第77話:突入、経済大国エコノミア
ウォーターランドでの用事も済み、ホワイライト経由でその先のエコノミアに向けて出発。橋までの横移動が長い箇所は風魔法で川を越えたり、森の中では蛇行する道をショートカットしたりしながら進んだ。余裕があるのでコウモリとは花巻さんにも戦ってもらった。
特に何事もなく、植物魔獣ギャランクスが出ることもなく、無事にホワイライトに到着。2回目ということもあり、さほど長くは感じなかった。
結果、1時過ぎぐらいに到着。ケーキを食べたとは言え、さすがに腹減った。
すると、
カン、カン、カン、カン。
カン、カン、カン、カン。
と鐘が鳴った。
「え、何、このタイミングでギャランクス?」
俺もそう思って後ろを見たが、異常なし。門番の兵士たちも戦闘態勢に入る様子はない。しかも何故か俺たちの方を見ている。
ぞろぞろと街の人たちが姿を現し、走って来た。いや、正確には、俺たちの近くまで来たのは一部だけだ。この東門から、おそらく西門にかけて、まるで花道を作るかのように列を作って並んだ。みんな、笑みを浮かべて俺たちの方を見ている。
「おい、なんだ? これ」
「さあ」
4人してキョロキョロしていると、左側から歩いてくる女将さんと、もう1人おじさんの姿もあった。
「突然ごめんなさいね。私から、みんなにお願いしたの。奇跡を蘇らせたあなたたちを、盛大な拍手でお見送りしましょうって」
なるほど、そういうことか。だが、この、花道・・・なんと言うか小っ恥ずかしい。それに・・・と思っていると、今度はおじさんの方が前に出てきた。
「挨拶が送れて申し訳ありません。ホワイライト市長のカテユルと申します。この度は”30年前の奇跡”の復活、おめでとうございます。そして、ありがとうございました。この街の活気も、以前より増したような気がします」
堅苦しい挨拶。控えめに言って苦手だ。
「本日このままエコノミアに向かわれると伺いましたので、ぜひ、お見送りをさせてください」
それは構わない。構わないのだが・・・、
「えっと・・・、その前に、お昼ご飯、いいですか・・・?」
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10分ほど待つように言われ、門のそばで待っていると、椅子やらテーブルやらが運ばれてきた。また、どの家庭も昼食どきだったようで、おすそ分けが皿に盛り付けられたものが次々と届いた。つまり、ここで食えと。
「さあさあ魔法使いさん、こちらへどうぞ」
「ごめんなさいね、近くだったらウチのも用意できたんだけど」
1人目は見知らぬ青年、2人目は宿屋の女将さん。
「あ、はは・・・」
4人で苦笑いしながらテーブルにつく。
「でもウマそうじゃねぇか、せっかくだし食おうぜ」
不味そうなのが出てきても食べないという選択肢はないんだけどね。でも、実際うまそうだ。ホワイライト家庭料理、遠慮なくいただこう。
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「「「ごちそうさまでした~」」」
「ごちそうさまでした」
食べ終わった。オムレツ、チキン、ロールキャベツ、エトセトラ・・・、どれも美味しかった。周りの住民の視線が集まるなか4人だけで食べる勇気はなかったので、他にも机や椅子、ブルーシートなども集めて住民の人たちも一緒に食べてもらうことにして、東門付近はなんかお花見状態になっていた。花は無かったが、夜になれば月見ならぬ星見ができるはずだ。一緒に月も見えるかもだけど。
あと、宿屋に行ってないのに完全回復していた。確か”リアルアドベンチャー”の社長がモニタリングしてるんだっけ。・・・粋なことを。宿屋に寄れるような雰囲気じゃないから助かった。
「それじゃあ皆さん並んでくださ~~い!」
制服を着たの人―――おそらく市庁舎職員―――の声掛けで住民たちがぞろぞろと移動を始め、花道を作り出した。やっぱこれはやるんだ・・・。
まだ西の方はできてないだろうが、進んでる間にできるだろうと言うことでスタートを切ることになった。
「じゃあまたね、みんな。絶対、また来てね」
「はい。女将さんも、お元気で」
女将さんは左側の列の先頭。右の先頭・カテユル市長にも挨拶を済ませ、歩き出す。
パチ、パチ、パチ、パチ。パチパチパチパチ。
パチパチパチパチパチパチパチパチ!
まばらに始まった拍手が伝播していって、すぐに大きなものになった。響く。耳にも、心にも。
「くぅ~~~~っ! いいねぇ! これ」
中野もその身に噛みしめているようだ。そうだ、喜んでいい。今この場に多くの人が時間を割いて来ているのだ。俺たち4人のしたことで、これだけ多くの人を心を動かしている。魔法使いとは、そういう存在でありたい。
「ちょっと、恥ずかしいけどね」
「私も、かな」
俺もです。それでも4人で、拍手を送ってくる住民たちに手を振ったりしながら歩き続けた。
「あっ」
高松さんの視線の先に、ホワイライトエクスプレスのウェイトレスさんの姿があった。その横にも、かっこいい制服を着ているエクスプレス関係者のみなさん。
「ローリンストックから乗る約束、忘れないでくださいね」
「忘れはしませんよ。守るかどうかは別ですが」
「あーーっ、魔法使いさんサイテーっ」
「す、すみません! 首に縄を付けてでも連れて来ますので」
「ええ、ぜひ。その時は、私にもリードを持たせてくださいね♪」
「もちろんです!」
「お2人も十分に最低だと思います」
「「いや~それほどでも!」」
「う゛・・・」
完膚なきまでのブーメラン。日頃の行い、大事。
「「「あっははははは!!」」」
中野も含めた3人が笑い出す。花巻さんも、手を口に当てて思いっきり笑っている。そして制服姿の駅員さんたちも・・・。楽しんでもらってるようで何よりです。魔法使いから道化師に転向しようかしら・・・。
その後も、喝采に応えつつ前進。やがて西門に近づいて来た。花道の列の最後尾にいたのは、
「次のステージへ、進むのね」
ルイナさんに、リリーさん。左右に分かれている。
「はい。わざわざありがとうございます。お2人とも、お元気で」
「ええ。あなたたちも、元気でいるだけじゃなくて、またニュースになるような事をしてね。期待しているわ」
「武運を祈る」
「お2人よりも先に大ニュースを作りますよ」
「んふふ。言ってくれるわね」
「では」
「ええ」
そして、両サイドで兵士が深々と頭を下げる西門を通過。
「さあ行こうか。次は経済大国エコノミアだよ。株価も魔法で変えるぐらいのつもりでいこう」
「よっしゃ! 待ってろよエコノミア!」
「株価を魔法でって・・・まあいいけど。次のステージね。・・・よし、行きましょ!」
「うん。どんなことがあっても、頑張るから」
大きな拍手喝采を背中に受けながら、さらに西を目指して歩き続けた。
やがて拍手が聞こえなくなった。止まったのか、自然に聞こえなくなったのかは分からない。森の中を、時折現れるザコを倒しながら進む。1時50分ちょい前か。グリンタウンで見た地図的には、日没までには街に辿り着ける距離だと思うが。ウォーターランドでもう1回地図見とけば良かった・・・。
何が起こるか分からないので、万が一に備えてコウモリが出てきても花巻さんに戦ってもらうのはやめた。何日か前の散策でチェックした時と同じく、これまでの敵しか出てこなかった。
「あ」
「お、何かあるぞ?」
30分ほど進んだところで、小さな小屋が見えた。
「関所、かな。そこで入国審査をしないとお尋ね者になっちゃうって兵士が言ってたよ」
「おお~~っ。なんか国境越えるって感じでいいな!」
「とにかく行ってみましょ」
小屋に到着。大きめの引戸が開けっ放しになっているのでそのまま通って中へ。
「む、来たな。お前たちのことは知っている。やはり、エコノミアに行くのだな」
「はい。何か審査が要ると聞いたのですが」
「そうだ。だが審査と言っても大したものではない。中央にあるカウンターに進み、名前を書いてもらうだけだ」
「あ、そうなんですね」
兵士さんの仰るように大したものじゃなかったな。カウンターに進み、受付(これも鎧を着た兵士)の監視のもとペンを手に取った。紙には真ん中に縦線がある2列の表があり、一番上を見ると左側は”氏名”、右側は”現在時刻”と書かれている。とりあえず名前を書き、
「時間も書くんですか?」
「手間を掛けるが、お願いしたい。時計はこちらだ」
兵士はすぐ右にあるデジタル時計をつかみ、数ミリ動かして俺に示した。時計の表示のまま、”14:22”と書いた。
「よし。では、進んでよいぞ」
「ありがとうございます。ところで、国境ってどこなんですか?」
下を見てキョロキョロしながら聞いた。
「この関所は、ナチュレ・エコノミア双方で管理しているが、地理的にはナチュレに属している。国境はエコノミア側の出口、外に一歩踏み出せばそこはエコノミアの土地だ」
「なるほど」
「じゃあ大村待っててくれよぉ。みんなで一緒に国境越えようぜぇ」
「そうだね、待ってるよ」
3人が書き終えるのを関所の小屋内で待った。出口は、4人横並びになれそうな幅はあった。
「お待たせ」
最後になった高松さんが合流。
「んじゃ行こうぜ、経済大国エコノミアだ!」
出口まで移動すると、そこにいた兵士が話し掛けてきた。
「この先で道が分岐する。右に行けばメディカ、正面に行けばファイナンスの街になる。ここから近いのはメディカだ。メディカを経由してもファイナンスに行くことができるゆえ、急ぎでなければメディカに行くことを勧める」
「メディカでいいよね?」
ファイナンスに急ぐ用事はないし、早く街に着きたいし、全ての街を巡りたい。
「ええ」
「んだな」
「私も、大丈夫」
「んじゃ、”せーの”でいこっか」
4人で横並びになって前を向いた。
「「「「せーのっ」」」」
ぴょん、と跳ねて一歩前へ。思いのほか、着地のタイミングは揃った。
「よっしゃあぁ! ついに来たぞエコノミア~~!!」
中野が両手で腰の位置でガッツポーズして叫んだ。
「ホントに、”やっと”って感じ。これまで、色々あったものね」
「これからも色々あるから大丈夫だよ」
「それは大丈夫じゃないと思うんだけど・・・」
「大村君の言うことなんか気にしちゃダメよ、葵」
「あ、うん。そうだね」
いや、”そうだね”って・・・。
「とにかく進もっか」
「「うん」」
「おう」
そのまま関所を背に歩き始めた。前にホワイライト兵に聞いた通り、基本的に下りだ。関所から先の森は、ホワイライト周辺ほど暗くない。最初に出て来た敵は、イエロースライム。
「おっ、黄色になったぞ」
「次のステージに進んだって感じがして良いじゃない」
「でも、スターリー神殿でも会ってるから余裕だね」
あっさり撃破。その後、ゴーレムもクレイからストーン変わったのも分かった(これもスターリー神殿にいたけど)、後はお馴染みのゴブリン。狼が出なくなったなと思っていると、
「ガルルルル・・・」
「うおっ! 狼も黄色かよ」
「これは初登場だね。そうこなくっちゃ」
「何で楽しそうなのよ・・・」
君の弱点は、水かな?
「アクアスライサー」
杖を下から上に向かって振り、地面と垂直に刃状の水を飛ばした。が、避けられた。
「はははっ! 大村だっせ」
白や黒の狼よりは弱いだろうと、ナメてた。そういうのは命取りになる、気を付けよう。距離があるとMPを食う。俺はいつものように、狼に向かって走り出した。狼もそれに反応して走り出す。
「右からも来たぞ!」
「じゃあそっちはお願い」
右から来ているらしい狼は仲間に任せ、俺は前方の敵に集中だ。狼が木の根っこをジャンプしたところで、
「アクアスライサー」
今度は直撃した。狼がのけ反って宙を舞っているところに、飛ばした刃状の水を動かしてさらに5回切りつけた。狼はその場に落ちて、消滅。
後ろを見ると、もう1匹来ていたのも片付くところだった。
「よし、この調子で進もう」
「うっしゃ!」
その後も、ちょくちょく出てくる敵を倒しつつ、坂を下る。道は、ホワイライト東側の森ほどはうねってない。
しばらくすると、分岐点に到着。ちょうど3時ぐらい。
「確か、右に行きゃメディカだな」
「ええ。メディカかぁ・・・医療の街かな?」
俺も”メディカル”の単語が浮かんだよ。
「僕もそんな気がしてるけど、どうだろう。行ってみてのお楽しみだね」
真っ直ぐ行けばあるファイナンスは、名の通り金融がテーマだろう。そのファイナンスを抑えて経済大国の首都となるビジナも気になる。ビジナ、何だろう。
分岐点の後も新しいモンスターが出てくることはなく、順調に坂を下って行った。感覚的には、もうちょっとで下りきると思うが。
「さすがにちょっと疲れてきたわね」
「だな」
「ホワイライトを出てからも1時間は経ってるからね。だいぶ下ってきたし、もうちょっとだとは思うけど」
「その最後のちょっとが長かったりするのよね~」
「そうだね。ついでに言うと下りきってもゴールとは限らないからね」
「気休めを言いたいの、追い詰めたいの、どっちなの」
「追い詰められたいの?」
「イヤ!」
結局それからさらに30分、ようやく森の出口を迎えた。だが、
「おっ、街だぞ! あれがメディカか!?」
「みたいね。高い建物がいっぱい」
そう遠くない位置に、次の目的地メディカの姿が見えた。高松さんの言うように、高い建物が目立つ。細長いビルではなく、そこそこの面積もある。
そこに向かうまでの道は、道を指し示すようなものはなく、緑のない荒野が広がっていた。雑草ぐらいはあるが、地面と同じ枯葉のような色だ。この黄土色の上を進むしかなさそうだな。
途中あった幅広で浅い川では、ウォーターランド西でも出たイカと、スターリー神殿地下3階でお会いしたグレーダイルが出て来た。が、大した敵ではない。という訳で新モンスターはイエローウルフだけだったな。
まあいいや。あまり強いのが出て来てホワイライトまで逃げ帰るのは勘弁したいからな。
そして・・・、
「よっしゃ着いたぁーーー!!」
中野が、今度は両手を上に上げてガッツポーズ。気持ちは分かるが、忙しい奴だな。石造りの立派な門には4人の兵士がいる。ナチュレよりも警備が厳重そうだ。
「さぁここからだね。気を引き締めていこう」
「「うん!」」
「おう!」
新たな冒険の始まりを予感しながら、4人そろってエコノミア最初の街・メディカに入って行った。
次回:エコノミア最初の街、医療都市メディカ




