友だちだろ?」とか言われて助けてたことがあったのだが、助ける側と助けを求める側で将来的に格差が出るのは当たり前だ。格差格差だと吠える前に、自身の学生時代の行いを顧みていただきたい。なお、テスト前の救助を断ることにしたら”友だち”が減った。


「でも大手だと安定するし、公務員になれたら万々歳だからさ、ウチの子にも勉強しろって言ってんだけど遊んでばっかなのよ。そんなんだと格差社会の底辺に行くぞっつってんのに、ホントもう・・・」


 ヨッちゃん夫婦の子供など、そんなもんだろう。


「ミィちゃんとこ、ビジナ高校なんでしょ? さすがマー君の子だと思うもん。ウチのは三流以下の大学。ありゃアタシらと同じ道だね。血は争えないって言うか。隣んちの子は高卒からのメタリックカンパニーなのにさ~」


 ビジナ高校は有数の進学校、メタリックカンパニーは大手だろうか。


「ミィちゃんとこの子も頑張り屋さんだからいいけどさ、実際親が金持ちだと子供も安泰だよね。それでウチみたいな貧乏一家の子は教育に金かけられなくて負けるんだもん」


 だから、マー君やその子供のように頑張れよ。マー君はアンタらと同じ身分だったのに大手に入れたんだろ? アンタらにもその道に行けた可能性があった訳だ。口では”頑張り屋さん”なんて言ってるが、内心マー君の天才頭脳を受け継いだだけとか思ってるだろう。あと、ケーキ食う金はあるのに教育に回す金はないのか。


「公務員に至っては血縁採用もあるからね~。そのせいで民間人の公務員枠が減っちゃってるし」


 事実、大した努力もなしに上層階級に行ける人もいるし、努力できる環境さえなくて低所得層まっしぐらの人もいる。これは本物の格差だと思うし、是正せねばならない。下を苦しめることで楽できる上層階級が助けるとも思えないし、おそらく公務員より稼いでいるであろうファイナンスの投資家たちは・・・政治そのものに興味がないだろうな。


 だけど、投資家には誰でもなれる。証券会社に駆け込めばいい。そこのドアを開けると正面にありますよ、奥様方。こんな所でお茶してるんだ、1万2万ぐらいは捨てれる金はあるだろう。ファイナンスの投資家たちはリスクを承知で投資して、それが上手くいって巨万の富を得ている。適当に投資しても外れるだろうから色々調査したり考えたりしているはずだ。それも1つの努力だと思う。


 あなたたちがお茶して愚痴を言ってる間にも、頑張っている人たちがいるのだよ。吠えてるだけじゃ、泣き寝入りしてるだけじゃ、勝ち組にはなれない。


「民間からの公務員と言えばさ、」


 おっといけない、考え事してたら話を聞き流してた。この声はカルちゃんだな。


「ファシス大統領って初の民間出身の大統領でしょ? 期待されてて、実際最初はすっごい良かったのに、どうしてこうなっちゃったんだろうね」


 エコノミアは大統領制のようだ。なんかもうゴチャゴチャだから、実在する国を当てはめるのはやめよう。それぞれの制度の組合せは、この国オリジナルだ。


「やっぱり、お金がガッポリ入るようになっちゃって味しめたのかなぁ?」


「そうなんじゃないの? 人ってのは、権力手にするとダメになるもんなんだねえ」


 それは言えてるかもな。親父が言うには、人は出世したらクズになる。

 実際俺も、対等な立場であるはずの同級生相手でさえ、どんなに気を付けていても不満を買うことがあった。これが仕事上の部下ともなれば、開き直ってアレコレ命令してしまいそうだ。課長や部長だともっと上がいる訳で、そこからの圧力に押されそうだし。


「ホントもうヤになっちゃうね~」


 そこでようやく、話がひと段落ついたようだ。2~3分ほどは3人組の会話を聞いていたが、なんか料理の話になった。


「よし、ごちそうさま。外に出よっか」


「ん? もういいの?」


「もうお腹いっぱい」

<これ以上聞いたら気分悪くなりそう>


「そっか。じゃあ行こっか」

<あたしは既に気分悪いんだけど>


 高松さん、ちょっとやつれた表情だ。結局あの3人の話、その気がなくても結構耳に入ってくる感じだったからな。花巻さんも途中から本が進まなくなってたし。しかし高松さん、中野と話しながら他テーブルの話も聞くとは、器用なものだ。


<そんないい話あったのか?>


<まあね>


 収穫の良し悪しでいえば、良かった。話の内容自体は、それはもう酷いものだった。ちょっとした情報収集のつもりが、まさかここまで色々と入ってくるとは。中野は高松さんとの会話に集中していたのか、あまり聞き取れてなかったようだ。



 外に出て、とりあえず一旦宿屋に戻った。部屋には3時まで入れないそうなのでロビーで休憩。


「想像以上に、闇が深そうだね」


「ええ・・・」


「そう、だね・・・」


 何がってもう、あんな話がその辺の喫茶店で堂々とされてるレベルなのに、快方に向かう様子が皆無だ。選挙が出来レースなら当然だが。


「マジ? どんなんだったんだよ」


「元の世界でも問題視されてるようなことが何倍もの酷さになって蔓延してて、想像絶するような悪いシステムまで構築されてる感じ」


「なんじゃそりゃ。どうせ聞いても分かんねぇから良いけどよ」


 中野、お前、そんなことでは格差社会の底辺に行ってしまうぞ。幸いにもお前はこのゲームで1億円手に入るから、無駄遣いは程々にするといい。


「感想としては、1億円手に入れてぐうたらするという目標を確固たるものにしたよ」


「またそれ・・・って言いたいとこだけど、今ならその気持ちが分かるわ・・・」


 だろ? 社会とか出たくないだろ?


「で? こっからどうすんだ?」


「北の方に行って、お昼ご飯食べた後アカデミアに行こう。なんか、じっとしてらんないや」


「あたしも。ホントはもう今すぐにでも助けたい」


 助ける、必要がある人もいそうだな、この感じだと。


「気持ちは分かるけど、まだ早いよ。もし暴れられても手伝わないから」


「分かってるわよ。迷いがあるうちは、何もしないわ」


「それに、あの3人組は助けるほどじゃないからね。ミィちゃんは現状に大した不満がない、カルちゃんは夫婦とも派遣だけど自分の力で切り開こうという意志がない、ヨッちゃんは初めから自分で稼ぐ気がなくて人任せ。三者三様に、リスクを負ってまで、いやリスクが無くったって助ける価値がない」


「さすがに辛口ね、大村君」


「既にケーキなんて嗜好品を食べてる人たちを甘やかす必要なんてないでしょ」


「そうかもね。あの人たちよりも恵まれてない人は、山ほどいるわ。見つけて、助け出さなきゃ」


「うん」


 花巻さんも、大体は高松さんと同じ意見のようだ。


「アカデミア、多分学術都市だね。国家予算がバンバンつぎ込まれるし、開発は給料がいいだろうから、今度は比較的裕福な人たちから情報収集させてもらおう」


次回:技術革新の要、学術都市アカデミア

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