第88話:ファイティング・イン・ザ・レイン
突然の雨に小さな洞窟で雨宿りして、やむ気配がなかったので諦めて進もうとしたところ、水の中級魔法・フライングリバーを繰り出すオットセイの大群に囲まれていた。
そして、水色の魔法陣が一斉に俺たちに向けられる。
「くるよ!」
ドオォン!
ドオォン!
ドオォン!
ドオォン!
「うおっ!」
俺は中野、高松さんは花巻さんを連れて飛び上がった。水の大半は洞窟目がけて放たれたが、俺たちが飛び上がったのを見てか、いくつかの魔法陣が消えてまたこちらに照準が合わされた。詠唱キャンセルができるようだ。
「うそ!」
「右に避けよう!」
第2波が放たれたタイミングで、右に風を起こして移動。そのまま重力に任せて降下して行く。
「中野君も何か攻撃して」
「おう」
さて、何匹巻き込めるかな。杖を下に向け、
「パラライソード」
真下を向く黄色の魔法陣から雷の剣が現れ、振られた。
「「「オオゥ!」」」
悲鳴はオットセイのものだ。5~6匹ぐらいには当たった。上出来だ。本来ならパラライソード連発だけで勝てるのだが、消費MPが35なのが痛い。
「ぬおおぉぉっ! ダークナイトライジング!!」
中野自身の周囲に、暗い紫の光が大量に出て来た。以前はこれ1回でMP90使っていたが、今回は30に抑えたようだ。だがその分威力が足りなかったのか、まだ1匹も倒せていない。
「ちぃっ! 弱すぎたか」
一瞬だけ風を出して落下速度を緩めて着地。洞窟を囲む敵の大群の、すぐ外側に降り立った。
「範囲攻撃はやめて1体ずついこう」
ここからは消費MP2の雷付き打撃しかないな。とりあえず近くにいたのを攻撃。さらに、俺と中野が2発ずつ加えたところで倒せた。
高松さんたちも近くに着地。
「進行方向に逃げながら、魔法を避けつつ近付いてきたのとは戦おう」
「やること多くない?」
「全部と戦うと決めるんなら、それ1つだけで良くなるけど」
「やめとく・・・」
ドオォン!
「うわっ!」
「うわーーーっ!!」
「「きゃあぁっ!」」
水が飛んで来た。今の俺たちから見て奥や右にいる方の奴らだ。そいつらと俺たちの間にも敵は居たのだが、巻き込んで攻撃してきた。
当然のことながら、4人揃って水に流される。
「いったた・・・。みんな大丈夫?」
「なんとか、ね」
全員無事なようだ。HPダメージは20程度で、花巻さんは残り180、他3人はまだ200以上ある。既にこの雨だから、水を掛けられたこと自体は気にならない。
敵の大群からは5mほどしか離れてなかった。元々が離れた位置にいる奴からの攻撃だったからだろう。そして割と近くに、一緒に攻撃を食らったオットセイが2匹。追撃がくる前に敵の数を減らそう。
立ち上がり、その2匹の片方に近づいて、
「んっ!」
まず一発、さらに5発続けて電気を帯びた杖で殴りつけた。オットセイが力なく倒れ、消える。
「そうだ俺も雷だせんじゃん!」
後ろから中野の声が聞こえたが、
「待って中野くん!」
ドオォン!
「ぬあぁーーーっ!!」
大群の中から3つのフライングリバーが、中野めがけて放たれた。俺の近くにいたもう1匹のオットセイも巻き込まれ、そいつはちょうど高松さんのそばに流された。
「やっ!」
高松さんが光属性で攻撃。
「次また来るみたいね」
「うん。一旦避けて」
今度は俺の方に5つの魔法陣が向き、そのうち1つは高松さんにも当たりそうだ。
ドオォン!
俺は上に、女性陣は横に避けた。
着地後、魔法陣がないことを確認し、
「そいつ倒しちゃって!」
「オッケー!」
高松さんにオットセイの始末を頼みつつ、俺もその方向に向かう。
「俺もいくぜぇ! 食らえ! サンダーボーール!」
中野が装備している杖の名前を叫び、電気の球体をポンポンポンと3連射した。あれも、標準魔法と同じく距離によらず消費MPが一定になる。1個あたり3で遠距離攻撃ができるのは思ったより便利だな。
高松さんのそばにいた奴は2人が倒してくれた。女性陣に追い付き、後ろを振り返る。ゴーレムがいなくなっていた。確か弱点は、水だったか。モンスター同士の相打ちでも経験値は入るのだろうか。だが今はそれよりも、
「行こう!」
「うん!」
「うん」
走り出してすぐに振り返ったら、また魔法陣。
「うぅ~~っ、鬱陶しいわね」
正面1つだけなら横に避けられるのだが、斜めからも一緒に来るから上に避ける他なくなる。
「葵っ」
「うん」
花巻さんは高松さんに任せ、
ドオォン!
風魔法でジャンプ。
「いぃっ!」
中野は、2つの水の間に滑り込む形になった。
「行こう」
着地後、中野のいる所まで走った。中野が立ち上がったところで追い付き、後ろを確認。
「こんにゃろう! うぅらぁぁぁああ!」
中野が杖をゆっくりと横に振りながら電気の球体を8連射。足止めにはちょうどいい。この隙に進行方向に向かって走り、5秒ほどで後ろを振り返ると、次の魔法陣が出現。
「くっそウゼぇ!!」
「しょうがないよ、避けよう。1つだけだから横でいいね」
ドオォン!
4人で左に走って避けた。一瞬だけ敵の大群の方をチラ見し、
「花巻さん、3人のMP20ずつ回復してもらっていい?」
「あ、う、うん」
MP回復してもらおうとしたところ、
「2人とも前!」
「「え?」」
既に次の魔法陣が向けられていた。
「ごめん花巻さん!」
「きゃっ」
ドオォン!
これも1つだけだったので花巻さんの手を引っ張って横に避けた。高松さんと中野は反対側に避けたようだ。油断した、連続でくるとは。またくるんじゃないかと敵の大群の方を見た瞬間、
ドオォン!
「は?」
「きゃあぁっ!」
2人してフライングリバーを食らい、水に流されながら地面を転がった。
「くっ・・・」
手をついて体を起こす。まさか、1匹ずつ撃って避けたところに追撃してくるとは。想像以上に賢いようだ。
「きゃあ!」
「おわっ!」
間にフライングリバーの水があって分からないが、向こうも同じ展開のようだ。
「花巻さん立てる?」
「うん・・・」
だが花巻さんが立ち上がっている最中に次の魔法陣が現れた。
「またごめん」
「んっ」
ドオォン!
花巻さんの手を引き、横に移動。そこで敵の猛攻は止まり、残る2人の姿も見えるようになった。
「2人とも大丈夫?」
「HPダメージ自体は、大したことないよ」
だが、
「はぁ、・・・はぁ、」
さすがに、疲れてきた。このままではスタミナが先に底を突く。
「はぁ、はぁ。わた、しも」
高松さんと中野は、多少呼吸が荒くなっているようだが、まだ余裕はありそうだ。残りMPは、花巻さんが93で他3人は50前後。最悪は、この2人だけでも先に進んでもらうか。
だが、その話をするよりも先に魔法陣が出現。
「くっそが!」
「4人で同じ方向に避けよう! あちこち水を飛ばされると避けきれない!」
ドオォン!
まず右。
ドオォン!
次に左、
ドオォン!
ドオォン!
ドオォン!
「マジか!」
「うそ!」
「げっ!」
「きゃあっ!」
もう1回右に避けたのだが、同時に3方向に放たれ、どっちに行っても避けきれないものになった。
4人揃って、ずぶ濡れの状態で地面に横たわる。
「はぁ・・・、はぁ・・・」
「もう・・・、何なのよ・・・!」
「あいつら・・・ざけやがって・・・!」
いや、賢い戦い方だ。敵ながら、天晴れなほどに。
体を起こしつつ後ろを確認。距離が離れたからか、追撃はないようだ。
「メンタル、・・・ヒール」
ここで、MPが31回復。多分、3人ともだ。花巻さんのMPは、ゼロ。おそらく、この人は・・・。
「花巻さん、ありがとう」
「うん。・・・はぁ、・・・はぁ」
俺より体力がないであろう花巻さんは、膝と手を地面についたままだ。
「葵、ごめんね。あたしたち、先にいくから」
「はあ? おいおい千尋ちゃん、そりゃねぇって」
「うん。お願い」
「ちょっ・・・葵ちゃんまで!」
「私は、いいの。・・・ハァ。・・・MPなくなっちゃんだから、おとりになることでしか、フゥッ、・・・役に立てないから」
HPは全員まだ120以上ある。このまま3人で進んでも、ビジナまで行くのは不可能ではないだろう。
「でもよぉ・・・」
「これから先もモンスターは出るんだから、ここにばかりHPもMPも、体力も割けないよ」
「中野君は残ってもいいけど、あたしは先に進むよ」
「っ・・・。くっそお!!」
「ありがとね、中野君」
元は俺から切り出そうとしたことなんだが、まさか高松さんから切り出してくるとは。ここで味方、それも花巻さんを見捨てる判断をするようになるとは、やはりこの人は、侮れない。
敵が近づいて来て、次の魔法陣が出た。
「くっそまたかよ!!」
分かってても鬱陶しいな。あの水をそっくりそのまま、電気の飾りも付けて返したいところだ。・・・あ。
「みんな川の向こうまで走って! できれば花巻さんも、この1回だけ頑張って」
俺は杖で川の向こう岸を指し、横に移動するように伝えた。逃げる前の、最後の悪あがきといこう。
「え、川?」
「いいから。もう魔法くるからダッシュ!」
「う、うん!」
斜めに飛んでくるのがあるとは言え、距離もあるし、横にダッシュしていれば当たることはないだろう。足場を渡ったり、浅いところは諦めて足を突っ込んだりしながら反対側に渡った。
ちょうど、渡り切ったところで敵の攻撃が止まった。当然のごとく、モンスターの大群も付いて来る。俺たちに向かって真っ直ぐに、川を斜めに渡りながら。
「ごめん、私は、・・・ハァ、ハァ、もう、・・・無理」
花巻さんが、その場に座り込んだ。できることならモンスターの大群の前に置き去りにするのは避けたいが、どうなるか。
「そっか・・・。はぁ、はぁ」
俺は川の所まで歩き、杖の先を川の中に入れて、
「スパーキングリバー」
「「「オオゥ!」」」
オットセイは悲鳴を上げ、川に入っている他のモンスターも苦しそうだ。ゲームとしてのエフェクトなのか、川が電気を帯びている様子が見える。ジリジリ、ジリジリと川は電気を散らし、モンスターが痺れて体を反らしている。
「おぉ凄ぇ! よっしゃ俺も!」
「待って。僕が止めてからにして」
「あ、そっか! だな!」
一旦止め、中野と交代。
「待って。何匹か死んだからもうちょっと川に入れよう」
「おう!」
だが、追加で入って来たのは2匹。他の奴は、入ると危険なのを察知したのか、川には入らずに川に沿って移動を始めた。さっきの攻撃の仕方と言い、やはり結構な知能があるな。
「もう待っても無駄だ。やっちゃって」
「おう!」
いくつ電気の球体を出したのかは知らないが、再び川が電気を帯びて、入っているモンスターが苦しそうな反応。やがて川に入っていた分は全滅。残すは、オットセイが6匹とレッドスライムが2匹。
「結構減ったけど全部はキツい。逃げよう」
「葵、ごめんね」
「うん。その代わり、ちゃんとビジナまで行ってね」
「もちろんよ」
「任せろ!」
花巻さんを残し、走り出した。敵は当分は川のこっち側には来ないだろうから、花巻さんが受けるのはフライングリバーだけになる。それでもあれが花巻さん1人に集中砲火されるのはあまり考えたくないが。
まだ10秒ほどしか走ってないのだが、2人との差が開き始めた。俺は速度を落とし、止まる。
「大村君?」
「ごめん、2人の速さには付いて行けない。ハァ・・・。僕は僕のペースで行くよ。もし敵に追い付かれたら、足止めしとくから」
「大村・・・」
「・・・そっか。じゃあ、あたしたちだけでも行くから。 行こう、中野君」
「お、おう」
後ろを見ると、ちょうど花巻さんに向かって、本物の川越しにフライングリバーが放たれていた。
「葵っ!! ・・・っ!」
高松さんは進行方向の方を向き、走り出した。
「ちきしょおおおぉぉぉぉぉおおお!!」
中野も悔しさを目いっぱい表現して、高松さんに続いた。
幸か不幸か、敵の攻撃は花巻さんに集中している。駆けつけたいのは山々だが、本人の覚悟を無駄にするようなことはやめよう。走るのだけはやめて、進行方向に向かって歩き出した。
時折うしろを気にしながら歩く。花巻さんは花巻さんで、ただ黙って攻撃が来るをの待っているのではなく、右に左に避けたりしていた。おそらく、少しでも時間を稼ぐためだ。それでもオットセイは6体。避けきれることの方が少なく、
<花巻葵さんが戦闘不能になりました>
力尽きた。
花巻さんはうつぶせで、顔を両腕にうずめている。痛みは感じなくなったはずだが、動く気配はない。心なしか、肩が震えているように見えるがこの距離だと分からない。ザーーーー、という音を立てて落ちてくる雨が、花巻さんの背中に突き刺さる。
花巻さんは自分の役割、と言うよりは自分にできる最大限のことをやり遂げた。それには、応えなければならない。
敵の目標が、俺に変わる。オットセイ6体とレッドスライム2匹が、川の反対側にいながらもこちらに向かって移動してくる。オットセイとスライムの移動速度が、思いのほか速い。体が濡れているのとスタミナ切れで俺の足取りは重く、少しずつ距離を詰められていく。花巻さんは、まだ動く様子がない。
いつフライングリバーの射程範囲に入るか分からなかったので、歩みを止めて敵を待った。どうせ逃げ切れないなら、最善は尽くそう。走るのをやめたおかげで、少しは動けるようになった。それに、さすがに、何度も何度も大量の水を浴びせられて地面を転がる花巻さんを見て、何とも思わない俺ではない。
やがて、先頭のオットセイが両手を叩く仕草をして魔法陣を出した。
1つだけだったので、難なく避けた。
次も来たので、また避けた。
その次は3体同時に出したので、諦めて受けた。
全身が濡れた状態で、立ち上がる。花巻さんが視界に入った。起き上がり、地面に座ってこちらを見ていた。見苦しいところを、見られてしまったな。
やはり、敵が川を渡って来る様子はない。その後も、放たれる魔法を避けたり食らったりしながら、敵が近づいて来るのを待った。花巻さんも、少しずつこちらに向かって来ているようだ。
そして、ちょうど川を挟んで反対側に敵がいる位置まで追い付かれた。こちらも、反撃といこう。できるだけ近づきたいが、フライングリバーを食らえば離されてしまう。敵が川に入ってくれればダッシュしてでもさっきと同じことをするのだが、入って来ないようだ。
だが、敵が川に入らなくても、水ならある。天の恵みに、感謝だ。だが奴らには、地獄を見せる。
「ヘル・レイン」
杖を横に振り、横幅のある電気を斜め上に向かって放った。それをオットセイたちの真上で止めて円形に広げた。電気の膜を張るように。
「「「オオゥ!」」」
電気を帯びた雨を受け、オットセイたちが苦しみ出す。MPが尽きても構わない。全部潰すまで続けよう。同じ位置に電気を留め続けるだけだからか、MPの減りが1秒に1程度と、鈍い。敵は尚も苦しみ続ける。無論、解放してやるつもりは無い。苦しみの中で死ね。
10秒ほどでまず最初のオットセイが倒れ、その後も、レッドスライムも含めて次々と倒れては消えていき、20秒弱ほでで全滅した。
<レベルが50になりました>
<火属性魔法(上級):ファイアバードが使用可能になりました>
<水属性魔法(上級):ハイドロキャノンが使用可能になりました>
<風属性魔法(上級):メガパスカルが使用可能になりました>
<土属性魔法(上級):グランドウェイブが使用可能になりました>
<雷属性魔法(上級):プラズマスフィアが使用可能になりました>
<装備ランク(近接)がCになりました>
<装備ランク(射撃)がCになりました>
「ふぅ・・・。はぁ・・・」
地面に腰を下ろし、両手を後ろについて天を仰いだ。雨が、顔に直撃する。
レベルが、50になった。上級魔法が入ったな、明日にでも試してみよう。近接と射撃の装備ランクがCになり、そこそこの物も装備できるようになった訳だが、魔攻UPがなくなるのは痛いし俺は魔法使いの装備にこだわろう。得物は、杖とローブがあれば十分さ。
ただ、ファイナンス出発時には48だったレベルが、今50。上出来と言えば上出来だが、それなりに戦ってきたにも関わらず、上がったのは2だ。高松さんと中野は48。やはり、レベルの上がり方が鈍っているな。自身のMPを使い切るまで俺たちのMPを回復した花巻さんも、まだ42だ。
その花巻さんが、近くまで歩いて来た。
「大村君・・・」
冴えない表情をしている。
「ごめんね。やられちゃって」
「何言ってんのさ。花巻さんが囮になってくれたから、先に進めたんじゃん」
「うん・・・。そうだね」
そこで初めて、花巻さんが笑顔を見せた。
「ありがとね。敵、全部やっつけてくれて」
おそらくは、やられてしまったことが悔しかったのだろう。
「気にしないでいいよ。僕だって、みすみすやられるのは嫌だからね」
「・・・”どういたしまして”って、言ってほしいな」
っ・・・。それは、教育のつもりなのだろうか。
「どう、いたしまして」
「ふふふ。 さ、私たちも行こ」
「そうだね」
立ち上がり、マップを見ながら前を行く2人が通った跡を追った。
--------------------------------
これで、これで良かったんだ。これが一番、私たちが生き延びる可能性が高い道だから。
<花巻葵さんが戦闘不能になりました>
葵・・・。
「葵ちゃん!!」
中野君が立ち止まった。
「進みましょう! お詫びもお礼も、ここを突破するという形で示すのよ」
「っ・・・! くそ!!」
再び、走り出す。
ザパーン。
川から、オットセイ。
「またかよ!」
「無視よ。魔法にだけ気を付けて、戦わずに逃げましょう」
「だな」
ドオォン!
左右に分かれて水を避けて、そのままオットセイの横を通り過ぎた。それからも後ろを気にしながら、魔法陣が出たら横に避けるようにして走り去った。
その後もスライム、イカ、ワニ、ゴーレムも出て来たけど、どれも移動は遅い。走っていれば追い付かれることは無かった。ソルバードと言う鳥のモンスターは、雨が降ってからは出ていない。さすがに疲れてきて私たちのペースも落ちたけど、戦わざるを得ない状況になることはなく、とあるカーブの先で、
「あっ・・・。ゴール・・・?」
「どう見てもゴールだろ!? 入口と同じような感じだし」
目の前に現れた崖には、最初に下った時と同じような坂道があった。マップ上も、クリフキャニオンのほぼ左端ぐらいの位置に来ていた。
「いよっしゃあああ!!」
中野君が両手をYの字に広げてガッツポーズ。
「やったわね。さあ、最後、上りましょ」
「うし」
少し坂を上っては平地で一歩前に進んで、また坂を上る、を繰り返した。上の方からは1組だけ、この雨の中クリフキャニオンに向かおうというグループが下って来ている。
すれ違いざまに挨拶を交わした。メンバーの都合で今日しかないし、雨には雨の良さがある、とのこと。今日は散々な目に遭ったけど、私もそう思える日がくるだろうか。
坂を上りきり、崖の頂上に到着。やはり、人はまばら。雨宿りできそうな所は、都市間高速鉄道の駅だけ。私たちは入れないから、その辺に座って大村君と葵を待つしかない。もう雨で全身びしょ濡れだし、いいや。
ビジナの街が、割と近くに見えた。ファイナンスと比べれば高層ビルが随分と少ないけど、なんかこう、厳格な雰囲気を感じる。首都っていう先入観があるからかな。
「ああ~~~っ、しんどっ」
景色に目がいかなかったのか、中野君が腰を下ろした。
「ここで待ちましょ」
その隣に私も座り、2人を待つついでに休憩することにした。雨がやむ気配は、ない。
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先を行く2人が通った跡を追い、谷底の川に沿って進む。花巻さんは戦闘不能。実質上、俺1人で乗り切るしかない。残りMPは、51。まだ多少は戦える分が残っている。HPの方が43と、あまり余裕がない。あとの2人はあれからHPもMPも大して減っておらず、上手く戦いを避けて進めているようだ。
ザパーン。
オットセイ登場。疲れているとは言え、魔法陣が出てから少し右に避けるぐらいのことはできる。時折出される水を避けつつ近づき、
「ヘル・レイン」
オットセイの頭上に電気の膜を張り、倒れるまでそのままにした。1体相手でも12消費か。だが、前方にもう1体出て来ていたオットセイは、逃げて行った。その後は、オットセイはヘル・レインを2秒お見舞いするだけで逃げるようになった。
スライムとゴーレムは、川の反対側に渡れないらしく、それで戦闘を回避した。イカは、ウォーターランド西のと同じやつで弱いので、杖の先に電気を付けて殴れば消費MP3で倒せた。ワニは、10秒ほどの全力ダッシュで逃げ切れた。
「ぜぇ・・・、っ・・・、はぁ・・・」
「大村君、フゥッ、・・・大丈夫?」
「なんとか、ね」
後ろから、花巻さんが追い付いてくる。戦闘不能で、ただ歩いてるだけでも良いはずの花巻さんも、俺に会わせて避けたり走ったりしている。止めても無駄だろうから放っておいた。
幸いにも、ワニが出てくる頻度は大したことはなく、3分に一度程度だった。撒くのが困難だと思われるソルバードは、雨を嫌うのか一度も現れることはなかった。
マップを確認すると、先を行く2人が作る線が、止まっているのが分かった。
「ゴールに着いたみたいだね。僕らも、もう少しだ」
「うん。頑張って」
自分は頑張る必要はないという意味でその台詞なのだろうが、魔法を出さない以外は俺と同じ行動を取っている。
そして、とあるカーブの先に、
「ゴール・・・だね」
「うん・・・」
崖と、それを上るための坂道。結局、俺は残りのMPが8になった。ここからビジナまでの道も、戦闘を避けるしかないな。
「2人を待たせてる。行こう」
上りきったところで、
「あ、いた」
2人が座っているのが見えた。
「あ、来た。ちょっと休む?」
「そうだね」
正面には、ビジナの街。20分ぐらいで着けるだろうなと思いながら2人の所まで歩き、俺も花巻さんも腰を下ろした。HP・MPは回復できないが、体力回復のためしばらく休憩しよう。
「葵、ごめんね。大丈夫?」
「うん。大村君が、全部やっつけてくれたから」
それ、わざわざ言わなくても。
「やっぱそうだったのね。MP減ってるから変だと思った」
「どの道、逃げ切れなかったからね」
「でも葵ちゃんの仇討つなんて、やっぱ良いトコ持って行きやがるな~、お前」
「はは・・・」
雨が降りしきる中、4人で地面に座って談笑を続けた。
次回:経済大国の首都、万人多忙都市ビジナ(前編)




