第71話:夢の豪華特急(後編)
「寝ちゃったね」
星空の下で橋を渡る列車の中で、大村君が小さな寝息を立てている。
「そうだね。きっと、疲れてるんだよ」
葵が穏やかな表情で大村君を見ている。檻に閉じ込められてるところに助けが来たのって、どんな気分なんだろう。
「一番頑張ったもんね」
「うん」
しばらく2人で、ベッドから少し離れた窓際から大村君を眺めていた。
「何でいつも、こんな奴がオイシイとこ持ってくんだろうな~」
中野君が、悔しそうな表情でそう言った。男女2人ずつのチームで、もう1人の男子ばっかりに活躍されるのは悔しいだろうね。最も、私や葵の気を引きたいんならその下心を抑えた方がいいと思うけど。
もし仮に、ノリ軽いけど結果も出せる人がいたら・・・? うーん、ちょっと想像できない。やっぱり、人にいいトコ見せるためってよりも、ただただ目的にこだわって行動する方が好感が持てる。結果が出せるかどうかに関わらず。
「ただ真っ直ぐに、葵を助けるとか”奇跡の光”を復活させるとか、それだけを考えて行動したからだと思うよ」
「何だそれ? それなら俺だって考えてたぜ?」
う~~ん、そりゃそうなんだけど、そうじゃなくって・・・。きっと、”これできたらヒーローじゃん”みたいな事を考えない人もいるって、知らないんだろうな。て言っても分かんないんだろうし・・・ダメだ、うまく説明できない。
「それじゃあ、私たちにはきっと、能力が足りなかったのね」
「そうだよなぁ~。コイツ何気に色々できっかんな~」
「あたしたちも負けないように、頑張りましょ」
「うっし、次こそ負けねえぞ、大村」
中野君はそう言って眠っている大村君を指差し、宣戦布告。その様子を見ている私自身も、自分の不甲斐なさに今にも崩れ落ちそうだ。早く1人になりたい。あの時も、目が覚める頃にはムーン・ライトが起きていた。ロープで縛られたままだったから問題なかったけど。
その後、トランシーバーでスター・ライトから連絡があり、一応は縛ったまま地下5階へ向かった。縛られたスター・ライトと、ルイナさんにリリーさんもいて、大村君とDr. スターリーの戦いを見届けることになった。
あの時はもう、どんな顔をして会えばいいか分からなかった。何を言ったか覚えてないけど、大村君の返事、”次は、最後まで一緒に頑張ろう”は覚えている。私が、途中で脱落したことを悔しがってるって、初めから知ってたみたいだった。
回想にふけっていると、スピーカーからザー音が入った。タイミング的に、国境付近に着いたんだと思う。
【間もなく、ローリンストックとの国境に到着します。停車しますので、急な揺れにご注意ください】
少しずつ減速し、停まった。
【列車が完全に停車しました。10分後に、目的地ホワイライトに向けて発車します。その間にお食事をご用意いたしますので、少々お待ちください】
そういえば、今日は晩ご飯がまだだった。
「おっメシか。 そういや腹減ったな。 大村はどうする?」
「寝かせといてあげようよ。ホワイライトに着く前に起こして食べてもらえばいいでしょ」
「そうだな」
1分もしないうちに、ウェイトレスさんがワゴンで料理を運んで来た。すっごい美味しそう。
「お待たせいたしました。こちら、お料理です。発車の際にこぼしたりしないように気を付けてくださいね」
「「ありがとうございます」」
「うっひょ~~! ウマそう~!」
ウェイトレスさんは、机の上にお盆を4つ並べた後、眠っている大村君の方に行った。
「あらあら、寝ちゃったんですね。寝顔、かわいいですね」
あ、ちょっと見たいかも。でも他の2人もいるしなぁ。ここ2~3日は同じ部屋で寝てるのに全然見てなかった。チャンスがあれば今晩か明日の朝に近くで見てみようかな。
「ホワイライトに着く15分ぐらい前に起こして食べさせるので、そのくらいで呼びに来てもらってもいいですか?」
「いいですよ、一緒に起こしましょうね」
「はい♪」
それからまた、列車はホワイライトに向けて走り出した。
この満天の星空とは言え、さすがに同じ景色だと飽きもくるので、大村君の寝顔を見たり、空いてる方のベッドの感触を確かめたりして遊んだ。もう宿屋で大村君の寝顔を見る必要はなくなっちゃった。けっこう和んだ。黙ってればかわいいのになぁ・・・口を開けば変なことばっかり言うから困る。
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ウェイトレスさんに起こされ、鍋やフライパンで再加熱したという料理を食べた。美味かった。別にレンジでも良かったのだが、「より美味しく食べていただくのがシェフの願い」とのことだった。できたてを食べさせるために無理に起こすのも、「より美味しく食べていただく」に反するらしい。
食事が出るって分かってたらそれまでは寝なかったのだが・・・いや、俺のミスだ。電車の中で食事が出るなんて思ってなかったんだ。まだまだ俺も庶民だな。早く1億円を手に入れよう。
宿屋に戻ると、もう10時半に迫っていたというのに女将さんが出迎えてくれた。
「お帰りなさい。・・・この星空、あなたたちなのでしょう? 見てたわよ、高い所から下りてきてエリオ王子と話していたところ」
女将さんも神殿まで来ていたのか。突然ひと筋の光が現れてあの星空だ、当然か。
「もう、二度と見れないと思ってたわ」
「女将さん、言いましたよね。”生きてるうちにもう一度見たい”って。”あなたたち、魔法使いなのでしょう”って」
「ええ。ええ・・・! 本当に、叶えてくれたのね・・・」
目に涙を浮かげている。
「ごめんなさいね、お客さんの前で。私ったら、いい歳して・・・」
自身の手で涙を拭った。それでも、止まらないようだ。
「年齢なんて関係ないですよ。それに、人の嬉し涙はこれ以上ない最高の報酬です。星空よりも綺麗な涙、ありがとうございました」
これで、ひと仕事達成だ。魔法使い冥利に尽きる。
「ふふ・・・ありがと」
女将さんはもう一度涙を拭い、仕事用の、かつ優しい表情に戻った。
「疲れたでしょう。お風呂もお布団も準備しておいたから、しっかり休んでね」
「はい、ありがとうございます。では、おやすみなさい」
「ええ、おやすみなさい」
他の3人も「おやすみなさい」と続いた。
「んじゃ中野くん、風呂入ろっか」
「お? 珍しいなお前から言ってくるなんて」
「いいじゃんたまには。それに、今日の露天風呂はきっと最高だよ」
「ひひひっ、そうだな」
メニュー画面の4次元収納があるから部屋に戻る必要もない。部屋に戻らずにそのまま浴場へ向かった。
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大村君たちがお風呂に向かった。私たちもお風呂に直行。先に準備ができた私が洗い場でシャワーを浴びていると、隣に葵が来た。
「お疲れ」
「お疲れさま」
お互い、顔も見ずに髪や体を洗いながら話す。さっきは中野君もいたし、大村君が起きると困るから話せなかったことを。
「また、ダメだったね。あたしたち」
「ううん。千尋ちゃんは、ムーン・ライトさんを倒したよ。私は本当に、何もできなかったから・・・」
フォローはやめておこう。葵はそんなの望んでないから。
「私だって、あれだけじゃダメなのよ。みんなが捕まったら終わりなのよ? 敵を1人倒しても、完全勝利するまで動いていられなくちゃ、意味がないの」
「・・・そっか」
葵も、私と似たようなトコあるもんね。人のおかげで上手くいったって、嬉しくないもんね。
きっと、大村君も分かってくれている。だからこそあの時、”次は最後まで一緒に”と言ってくれたんだろうし、葵にも厳しい言葉を掛けたんだ。下手に慰めようとしないところが彼らしくもあり、こっちとしても凄く助かる。
「ねえ」
「ん?」
「少しだけ、1人にしてもらっても、いい?」
「・・・うん。じゃあ先に、露天風呂の方に行っちゃうね」
「ありがと」
葵が立ち上がって露天風呂の方に向かった。やっと、やっと・・・、爆発できる。シャワーを出して、
「っ・・・・・・。うっ・・・・・・」
涙が、ボロボロと流れ始めた。頭から当て続けているシャワーに混ざって流れていく。
「うぅぅぅ・・・っ・・・うぅ・・・ヒッ、・・・うっ、うぅぅ・・・・・・っ」
気の済むまで、ひとしきり泣いた。
「お待たせ。わあぁ・・・」
露天風呂に移動すると、さっきも見た満天の星空。
「きれいだね」
葵が振り返ってそう言った。この子は1人の時、どうしてたのかな。顔を見てもよく分かんないや。そもそも私が既に、人の顔色を伺えるような状態じゃないし。
湯船に入り、葵の近くへ。しばらく無言で星を眺めようかとも思ったけど、葵が口を開いた。
「大村君ね、全ての人が真っ直ぐ生きていける世の中が理想なんだって。Dr. スターリーと戦う前、そんな話をしてた」
「・・・そっか」
私の知らない、2人の対立の詳細。地下6階で合流した時にルイナさん向けに説明があったけど、大村君のことだから自分の事は話さなかったのね。
「きっと、昔は、ううん、今でも、正直で真っ直ぐな子なんだね」
「うん。私も、そう思う。初心者狩りの時も、グリンタウンでも、今回も。許せないことがあればしっかり怒るの。まるで、自分と同じ目に遭ってる人を助けるみたいに」
そういう見方もあるのね。さすがは葵。私は、人として許せない事に対して怒ってるぐらいのものだと思ってた。
「今度は、誰もが純粋な好奇心だけで学問の扉を叩く世の中、だっけ」
「ううん、それはDr. スターリーの願い。戦う前に大村君は、大村君の理想、全ての人が真っ直ぐ生きていける世の中を、魔法があれば実現できるって言ってた」
「もっと無理難題じゃない、勝手にそんなこと言って・・・」
大口叩くのは得意と言ってた大村君だけど、
「きっと、大村君1人じゃ無理。本人もそれが分かってると思う。いつか、あたしたちの力も必要になる時がくるから、明日からまた、頑張ろうね」
「うん。・・・中野君は、どうする?」
そこなんだよねぇ・・・。どうも緊張感がなくて、”体育祭勝とうぜ”ぐらいのノリを感じるんだけど、
「中野君は、あのままでもいいと思う。彼は彼なりに頑張ってるし、他3人がストイックだから」
「あはは・・・そうだね」
それからしばらく、無言のまま星空を眺め続けた。
さっきはシャワーの水もあったはずなのに、涙が流れた後の感覚が頬に残っていて、そこだけ冷たい夜風を感じる。
目標に届くその時まで、この感覚を忘れない。
次回:記者会見とインタビュー




