表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4人の魔法使いの冒険  作者: 藤見倫
第3章:巻き起こせ、労働革命
90/349

第90話:経済大国の首都、万人多忙都市ビジナ(後編)

 7時ちょうど、アラームで起床。幸いにして今日は晴れた。みんな起きていたので共に朝食会場へ。


「うっしゃ晴れたぜ!」


「レベル上げ日和ね」


 朝食後、早速街の外へ。


「MPに余裕があるうちはクリフキャニオンでやろうか。強い敵が多いし」


「だな。昨日のリベンジもしてぇし」


「あんまり奥に行かなきゃ大丈夫でしょ」


 花巻さんのレベルと、所持金も増やしたかったので、いつしか2人でレベル上げをした時と同様に、氷の剣を持たせてスライムやゴブリンとは戦ってもらうことにした。高松さんとのコンビネーションが素晴らしい。


「なぁ大村、上級魔法見せてくれよ? おめぇ見てるだけじゃねぇか」


 俺が攻撃したらお前の経験値の取り分が減るという気遣いだったのだが、そういうことなら遠慮なく試させてもらおう。


「じゃあ次で試そっかな。MP70食うのがネックなんだけどね」


「うえっ、そんな使うのかよ」


 現れたモルモットは、イエローウルフさん。強めのが来てラッキーと思ったが、動きの速い相手に上級魔法は難しそうだ。とりあえず適当に攻撃して隙を作るか。


「うりゃっ」


 MPをケチる必要もないので、避けられないように広範囲に水を出した。直撃し、動きが鈍ったところに追撃だ。本当は弱点の水でいきたいのだが、ハイドロキャノンは一度見ているから、


「ファイアバード」


 赤い魔法陣から、羽を広げた幅3mぐらいの火の鳥が出て来た。狼一匹にはもったいなかったか。


「キャウンッ!」


 直撃し、狼が声を上げる。さすがに一撃じゃ倒せないか。もういいや、ハイドロキャノン、自分でも使ってみよう。


「ハイドロキャノン」


 青い魔法陣から、轟音を立てて直径2m以上で大量の水が放出された。狼は水に呑まれ、水が止まる頃には姿が消えていた。


「ヒュ~~ッ。やっぱ凄ぇな上級魔法! 他のも見せてくれよ!」


「風のは高松さんに見せてもらうとして、あとは土と雷だね」


 さっさと済ませてしまおう。次の敵は、イエロースライムさん。雷に耐性があるから土でいこう。


「グランドウェイブ」


 地面が、本当に海で見るような高波を起こし、スライムに襲い掛かった。魔法陣は杖のすぐ前にできていたが、そこからは何も出ない。大地の波は、地面に激突と同時にバラバラになって破片だけが周辺に散らばった。魔攻の低い俺だが、相手がスライムということもあり一撃で撃破。


「ううぇーーーい! なんかゴツいな! グランドウェイブ」


「だね」


 迫力は、結構あった。攻撃範囲が広いから、威力はどうだろう。


 さて、最後、雷だ。だが出て来たのがイエローウルフ。こいつも雷耐性持ちだが、仕方ない。目的はあくまで魔法の確認だ。だが避けられるのは嫌なのでまず水で攻撃してから、


「プラズマスフィア」


 黄色の魔法陣から、小さな電気がたくさん集まった球体が放たれ、バチバチ音を立てながら狼に向かっていった。直撃するも、狼は一瞬動きが止まっただけで俺に向かって走り続けた。さすがに上級魔法はMPが気になるので、


「フライングリバー」


 久々に中級魔法を使い、それでもまだ生きていたので、


「アイスソード」


 氷を喉に突き刺してトドメを刺した。


「ふうっ」


 上出来だ。仲間のもとに戻ろう。


「魔法が増えて戦いやすくなったわね」


「うん。 さ、2人もレベル上げよう」


 俺は上級魔法を4つ使ったこともあり、クリフキャニオンに入る前にMPが50切ってしまった。最低消費MPが70だからなぁ・・・。今の最大MPは345だから、そんなに乱用できない。


「ちょっと回復してくるから先行ってて」


「うっしゃあ!」

「オッケ」



 一旦宿屋に戻り、1人でクリフキャニオンに向かう。今度はMPを浪費しない戦い方で、現れた敵は全部倒すようにした。


<崖おりて右の方に行ってるわ>


<分かった>



 崖を下りて、川に沿って右に進むとみんないた。順調なようだ。俺はヤバくなった時だけ手を出せばいいや。しばらくすると、


「おっしゃあ! 上級魔法キターー!!」


 中野が先に50になったようだ。


「ジャスト・ワン・グリッターにブラックホールだってよ! 光の方はよく分かんねえけどブラックホールって強そうじゃね?」


「とりあえず高松さんを待って、回復しに戻ろっか」


 さすがに中野まで戦わなくなるとキツいので、俺も混ざってちょくちょく攻撃するようにした。ほどなくして、


「あたしもなったわ。レベル50。MPもうないから帰りましょ」


 俺以外の3人のMPが、50切っている。あとは上級魔法の試し打ちだけだ。街のすぐそばでもできる。



 で、回復後にまた外に出た。


「ん~~~。どっち先にすっかな~。やっぱブラックホールっしょ! 次のやつ出て来やがれ!」


 中野が適当に走り回っていると、ゴブリンが出て来た。どうせならイエローウルフかストーンゴーレム辺りが良かったが。


「うっしゃあ! 死ねぇ! ブラックホール!!」


 暗い紫色の大きな魔法陣に、もっと黒いものが現れて渦を巻くように回り始めた。吸い込む力が働いたのかゴブリンが必死にその場に留まろうとしている。が、途中で力尽きたように倒れて、ほどなくして消えた。どうやら、吸引力が働くと同時にダメージも入るらしい。


「ううぇーーーい! 一撃だぜ。やっぱ強ぇじゃん」


「みたいだね」


「んじゃ今度あたし~。光は中野君に任せて、風にしようっと」


 次に現れたのは、ストーンゴーレム。


「早速いくわよ」


 高松さんが杖を前に向け、緑の魔法陣を出す。


「メガパスカル!」


 ドォン!


「きゃっ!」


 強烈な風が吹いたと同時に、その反動で高松さんがバランスを崩したので、後頭部が地面にぶつかる前に風を起こして止めた。


「あ、ありがと」


 ゆっくりと風を止め、高松さんが重心後ろ寄りで両手を地面につけて座る恰好になった。


「それ使う時は気を付けた方が良さそうだね」


「でも威力も凄ぇぞ!」


 風が直撃したゴーレムも、数メートルほど飛んで横向きに倒れていた。高松さんが立ち上がり、ローブに付いた土を払う。


「やっぱせっかくだし、光のは2人でやってみる?」


「ん・・・? だな!」


 2人が横に並び、杖をゴーレムに向けると、ゴブリンの胴体のすぐ前に白い魔法陣が出現。だが、


「魔法陣ちっさ!」


 魔法陣のサイズが、両手で輪っかを作ったぐらいのものだった。


「攻撃範囲が狭いんじゃない? とりあえず使ってみて」


「んじゃ千尋ちゃんいくぜ?」


「ええ」


 一旦目を合わせた2人が再び前を向き、


「「せーのっ」」


「ジャスト・ワン・グリッター」

「ジャスト・ワン・グリッター!」


 小さな魔法陣が強く光る。


「きゃっ、まぶしっ」

「うおっ、まぶしっ!」


 一瞬目を閉じた隙に、ゴーレムが消滅していた。


「おお・・・」


 何とも言えない反応を示す中野。


「攻撃範囲が狭い分は威力があるんだろうけど、メガパスカルも当ててたから分かんないね」


「だな~。でも一点だけが強く光るってのも何かかっけえな」


 お気に召したようで何よりだ。だがあの攻撃範囲の狭さは、扱いが難しそうだ。


 次もストーンゴーレムが現れた。


「一発目からさっきの使ってみれば?」


「そうね。中野君、お願い」


「いいのか? んじゃ行くぜ」


 中野が杖を前に向け、


「ジャスト・ワン・グリッター!」


 文字通りの瞬殺だった。


「うおうぇーーい! やっぱ強ぇんだなコレ」


「みたいだね。どれくらい差があるかは分かんないけど」


 あとは適当にMPが枯渇するまでレベル上げ作業を行った。



 で、宿屋に戻って休憩。10時半だ。


「で、どうするの?」


 考えてる訳がないだろう。


「高松さんに任せる」

「あたしに任せるっていうのはナシね」


「「・・・・・・」」


「大村に任せるわ」


「大村君に、決めてもらおうかな」


 花巻さーーーん。嘘だと言ってくれえええぇぇ。


「はい、じゃあ大村君決めて」


「じゃあ適当に歩こう」


「予想通りね」

「予想通りだな」

「予想通り、かな」


 はい、じゃあ行きましょう。



 で、外に出た訳だが、なんか、ファイナンス以上にどの人も忙しそうだ。歩くスピードが全然違う。大抵の人がほぼ早歩き状態だ。昨日はあの天気だったし急ぐ人がいても気にならなかったが、この晴れてる状態でもこれか。駆け足の人もチラホラいるし、ダッシュの人も珍しくない。10時過ぎてるし、通勤じゃなくて出張だとは思うが。


 ドッ。


「いたっ」


 後ろから、誰かが肩にぶつかった。顔を上げると、スーツ姿の人が小走りでそのまま前方に去って行った。昨日に続き、2度目なんだが。


「また? 感じ悪いのが多いわね」


 俺の代わりに、高松さんがそう言った。


「ビジナの由来、英語のbusyかもね」


「あ、それ言えてる」


 ”心を亡くすと書いて忙しい”とは、よく言ったものだ。



 適当にぶらついて回り、最初に目に付いたのは、


「あ、教会」


 そういえば、スクエア教の協力をもらってるんだった。ファイナンスはともかく、メディカにはあるだろうから寄っておくんだった。でもあんまり気にしすぎると、花巻さんの弟がバリバリの投資家になってる可能性もある訳で・・・やはり最終的には、レベル上げまくって風魔法で世界中を飛び回って細かく探すしかない。

 そこまでする前に見つかるならそれに越したことはないから、次からはちゃんと寄るようにしよう。


 境内(教会でも境内って言うのか?)に入り、開きっ放しのドアに真っ直ぐと向かう。入って正面は壁、通路左右に分かれてるけどどっちも同じだろう。壁が途切れるまで右に進むと、聖堂だった。椅子に座ってる人、奥の方で祈りを捧げている人、その列に並んでいる人、色々だ。


 えっと、司祭さまは・・・っと眺めると、聖堂の左側の壁沿い、奥行き的には真ん中辺りにそれっぽい人がいた。一番後ろを通りながら左の方に移っていると、司祭の方も気付いてこっちに歩き出した。左の壁沿いにあるドアに手をかけ、もう片方の手で手招き。魔法使い4人組の時点で理解してくれたんなら、話が早い。


「話は、マリーナ様より伺っております」


 それは助かる。ますます話が早い。


「ですが、あまりお役に立てる情報は今のところないですね・・・」


 まあ、さすがにキツいか。


「まず、信者名簿には載っていないのと、私の知る限りでも、すみませんが・・・」


「そうですか・・・。まあ、しょうがないですね」


「もし、何か情報が入りましたらお知らせしますので、またお越しください」


「ありがとうございます。では」



 司祭と別れ、教会を後にした。


「やっぱ簡単にゃ見つかんねぇか~」


「ま、簡単にはいかないでしょ。スクエア教に入信してないってことが分かっただけでも良しとしよう。気長に頑張ろっか」


 次は、適当な喫茶店に入った。


「もう休憩? 珍しいわね」


「休憩というよりは、調査かな」


「は? 何のだ?」


「美味しい喫茶店探し♪」

<周りのテーブルの人たちの話を聞く>


「はあ?」


「どゆこと・・・?」

<それタダの盗み聞きじゃん>


「いいじゃん別に」

<なんとなく、気になる。この街の人たちがどんな話をするのか>


「まあ、いいけど」

<その気持ちは、分かるけど。でも昨日の若者は大した話じゃなかったよね?>


<あれはハズレだったけど、メディカとファイナンスじゃ聞けたから。医療費負担アップ、低金利低賃金にシビレ切らして脱サラからの投資家転身、一方的な都市開発による農地埋立て。こんな国は簡単には変わらないから、僕らが市民の声を集めないとね>



 どことなく、この国は今の日本に通ずるものがある気がしている。社会に出るつもりはないが、市民の声を聞くついでに社会勉強とさせていただこう。

 それに、昨日の若者は、あれはあれで良い収穫だった。23まで遊ぶトシとか思ってる人は少なくないだろうし、そういった人が多い国は労働力が不足する。不満を溜め込んでる人が多いことだろう。


 人は愚痴を言うのが好きだから、赤の他人という立場で質問攻めするよりも、仲間内でトークしているのを傍で聞いてる方が本音が聞ける。

 忙しいことが美徳とされ、暇であることや大した苦労もなく日々楽しく過ごしていることをアピールをしようものなら、”暇なんでしょ? だったらこれお願い” みたいな感じで色々押し付けられる。幸せアピールは、すればするほど損をする。だからどんなに幸せでも、それは心の内に秘めておいた方がいい。果たしてそんな世の中に、幸せは存在するのか。


 逆に、忙しいアピール、不健康アピール、不幸アピール、これらが面倒事を避けるための常套手段になっている。そういったアピールに限ってザラな内容が多いのだが、この街に来たばかりの旅人にとっては貴重な情報源だ。


 アピールの有無に関わらず多くの人が自分の境遇に満足していないのは、国の基盤そのものが悪いからだ。アピールをする人が多ければ、忍耐力がないか人生経験の浅い人間が多い。そういった人間が多い国は豊かになれないから、基盤が悪いどころか根が腐っている可能性が高い。


 だから、この国の民の声を、聞かせていただきます。



<という訳で僕は盗み聞きに神経を集中させるから皆で適当に会話してて>


「でも、美味しいといいわね。何食べよっかな~」

<そんなことに集中力使わないでよ・・・>


 これだけ人が集まってるんだ。愚痴を漏らす人の1人や2人ぐらいいるだろう。まずは、一番近いテーブルのマダム3人。優雅にお茶する暇はある癖に、不満は立派に溜め込んでいらっしゃることだろう。


「このあいだー、ウチの旦那がさー」


 ちょうど、話題が切り替わったタイミングのようだ。旦那はなんだ? 社畜か? ヒモか?


「休みの日なのに家事全然やんないことがあったわけ」


「「ふんふん」」


 家庭内仕事分担のネタか。ありふれた話が出てきそうだが、聞いてみよう。聞く側のマダム2人も、興味を示すそぶりを見せている。まあ、聞くしかないだろうからね。


「休みの日ぐらい手伝ってよって言ったら、何て返してきたと思う?」


 俺はお前を食わせるために毎日働いてんだ、休みの日ぐらい休ませろ。か?


「なになに?」


「ヨッちゃん何て言われたの?」


 予測できているだろうに、答えを知りたそうにする言い方。人付き合いも大変だねぇ。”ヨッちゃん”は、あだ名かな?。


「俺はお前を食わせるために毎日働いてんだ、休みの日ぐらい休ませろ。って怒鳴ってきたの」


「「ええーーっ」」


 ええーーっ。一字一句違わずに当たったじゃんかよ。つまんねーー。


「こっちだって旦那を支えるために毎日無給で家事やってんのに、」


「「「ねえ」」」


 聞いてるだけでイライラしてくるぅー。旦那は旦那で問題あるけど、奥さんも奥さんなんだよなぁ・・・。どうしても、”結婚相手を間違えたあんたが悪い”と言いたくなる。男である俺が言ったら非難の的になるだろうけど。専業主婦の仕事の時給換算もよくネットで見かけるけど、ナンセンスだ。婚約する時に家事の分担についても契約書作ったらどうですか・・・。


 このようなトラブルを避けるためには、結婚はせずに家政婦を雇うのが一番だ。このご時世、結婚相手に家事ができることを求めるのは良くない。つまり、金を出して家事をやってもらえばいい。でもこんなこと言ったら益々クズ扱いされるから困る。どうすればいいの・・・? あ、共働きで稼いだ上で家政婦を雇うのはどうだろう。でも夫婦の稼ぎに差があると揉めそうだなぁ・・・。


「ウチは、」


 今度は別のマダムの話だ。


「帰りも遅いし、泊まりの出張も多いから、家にいる時は休ませてあげたいって思うけどな~」


 なんて良い奥さんなんだ。


「ミィちゃん、マー君のこと昔から大好きだったもんねぇ」


「えへへ・・・」


 結局そこなんだよな。専業主婦になると決めた以上、パートナーのためにどこまで頑張れるかだ。結婚相手を間違えなければ、多少の過重労働は耐えられる。


「あと出張って、結構儲かるんでしょ? ウチの旦那はほとんどないから羨ましいな~。”お前を食わせるために”とか言うなら、もっと稼げって話よね。大手勤め、羨ましい」


 それも結局そこなんだよなぁ。ヨッちゃんも、本人の思いのまま贅沢できていれば文句言わずに家事やるんだろうな。俺から言わせれば、合わせて1,200円の紅茶とケーキを口にしている時点で贅沢だが。この人の夫婦の場合、旦那は家事をやってもらうため、奥さんは金を稼いでもらうため、元からそれぞれに思惑があって結婚したように思える。上手くいく訳ないじゃん。


「ねぇねぇ、出張ってどのくらい儲かるの?」


 旦那が大手勤めと言うミィちゃんにそんな質問が投げかけられる。

 親父も、出張は儲かるって言ってたな。交通費・宿代の実費とは別に、一律の食事代、移動手当、宿泊手当。かつては宿代も一律で、3,000円で泊まろうが一律で10,000円支給されていたとか。最近は実費精算で尚かつ上限も決まってるらしいが。


「うーん。食事代はぁ、朝700円、昼1,000円、夜1,500円かなぁ。もちろんホテルで朝食付きプランとか付けたらその分は出ないんだけど、マー君は朝はパン1個とかしか食べないから素泊りにして700円もらうようにしてくれてるみたい」


「えー、いいなぁ」


「ホテル代はぁ、実費プラス1,000円。ここは変わんないから会社の負担減らすために安くとるようにしてるみたい」


「マー君偉い。あたしだったら実費プラス固定なら、上限ギリギリでいいトコとっちゃうけどな~」


「それやってると、出張の許可が出にくくなるって言ってたよ」


 まあ、そうだよな。上限ギリギリばかり狙っていると印象が悪くなるのも無理はない。


「あとはぁ、移動手当」


「何それ?」


「電車移動があると、交通費とは別に手当が出るの。平日なら1,500円。休日なら10,000円」


「「うそー!」」


 親父の会社は3時間を超えるかどうかで額が変わるらしいが、マー君の所は固定ようだ。つまり、高速鉄道で10分程度のファイナンスに行っても出る。まあ、ゲームの世界だし。


「その代わりぃ、出張には残業代は出ないんだけどね。だけど電車とか船に乗ってるだけでお金がもらえるんならオトクだよね」


「でもそれ、民間企業だったらいいけど、公務員でもあんのかな?」


 それは俺も思ったことだ。現実世界でもどうなのか親父に聞いてみたが、”知らないし無責任な推測はしない”とのことだった。少なくとも実費の交通費と宿代は出てる訳で、俺たちの税金がぁ。絶対こじつけで出張行ってる人いるよ~。

 チラリと目を向けると、ミィちゃんが”ここだけの話”と言わんばかりに両手を口の両サイドに当てる仕草と取っていた。はい、エコノミアがどうしてるか分かりました。


「マー君が言うにはぁ、」


 ”ここだけの話”、思いっ切り聞こえてくるんだが。


「出るらしいよぉ。取引先の公務員の人とお話しすることもあるみたいなんだけどぉ、同じぐらい出てるんだってぇ」


「「ええーー」」


「しかもしかもぉ」


 ミィちゃんの話は続く。しかも、何ですか。


「民間は禁止してるトコが多い、クオカードプランOKなんだってぇ」


 出たーーー。クオカード、プラン。親父曰く、サラリーマンの強い味方。当然のことながら親父の会社でも禁止された。宿泊予約システムが構築され検索結果にヒットしないようになったらしい。て言うか公務員がそれ、わざわざ民間人に漏らすんだ。


「クオカードプラン? 何それ?」


 ヨッちゃん、知らないのか。聞いて発狂するなよ。


「普通の値段より1,000円高いんだけどぉ、1,000円分のクオカードが付いてくるの」


「え? 何それ、意味あるの?」


 ヨッちゃん、分からないのか。


「ホテル代は、お役所持ちでしょ?」


「そりゃそうよね、自腹なら出張なんて行かないでしょ」


「クオカードは、泊まった人がもらえるの」


「え・・・? それって、普通に持って帰っていいの・・・?」


「当たり前じゃあん。でなきゃ誰も使わないよぉ」


「はあ!? それってアリなの? あたしたちから巻き上げた税金が公務員の小遣いになってんの!?」


 ヨッちゃん、声が大きいよ。スーツ姿のオジサンが何人か顔向けたぞ。公務員か、それを妬む民間サラリーマンかは知らないけど。公務員だったら頂いたクオカードでお茶してる訳だ。

 なぜか民間人に漏らす奴もいるから不満に思ってる人は多いだろう。民間企業ならまだ、利益を社員に還元してるだけなのだが、公務員となると話が違う。でも公務員側からすれば、だったら公務員になればいいとか言うんだろうな。公務員じゃない人は自分の意思でならなかったか、力不足でなれなかったかのどちらかであると。これを言われると返す言葉がないわ。みんなでなろう公務員。


「ほんっと、ズルいよね~。血縁採用もあるクセに」


 そう言ったのは、ヨッちゃんでもミィちゃんでもない、もう1人のマダムだ。てか血縁採用あんのかよ! さすがに今の日本にはないと思うが・・・でも政治家には2世議員とかいるから似たようなもんか。そもそも出馬にかかるコストが凄いらしいから低所得層は議員になれない。


「カルちゃんとこ、大変だよねぇ。旦那さん派遣だから共働きなんでしょ?」


 ミィちゃんが、申し訳なさそうに、かつ同情するようにそう言った。打算的なものはなく、本心から申し訳なさそうだ。旦那が大手勤めだからだろう。で、カルちゃんの家庭はどうなんだ?


「う~~ん。やっぱり気になるのは、正社員と同じ仕事しても給料に差があるとこかな~」


 派遣とは言えマダム3人組で唯一の企業労働者、カルちゃんの話が始まる。


次回:格差の理由

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ