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4人の魔法使いの冒険  作者: 藤見倫
第3章:巻き起こせ、労働革命
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第79話:レベル上げデート

 朝食を済ませ、外へ。東門に向かう途中、


「今日は、本当にありがとね。もうちょっと、寝てたかったよね」


 この人、どこまで良い人なんだ。


「別に。お店が開くまで待つぐらいならレベル上げした方がいいかなって思っただけ。こっちこそ、せっかくのお休みなのにごめん」


「ううん。私も、あんまり役に立ててないのに皆と一緒に遊んでていいのかなって思ってたし、レベル上げしたかったから。それに、その、千尋ちゃんがデートって言ったから、レベル上げしたいって言いにくくて・・・。だから、ありがとう」


 やっぱそうだったか。


「そういうことなら、どういたしまして。デリカシーがないのも悪くないでしょ」


「そ、それは、時と場合による、けど」


「あははは・・・返す言葉がないよ」


「普段から変なことなばっかり言わなきゃいいのに・・・」


 残念ながら言っちゃう。それが俺という人間だ、諦めてくれ。



 東門に到着。こちらをチラ見しただけの兵士の横を過ぎて街の外へ。


「こっち側だけでいいよね。近いし、反対側は敵強いかも知れないし」


「うん」


「今日は、コウモリ以外とも戦ってみよっか」


「え・・・?」


「はい」


 俺は氷の剣を作り、花巻さんに差し出した。凍傷にならないように柄の部分だけは土にしてある。俺、紳士。


「あ・・・うん。頑張って、みる」


 花巻さんは杖を四次元空間にしまい、両手で土の部分をつかんで受け取った。太めにしたから、簡単には折れないだろう。


「んじゃ、しゅっぱーつ」


 早速、最初の敵が出た。ゴブリンだ。戦いやすいので良かった。


「僕が電気で痺れさせるから、その隙に攻撃してみよう」


「うん」


 2人でゆっくり歩いて近づき、


「せーのっ」


 まずは俺が前に出て、電気を帯びた杖で殴った。ゴブリンがのけ反る。


「花巻さん」


「うん」


 花巻さんはぎこちない早歩きでゴブリンに接近し、


「んっ」


 氷の剣を斜めに振り下ろした。ゴブリンの左肩に直撃し、ゴブリンが後ずさる。反撃される前に、


「ナイス花巻さん」


 俺はそう言って杖の先に火をつけ、


「フレイムブレイド」


 横に振って顔面に火をぶつけた。ゴブリンは地面に倒れ込み、悶えている。


「じゃあ最後、お願い」


 花巻さんの持つ氷の剣を、ハンマーに変えた。


「え・・・? うん・・・」


 花巻さんはゆっくりと歩いてゴブリンのそばまで行き、ハンマーを大きく振りかぶって、


「ごめんね。・・・んっ!」


 腹部にハンマーを振り下ろした。顔を避けた辺りが花巻さんらしい。血はちょっとしか出ないし、内臓が飛び出るようなことも無いから優しいゲーム設計だ。ほどなくしてゴブリンの姿が消えた。


「はぁ、はぁ」


 俺は花巻さんの方に手を向けて、


「やったね」


 と言うと花巻さんは目を見開いて数回大きく瞬きしたあと笑顔を見せ、


「うん」


 ぽん、と、その手を俺の手に重ねた。静かなハイタッチだ。悪くない。


「あ、でも・・・」


 さっきのでハンマーが折れていた。手に残った柄の部分の軽く掲げ、申し訳なさそうにこちらを見た。


「ごめん、壊れちゃった」


「大丈夫だよ。そんな丈夫に作ってないし、また作ればいいから。はい」


 氷の剣が復活。


「ありがとう。・・・メンタルヒール」


 淡い黄緑の光に包まれた。


「こちらこそありがとう。次いこっか」


「うん」



 次に現れたのは、コウモリ2匹。愛が弱点のブラウンバットだ。


「んじゃ片方はお願い」


「うん」


 花巻さんは剣を小脇に抱えて杖を取り出した。それから愛の魔法でコウモリに遠距離攻撃。さて、俺もやるか。杖を適当にパパパッと振って火で攻撃した。MPを割いたこともあり、あっさり撃破。

 花巻さんは慎重にやってるのかまだのようだ。だが俺の視界には花巻さんに迫るイエロースライムの姿があった。


「次のが来ちゃった。僕がやるからそのまま戦ってて」


「うん。でも急ぐね」


 それでいい。確実に、かつ素早く敵を倒すのも重要な技術だ。スライムを片付けて後ろを見ると、花巻さんに3匹のコウモリ向かっていた。加勢しようとしたら、


「ヒーリングサークル」


 コウモリたちの所に魔法陣が発生し、


「「「ケケケケケッ!」」」


 コウモリたちが苦しみ出す。コウモリには範囲回復魔法も効くようだ。安心した矢先に、今度は右からゴブリンが現れた。


「忙しくなってきたね。そっちお願い」


「うん」


 コウモリを花巻さんに任せ、ゴブリンの元へ。デートの邪魔をするゴブリンさん―――コイツらと戦うことが目的なんだけどね―――と遊んであげようではあーりませんか。俺もたまには標準魔法使お。


「パラライソード」


 杖の先に魔法陣が発生し、そこから長い雷の剣が出て垂直方向に振り上がる。ゴブリンはその場で痺れたように固まったままだ。1、2、3、4、5。5秒ほどでまた動き出した。てゆーか逃げんじゃねえ。地面の土を拝借し、大きな手を作ってゴブリンを握った。後ろを見ると、既にコウモリを片付けた花巻さんがこちらを見ていた。ちょうどいい。


「これ、いい?」


「うん」


 花巻さんは杖を四次元空間にしまい、預けた剣を握った。俺は大地の拳で捕らえたゴブリンを花巻さんの方に放り投げた。ゴブリンはゴロゴロと転がり、花巻さんの足元でストップ。


「わっ」


 花巻さんは一瞬身を引いたが、意を決したのか剣を振りかぶってバンバンバン、と連続でゴブリンを殴った。だがゴブリンの姿は消えず、手をついて立ち上がろうとした。


「パラライソード」


 花巻さんに当たらないように、さっき5秒マヒさせた技を出した。目論見通り、ゴブリンが痺れて固まる。大声出すのは面倒なので、


<刺せば、一撃だよ>


 これも、一度はやっておいてもらった方がいい。花巻さんは、手に持つ剣を見つめたままだ。ゴブリンが動き出したので、


「パラライソード」


 もう一度動きを封じた。花巻さんは横たわるゴブリンの横に回り込み、


「んっ・・・!」


 両手を斜め下に突き出す形で剣をゴブリンの背中に刺した。ゴブリンの姿はすぐに消えた。ひとまず、周囲に敵は居なさそうだ。


「お疲れさま。ちょっと休憩しよっか」


「うん。・・・疲れちゃった」



 宿屋まで戻った。2枚しかないカードキーは俺と高松さんで分けたので男子部屋で回復。それから宿泊者はタダになるというロビーのドリンクバーへ。妙なところで気前がいいんだな、ここ。まあドリンクバーなんて大したコストじゃないか。


「どう? 戦ってみた感想は」


「ちょっと、じゃなくて結構、緊張しちゃった。みんな、凄いんだね」


「うーん。ま、そもそも僕らは攻撃手段がたくさんあるからね。花巻さんもコウモリ相手なら楽でしょ。似たようなもんだよ」


「う~~ん。やっぱり、凄いと思うよ。こんなに疲れることを、ずっとやってるんだから。モンスターじゃなくて、人が相手になることもあるんだし・・・」


 最後の方はトーンが下がっていった。よほどの悪者が出ない限り、花巻さんは人とは戦えないだろうな。むしろ悪者が出てきても怪しい。


「そうだね、楽ではなかったね。・・・でも、優先順位のためだから」


「そう、だよね。・・・スターリー神殿では、ありがとね」


 お礼を言って欲しかった訳じゃないんだが、会話の流れだ、仕方ない。


「私、まだ、あのとき大村君が言った中で、絶対に裏切らないってことしか、できないから」


 その”絶対に裏切らない”が、どんなに素晴らしいことなのかを分かっていないようだ。


「花巻さんは、裏切らないなんて誰でもできると思ってるかも知れないけど、それがそうでもないんだよ」


「え・・・?」


「信用できる仲間がいるというのは、とても心強いことなんだよ。裏切るような真似する人も世の中にいるし、裏切らないにしても都合のいいように利用するってだけなら5万じゃ済まないほどいるから」


「そんなこと、言っちゃダメだよ・・・」


 花巻さんは視線を落とし、両手に握るグラスを見つめた。


「ごめん、どうしてもこういう考え方しちゃうんだ。とにかく、戦闘能力よりも”裏切らない”ってことの方が大事だから、強い人をスカウトするぐらいなら、信じ合える仲間同士で強くなっていった方がいい」


 花巻さんが顔を上げた。その目にはまだ少し、非難の色がある。


「大村君はもう少し、仲間以外の人も信じた方がいいとは、思う、けど、」


 そこまで言って穏やかな表情を見せてきた。


「みんなで強くなりたいのには賛成だから、頑張るね」


 そういうことならば、有言実行していただこう。まだ9時半だ。


「それじゃあ、もうちょっと頑張ってみる?」


「うん!」


 花巻さんはグラスから手を離し、胸の前でグッと拳を握りながら返事をした。素でこの反応ができるんだから困る。



 10時ごろ、再び帰着。回復だけ済ませて再び外へ。明らかにレベルの上がり方が鈍っているから、とにかく敵をバンバン倒して回復する、を繰り返すしかない。



 11時ごろ、4往復目が終わったところで休憩を取ることにした。結果、俺のレベルは47に、花巻さんのレベルは37になった。もうちょっとで、花巻さんもBランク。俺もキリのいい50が見えてきたが、あと3が遠そうだ。スノーウィーンやサウスポートへの道がレベル上げには良かったな。


「きゅうけ~い」


 そう言いながらベッドに倒れ込んだ。


「あっ。千尋ちゃんに言いつけちゃうよ?」


「やめて~」


「んっふふ。あんまり甘やかさないように言われてるんだけど・・・今日は頑張ってくれたから、オマケだよ」


「やった~」


 さすが花巻さん。ここで甘やかしてくれるから、俺はクズになれるのです。


「のど乾いちゃった。大村君は?」


「飲むー」


「あったかいのでいい?」


「いい」


「はい。ちょっと待っててね」


 やばい。何この至福のひととき。

 ケトルのゴーーッという音が聞こえてきた。続いてお湯を注ぐ音。そして、コトッと湯呑みを置く音。


「はい。ちゃんと起き上がってから飲んでね」


「はーい」


 体を起こすと、2つのベッドの間の小さな台に置かれていた。さっそく手に取って飲む。素晴らしい。横になってる間に準備してもらったという経緯が、美味しさを引き立てる。


 お互いに飲み終えると、


「貸して。それも洗うから」


 と手を差し伸べてきた。マジで心配になるレベルだ。将来俺のようなクズ男に引っ掛からなければいいが。


 水の音が止まり、花巻さんが洗面所から出てきた。待ってる間また横になろうかとも思ったが、起き上がれなくなりそうだからやめておいた。


「そろそろご飯にしよっか」


「うん。メディカルセンターの近くにする?」


「そうだね、それでいこう」


 集合は2時にメディカルセンターの正面入口。移動にかかる時間が読めないし、昼飯食ってから移動して中途半端な時間が余るのも嫌だし、近づいてから飯にした方がいい。

 西に真っ直ぐ向かう大通りに出て、バス停へ。バスはすぐに来た。魔法使いの恰好をしていても普通に乗せてくれた。運賃は一律200円で前払い。


 一番小さな環状道路―――Ring road No.3―――の内側は、全部メディカルセンターらしい。東西・南北に走る十字の大通りで4つに分断されている。集合場所、 ”正面入口”じゃダメじゃん。とりあえず”メディカルセンター中央”バス停で降りた。上を見ると、連絡通路がいくつもあった。


 そして、メディカルセンター入口の脇に、


 都市間高速鉄道 ―メディカ―


 と書かれたものが目に付いた。下に向かう階段とエスカレーターがある地下道の入口で、人々の往来も多い。十字路で4つに分かれたエリアそれぞれに入口があった。2人ずつ兵士がいて、入って行く人たちがみな何かを見せながら入っているのが気になるけど、どうだろう。まさかあれが改札で、定期が見せるだけってことはないよな? 日本でも自動改札がない駅だとそういうこともあるらしいが。


「都市間高速鉄道、だって。ちょって見てもいい?」


「うん。私も気になってた」


 入口に近づくと、案の定兵士が1人近寄って来た。


「お前たち、プレイヤーか」


「はい、そうですけど」


「ならば、これより先は立ち入り禁止だ。プレイヤーは都市間高速鉄道を利用できない。分かるだろう」


 分かります。ゲームになりませんもんね。ただ、分からないのが、


「どうして僕らがプレイヤーだと分かったんですか?」


 ずっと、気になっていたことだ。スタート地点に近いグリンタウンやウォーターランドならまだしも、ここまで来ればこの世界の住人で旅をしている人―――トレジャーハンターが共通語か?―――との区別がつかなくなるだろう。


「立入りには住民カードの掲示が必要だが、お前たちはその素振りを見せなかった。トレジャーハンターでも、一応は住民登録されているからな」


 なるほど。要は合言葉を知らなかったと言うことか。逆に、そういった合言葉が必要な場面でもない限りは、区別がつかないということか。この”ザ・魔法使い”な恰好からバレることもあるかも知れないが、大した問題じゃないからいいや。どのみち都会の人たちは目の前にいる旅人がプレイヤーかトレジャーハンターかなんて気にしないだろう。


「ありがとうございます。自分たちで次の街を目指します」


「そうするといい。では」



 兵士と別れ、駅の利用者の邪魔にならないように避けた。


「んじゃメディカルセンターに入ろっか」


 普通に考えれば近い入口から入るのが妥当だが、ここは敢えて、


「せーのっ」


 ピッ、と2人そろって南西側のエリアを指差した。こういうお遊びもたまには悪くない。ただ、”せーの”の一言だけで理解した辺り、この人も侮れない。


「んっふふ。じゃあ、あっちだね」


 今いるのは南東エリアなので道路を渡り南西エリアへ。中に入ると、結構な賑わいを見せていた。ファミリー、カップル、少年少女グループ、色々いる。ここはショッピングエリアかな?

 とりあえずフロアマップを見ることにした。レストラン街は、南東と南西の4階5階だ。


 4階に上がると、レストラン街の詳細マップがあった。1つ1つのお店の代表料理の写真が並んでいる。


「せーのっ」


 俺はうどん、花巻さんはパスタ屋だった。


「じゃん、けん、ぽん」


 俺はパー、花巻さんはチョキだった。


「やった」


「負けちゃったぁ。じゃあパスタだね」


 そのまま南西エリアの4階を進みパスタ屋へ。待ち時間もなく入れた。大抵のメニューがパスタ単品でも1000円オーバー。ボリューム次第だが、ショッピングモール価格と言っていいだろう。俺はカルボナーラにバゲット、花巻さんは和風きのこソースにサラダを付けた。


「今日はお疲れさま」


 と言ってみたがこれから中野とデートか。心中お察しする。


「うん。ちょっとだけ、慣れてきたかも。いつかまた、お願いしてもいい?」


「別に。いつ何が起こるか分からないから、少しでも戦えるようになっておいた方がいいよ。超やばい展開が、きっと訪れるから」


「出た。大村君のネガティブ思考」


 ええーー。そんな、ひどい。


「この程度で言われちゃ困るよ。本気出したらもっと酷いよ?」


「そうなの? じゃあ本気出さないでね」


 う・・・。そうくるか。


「そう、だね。気を付けるよ。あんまり酷いと高松さんに怒られちゃうからね」


「怒られないために気を付けるんじゃ、ないと思うんだけど・・・」


 バゲットとサラダが届いた。


「いただきまーす」

「いただきます」


 食べていると、パスタが到着。「おいしい」とか「大村君お水おかわりは?」とか「ここ、他に何があるんだろうね」とか話しながら過ごした。


 食べ終わると、ランチタイムサービスという食後のコーヒーが届いた。俺はミルクと砂糖を入れた。シロップもあったのだが、俺はシロップよりも砂糖派だ。花巻さんは、俺が余らせた砂糖を自分のに入れた。


「あ、千尋ちゃんからだ」


 メッセージが届いたようだ。集合場所、”正面入口”のままじゃダメだもんね。


「南西の4階のとこまで来るって」


「そっか、じゃあもうちょっとここに居よっか」


「そうだね」


 今は1時半前、すぐそばまで来るんなら歩き回らなくてもいい。俺はコーヒーを飲み干し、


「じゃ、1時50分ぐらいになったら呼んで」


「え?」


 俺は椅子に座ったままその場で真下を向き、目を閉じた。


「あっ。・・・もう」


 花巻さんの”もう”、いただきました。”こら”はまだですか、聖女様。


 パラ、パラ、と、紙をめくるような音がたまに聞こえる。本でも読んでいるのだろうか。傍から見たら、男女のペアで椅子に座ったまま寝てる男と、それを放置して本を読む女の人、か。どう映るんだろうな。


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「大村君、時間だよ」


 声を掛けられ、目を開ける。


「よし、じゃあ行こっか」


 会計を済ませ、店の外へ。この辺にいれば来るらしいので見つけたベンチに座ることにした。



「あーーーっ! 魔法使いさんだぁ!!」



 何だ?


「こらメリア、大声出しちゃ・・・ハッ」


 車椅子に乗ってこちらを指差す天真爛漫少女と、その後ろで両手を口に当てて息を呑んでいる様子の女性。


「ママ早く!」


「あ、うん。すぐに行くから静かにね」


 母娘が近づいてくる。俺たちは顔を見合わせ、そろって首を傾げた。そんなに魔法使いが珍しいのか・・・? 母娘は俺たちのそばまで近づいて止まった。



「あの、もしかして、ホワイライトの奇跡を復活させた方々でしょうか・・・?」


次回:"奇跡"で目覚めた少女

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