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4人の魔法使いの冒険  作者: 藤見倫
第3章:巻き起こせ、労働革命
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第89話:経済大国の首都、万人多忙都市ビジナ(前編)

 3時半過ぎ、だいぶ呼吸が落ち着いてきたところで出発。


「もう目と鼻の先ね。ちゃっちゃと行っちゃいましょ」


「僕はもうMPないから、敵は2人に任せるよ」


「ううぇーーい。大村よりMP長持ちしたぜ」


「そんなことで張り合わないでよ・・・。敵は、ほどよく撒きながら行きましょ」


 クリフキャニオンからビジナまでの道も、出現モンスターはファイナンス・クリフキャニオン間と同じだった。基本的には撒き、走り疲れた時は戦ってもらいながら進んだ。そして・・・、




「やっと、着いたわね・・・」


 ついに、エコノミアの首都ビジナに到着。高層ビルが少ない一方で、10階建て位で敷地も広い建物がいくつも並んでいる。デザインも目を見張るものがあるが、今は心身ともにそんなに余裕がない。


「とにかく回復。トラブルに巻き込まれる前に」


「そうね、急ぎましょ」


 門を通ると、


「お前たち、この大雨のなか何をしている」


 当然の疑問だ。でも基本的に淡泊なエコノミア兵士様が心配してくれるなんて嬉しいな。いや、ただ怪しまれてるだけか。


「クリフキャニオンに無駄に長居してたら雨に襲われちゃいました。・・・あはは」


 苦笑いしながら答えると、


「そうか。気を付けるんだな」


 あっさり通してくれた。現実世界でも、大雨の中チャリでダッシュしてたらパトカー停まって職務質問されたことがある。あの時もマジで、10分そこらで空模様が急変した。早く屋根のある場所に行きたいのに何で呼び止めるかな・・・。


「近くに宿屋ってありますか?」


「あそこの看板に書いてあるはずだ。見てみるといい」


 大雨のなか屋根のない所で看板を眺めろと・・・。兵士もわざわざ宿屋の場所までは把握してないだろうけど。

 早速看板の所へ行き、宿屋の場所を確認。案外近くにあった。傘を差す人が多い中、魔法使いの恰好で全身ずぶ濡れで移動。視線を投げられることが多いのは、傘を差してないからか、魔法使いだからか。


 ドッ。


「いたっ」


 誰かと肩がぶつかった。振り返ると、カバンと両手で頭上に抱えて走り去るスーツ姿の人が見えた。


「感じわる。あれでお得意様だけには頭ペコペコしてるんでしょうね」


 高松さんも、中々の毒を吐きますな。あ、今のでHP2減った。



 宿屋に辿り着いたが、門前払いを食らった。ずぶ濡れだったからだ。10万円払えば1つ空いているファミリー向けの部屋に4人とも運んでくれるそうだが・・・。


「1日ぐらい、よくない?」


 早くシャワー浴びたいんだろうな。


「だな。てか俺もう歩きたくねぇし」


 同感だ。他の宿屋に行ったところで受け入れてくれるか分からない。銭湯なんてないだろうし、あったところで入ってすぐ浴場という訳ではない。とにかくこのままでは、ろくに建物に入れない。


「僕も構わないよ」


「私も」


 という訳で、しばらくは扉の外で待った。


「おまたせ致しました」


 スタッフと共に姿を見せたのは、ちょっとした水槽みたいなサイズの金属製の箱と、それが乗っている台車。本当に、俺たちを部屋まで”運ぶ”つもりらしい。


「う・・・」

「・・・」


 女性陣が渋い顔を見せるも、背に腹は代えられない。


「よい、しょっ、と」


 まずは俺が箱に入り、中野も続く。


「乗らないの?」


「乗るわよ・・・」


 複雑な表情をしたまま、残る2人も乗り込んだ。


「では参りますので、ご注意ください」


 中に入り、豪華なロビーを通りながらエレベーターへと向かう。


「うわ、はっず・・・!」


 当然のごとく、視線を集める。箱に入れられて運ばれる4人の魔法使い、どんな風に映るんだろうな。女性陣は箱の内側に身を屈めた。この箱がガラスやアクリルじゃなくて良かったね。涼しい顔をして俺たちを運ぶスタッフの姿が何とも言えない。


 エレベーターで7階まで行き、またしばらく進んだところで、


「到着致しました」


 ドアを開け、部屋の中にある程度入った所まで運んでくれた。1人25,000円かかるだけあって、中々に豪華な部屋だ。


「もう降りて頂いて大丈夫です。清掃の費用は宿泊代金に含まれておりますので」


 遠慮なく、箱から出た。


「浴室はあちらです。お体の乾いた状態で部屋から出て頂きますようお願い致します」


「はい。ありがとうございました」


 お礼を言うと、スタッフは一礼して箱を乗せた台車を引いて部屋から出て行った。


「先、あたしたち、入っていい・・・?」


 さすがに、ウォーターランドのように浴室2つということはなかった。


「どうぞ」


「あ、それとも一緒に入る?」


「なんで?」


「・・・次は、反撃の言葉を用意しておくわ」


 いやそんなことしなくていいから。


 --------------------------------


「お待たせ」


 20分ほどで2人が上がってきた。俺たちに気を遣ってか、思いのほか早かった。マジで、ずぶ濡れのまま同じ場所で座ってることしかできなかったからな。


「中野君先に入れば?」


「いいのか?」


「別に」


 中野が風呂場に向かった。


「あら、一緒には入らないのね」


「入る訳ないじゃん。お風呂は、1人でいられる貴重な時間なんだから」


「お風呂を何だと思ってるのよ・・・」


 1人でいられる貴重な時間だ。そう言ったはずだったんだが。


「お茶、飲む? 濡れたまま動きたくないでしょ」


「2人さえ構わなければ、濡れたままでも歩き回るんだけど」


「やめて」


「お茶、ちょうだい」


「余計なこと言わずに初めからそう言ってくれないかしら」


 そう言いながらお茶を準備しに行く高松さんと、苦笑いでついて行く花巻さん。


「はい」


「うん」


 高松さんがお茶を注ぎ、花巻さんに渡された。俺のもとに運ばれる間に高松さんはもう2人の分のお茶を注ぐ。


「はい」


 濡れた体にちょうど良い、あったかい緑茶。自販機の”あったか~い”にも言えることなのだが、猫舌には辛いほど熱い。


「どうも」


「”ありがとう”は?」


 なぜ高松さんが言ってくるのか。


「花巻さん、ありがとう」


「私には?」


「・・・高松さんも、ありがとう」


「よろしい」


「あはは・・・」

(初めからちゃん言えばいいのに・・・)


 相変わらず苦笑いを浮かべる花巻さん。初めからちゃんと言えばいいのに、とか思ってそうだ。


「大村、いいぞ~」


 中野が上がってきた。早いな。1人でいられる貴重な時間を、そんな簡単に手放すとは。


 --------------------------------


 かく言う俺も、15分ほどで上がった。


「まだ5時半だけど、どうする?」


「装備屋に行きたいかな。お金も溜まってきたし」


 ウォーターランドでBランク装備を買ったことで30万まで減ったが、ここに来るまでの間に120万弱になっていた。これで、体重が2/3になるフェザーローブ(100万円)が買える。


「いいわねそれ。フェザーローブ、買うつもりでしょ」


「まあね」


 やはり考えていることは同じか。


「んじゃ装備屋行って飯にしようぜ」


 早速移動を始め、宿屋の玄関に到着。


「何でアンタたち傘もってないのよ!」


「買わなかったからだよ」


「何で買ってないのよ!」


「いや、その、必要に迫られなかったから」


「雨降ってからじゃ遅いでしょ」


「まぁいいじゃねぇか、これから買えば」


 高松さんは手に持った傘をこちらに差し出しながら、


「罰。2人で相合傘しなさい。 葵、あたし入れて」


「うん、いいよ」


 コンビニまで中野と相合傘をするハメになった。

 傘を入手し、宿屋で聞いておいた装備屋に向かった。


「あ、あったあった、フェザーローブ」


 こちらも首都の装備屋だが、ウォーターランドのような百貨店的な雰囲気はなく庶民向け衣料品店に近い雰囲気だ。品揃えはウォーターランドと変わりなく、お目当てのフェザーローブを発見。


「100万は確かにコストだけど、これは買うしかないね」


「だな」


「ごめんね。私、まだお金がないから」


「ま、しょうがないよ。貯まってから買うしかないね。花巻さんは軽そうだし、しばらくは大丈夫でしょ」


「それはどういう意味かしら?」


「他意はないです」


「なくっても、気遣いは欲しいところね」


「やだよ面倒くさい」


「努力はしなさい」


「気が向いたらね」


「はぁ・・・」


 他は特に買い足しをせず、残りの金はAランク昇格時(店員によるとレベル60)の資金に回した。



 そして、夕食。午後7時を過ぎたビジナの街だが、まだスーツ姿の人たちが忙しそうに行き交っている。右手で傘を差し、左手でスマホを耳に当てて何やら細かい指示を出している人、大急ぎでタクシーに乗り込む人、喫茶店でパソコンをカタカタやってる人など、現実世界の都会でも見るような光景が広がっている。何だか俺まで現実に引き戻されたような気分だ。


「ここにしましょ」


 高松さんが指差したのは、洒落た感じのレストラン。軒先に出ていたメニュー、大半のものが1,500円オーバーだ・・・。モンスター狩りで金が稼げるとは言え、俺の中に染み付いている守銭奴根性が文句を言っている。


「わぁ。中もオシャレね」


 基本的に木製の壁・床・天井と家具。そして各テーブルを照らすスポット照明。俺、スポット照明苦手なんだよな・・・。なんか、目が疲れる。

 店員の案内で歩きながら周囲を物色。いい感じでワインを飲んでいるカップル、俺らと同じ若者男女6人組み(年はちょっと上ぐらいか)、おひとりさまながらも人を同情させない雰囲気で穏やかな表情で本を読む女性。客層はそんな感じだ。ファミリーや酔っ払いの姿はない。全体的に落ち着いた雰囲気だが、強いて言えば若者グループのテンションの高さが少し浮いている。


 同類だと思われたのか、旅人はハイテンション野郎が多いのか、その若者グループの近くに通された。メニューを開く。基本的にはピザ・パスタ・ドリアだ。で、どれも単品で1,500円を超える訳だが、スープ・サラダ・ドリンク1杯が付いたセットで2,000円ぽっきりとなっている。なるほど、そういうシステムか。ただ、”厚切りトリュフのクリームパスタ”など一部のものは+300円かかる仕様になっている。


 なんとなく米が食べたかったのでドリアにした。サラダにトマトが付いてきたら中野にでも分け与えればいい。


「今日は疲れたわね~」


 全くだ。


「ホントだぜ。 オットセイに囲まれた時はどうなるかと思ったぜ~~」


「みんな、ありがとね。私、戦闘不能になっちゃったのに」


「葵。そういうのナシよ。お互い様なんだから」


「あ、ごめん。つい・・・」


 おそらくは、あまり謙虚になり過ぎないように気を付けているのだろうな。根が良いのは結構なことなのだが、良すぎるのも厄介だ。何と言うか、お礼・お詫び合戦に疲れる。花巻さんは文字通りの良い方で、世の中、腹黒い心を秘めたままお礼・お詫び合戦をする人たちもいるから堪らない。


 クリフキャニオンで2人を先に行かせてからお互いどう進んだのか等の話をしていると、料理が届いた。まずはスープだ。今日はクラムチャウダーらしい。美味い。コストが掛かるだけのことはある。ほどなくしてサラダ、5分ほどでメインも届いた。ドリンクはタイミングを全員揃えるよう言われたので女性陣に合わせて食後になった。俺は水さえあれば問題ない。


「うっひょ~~。でっけ~~~」


 ピザ、でか。

 俺のドリア、女性陣のパスタは程良いボリュームだ。そして美味い。


「それ有り得ないっしょ~~~」


 断片的に、若者グループの方から声が聞こえてくる。ふと誰かが出した大きめの声だろう。近くになってしまったせいか、気になる。うるさいな。


「でもさーあ? 生活のためだけに仕事するなんて嫌じゃん? もっとこう、自分のやりたいことをやりつつ社会に貢献するのがイイって言うかさーあ?」


 若者グループから聞こえてくる言葉が、いちいちカンに障る。


「いやアタシほんと取りまとめとかムリだって。バイトあるしピアノ教室あるしカレシの相手もしなきゃだし・・・」


 はいはい。お忙しいようですね。今の友人グループとの食事も”忙しい”のうちですか?


「あの子絶対俺のこと好きなんだろうけど俺ほかに気になってる子がいるんだよね~。マジどうしよ」


 そのうち、恋愛なんかじゃ悩めなくなるほどに社会の廃れっぷりを知ることになるよ。


「ウチらまだ23じゃん? まだまだ遊ぶトシだよ」


 うわーーー。そういう考えの持ち主がいるから民のレベルが下がるんだよ。22や18から働く人だって山ほどいるし、それどころか15以下からでも働く人だっていると言うのに。23でも遊べる、平和と言えば平和だが、エコノミアの将来が心配だ。


「なんかあいつらウルせぇな」


 中野からも、そんなコメントが出てきた。


「しょうがないよ。運が悪かったと諦めよう」


「っ・・・たく」


「せっかく料理おいしいのにね」


 なんか真面目な話をしてるっぽい若者グループをよそに、トマトが苦手だとか、コーヒーと紅茶が苦手だとか、炭酸も無理だとか、ジェノベーゼはイケるとか、朝はパン派だとか、マジくだらない話をして過ごした。



 レストランを出た。


「まだ降ってるのね」


 雨が弱まる気配がない。傘を差して、コンビニでジュースやお菓子を買って宿屋に戻った。テレビ番組があまりにもつまらなかったので、トークモードに突入。


「あ、そうだ」


 オレンジジュースが入ったコップを片手に、思い出したことを切り出した。


「どうしたの?」


「レベル50なったら上級魔法入ったよ」


「マジ!? レベル50でか!? だったら俺ももうすぐじゃん!」


 そうなるな。


「なぁ明日まずレベル上げしようぜ」


「雨が降んなきゃね。上級魔法がどんなものか試したいし、どうせ10時ぐらいまで何もできないからね」


「どんなのなんだろうな~。かっけぇのあるといいな~」


「ま、見てのお楽しみだね」


 1つだけ、水属性のハイドロキャノンはホワイライトでマリーナが使ったのを見た。一言で済ませると、巨大な水鉄砲。上級魔法だし、そこそこの威力があるだろう。他の属性にも期待だ。


「上級魔法って言われると、何か強くなった気分ね。まだエコノミアに来たばっかってトコなのに」


「もうレベル50だからね。戦闘能力が劣る分はMPと魔攻に余裕がないとキツいから、これぐらいでいいと思う」


 レベルアップが鈍っているのは、それだけ余裕を持ってレベルが上がってきている証拠だ。


「そうそう。いいじゃねぇか強ぇ魔法も使えるんだから」


「ま、それもそっか。明日、7時ぐらいに起きましょ」


「うっしゃ」


 上級魔法が目前になり、今日の疲れも気になってないようだ。ま、休憩は昼間でもいいさ。明日の最初の予定が決まったところで、寝るとしますかね。4つ並んでいるベッドの、窓から一番遠いところに向かい、


「んじゃおやすみ~」


 横になって布団をかぶった。


「早い・・・」


「相変わらずね・・・」


 まったりモードを続ける面々をよそに、そのまま眠りについた。


次回:経済大国の首都、万人多忙都市ビジナ(後編)

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