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4人の魔法使いの冒険  作者: 藤見倫
第3章:巻き起こせ、労働革命
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第87話:谷のオットセイ

 クリフキャニオンを移動中、川の中からオットセイが現れた。キャニオンファーシールというモンスターだ。


「とりあえず雷かな」


 そろそろと近づきながら様子を伺っていると、オットセイは体を反らして両方の前足(これは手か?)をペチペチと叩き出した。


「あらかわい…」


 ”あらかわいい”と言おうとしたようだが、それは途中で止まってしまった。前足を叩くオットセイの正面に魔法陣が現れたからだ。


「えっ?」


「オイ何だあれ!?」


「魔法でしょ。横によけ…」


 ドオォン!


「う゛っ」

「のわっ!」

「「きゃあっ!」」


 水色の魔法陣から勢いよく水が出て来て、全員巻き込まれた。これは、中級魔法のフライングリバーだ。


「みんな大丈夫?」


「ええ、何とか」


 4人してビショ濡れで地面に倒れていたが、水を掛けられて転がっただけなのでダメージは20程度で、それぞれのタイミングで立ち上がる。


「まさか、魔法を使ってくるとはね」


「ホント・・・ビッショビショじゃん・・・」


「乾かすのは後にして、倒すよ」


「オッケ」


 オットセイがまた、前足をペチペチと叩き出した。


「また来るよ。みんな頑張って避けて」


「葵、捕まって!」


「うん!」


「ちょっ、俺は?」


 自分で何とかしてくれ。俺は風魔法を使って上に飛んだ。高松さんも、花巻さんを乗せて飛んだようだ。オットセイの前に魔法陣が現れ、水が出る。


「ちょうぅっ!」


 中野は横っ飛びで何とか避けれたようだ。オットセイは隙だらけ。今のうちに、


 ブオンッ。


 風魔法で一気に前進し、


「アイスソード」


 真上から氷の剣を刺すと、背中をむにゅーっと押し込み、


 パキン。


「え?」


 氷の剣が折れ、折れた断面で突き攻撃をする形になった。刺さらないのか、こいつ。鉄の剣じゃなきゃダメか。


「大村君離れて!」


 高松さんが杖を向けており、白い魔法陣が出現。折れた氷の剣を捨ててその場を離れると、


「スターストリーム」


 魔法陣から大量の光の粒が飛んで来た。オットセイは前足を盾にするような仕草だが、防ぎきれていないのか辛そうだ。スターストリームが止まると、


「次は俺だぜぇ!」


 中野が既に走って向かって来ており、


「ブラックインパクトォ!」


 闇属性攻撃。まだオットセイは生きているようだ。


「パラライソード」


 杖の先の魔法陣から雷の剣が現れ、下から上に向かって振り上げられた。オットセイは大きくのけ反ったが、麻痺して固まることはなく再び前足を地面についた。また何かされる前に、


「うおりゃっ!」

「サンダーランス」


 追撃のタイミングが中野と重なった。それを受けたオットセイはゆっくりと横に倒れ、消えた。


「ふぅ」


「うっしゃ!」


 ガッツポーズしている中野を見ていると、


「お疲れ」


 高松さんたちが寄って来た。


「援護射撃どうも」


「どういたしまして。 にしても、オットセイが魔法使うなんてね」


「キュートウィッチみたいに分かりやすければ良かったんだけど。とにかく気を付けよう」


「だな」


 その後も、たまに出てくるオットセイやソルバード、他のモンスターも倒しながら進んでいた訳だが・・・、


「なんか雲行き怪しくない?」


 やはり気のせいではなかったか。さっきから日差しが薄くなっている気がしていた。


「だな。雨降んなきゃいいけどよぉ」


 そう言えば、この世界に来てから一度も今まで雨に見舞われてないな。


「降ると面倒だからペース上げよっか」


 体力に影響が出ない範囲でペースを上げ、進み続けた。



 ザパーン!


 川から音。オットセイが2匹セットでお出ましだ。


「げっ2匹かよ!」


「まずは右の方から倒そうか」


 走り出したところで、2匹そろって前足をペチペチ叩き始めた。


「くるよ」


 水色の魔法陣が同時に2つ現れ、


 ドオォン!


 飛んで来た水を右に避けた。どうやら、魔法陣が出てからは方向転換はできないようだ。中野も俺と同じく右に避け、女性陣は空中で高松さんの杖の上。


「まずは僕から、一気に行くよ」


 風魔法を使って一気に前進。まずは、


「リトルサンダー」


 微妙に離れた位置にいる、後回しにする方の動きも止めてから、


「エレキフェンス」


 先に倒す方のオットセイの胴体を貫通するように電気の柵を出した。さらにそこへ、


「モノクロマシンガン!」


 中野が追撃。


<ごめんワニ出て来たからちょと待って!>


 高松さんの方を見ると、灰色のワニと応戦していた。


<分かった>


<いっちょ上がりだぜ! こっちは任せろ!>


 中野がトドメを刺したようだ。さてあと1匹。と思って顔を向けると、既に前足をペチペチ叩いている真っ最中だった。


「やべっ・・・!」


 中野の腕をつかみ、


 ドオォン!


 水が出て来たところで上昇。さらに中野の背中に杖を当て、


「今度は中野くん先に行ってみる?」


「は? ・・・お、おう!」


「いくよ。せーのっ」


 ブオォン!


「くお・・・!」


 中野がオットセイの方に小さな弧を描きながら飛んで行き、


「ぉぉおおおぉぉぉ・・・!」


 ちょうど、オットセイに近づいた辺りで失速。


 「っしゃ行くぜぇ!」


 中野は杖を思いっきり振りかぶり、


「死ねぇ! ダークネスキャリバー!!」


 杖先から真っ黒の剣を出し、重力を利用しながら勢い良く振り下ろした。大きな音と共に水しぶきが立ち上り、姿が見えなくなる。 どうだ? と思っているとまたすぐに姿を見せた。中野も、オットセイも。


「ちぃっ! やっぱ一発じゃ無理か」


「お待たせ」


 そこに高松さんが到着し、


「やあっ!」


 光属性で攻撃。強めにやったのか、オットセイはそれで倒せた。


「あ、千尋ちゃんズリぃぞ~」


「ふっふ~ん。早いもん勝ちよ」


 敵を倒し切ったところで、一旦4人集まってまた歩き出す。



 しばらく進んでいると、


 ポツ。


「あ」


 ポツ、ポツ。


「降っちゃった?」


 一同、空を見上げる。


 ポツポツポツポツ。


「げっ!」


「強くなりそうだから急ごう。ちょうどあそこに雨宿りできそうなのがあるよ」


 俺が指差した左前方には、小さめの洞窟っぽいのがある。


「うわうわ、ちょっとずつ強くなってねぇか?」


「も~~っ、急に降んないでよ~~っ」


 ポツポツと雨が降る中、洞窟目がけて走った。


 --------------------------------


 8月19日。この世界に来て20日目にして初めて雨を経験した。

 急きょ入り込んだ洞窟は奥行き5mほどの小さなものだったが、雨宿りする分には問題ない。洞窟に入ってから1~2分経つ頃には、雨はザーーーーーという降り方になっていた。


「あーもうサイアク。こんなタイミングで雨降るなんて」


「むしろ今まで降らなかったのがラッキーだったね」


 外に出る前に雨が降ると、次の街に進む気は失せるだろうな。天の気まぐれに左右されたくはないのだが、ゲームオーバーのリスクが高くなるのも事実だ。今日はここまで来たからには仕方ないし、進むけど。


「大村って、不運な時だけポジティブにならないか?」


「元々がネガティブだから多少の不運でも平気なだけでしょ」


 2人とも酷くない?


「あ、ローブ。別のに変えたら濡れてないね」


 Bランク装備には撥水機能も付くとは言え、微妙に水分を吸ってるのか重みを感じる。HPダメージ軽減のエイドローブを下げるのは痛いが、動きやすさの方が重要だ。ハッスイローブB、買っておいた方が良かったか? でも他の機能が犠牲になるんだよなぁ・・・。ローブの内側はほとんど濡れてないし、これでもいいか。


「あ、ホント。しばらくこっちにしよっかな」


「濡れてない装備に変えたところで雨がやむとも限らないけどね」


「またそんなこと言う・・・」


「でもよぉ、雨やまなかったらどうすんだ?」


「ここで野宿したいなら止めないけど」


「ヤだかんねあたし」

「オイやめてくれ!」


「そ。最悪は雨の中でも進むしかない。この洞窟の中もモンスター来るかも知れないし、そうじゃなくても、目が覚めたらすぐ外にオットセイの大群とか居たら嫌だよ?」


「うわ・・・やっぱそっかぁ・・・」


 一同、肩を落とす。急に降りだした雨はすぐにやむことも多いのだが、なんかこれは、しばらく降り続けそうな雰囲気だ。


「ま、とりあえず休憩して、シビレ切らしそうになったら諦めて進もう。日没までにはビジナ着きたいし」


 今はまだ1時半ぐらいなので余裕はある。


「まっさか初めての雨がこんな形になるなんてね~」


 口を開いたのは高松さん。雨の音ってなんだか気が滅入るし、昼寝する訳にもいかないから俺も会話に入るとしますかね。


「これもまた、旅の一興だよ」


「あたしもどんな状況でも楽しめる神経が欲しいわ~」


「僕は、人の世話を焼きたくて仕方なくなる神経は要らないかな」


「受け取って」


「要らないって言ったんだけど・・・」


「爪の垢を煎じて飲ませればいいのかしら」


「だがら要らないよ」


 それと慣用句の使い方がおかしい。


「はぁ。せめて自分のことはちゃんとやってくれないかしら」


「ちゃんとやってるよ? 一部、優先順位が下がってるってだけで」


「下げちゃダメなものまで下げてるんでしょうが」


「価値観は人それぞれ」


「そんな言葉で片付けないで」


「ええー」


「お、始まった始まった」


「見世物じゃないんだけど・・・」


「大村君がそれ言う?」

(てか絶対わざとやってるでしょ)


「高松さんが僕のことを放置すれば済む話だよ」


「んん~~っ」


 睨まれた。


「まあまあ、千尋ちゃん」


 ぐぬぬ、と握っていた手を崩し、


「はぁ、ホントなんであたしってこんなんなんだろ」


 どうやら、自分でも自覚があるようだ。


「千尋ちゃんは、優しいから」


「ありがと。でも、前も言ったけど、優し過ぎると付け込まれるから気を付けてね」


「うん」


 それは俺みたいな奴に気を付けろってことですかね・・・。同感ですけど。



 30分経過。


「雨、やまないわね」


「うん・・・」


 相変わらず降り続ける雨。その現状をコメントする高松さんに、花巻さんが力なく答えた。


「もう進んじまうか? やまねぇだろこれ」


 どうやらモンスターは出ないようだが、ここで日没を待つ訳にはいかない。


「そうだね。雨のなか進む方に気持ちを切り替えて、準備ができたら出発しよう。その前に腹ごしらえ~」


「あ、俺も」


 みんなして、おにぎりやらサンドウィッチやらを食べ始めた



 休憩を終え、立ち上がる。


「よし、行こう。どうせ濡れるからエイドローブに戻そっかな」


「だな」


「はぁ・・・。傘はあるんだけど、邪魔よね。街中じゃあるまいし」


「みんな、気を付けてね」


 重い足取りで、雨の降りしきる外を目指す。天気が悪いながらも日はそこそこで、外は明るい。だから、よく見えた。


「はぁ・・・」

「嘘でしょ!」

「げっ!」

「そんな・・・!」


 洞窟の出口には、大量のオットセイが待ち構えていた。20匹は居る。

 8割以上はオットセイだが、この他、レッドスライム、ストーンゴーレム、ゴブリン、イカ、グレーダイルも揃い踏みだ。中から見えないようにするためか正面だけは空いていたが、それもすぐに埋まった。


「えっと・・・、どうする・・・?」


「洞窟にいたら、あのオットセイの水魔法でみんな溺れちゃうね」


「だよね・・・」


「ソルバードがいないのが救いだから、逃げることも念頭に入れて戦おう。進行方向は右だ」


「やるしかねぇのかよ・・・」


 まさか、30分そこらで囲まれるとは思わなかった。HPはあまり減っていないが、MPは花巻さんが160で他が100ちょい。いささか厳しい気がする。


 オットセイが揃いも揃って両手をペチペチと叩き始め、20を超える水色の魔法陣がこちらに向けられた。



「くるよ!」


次回:ファイティング・イン・ザ・レイン

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