第83話:西へ進め
病院を出たあと、近くのファミレスで昼飯にした。この後は、地図を確認するためにメディカルセンターの図書館に行く予定だ。
「ええー? また医療費負担上がっちゃうの?」
2つ隣のテーブルからだ。マダム4人グループ。日本は3割負担だが(それでも結構お値段するが)、この国はどうなんだろうな。“また”ってことは、以前も上がったことがあるのか。不景気な話だ。
国が決めたことに従うしかないのは、世の常だ。法律を作る議員は一応選挙で選ばれているのだが、誰が勝っても同じ感が半端じゃない。何百人もいる国会議員が何をしてるのか良く分からないが、1人1人がどんな想いを持っているかではなく、どの政党が多く議席を持っているかでほぼ決まる。特に、衆議院が与党で2/3以上埋まれば為す術はない。
どの政党を勝たせるかは国民が選べると言われたらそうなのだが・・・どうも、選挙に勝つことを主眼に置いてるように見えてしまう。そりゃ勝たなきゃ国は変えられないのだが、勝ったら万歳なんてするんだぞ? 国を変えたいと思ってるなら議員になってからが本番なのに、そのスタート地点に立っただけであの喜びよう。とてもではないが、"自分がこの国を変えるんだ"という信念があるようには見えない。
あと政治家の皆さんケンカし過ぎ。科学と魔法もそうだが、与党と野党も仲良くしてくれないかなぁ。国民の生活を豊かにしたいんじゃないのか? 与党のやりたい放題を防ぐために野党は噛み付く必要がある。ただ、そこから始まる言い争いが、(テレビで見る範囲だけだが)恐ろしく生産性に欠ける。この人たちが国を動かしてるんだ、豊かになるはずがない。
まあいい、もう諦めた。1億円を手に入れるべく、この旅に力を入れよう。
「西門を出て道なりに進めばファイナンスに行けるのは分かったけど、この国の地理はどうなってるんだろうね。首都ビジナに、さっき看護師さんが言ってたアカデミアもあるんだよね」
「どうだろ。どんな街があるのか、楽しみね」
「ファイナンスは、金融がテーマかなあ。経済大国って言うぐらいだし。メディカ以上に栄えてるかも知れないね」
「今日にでも行くのか? ていうかさっさと行こうぜ?」
「そうだね。ここにとどまってる意味もあんまりないし」
昼食を終え、図書館へ。適当に大きな地図を取ってお喋りOKのスペースに行った。早速それを開いて4人で見る。
「メディカは、ここだね」
この世界は1つの島で、ざっくりした輪郭は横が長めの楕円型。俺が指差したメディカはド真ん中から少し南にある。そこから南西に進むと、関所からファイナンスに直通する道と合流し、さらに西でファイナンス。
「ファイナンスの次は、首都ビジナだね」
「おおーっ、首都かあ」
「でもこれ、クリフキャニオン? 渓谷地帯みたいなのが間にあるね」
ファイナンスとビジナの間に、“クリフキャニオン”と書かれた場所がある。全体的に褐色でなんかゴツゴツしていて、川もいくつか流れている。
「おおっ? ダンジョンか?」
「かもね。この世界の住人には都市間高速鉄道があるし、プレイヤー向けの試練って訳だ」
「高速鉄道? 何よそれ?」
説明してあげた。「へぇ~、そんなのあったんだ。気付かなかった」だそうだ。
そのクリフキャニオンを超えた先が、ビジナ。そっから先は・・・まあ、3つも街に行けば…
「ビジナの次は、どうするの?」
高松さんの声で思考が遮られた。
「大村君に言わせれば、3つも街に行けば何かしらトラブルが起きるかも知れないんでしょうけど」
遮られた思考を代弁してくれた。
「ちょうど、頭の中に浮かんでたところだよ」
「浮かばせないで」
「ごめん溢れ出てくる」
「全く・・・。で、どう行く? アカデミアが最初かな?」
「地理的にはそうかな。アカデミア、ブラッキ、コンペティートの順が、最短で全部巡れそうだね」
ビジナから北北西の方角に、さっき看護師さんの口からも出たアカデミアがある。他の2つよりも首都ビジナに近い。やはり学術都市だろうか。
ブラッキは、ビジナから真南だが距離がある。ファイナンスから45°南西だが、間に山があるせいか直通道路は無く、ビジナから行くしかない。てかブラッキって何。黒いのかな。
コンペティートは、そのブラッキから北西の方向。ビジナから見れば南西で、ブラッキに行くよりも少々近そうだが、ユニオンへの進行方向が西なので順番としてはブラッキの次だ。コンペティートも、名前だけじゃよく分からん。これまでの流れからして英語がベースなんだろうが、教養がない俺には分からん。
「オイオイいいのかよ一気にそんな進んじまって」
「大丈夫。全部巡る前に何かに巻き込まれるから安心して」
「それ全然大丈夫じゃねぇじゃん!」
「今更よ、中野君」
「もし何も起きなくても、普通に10日か2週間ぐらいかかるでしょ。じっくり行こう」
「この先は・・・砂漠?」
最後のコメントは花巻さん。コンペティートの西は、広い肌色のエリアで“サンディア砂漠”と書いてある。それを超えた先、この島の西端部に、エコノミア最後の街となるエデュケインがある(これも由来が推測できない)。
そこから少し北に進めばユニオンだ。最初の街―――確か1つの街で1つの国だったか―――はヤーミー。小学生の頃、“美味しい”の英語”yummy”が流行ったが、グルメの街だといいなぁ。だがその前に、砂漠か・・・。
「だろうね。そう書いてあるし」
「うげぇ~っ。暑そうだな」
「てか越えられるの? 砂漠でしょ?」
「さすがに、ゲームだし越えられるようにはなってるんじゃない? コンペティートからエデュケインまでの距離は、グリンタウンからホワイライトまでと一緒ぐらいだね」
あ、結構あるわ。
「普通のスピードで歩いて、2~3時間かなあ」
「2時間と3時間の差、結構あるわよ」
「ごめん読めない。ま、3時間だと思っといた方がいいね。元の世界には車で何時間もかかるような砂漠もあるんだし、マシだと思おうよ」
「いやそんなんあったら死ぬだろ」
「歩きがメインだから合わせてくれたのかもね。でもきっと辛いよ? どれくらい暑いかにもよるけど、平地だと4~5キロ先ぐらいまでしか見えないから、基本的に地平線を目指してひたすら歩くことになるよ。見てて飽きない景色とか、進路を示す道とかがあればいいね」
「景色はともかく、道ぐらいあるわよね・・・?」
「最悪はメニュー画面でワールドマップ見ながら進むしかないね」
「マジかよ・・・」
「ワールドマップがあるだけマシだと思おうよ。無かったらコンパス片手に進むことになるよ? 一応買っとくけど」
むしろ、なぜ今まで買ってなかったのか。マップ機能に頼り過ぎたか。
「敵も、強いのかな」
花巻さんが地図の砂漠を不安げな表情で見つめている。
「かもね。コンペティートに着くまでの間に、レベルも上げとかないとね。花巻さんは、クールローブも手に入れなきゃだし」
「頑張ろ、葵」
「うん」
話がひと段落着いたかな。と思ったら、
「なあなあ、」
「ん?」
「砂漠の前にもっかいスノーウィーン行こうぜ? 魔人滅殺剣がまだだろ?」
「あ~、そうだったね」
「オイ忘れんなよ」
「確かに、エデュケインぐらいまで行っちゃうとナチュレに戻りにくくなるね。1回砂漠がどんなのか見たら、一旦戻ろっか。強い魔法があるに越したことはないし」
「千尋ちゃんたちもいいよな?」
「ええ」
「うん」
さすがに、ここまできて断らんだろ。
「サウスポートかスノーウィーンに匠君がいるかもだし、せっかくだから全部の街巡りたいじゃない」
「よっしゃ! 三度目の正直だな。待ってろよ~、魔人滅殺剣」
だが、どうだろうな。スノーウィーンに辿り着けたとして、さらに雪山だろ? まだ魔人滅殺剣が残っていれば、誰も突破できていない試練が待っている訳だ。
「雪山は・・・エーデルマウンテン、って言うらしいね」
「なんか凄そうな名前じゃねぇかぁ」
「あんまり凄い雪山だと、僕らが苦労することになるんだけど」
それに、このメンバーには雪国育ちがいない。いたとしても、この世界の雪山が日本の雪国の範疇に収まるかは分からないが。
「もしまたダメだったら、ローリンストックからホワイライトエクスプレスで帰って来た時だね。その頃には、かなりのレベルになってると思うけど」
「あら、その約束守る気なのね」
「首輪にリードは嫌だからね」
「えー? 何の話?」
この人・・・。
「次で取りてぇな~」
「一旦戻るんなら、ブラッキより先にコンペティートでもいいかもね。ビジナからコンペティート行って、砂漠をチラッと見て、ブラッキに行く。多分だけどブラッキに港があるんじゃないかな。海のそばだし、ナチュレはウォーターランドの南にあるサウスポートが名前のまんまだし」
「あ、言われてみればそうね」
「ん? 結局どうするんだ?」
「ビジナ、アカデミア、そっからまたビジナに寄ってコンペティート。砂漠を一旦見てから最後にブラッキ。それでスノーウィーンにもっかいリベンジしよう」
「うっし、楽しみだぜ、スノーウィーンに雪山!」
「これから新しい街4つも巡るのも忘れないでよね。どんな街なんだろ、楽しみだな~♪」
「そうだね。この先どんな厄介事に巻き込まれるのかと思うと、楽しみで仕方がないよ」
「そんな楽しみ方しないでよ・・・」
それぞれの街がどんな街かは着いてからのお楽しみということで、図書館を後にして西を目指すことになった。まずは、ファイナンス。それからどんどん、西へ西へと進んでいこう。
西門に到着。
「よっしゃ行くぜ次の街! もう既にちょっと見えてんじゃねぇか?」
「みたいだね。さっさと行っちゃおうか、ファイナンス」
「金融の街かしら。経済大国らしいわね」
「行ってみてのお楽しみだぁ!」
という訳で、出発。最初に出て来た敵は、イエローウルフ。かかって来なさい。
「モンスター全然変わんねぇな」
中野の言うように、モンスターのラインナップは関所からメディカの間と変わらなかった。特にピンチに陥ることもなく順調に進む。
レベルは今、47。この分だと、ファイナンスに着くまでに1上がるかどうかだ。50の大台には、ビジナに着くまでには乗るだろうか。クリフキャニオン次第だが。いずれにしても、花巻さんを40に上げてBランク装備を買ってもらうのは必須だ。Aランク装備は多分レベル60だから、50になったところで何のことはないのだろうが、上級魔法ぐらい入って欲しいところ。
「ちょっと試してみたいことがあるんだけど、いい?」
俺のその一言で、みんなが立ち止まる。
「別にいいけど、何?」
「合成魔法。名前わかんないと使えないだろうと思ってたけどさ、」
そう言いながら中野のそばに行き、
「もしかしたら」
メニュー画面を開き、魔法一覧を確認。
「やっぱり」
「どうかしたのか?」
「あったよ。火と闇の合成魔法。アズールフレイム、だって」
もちろん、風と光のブライトウィンドも表示されている。
「マジ!? ・・・マジだ! 凄ぇ!」
「もしかして、使える状態になったら出てくるってこと?」
「そうなんじゃない?」
そう言って中野から離れると、
「うん。光と闇のやつが全部消えた」
さらに、高松さんに近づくと、
「あ、増えた」
「へぇ~、そうなのね。何があるの?」
「えーっと・・・、ブライトウィンドの他は、水と光でオーシャンライト、だけだね」
「え、それだけ?」
「うん。他のは・・・上級で出てくるのを祈るしかないね」
「そっかぁ・・・。ファイナンスに着く前に余裕があれば試してみましょ」
「そうだね」
「なぁなぁ、闇は何があるんだ?」
中野が近寄ってきた。
「闇の方は・・・、火と闇でアズールフレイム、土と闇でコールクラッシュ、雷と闇でダークサンダー、だね」
「ううぇえーーい。こっちも後で試してみようぜ?」
「うん。だからMP無駄遣いしないようにね」
「任せろ!」
ま、何かメリットがあれば節約へのモチベーションが上がるな。
「葵ちゃんはどうなんだ?」
「花巻さんがレベル40になんないと、無理だと思うけど」
「そっかぁ~。でももうちょっとだな!」
「うん。頑張るね」
愛属性との合成魔法も、気になるところだ。もし攻撃魔法があれば、花巻さんのレベルアップがしやすくなる。
その後も特に何事もなく、しばらく進んでいると、
「街だぜ!」
中野が指差す先に、街が見えた。そびえ立つ、いくつもの高層ビル。
「これはまた、随分栄えてる街だね」
「この時点でこれって、首都ビジナってどうなんてんの?」
「錆びれてたりして」
「それはないでしょ」
「だね。ルイナさんが人ごみに身を隠せてたぐらいだし」
「なぁなぁ、合成魔法試そうぜ!」
「そうだね。MP余裕あるし、1発で消費25なら大丈夫でしょ」
まだ全員、MPを150以上残している。早速、次の敵で試してみよう。
「まずは俺からいいか?」
返事をする前に、中野が近くに寄って来た
「まずは火と闇でいくよ」
「おう!」
杖を前に向け、念じると赤と紫が半々の魔法陣が登場。
「アズールフレイム」
「アズールフレイム!」
ボオゥッ、
と、青紫の火がゴブリンに向かって飛んで行った。一撃では死ななかったので、
「次、大地で」
「っしゃ!」
「せーのっ」
「コールクラッシュ」
「コールクラッシュ!」
真っ黒の石炭のような物が飛んで行き、
ドオォン!
ゴブリンに当たるとともに真っ黒の煙を上げて破裂。ゴブリンは倒れた。
「ううぇえーーーい。いいねぇ! 次はダークサンダーだな!」
中級の、合成魔法ともなれば結構な威力のようだ。次に現れた敵は、ストーンゴーレム。耐性が火・雷・土だが、魔法試すだけだし、オーシャンライトで弱点突けるからいいや。
「んじゃいくよ」
「おう!」
黄色と紫の魔法陣を出現させ、
「ダークサンダー」
「ダークサンダー!」
魔法陣から、紫色の雷が5~6本、同時にゴーレムに向かって放たれ、2秒ほどで消えた。
「やっぱ耐性あるしキツいかぁ」
中野も、弱点とか耐性を見て戦ってるようで安心した。
「オーシャンライトは、高松さんと試すことにするよ」
「あぁいいぜ。ずっと俺ばっかだったかんな」
「大村君、早く早く」
高松さんの手招きに応じ、移動。
2人で杖をゴーレムに向け、念じると、
「デカっ!」
ターゲットとなっているゴーレムを中心に、直径5mほどの魔法陣が現れた。
「とにかくこのままやろうか」
「オッケー。せーのっ」
「「オーシャンライト」」
魔法陣の上に水が現れ、光り出し、光ったままの水が不規則にあちこちへ波を打った。5秒ほどで終了。攻撃範囲が広いぶん威力が低いのか、ゴーレムはまだ生きていた。仕方なく、3人で袋叩きにした。
「よし、終わり。ファイナンスはすぐそこだね。向かおう」
「だな。 にしても、合成魔法ゴツかったな~。たまに使おうぜ? 大村ぁ」
「必要に迫られればね」
確かに使い勝手は良さそうなのだが、いかんせん2人そろってる必要があるのが面倒だ。気分的に使いたい程度のことでわざわざ近寄るのは面倒だ。
「葵ちゃんがレベル40なったら愛属性との合成もあんのかな~」
「どうだろ。どっちにしても、クリフキャニオンに行く前にBランク装備になっといた方がいいから花巻さんもレベル40を目指そっか」
「それがいいわね」
「うん。みんな、ありがとね」
俺たちはそのまま、山ほどの高層ビルがある街を目指して歩き続けた。
次回:誰もが高みを目指す街、金融都市ファイナンス




