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4人の魔法使いの冒険  作者: 藤見倫
第3章:巻き起こせ、労働革命
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第85話:旅は続く

 翌朝。ファイナンスにいてもやることがないので、朝食後早速ビジナに向かうことにした。


 それにしても、なんてプレイヤーに優しくない街だ。この世界自体がプレイヤーのためにあるはずなんだが・・・このゲームが始まった15年前からこうだったのだろうか。まあでも、この方が現実世界に近い文明であることは確かで、この世界の住人もプログラムとは思えないほど人間じみている。


 その中で魔法の力を手にしたみたいな感じで得した気分もするが(一応この世界の住人も使えるんだっけ)、ファイナンス市民からすれば、金なんてスマホ片手に稼げるんだから危険を冒してまでモンスターと戦うなんてバカげてる、と言ったところかも知れない。俺からすれば、ザコ狩るだけで確実に金稼げるんだからリスクを冒して投資するなんてバカげてる、だが。住み心地としてはナチュレの方が良さそうだな~。グリンタウンかホワイライトか迷うけど。


 朝8時半。株式市場はまだ開いてないが、金融都市はとっくに目覚めているようで人の往来が激しい。どうやらスマホを操作するだけでは稼げないようだ。失礼なことを言って悪かった、謝るぜ。


 西門を目指してしばらく歩いていると、この街では珍しい広い敷地の建物の前でデモしている集団がいた。朝っぱらから元気なこった。で、何が不満なんだ? 見るからにマネーゲームで稼いでいる勝ち組ではない。むしろそれとは縁が無さそうな農家のようなビジュアルだ。


「ちょっと見てきていい?」


「うん、あたしも気になってた」


「行ってみようぜ」


 近づいてみると、横断幕や旗には、”農業の街・ファームを返せ!”とか、”金の亡者は出てけ!”とか”富裕税に収入のラインを!”とか書かれていた。”富裕税”って何だよ・・・。


「は・た・け・を・か・え・せ!」


「「「は・た・け・を・か・え・せ!」」」


「ぜ・い・き・ん・と・る・な!」


「「「ぜ・い・き・ん・と・る・な!」」」


 1人がメガフォンで叫ぶのに続いてその他大勢も叫ぶ、というリズムでひたすら叫び続けている。で、この場所は市庁舎前。今まさに出勤している公務員たちに叫びをぶつけている。よくあることなのか、公務員たちは気にも留めてない様子。


「見る限りだと、農業の街だった所が都市開発で高層ビルまみれにされて、あの人たちは行き場を失ってひっそり暮らしてるけど何故か富裕税は取られてる、って感じかな」


 デモの声がうるさいので少しずつ離れ始めた。


「そう、みたいね・・・」


「富裕税ってなんだ?」


「知らないよそんなの。この国の法律なんだから。年収いくら以上から取ります、みたいなやつなんじゃないの? あの人たちは・・・有り得るとするなら、ファイナンスに住んでるだけで取られてるとか」


「はあ!? ヒドくね?」


「でも元々農家ってことは、立ち退きとかしてなければ一軒家だよね? この街に一軒家もってれば、十分に富裕層だよ」


 今もここにいて金にならないデモをやってるぐらいだ。都市開発の前に安くで家売っちゃったってことはないだろう。


「でもよぉ、元から住んでたんだろ? あ、でも田舎に住んでたのが勝手に都会になったのか。それって得じゃね?」


「そうだね。持ってる家を売れば何億にもなるだろうね。彼らが慣れ親しんだ街とはガラリと変わっちゃっているし、マネーゲームができなければこの場所にも居られないけど」


「そっかぁ、それは可哀想だなぁ」


 それは、意見が分かれるところだな。ずっと住んでた場所を追い出されるのは辛いだろうが、家を売れば何億と手に入るなら、デモなんかやらずに引っ越せって言われても仕方ない。女性陣2人も、複雑そうな顔をしている。


「詳しい話は誰かに聞いてみよっか。できれば、第三者がいいね」


 既にデモの声が邪魔にならない位置まで離れた。腰ぐらいの高さのブロック塀に座ってスマホいじってる人に話しかけてみた。イケイケな感じの若者だ。


「すみません」


「ん? お、トレジャーハンターとは珍しい。どうしたんだい?」


 マネーゲーム以外は興味ナシという可能性もあったが、この人はそうでもないようだ。魔法使いの恰好が功を奏したか。この世界の住人とプレイヤーと区別しない辺りからは関心の無さが伺えるが。


「あのデモみたいなのって、何ですか?」


「ああ、あれね。週に一度、先住民の連中がやってるんだよ。ここは元々農業の街だったから返せってね。既にここまで発展したのに、今更お役人に言ってどうしたいのか、全く分からないね」


 若者は吐き捨てるようにそう言った。週に一度って・・・そりゃ相手にされない訳だ。


「あの人たちは、自分の家や土地はまだ持ってるんですか?」


「開発計画が決まった段階で安くで立ち退いちゃった人もいるって話だけど、今デモしてる連中はこの街に住めてるんだから持ってるんじゃないかな。農業したいんなら、さっさと売ってエデュケインかナチュレにでも引っ越せばいいのに」


 毎週のようにデモを見てれば印象が悪くなるのも無理はない。思うところがあるのか、若者の話は続く。


「農地は埋め立てられてるから、その時に国から大金もらってるとも聞いたよ。もちろん土地の価格が上がってから売り払った頭いい人もいるけどね。あの連中もさっさと金に換えて出ていけばいいのに」


「あはは・・・そうですね」


 概ね同意なのだが、微妙な反応をしてしまった。


「あ、もちろん農家の人たちには感謝しているよ。僕は、どんなにお金を積まれても家畜や野菜を育てることはできないからね。金さえあれば美味しい料理が食べられるのも、彼らの支えがあってこそだ」


 謙虚な心も持っているようで安心した。色んな人に話しかけまくれば、金払ってんだから文句言わずに食事を用意しろなんて言う人も現れそうだが。


「だけど、その農業をここでやる必要はないよね。まして、あそこでデモやってる連中は、吠えてるだけで何もしていない」


「まあ、そうですね。定期的なデモなんて、ほぼストレス発散の意味しか無さそうですし」


「へえ、トレジャーハンターの割にはサバサバしてるんだね。少しぐらいは彼らの味方をすると思ってたよ」


 若者はスマホに視線を戻した後、軽く掲げ、


「もういいかな、そろそろこっちが始まるんだ。別の業界の人と話ができて楽しかったよ」


「はい、ありがとうございました」


 それで若者は完全に投資の世界に戻った。彼らからすれば、トレジャーハンターも業界のうちの1つなのね・・・。どんな手段で金を稼ぐか、しか見てないのだろうか。まあ、この資本主義の世の中、金さえあれ大抵のことは何とかなるからね。デモやってる人たちだって、金で街ごと買い戻せば農地開拓ができる。


 西門に向かって歩き出した。


「何が、正しいんだろうね・・・」


 口を開いたのは花巻さんだ。彼女の性格からすれば、立ち退きを余儀なくされた人たちの味方をしたいかも知れない。


「難しいね。あの人たちを助ける手段がこの街を買うか壊すかしかないから、どっちにしても今この街にいる投資家の人たちの場所を奪うことになる」


「そう、だよね・・・」


「投資家の人たちも、ここに来れば夢が見れると思って来てるのよね。その人たちも悪くないんだから、今さら出て行けなんて言われても困るわよね」


「もし、元農家の人たちが奴隷にされてるとかだったら場合によっては手段を選ばないけど、そうでも無さそうだから荒っぽい真似はできないね」


 金融都市で稼ぐ投資家たちに金で勝つのは無理だから、俺たちにある武器は魔法だけ。


「そっかぁ、どうしようもねぇのかぁ」


「厳しいことを言えば、この場所をのどかな農地に戻したいなんて、感情論だからね」


「う~~~ん。でもよぉ・・・」


「確かに、今ここで農業をやる必要がないのと同じように、かつて農地だったここを都市開発する必要があったかは疑問だけどね。ビル立てるなんて、地盤さえ良ければ荒野でもできるし」


「だよな! やっぱそうだよな!」


「なんで、畑を潰してまでここを都会にしたんだろ」


「さあ。一番納得できるのは、比較的ビジナに近くて地盤がいいのがここしか無かったとか」


「でも間に渓谷あるんでしょ? 住民は高速鉄道で移動できるかも知れないけど」


「最悪は、経済大国のイメージを強調するために農地を潰したかった、ってとこだね。それこそ感情論だけど」


「うげぇ~っ。マジひでぇな」


「いや実際どうだったかは知らないけど」


「少なくとも、今あたしたちができることは無さそうね」


「むしろ、あの人たちが暴動を起こしたら止めなきゃいけない。僕には、投資家の人たちを無碍にすることもできないよ」


「そう、だよね・・・」


「みんながどっちの味方につくかも任せるけど」


「私は・・・どうだろう。何も、できないかも」


 花巻さんは俯きながらそう言った。


「さっきの人にはトレジャーハンターって言われちゃったけど、僕は今、ジャーナリストの気分だよ。誰かに金融都市の今を伝えるとかじゃないけど、なんか、潜入捜査してる気分」


「でも、何かあれば手を出すんでしょ」


「そうだね。だから、色んな街に行って、苦しめられてる人がいないか見てみようよ。もちろん匠くんも探すけど」


「いいわねそれ。世界中を旅してるあたしたちがやんなきゃだもんね」


「それで世界救えばゲームクリアだもんな!」


「私も、頑張るね」


「あ、でも魔人滅殺剣も忘れんなよ?」


「忘れてないよ。人助けには力も必要だからね。とにかくまずは、首都ビジナを目指そう。クリフキャニオンを越えて」


 俺はそう言って目の前の山に杖を向けた。話しながら歩いているうちに、西門の近くまで着いている。


「「うん」」

「よっしゃ!」


 ちょっと先にある川を渡ればすぐ、クリフキャニオンだ。



 最初の敵は、レッドスライムさん。新モンスター登場だ。


「おっ、赤スライム来たぞ!」


「敵のランクが1こ上がったわね」


 そうこなくては、つまらない。


「ワンランク上の旅を、期待してもよさそうだね」


「そんな旅行気分みたいな」


「とにかくやるよ」


「うっしゃ!」

「そうね」


 黄色よりも耐久が上がっていたようだが、大した強さではなかった。川では、イカと灰色のワニ(グレーダイルと言うらしい)だけで新モンスターなし。


 川を渡り終え、時折出て来るレッドスライムさんとその他今までお世話になってきたモンスターたちを倒しつつ、クリフキャニオンに向かって進む。


「あ、でもよ、苦しめられてる人いたら助けるって言ってたけどよ、さっきの人たちは助けねぇのか?」


 それ、今更言うんだ。


「苦しみの程度によるでしょ。少なくとも、家と土地を売れば何億も入る人たちのために街は壊せないよ。完全悪みたいなのを現行犯で見つけないと」


「そっかぁ」


「中野君があの人たちを助けるって言うんなら止めないよ? 協力もしないけど」


「いやヤメとくわ。街壊すとかただのテロリストだろ」


「ね。よっぽどの理由がなきゃできないでしょ」


「いやよっぽどの理由があったらやんのかよ」


「場合による、としか言いようがないね。人間、我慢の限界を迎えたら何をするか分からないから」


「それは住民の人たちの話? それとも大村君のこと?」


「両方だね」


「怖いこと言わないでよ」


「大村ってキレたら怖そうだもんな」


「人間だれしも、ブチギレたら何するか分かんないよ」


「その発言自体が怖いんだけど・・・」


 そう考えちゃうものはしょうがないね。

 またレッドスライムが出てきた。


「敵だよ。戦おう」


「・・・肯定のコメントがなかっただけマシだと思うことにするわ」

(絶対心の中で肯定してるわね・・・)


 俺が心の中で肯定してることはバレてるね。さて、レッドスライムさんと戦おう。


 --------------------------------


 クリフキャニオンが見えてきた。地面の裂け目と、その向こう側にはゴツゴツした巨大な褐色の大地。しばらくは、まともな平地はなさそうだ。


「なんかゴツくね?」


「これは、ツーランク上ぐらいの旅になりそうだね」


「あたしは一歩ずつの方がいいんだけど・・・」


 変化は、突然にして訪れる。備えをしてない方が悪いのが世の常だ。



 クリフキャニオン入口に到着。


「ほえ~~っ。結構人いるんだな」


「あたしも思った。観光地なのかな」


 ファイナンスからここまでは俺たちの同業者さえ見かけなかったのだが、都市間高速鉄道の駅もあり、ポツポツと人がいる。登山もできそうな恰好をしてるところからして、観光客だろう。しっかりと護衛が、それも1グループに2人は付いている。剣や斧の装備が多いが、魔法使いの姿もある。何かと便利だからね、魔法。


「護衛を雇ってるってことはモンスターが出るみたいだね。心してかかろう」


「うっし。まずは下りみてぇだな」


 渓谷地帯だからね。道があるのか、前を行く人たちは手すりが途切れている場所から斜め下にフェードアウトしていく。


「さ、行きましょ」


 で、スタート地点まで行ったのだが・・・、


「ひょ~~う。死ぬんじゃねこれ?」


「ちょっと、さすがに怖いんだけどこれ・・・」


「わた、しも・・・。だけど、行くしかないんだよね」


 一言でいうなれば、断崖絶壁。手すりがあるのはこの入口の部分だけで、下り始めると細い足場を通っていくことになる。ほぼ90°の崖に沿って坂道があり、ちょっと下って一歩前に進んでまたちょっと下る、を繰り返す感じだ。チラホラと分岐があり、先を行くグループはそれぞれのルートでずっと下に見える川を目指して下っている。戦ってる様子は見えないから、モンスターの登場はまだのようだ。


「下りきってしまえば、楽になるよ。いざとなれば風魔法もあるから」


 少し顔を引きつらせ気味の面々と頷き合い、意を決して下り始めた。

 さて、ひと谷越えるとしますかね。


次回:クリフキャニオン

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