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4人の魔法使いの冒険  作者: 藤見倫
第3章:巻き起こせ、労働革命
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第80話:"奇跡"で目覚めた少女

「あの、もしかして、ホワイライトの奇跡を復活させた方々でしょうか・・・?」


 車椅子で娘さんを押している母親が、そんなことを聞いてきた。まさか。


「はい。そうですが」


「あっ、・・・本当に、そうなのですね」


 母親の目から、涙。


「すみません、私ったら」


「ママまた泣いてるー」


 母親とは打って変わって、何のことはない様子の娘さん。こっちに聞いてみるか。


「えっと、僕たちがどうかしたの?」


「うん! あたし、事故で大ケガしちゃったんだけどね、お兄ちゃんたちのおかげで目を覚ましたの! だから、ありがと!」


 少女は、またしても何のことはない様子でそう言った。今のセリフと母親の様子からして、意識不明になるレベルだったのは確かなようだ。


「なんか騒がしいと思ったら、どうしたの?」


 高松さんたちが合流。


「ああ。それが、例の”奇跡”で意識が戻った人に会ってるみたいで・・・」


 母親が動き出すのが見えた。


「やっぱり、あなた方がそうなのですね」


「そうだよママ! テレビに出てたお兄ちゃんたちだもん!」


 てことは、この母娘からすれば俺たちは命の恩人になるのか・・・?


「本当に、ありがとうございました。この子、こんな調子ですけど、医者からももう助からないと言われまして・・・。ところがあの夜、突然目を覚ましたんです」


 母親は涙を指で拭いつつ、続けた。


「そしたら急に、”お星さまが呼んでる”なんて言って怪我したはずの体で外に走って行ったんです。その時に追いかけて見た星空が、忘れられません。翌日のニュースを見まして、ぜひ一度お会いしてお礼を言いたいと思っていました。おかげさまで娘はこの通り元気です。ありがとうございました」


「あははー、ママ泣き虫ー」


 母と娘の、このギャップ。まあ、まだ5歳ぐらいのようだし、意識が無かったのでは自分がどれほどの危機だったのか分からないだろう。


「こらメリア、ちゃんとお礼を言いなさい」


「お礼なら、娘さんからも先ほどいただきましたよ。”ありがと”の一言だけで十分です。おつりが用意できないのが申し訳ないぐらいですね」


「いえいえ、とんでもない。こちらこそ、どれほどお礼を言っても足りないぐらいです」


 まあ、そうだろうな。確か、日が昇ると症状が再発した人もいたみたいだから、それで車椅子生活になったのだろう。でも割と元気そうだ。車椅子生活になるぐらい、命を落とすことと比べたら随分と良いはずだ。完治するといいが。


「そんなに気にしなくていいですよ。僕たちはただ、あの星空を見たかっただけですから。世界中の人のケガや病気が治ったなんて、狙ってやったことじゃありませんし、物のついでです」


 あ、やべ。物のついでに命助けましたみたいな言い方になった。


「もう、素直に受け取れないの?」


 高松さんが前に出て、しゃがんで少女の方に目線を合わせた。


「メリアちゃん、実はね、このお兄ちゃんがね、世界中の人にあの星空が見れるようにお願いしたんだよ。凄いでしょ」


 何も、母親もいる前でそんな恩を着せるようなこと言わなくても。


「ほんとー? お兄ちゃん、すっごーい! やっぱり魔法使いさんって、すごいんだー!」


「そうだよ? 魔法使いは凄いんだよ?」


「ねぇねぇ、じゃあ魔法見せてー!」


「こらメリア。すみません、この子ったら・・・」


「いいよ。とっておきの魔法を見せてあげる」


「やったー!」


 少女は両手を上げて喜んだ。


「ちょっと失礼しますね」


 俺は杖を母親に向けた。


「え・・・?」


 母親の涙が、主の下を離れて宙に浮いた。もちろん俺が操っている。集めたつもりだったが、直径5ミリにも満たない小さな滴となった。


「ちょっと何やってんの・・・?」


「いいから見てて」


 涙の滴を、少女の目の前に運んだ。


「わぁ、きれーい」


「メリアちゃん、君は、自分が死にそうになってたのは覚えてる?」


「う~~ん。よく分かんないけど、事故にあって寝てる間はそうだったって、みんな言ってる」


「死んじゃったら、その人はずっと起きないことは知ってる?」


「うん。ずっと遠くの世界に行っちゃうんだよね」


「そうだよ。もし、君のママがそうなったら、どうする?」


「ヤダ! ママとずっと一緒にいたい!」


「そうだよね。きっとママも、メリアちゃんとずっと一緒にいたいって思ってるよ。だけど君が死にそうになって、そこから目を覚ましたから嬉しくて泣いてるんだ」


「うん、でもずっと泣いてるんだよ? もう何日もたってるのに」


「それだけ、メリアちゃんと一緒にいられるのが嬉しかったんだよ。誰かのために泣くことができるのはね、魔法と同じぐらい凄いことなんだよ」


「ほんとにぃ?」


「ほんとだよ。君が死にそうになって泣いてくれて、死なずに済んで泣いてくれる人がいるんだ。そのことをちゃんと覚えておいてね」


「わかった! おぼえておくね!」


「うん、いい子だね。もうひとつお願い、お口あけて」


「あー」


 その開いた口の中に、涙の滴を入れた。目は開けっ放しだったから本人も分かっているはずだ。


「はい、閉じていいよ」


「はむ。・・・うえ~~、しょっぱいぃ~~」


「そう、しょっぱいんだよ。だからね、もうママを泣かせちゃダメだよ」


「うん! ママ泣き虫だから、あたしがしっかりしなきゃダメだもんね!」


 そういう意味で言ったんじゃないんだが・・・まあいいか。


「ねぇねぇ、明日あたしの病院に来てよ! 今日はお外に出ていい日なんだけど、明日はダメだからつまんないんだ~」


「こらメリア、そんなお願いしちゃダメよ。すみません、この子が無茶言って」


「いいですよ別に。特に用事もありませんし。・・・メリアちゃん、明日行くから待っててね」


「うん! 絶対だよ!」


 病院にお見舞いに行くなんて、魔法がなくてもできることだ。それだけで小さな子ども1人が喜ぶのなら、安いものさ。


「す、すみません、ありがとうございます。大事なことまで教えていただいた上に、わがままも聞いてもらって」


「いえ、子どもの願いに応えるのは魔法使いの仕事なので」


「は、はあ・・・」


 あ、この人、あんまり冗談の通じないタイプだ。


「ところで、病院はどちらに?」


「あ、そうですね。ここから北、第2環状道路と第3環状道路のちょうど間の辺りにある、北地区第2総合病院です」


 第2やら第3やらが多くてややこしいが、北地区第2総合病院だな。名前さえ分かれば何とかなる。


「あ、それと、できれば10時以降でお願いしたいのですが・・・」


「大丈夫ですよ。では10時に行きますね」


「ありがとうございます。夫にも、来るように伝えておきますね」


「あ、はい」


 あえて口に出してなかったが、父親も普通にいるらしい。


「では、私たちはこれで。突然失礼しました」


「お兄ちゃん、お姉ちゃん、バイバーイ」


「また明日」

「おう!」

「「バイバーイ」」



 さて、俺たち4人が残った。


「で、僕は明日行くけど、みんなどうする?」


「行くに決まってるでしょ」


「そ。じゃあ決まりだね」


 本日後半の部といきましょうか、と思ったら花巻さんも泣いていた。


「良かった・・・。あんな小さな子の命を、助けられたんだね・・・」


 そうなのだが、本人に会ってもなお、あまり実感が湧かないな。母親はともかく、当の本人の調子が軽かったのもあるが。


「大村君も少しは実感した?」


「少しだけ、ね」


「そ。嫌な言い方してでも伝えた甲斐があったわ。あなたがその調子だと向こうだってお礼言いにくいんだから、もっとしっかりしなさい」


「はーい」


「てか大村、さっきのマジイケメンだったぜ? 涙食べさせて”もう泣かせちゃダメ”なんてな」


「はあ?」


 個人的にも、クサい真似をしたとは思っているが。


「たまにはいいじゃん」


「はははっ! だな」


「でもいきなり何するのかと思ったわよ。ああいうのは程々にね」


「その時に気分で決まっちゃうからな~」


「その”気分”で命が助かったり泣かされたりする方の身にもなってみなさいよ」


「いいじゃん悪いことしてる訳じゃないんだし」


「はあ・・・葵、もう大丈夫?」


「うん・・・。一番分かってて欲しい人が、気分任せなこと以外は、大丈夫」


「う・・・」


「ほら見なさい。後々返ってくるんだから」



 という訳で今度こそ、後半の部開始だ。


「んじゃ行きましょ。フロアマップ持ってきたから」


「葵ちゃん、俺たちの分もあるぜ」


「「うん」」


 ペアを交替し、行動開始。中野たちは早くも移動を始めたが、俺たちはまずベンチへ。


「どこか行きたいトコは・・・ないよね」


「分かってるなら聞かないで」


「分かりたくなかったから聞いたのよ」


「で、どうするの?」


 ここ南西エリアの1~3階はフィットネスクラブ、住民健康相談センター、図書館(その名前が、メディカメディカルライブラリー)。図書館は気になるが、全員そろってない状態で行くのは微妙。他は用がないな。


「じゃ、まず買い物に付き合ってよ」


「え、荷物持ち?」


「嫌なら行きたいトコ言いなさい」


「喜んで荷物持ちをさせて頂きます」


「はあ・・・」


 ショッピングエリアは南東エリアの1~3階なので、連絡通路で南東、さらに階段で3階へ。

 ついでに言うと、北西エリアは1~3階がリハビリセンター、4~5階が超ミクロ医療研究センターだ。超ミクロ何とかは本日見学ツアー実施らしいが、う~ん。北東エリアは病院。用もなく足を踏み入れる場所じゃない。


 南東エリア3階は、ホームセンターと雑貨屋を足したようなやつ。ジャンルをどう言えばいいのか分からないが、食品以外は大抵のものがありそうだ。


「で、何買うの?」


「何かいいのがあれば」


「は?」


「ショッピングって、そんなものでしょ」


「目的もなく買い物に来るなんて理解できないんだけど・・・」


「あたしには大村君の方が理解できないわ。お互い様なんだからいいでしょ、ほら」


 で、適当にウロつきまわった。謎の便利グッズが陳列されている。メディカルセンターなだけあって健康器具が多い。


「へぇ~、色んなものがあるのね。元の世界とほとんど変わんない感じ」


「ま、元の世界の人が作ったものだからね。文明も似たようなものになるよ」


「見て見てこれ、かわいい~」


 天秤の皿に小さな熊の人形が乗っているオブジェだ。片方が重いのか微妙に傾いている。4,500円と地味に高い。


「変わったオブジェだね。確かに結構かわいいかも」


「・・・」


「どうかした?」


「大村君も”かわいい”なんて言ったりするのね」


「かわいい物があればね」


「へえぇ~~。あんまり聞かないけど」


「人間には使わないからね」


「な゛・・・」


「どうかした?」


「・・・別に、何でもないわ。つぎ行きましょ」


 軽い軽蔑のまなざし。痛み入ります。でもホント、人間に”かわいい”を使うと面倒なんだよ。


 で、次に来たのは。


「せっかくだからこういうのも見ときなさいよ」


「えっと・・・アロマ?」


「フレグランスよ。使ったことないでしょ」


 高松さんはサンプルを1つ取って俺の顔に向けてきた。柑橘系の香りだ。和む。


「みかん?」


「ベルガモットよ、いい香りでしょ」


 何それ、ボクそんなの食べたことない。


「そうだね。1億円のぐうたら生活にあってもいいかもね」


「またそれ? 飽きないわね」


「飽きるも何も、手に入れるんだよ」


「ふーん。まあいけど。他にも色々あるわよ、大村君でも知ってそうなのは・・・まずラベンダー」


 今度は別の小瓶を向けてきた。おお、消臭剤とかでよくあるやつだ。


「消臭剤とかでよくあるやつだね」


「そうだけど、これ消臭剤じゃなくてフレグランスだからね」


「フレグランスって何なのさ。芳香剤的なの?」


「まあ・・・そんなもんね。置いとくだけで部屋に香りが広がる的な。はい次、ミント」


 今度はシャープな香りがしてきた。集中したい時に良さそうだ。


「へえ、ミントガムとはまた違った感じだね」


「そうでしょ。どう?」


「次は?」


「ミントの感想は?」


「ガムとはまた違った感じだね」


「はあ・・・。次は、そうね・・・ユーカリ」


 コアラがよく食べるやつか。これはまた、独特な香りだ。香り自体が強めなせいか、長く嗅いでると気分悪くなりそうだ。俺には合わないかも。


「コアラとは仲良くなれそうにないね」


「微妙だったか・・・これも大村君にはキツいかな? ローズ」


 バラか。


「うげっ」


 うわキッツ! 何だこれ。思わず体ごと顔を逸らしてしまった。


「あははは、やっぱダメだったか」


 高松さんはバラの香りがする小瓶を持ったまま笑っている。


「バラの匂いを直接嗅いだことないけど、これはちょっとキツいね」


「じゃあ最後に鼻直し、石けん」


 安心感のある単語と共に差し出された小瓶からは、石けんの香りがした。


「あ、確かに鼻直しにいいかもね」


「でしょ。これが大村君のイチオシかな?」


「う~~ん、どれを新居に置きたいかっていうと、ベルガモットかミントかな」


「へぇ~、意外ね。どう使い分けるの?」


「何もない時はベルガモット、作業の時はミントかな」


「ふーん。意外と妥当ね。って言うか新居って、1億円手に入れる気満々ね」


「当たり前じゃん、そのためにここにいるんだから」


「聞くだけ無駄だったわね。だけど、ぐうたら生活するのにミントの香りが必要になる作業があるんだ?」


「あ、ないね。ベルガモットだけでいいね。柑橘系の香りに包まれてゴロゴロするよ」


「果物嫌いなのに、ベルガモットはいいんだ?」


「匂いだけなら問題ないよ。100%みかんジュースも大丈夫なんだから」


「そういえばそうだったわね、メンドくさ」



 フレグランスのエリアを離れて、ついでに2階に下りた。スポーツ用品と、それから家具。


「新居に備えて、家具は重要なんじゃない?」


「ここの物は持って帰れないけどね・・・」


「いいじゃない、見ていきましょうよ」


「別にいいけど」


 参考がてら、見ておくか。で、高松さん先導で向かったのは見るからに高級家具のエリア。


「安物なんて見てもしょうがないでしょ」


「そりゃそうなんだけど、1億円って、あんまりガバガバ使ってると簡単に無くなるんだよね」


「そうねぇ・・・。でも若いうちはバイトぐらいするでしょ。贅沢しなきゃ」


「バイトなんてしないよ。ご隠居生活に入る」


「ええ~。もったいない」


「1億円あるのに働く方がもったいないよ」


「そういう考え方なのね・・・」


 面倒だから言わないが、クリアしたら2,000万は両親に渡す約束だから俺の手元に残るのは8,000万。さすがにそれで家買って80歳まで生きるのはキツいから、土地が安い地方に移住して余生を過ごす。車もコストが掛かるから徒歩かチャリ圏内にスーパーがあるのも必須だ。俺の考えが甘くなければ、食費も東京より地方の方が安いだろう。


「ま、家がいくらで買えるかにもよるかな」


 最悪は、生活水準を上げるためならスーパーのレジ打ちぐらいは辞さない構えだが。


「マンション買うの? マイホーム?」


「一軒家だね。壁の向こうに他人がいるとか、無理」


 今は両親の下にいるということで甘んじているが。


「そこまで言う・・・? たまには招待してね、マイホーム」


 当然、東京で買うと思ってるだろうな。でも残念だったね。地方まで足を運ぶんだったら招待してあげなくもないよ?


「埼玉に来たらどう? 東京よりは安く買えるよ? 家」


 埼玉よりも安い所に行きます。


「高松さんが近くにいるというデメリットが」


「はぁ!? 信っじらんない。メリットの間違いよね?」


「家事やってくれるんならね」


「うわ最低。客に家事させるなんて」


「僕はそういう奴だから」


「ゲームクリアまでに矯正するから安心して」


 ”覚悟して”の間違いでは?


「頑張ってね」


「あなたのことなんだけど・・・あ、このベッドふっかふか!」


 高松さんは話を切り上げてベッドの感触を確かめている。どれどれ。


「あ、ホントだ。いいねこれ」


 お値段は、150万。


「大村くん家に行けばこれで寝れるのね~。楽しみ」


 遊びには来るし、さらには泊まるつもりのようだ。まあ、日帰りじゃ来れないような所になるとは思うが。だが残念ながら俺は客を床に寝かせるタイプの人間だ。


「人ん家に来てベッド使うとか図々しいにもほどがあるでしょ・・・」


「大村君には言われたくないんだけど・・・でも、ほら、あたし、こういう奴だから」


 そうくるか。だが臆してはならない。


「それ以前に自分で買えば? 高松さんも1億円もらえるんだから」


「それもそうねぇ。どうしよっかな~」


 高松さんに限らず、他2人もどうするつもりなんだろうな。中野はパーッと使いそうだが、花巻さんは”みんなにあげる”とか言いそうだ。大歓迎ですぞ?

 ベッドの他、机や椅子、謎のオブジェも見て回った。やはり、デザインは大事。建物もそうだが、家具も良いデザインのがあるとテンション上がるな。俺にデザインの能力はないので家も家具も既製品に頼ることになる。プロがデザインした物の方がいいに決まってる。


 家具エリアを制覇して、1階に下りた。洋服とか、靴とか、ブランド品の物が並んでいる。ここに時間を掛けると思っていたのだが、あっさりと素通りしていく。「こういう所は葵と見たいわね」だそうだ。高級ブランド自体にもあんまり興味が無さそうだ。


 で、ショッピングエリアを歩き尽した訳だが、まだ3時半。晩飯には早すぎる。メディカルセンターは後にするしかないが、これだけの街なら時間潰すのには困らないだろう。


「次は、ここに行きましょ」


 その手には、まだメディカルセンターのフロアマップが握られていた。高松さんが指差していたのは、



「フィットネス、クラブ?」


次回:フィットネスデート

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