第73話:再びウォーターランドへ
インタビューを終える頃には、Dr. スターリーたちは姿を消していた。職員によると、控室に入ってもらってるらしい。インタビューの様子を撮り終えたメディアは市庁舎建屋玄関の方に押し寄せている。
「では、私たちはこれで失礼するわ」
ルイナさんだ。一応、待っていてくれたらしい。
「はい。ではまたどこかで」
「私たちはスターリー神殿にいるわ。あなたたちは世界中を旅するんでしょうけど、たまには遊びに来てね」
「気が向いたら」
「ふふ。またね」
それに合わせてリリーさんも会釈してきた。4人で挨拶を返し、見送った。
「んじゃ宿屋に戻ろっか。疲れた」
「そうね。豪華なお昼も待ってるし」
高松さんの返事を合図に、宿屋に向かって歩き出した。今日の昼食は、女将さんがごちそうを用意してくれるらしい。
「ぜってぇウマいの出てくるよな~。楽しみだぜ。・・・で、昼飯のあとはどうするんだ? ウォーターランド行くのか?」
「うーーん」
別に明日でもいいのだが、晩飯まで豪華料理の接待が出てきたら敵わんからな。
「行っちゃう? 今日」
「あたしはいいわよ。なんか、じっとしてられないし」
「俺も俺も。それにBランク装備も欲しいし。レベル40からなんだろ? もうちょっとじゃん」
「私も、大丈夫。でも、レベル足りないかも」
実は花巻さんの場合、レベルだけの問題じゃない。
「レベルだけなら、魔法ぶっ放してMP回復を繰り返せば何とかなるんだけど、お金も結構問題で、モンスターと戦わないと増えないんだよね。みんな今いくら持ってる? 僕は87万ぐらいなんだけど」
「マジで!? 俺70万ぐらいだわ。って俺も結構あるな!」
「あたしは、75万ぐらいね」
「知らないうちにめっちゃ増えたよね。ボス戦報酬とかもあるのかな。でもBランク装備、カグラは150万だし昨日のフォールスターは50万、他のがどうかは知らないけどそんなに安くはないと思う。・・・で、花巻さんは?」
「私は・・・20万円ぐらい」
うつむいた様子で答えた。まあ、そんなもんだよな。
「一緒にモンスター退治してれば増えるみたいだけど、レベル上げのためだけにモンスター抜きでMP回復を繰り返してもお金は増えないだろうね」
「そっか・・・」
「みんながそんなに持ってるって知らなくて・・・ごめんね」
「謝ることじゃないよ。ゲームシステム上、花巻さんが自分の役割を全うするとこうなるんだから。ひとまずウォーターランドに行ってから考えよう。10万か20万ぐらいのもあるかも知れないし」
Bランク装備の価格帯は気になるところだ。Cランクの全属性魔攻5%UPが3万円だったが、これが10%UPになったものは、いくらだ? カグラやフォールスターのような値段じゃないことを祈ろう。あとは、機能。そろそろお役立ち機能が出てきてもいい頃だ。それこそ高くて手が出ないかも知れないが。
「そうね。葵、行こっ」
「うん」
話がまとまったところで雑談に切り替わり、女将さんに呼ばれるまで宿屋の部屋でまったり過ごした。
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「うっひょ~~~! まじウマそうだな!」
女将さんの呼ばれて通された和室には、豪華懐石料理、って感じのものが並んでいた。
「ちょっと、ボリューム多くてキツいかもだけど」
高松さんの顔がちょっと引きつっている。最悪は中野処理班の出番だな。
「みんな若いんだから、これぐらいは食べないとダメよ」
「ま、時間はたくさんあるし、ゆっくり食べようよ」
2つの長机が向かい合わせに置かれている。それを4人で囲み、手を合わせ、
「「「いただきま~す」」」
「いただきます」
1人だけ「ま」を伸ばさなかったのは花巻さんだ。この人がハイテンションになる姿をあまり想像できない。
「んん~~~っ!」
高松さんが手を口に当てて目を見開き、感動の声を上げる。実際、かなり美味い。これは胃袋が限界に近づいてもバクバク食ってしまいそうだ。で、腹が痛くなって動けなくなる未来まで見えた。問題ない。
「ヤベぇ、ウメぇ!」
「美味しい」
俺たち4人がさぞ美味しそうに食べているのか、女将さんは満面の笑みだ。
「良かった♪ 最近の若い子って、和食苦手な子も多いから不安だったの」
和食は、作り手の腕に結構左右されそうだからな。
「きっと、最近の若い人は腕のいい人の和食を食べたことがないんですよ」
「あら♪ お上手」
女将さんを褒めたはずなのに、高松さんが細い目をこちらに向けてきた。
「・・・大村君ってさ、実は女の人たぶらかすの好きだったりする?」
「え・・・?」
「あ、それ俺も思ったわ」
しねえよ。何でそうなるんだよ。俺は良くも悪くも男女平等を掲げる紳士だぞ。
「や、そんなことないんだけど・・・」
祈りを込めるように花巻さんの方を見ると、
「あ、えっと・・・」
目を逸らされた。まじっすか。
「味方がいないみたいだけど、否定させて」
「うふふふふっ、ボウヤもお年頃だもんね」
だから何でだよ。
「それじゃあ、あとは若い子たちだけで、ごゆっくり」
そう言って女将さんは部屋を出て行った。
「自覚がないフリなのかしら?」
「僕はただ、楽しくお話ししたいと思ってるだけだよ。男女を問わず」
「思いっきり自覚あるじゃん」
そんなのは気のせいだ。
「きっと女の人との会話が高松さんの印象に残ってるだけだよ」
「そーお? でも女の敵とか言われない?」
「敵だとか言うぐらいなら寄って来なければいいんだよ」
「な゛っ・・・! っ・・・!」
高松さんが握り拳を作った。ご飯まだ残ってるよ? ね? 食べよ?
「だはははは! 大村マジお前タラシだわ」
お前は黙ってろ。で、花巻さんの方を見ると、非難するような細い目を向けてきていた。割とガチでヘコんだ。てかこの人こんな顔するんだ。
「とりあえず否定するけど、早く食べないと冷めちゃうよ」
「・・・そうね。大村君と話してても遊ばれるだけだし」
だから遊んでなど・・・あ、いや、遊んじゃいるか。だがそれはあくまで会話そのもので遊んでいるのであり、決して相手をたぶらかそうなどとは考えていない。女性サイドが“たぶらかされてるかも”と思うのであれば、きっと、きっとその人も俺との会話を楽しめていると思うんだ。
「あ、中野君これ食べる?」
俺は話題を逸らすように、中野にホタテを分けた。今度は俺の好き嫌いについて色々言われることになったのだが、慣れっこだ。ちなみに中野からは、“ガキかよ”と言われた。うん、ガキでいいよ。タラシって言われるよりずっとマシだよ。
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「くうぅ~~~~っ、ウマかったな~~!」
「中野君、ホントよく食べるわよね」
中野の協力もあって何とか完食し、お茶を飲みながら食堂で過ごしている。しばらくまったりしていると、女将さんが戻ってきた。あ、しまった。片づけてなかった。お盆を持って行く位のことはしようと思っていたが、もう無理だな。
「もう、この街は出ちゃうの?」
食器を台所に運び終えた女将さんが聞いてきた。
「はい。一旦ウォーターランドに行って、明日はまたこの街に立ち寄りますが、そのままエコノミアに行こうと思います」
「そう・・・。寂しいけれど、旅人だものね」
「はい。探している人が、まだ見つからないので」
「あなたたちなら、きっと見つけられるわ」
その後も食い過ぎの腹痛が治まるまで談笑して過ごし、
「では、僕らはこれで」
玄関にて、別れの挨拶。
「それじゃあ、またね。明日も、見送りに来るからね」
「ありがとうございます」
「また美味しいお料理、食べに来てもいいっスか?」
「もちろんよ」
「アッツアツの温泉もお願いします!」
「ええ。美肌にもいいからおいで」
「ありがとう、ございました」
「お嬢さんも、元気でね」
笑顔で手を振る女将さんと、深々とおじぎをするお手伝いさん。こちらもそれぞれ手を振ったり会釈をしたりしながら宿屋を後にした。
そのまま寄り道せずに東門へ。グリンタウンを去る時と同じく、門番の兵士が深々と頭を下げてきた。
丘を下り、森の入口に到着。
「よーし、じゃあ森を下るよ」
「よっしゃ! コウモリでもゴーレムでも掛かってきやがれ!」
やはり昼間でも森は薄暗かったが、大体の距離は分かるし、モンスターも大したことないので何の苦もなく進めるだろう。
「あ、それ使うんだ」
高松さんの背中にある、小さなリュックが目に付いた。
「うん、せっかく買ったし。邪魔になりそうな時は収納するけど」
「ふーん」
まあいいや。気分が乗ったとか、そんなもんだろう。
さて進む訳だが、その前に試したいことがある。
「緑のコウモリにも愛属性が効くか試してみようよ。弱点じゃないってだけで、もしかしたらいけるかもよ? そしたら花巻さんも直接攻撃できるから」
早速、コウモリが来た。
「やってみる。・・・んっ」
花巻さんの杖から放たれた淡い水色の光が、コウモリに直撃。
「キキッ!」
心なしか怯んだように見えたが、よく分からない。
「何回かやってみて」
「うん」
花巻さんは、とりあえずといった感じで3連発したが、最初の1発が当たったところでコウモリはその場に落ちて消えた。
「あ」
花巻さんが驚いたような表情を見せる。
「どうやら、コウモリには愛属性が効くみたいだね。せっかくだから花巻さんにも戦ってもらおうか」
金稼ぎもあるが、戦いそのものに慣れておいてもらった方がいい。
「葵、頑張って」
「うん、頑張るね」
「ウッシャじゃあ行こうぜ!」
再び山の麓を目指して歩き出した。
「そう言えば、レベル40で合成魔法使えるようになったんだ」
「お、マジマジ? 使ってみてくれよ」
「そうだね」
早速、次の敵が現れた。こんにちは、ゴブリン。
「ホットレイン」
ゴブリンの頭上に半分赤・半分青の魔法陣が現れ、そこから雨が降った。湯気が出ているから、熱湯のように熱いのだろう。ゴブリンも辛そうだ。ちょっと、見ていられないから早く仕留めてしまおう。
「ファイアショック」
今度は半分赤・半分黄色の魔法陣が現れ、バチバチに電気を帯びた炎が飛び出した。ゴブリンに直撃、煙が立ち込め、晴れる頃にはゴブリンの姿は無かった。ちなみにゴブリン1匹で増えた金は1,200ちょい。こりゃレベル上げしてたら金溜まるわ。
「ううぇーーい。いいねぇ、俺も40なったら何か覚えっかな!?」
「あるといいね」
光と闇の合成魔法ならありそうだが、どうだろう。俺がレベル40で習得したのは5つだけ。5属性あれば10通り組合せがあるはずだが、40での習得は半分だった。
その後も他の合成魔法を試してみた。スパークウォーターは電気を帯びたフライングリバー、サンドストームは高さ2.5メートルほどの砂嵐、エレキトラップは地面に現れた魔法陣がすぐに消えて敵に乗ったら痺れるものだった。どれも便利なのだが、最低消費MPが50なのが痛い。仕方なく花巻さんにMPを回復してもらった。
森を下りきった。
「この激流は、変わらないのね」
「さすがに飛び越えるのはまだキツいし、下りよっか。あの化け物がいなくて良かったよ」
ちょっとトラウマになってるんだよな、あれ。
「ギャランクス、だっけ。まじヤバかったよね」
「実は俺もアイツいるかもってビクビクしてたんだよな」
「私も」
俺もだぜ。だがいないようなので崖に沿っている坂道を下り、岩を1つ1つ飛び越えて向こう岸まで渡り、また崖の上まで行き着いた。
「よし、街はもうすぐそこだね」
イカやらワニやらを倒しながらウォーターランドを目指す。
「あ、あたしもレベル40で魔法増えた。ブライトウィンド、だって」
「いいなあ~! 俺もあとちょっとなのに」
「とりあえずそれ使ってみてくれる?」
「オッケ」
次のイカが出て来たところで、
「ブライトウィンド」
白と緑が半々の魔法陣から、強風と共に白い光の玉がいくつも飛んで行く、そんな技だった。
「へえぇ~っ。結構使えそうじゃない。・・・げ、MP50も使うの?」
「そこが気になるんだよね~」
「でもいいじゃねぇか合成魔法。俺も使いてぇ~!」
ところが、中野のレベルが40になる前に最後の橋に来たので、少しとどまってレベル上げをした。
「いよっしゃあ! 40なったぜ! ・・・って、あれ・・・?」
「どうかした?」
「オイなんでだよ! 魔法増えてねぇじゃん!」
「あぁ~、じゃあ光と闇の合成魔法、レベル40じゃ出て来ないのかもね」
「ええ~~!? なんでだよぉ~!?」
「理由なんて知らないよ。僕だって、火と風とか、水と土とかは出てないんだから。組み合わせ次第ってことじゃないの?」
「マジかよ~。くっそぉ~」
「光と闇だし、レベル50とか60にもなれば出てくるって」
「でもよぉ~。 あ、そうだ大村、風貸せよ。2人でやりゃできるかも知れねぇだろ?」
あ、お前、いいこと言うな。それは試してみる価値がある。
「そうだね。もしかしたらできるかも知れないし、やってみよっか」
モルモットはもちろんイカさん。2人で横に並び、杖を前に向け、“これからブライトウィンドしよう”と意気込んだら魔法陣が出て来た。
「できるみたいだね、“せーの”でいくよ」
「よっしゃあ!」
「せーの」
「ブライトウィンド」
「ブライトウィンド!」
魔法陣から、さっき高松さんがやったのと同じ、強風と無数の白い光の玉。
「ううぇ~~~い。いいねぇ」
「しかも、消費MP半分ずつじゃん」
俺のMPは25しか減らなかった。中野もそうだろう。
「なぁなぁ、闇の方も何かないか試してみようぜ」
「魔法の名前も分からないのに?」
「あ・・・無理じゃねぇかぁ~!」
中野は両手で頭を抱える仕草を取った。忙しいやつだ。
「それじゃあ、あたしと大村君でも今のやつできるんだ」
「できるんじゃない? MPもったいないからやんないけど」
「わざわざ言わなくたっていいじゃない・・・」
言っとかないと、“やるの? やんないの?”みたいな空気になるじゃん。「第一もうすぐ街じゃんか・・・」とかまだブツブツ言っておられる・・・。“面倒だからやんない”にしとけば良かったか。それでも何か言われそうだけど。
ウォーターランドに到着。ウェステストパークを突き抜け、装備屋を目指して水上バスに乗り込んだ。懐かしい景色が流れる。
「初めてここに来た時から、まだ6日しか経ってないのよね~」
「なんだか、懐かしい感じがするね」
女性陣が、デッキから街を眺めながらそんなことを言った。俺もさっき懐かしいとか思ってしまったが、まだ6日しか経ってないのか。
「だよなぁ、やっぱそうだよなぁ~」
「色々と、あったからね」
「あら、奇跡を起こした魔法使いさんは言うことが違うわね」
「やめてくれないかな」
「「ふふふふふっ」」
今度は2人して笑ってるし。
「なぁなぁ、装備買ったらまたスノーウィーン行かねぇか?」
「あ~、確かに、僕らがどれくらい力を付けたかチェックするのはいいかもね。僕は構わないけど・・・」
そう言いつつ高松さんの方を向いた。
「でも着けるかなあ? あそこの狼とリスめっちゃ速いじゃん」
同感だ。まだスノーウィーンまでは辿り着けない気がする。
「攻略法は、魔法で無双するしかないね。MP節約とかしないで、やられる前にやる。それしか安全に進む手はないよ」
「で、街に着くのが先かMPなくなるのが先かって言う勝負ね」
「そういうこと。だから中野君、多分まだスノーウィーンまでは行けないと思うけど、それでもいい?」
「う~~~ん。まあキツけりゃしょうがねぇなぁ。魔人滅殺剣はさらに山の中だもんな~」
「ま、やれるだけやってみましょ」
という訳で直近の方針が決定。ちょうど、“クロスポイント”停留所に着いた。さて、Bランク装備とやらを拝見させていただくとしましょうか。
いざ北へ、リベンジ




