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4人の魔法使いの冒険  作者: 藤見倫
第1章:グリンタウンを救え
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第9話:それぞれの心境(後編)

 ちぇっ、結局俺1人かよ。誰も来てくれなかったから、俺は1人で街を歩き回っている。

 大村はともかく、女子も来ないなんて・・・つれねぇなあ。千尋ちゃんは来てくれると思ったのに。でもあれか、葵ちゃんを置いて来るのも無理か。


「女子が2人いたのは良かったんだけどなぁ」


 と、ため息ぎみにつぶやいた。まずは女子同士、か。葵ちゃんが大人しい感じだったから、まずはそっちと仲良くなろうとしたんだろう。2人とも千尋ちゃんみたいに明るかったら女子同士はすぐに打ち解けて俺とも仲良くしてくれそうだったのに。


「葵ちゃんも顔は結構いいんだけどなぁ」


 やっぱノリが悪いとなあ。千尋ちゃんは面倒見がよさそうだから合わせようとしてんだろ。それにしても、何でこのゲームしたんだよと思ったら弟もやってたとはな。千尋ちゃんの気がそっちに向いてるのは気に入らねぇけど、弟は見つけてやんねぇとな。それで2人とも俺のこと見直してくれるかもしんねぇし。


「でも大村にいいトコ取られちまったからなぁ」


 悪いのは俺なんだけど。さっきはマジで失敗した。バンバン敵を倒していこうと思ったのにMP切れるなんて。次から気を付けねえと。でも最後は自分を犠牲にしたし、いいトコ見せれたんじゃないか?


「あ、やっべ。俺死んだままじゃん」


 回復せずに来ちまった。


「ま、いっか」


 全滅しなきゃ大丈夫だし、回復は後でもいいだろ。大村もまたすぐ寝そうだし、さっきの感じだと女子部屋に行くのも無理だろうなぁ。修学旅行みたいに遊んだり食っちゃべったりしたかったけど、しょうがねえ。


「にしても大村のやつ、あれで楽しいんかね」


 クラスに1人はいるよな、ああいう周りに興味ねえって感じのやつ。女子取られなさそうなのはいいんだけど、男あいつしかいねえから俺がしゃべる相手いねえんだよ。今も1人になっちまってるし。さっきはいいトコ持ってかれたけど、もうあんなやつには負けねえぞ。


「ああ暇だ~」


 俺は何の当てもなく街の中を歩き回っている。こっちに来る前は誰かしら近くにいて適当にしゃべったりしてたから1人になることなんてなかったな。こっちでも仲間と普通にしゃべったりすると思ってた、というかそんなこと考えもしなかった。当たり前だと思ってたから。まさかこんなことになるなんてな。


「確かに学校にいる全員と友達って訳じゃねぇからなぁ」


 考えてみれば、普段つるむやつらとは別に1回もしゃべったことないやつらもいる。今はそんなやつらが集まっちまったってことか。千尋ちゃんはそうでもねぇだろうけど、葵ちゃんに取られちまってるからな。ああ、ついてねぇなぁ。


「おっアイス売ってんじゃん」


 屋台が並んでいるところにアイス屋があった。飯食ったばっかだけど、そんなに多くなかったからちょうどいい。


「もっと腹にたまりそうなのが良かったけど、まあいいや」


 100円だ。コーンの上に白いアイスを乗せてから渡される。俺はアイスを食べながら歩き出した。


「うめぇな、これ」


 バニラ味だ。ベンチがあるのが見えたけど、1人で座ってアイス食うなんて恥ずいから歩きながら食おう。


「7時までどうすっかな」


 戻るにはまだ早いし、やることもねえ。そのうち女子も外に出るって言ってたし、うろつきながら待つか。どっかでばったり会えるといいなぁ。


 俺はアイスを食べながら、賑わう街を1人で歩き続けた。


 --------------------------------


 良かった。本当に良かった。ここまで辿り着けて。匠を探すのにみんなが協力するって言ってくれて。


 千尋ちゃんが布団に入った後、私も横になってはみたけど眠れそうにない。全員が魔法使いだと知った時はもうダメかと思った。剣とか弓の人がいて、私は回復でサポートしようと思ってた。こういうゲームはやったことがないし、自分が剣を持って戦うなんて無理だから初めから仲間に頼るつもりでいた。他力本願はダメなんだなって改めて思った。もう愛属性しか使えないのは変えられないけど、できる限りのことはやろう。


 ここまで来れたのは大村君の力が大きいと思う。さっきのは凄かった。全員が魔法使いだということを知って自分で前に出て戦って、最後はMPも使い切って自分の手で狼をやっつけた。

 第一印象は大人いい感じの人だと思って、正直、戦いは不安だと思ってたけど(回復しかできない私が人のこと言えないや)、スライムも狼も大村君のおかげで倒せたと思う。結局他力本願になっちゃうけど、大村君がいれば簡単にはゲームオーバーにはならなさそうな気がする。まだ出会って少ししか経ってないけど、そんな気がする。


 中野君は体格も良くて強そうだけど、さっきはちょっと失敗しちゃってたからよく分からないや。でも戦いでは頼りにしてもいいと思う。ちょっとフレンドリー過ぎるところがあって苦手だけど、悪い人ではなさそう。“葵ちゃん”か・・・慣れていくしかないよね。


 あともう1つ、女子がもう1人いて本当に良かった。自分以外は男の子なのも覚悟してたけど、千尋ちゃんがいて本当に良かった。気配り上手で、学校でもきっと頼りにされてると思う。こんな私とでも仲良くしようとしてくれて、すごく嬉しい。でも頼りすぎないようにしないと。

 できれば対等な関係になりたいな。本人からも”千尋”がいいと言われたけど、さすがに無理だった。でもさっきまでは心の中でも”高松さん”だったからずいぶんと近づけた気がする。


 他の2人も含めて、メンバーには恵まれたと思う。中野君はちょっと苦手ではあるけど、男の子はああいう人が多いし、許容範囲かな。他の3人が中野君みたいな感じの人だった可能性もあった訳で・・・そう考えて少しぞっとした。本当にメンバーには恵まれたと思う。


 でも、これからどうしよう。匠を探すことにはなったけど、どこにいるかなんて分からない。次の街を目指すって言ってたけど、もう明日すぐにでも行くのかな。それとももう少し準備してから?

 晩ご飯の時に聞いてみよう。自分から発言するのも苦手だけど、ちゃんと言わなきゃ。匠のことを話したのも、聞かれてからだった。それも割と強めに押されてから。大村君があんな強めに押してきたのは驚いたけど、何かあるかもって思ったのかな。聞き出してくれたのは助かったけど、いつまでもあんなのじゃダメ。戦いの時は回復しかできないからしょうがないけど、それ以外は他力本願じゃダメ。匠を探すという目的がなければこのゲームはしなかったけど、挑戦したからには私自身も変わってから元の世界に戻りたい。きっと、何かしら変わらないと匠を探し出せないと思う。


 匠を探しつつ私自身も少しずつ変わっていく、それが理想。あくまで理想だけど、なんとなく、うまくいきそうな気がしてる。どうしてだろう・・・メンバーがいいから? そんな気もするし、違う気もする。何故かは分からないけど、なんとなく、うまくいきそうな気がする。


 そんなことを考えていると、まぶたが重くなってきた。さすがに最初から色々あって疲れてるみたい。そして、私の意識は少しずつ遠のいていった。


 --------------------------------


 ピピピピッ、ピピピピッ、ピピピピッ、


 大きな音が鳴って目が覚めた。どうやら眠っていたみたい。


「ぐっすり眠れたみたいね」


 声がした方を見ると、千尋ちゃんがニッコリ笑ってこちらを見ていた。


「凄いよね、これ。アラーム機能あるんだよ。私は本当は起きてたんだけど、どんな音なのか聞いてみたくって。案外普通ね」


 千尋ちゃんはそう言ってメニュー画面を閉じた。


「ごめん、私、寝ちゃってたみたいで。もう3時?」


「うん。お買い物、行きましょ。着替え、ないわよ?」


「え? ・・・そっか、ゲームの中に来ちゃったもんね」


「寝起きのところ悪いけど準備はいい? と言っても準備できるものもないんだけど」


「あはは、そうだね。ローブと帽子と杖しかないや」


「じゃあ、乙女がお出かけの準備をするための物を揃えに、お出かけしましょっか」


「うん」


 そう言って私は千尋ちゃんと一緒に部屋を出た。“乙女”って・・・。茶目っ気を出すために行ったんだと思う。私が心の中でツッコミを入れてるのも分かってるのかな。中野君には悪い気がするけど、まずは千尋ちゃんと仲良くならないと。


次回:最初の晩餐

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