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4人の魔法使いの冒険  作者: 藤見倫
第1章:グリンタウンを救え
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第7話:これからどうする? 作戦会議

「いよっっしゃあああ!」


 プライマリの門をくぐったところで中野が両手をYの字に上げて背伸びをする。


「なんかゲームの中の街って感じの雰囲気ね」


 高松さんが街の感想を漏らす。確かに、ベージュ色のレンガ張りみたいな模様の地面とか、通りに沿って屋台が並んでいる光景とかはRPGでよく見る気がする。これで街の真ん中に噴水付きの広場があれば完璧だったが、ないようだ。初心者の準備用だからか、街自体もそんなに大きくなさそうだ。


「おっ新しいプレイヤーか?」

「えっ魔法使い4人?」


 中野が大声を出したおかげで周囲の人たちの視線を浴びた。「おいマジかよ」とか、「よく来れたな」とか、「あいつら大丈夫なのか?」とか聞こえてくる。案内人が魔法使い4人は初って言ってたから街の人たちも初めて見ただろうな。

 1人、好青年っぽい感じの人が話しかけてきた。


「やあ、君たちは新しいプレイヤーかな?」


「え、ああ、はい」


 目が合ったから答えてしまった。こういうのは中野か高松さんにお願いしたいが仕方ない。


「このゲームの挑戦者のことを”プレイヤー”って呼ぶんですか?」


 ああ、こんなこと聞いてどうすんだ俺。この人がここがゲームの世界だってこと把握してなきゃ意味ないじゃん。


「うん、そうだよ。この世界の住人と区別するためにそう呼んでる。僕らは初めから、ここはゲームの世界で、”プレイヤー”と呼ばれる別世界から来る人たちがいるとインプットされているんだ」


「へえ、なるほど」


「それにしても魔法使いばっかり4人? ブルーウルフとの戦いは大変だっただろう」


 ブルーウルフは最後に戦った狼のことだろう。奴との戦いがあることもインプットされているのか、以前のプレイヤーから聞いて知ったことなのかは分からない。


「あはは・・・でも何とか倒してここまでたどり着きました」


「それだけでも大したもんだよ。でも先は長いからね。この街でしっかり準備していくといいよ。宿屋はまっすぐ進んで最初の交差点の手前、左側にあるよ。”B”って書いてある看板が立ってるからすぐ分かると思う。それじゃあ、気をつけて」


「ありがとうございます」


 礼を言うと青年は去って行った。いまだに俺たちは周りから視線を集めていたが、青年が立ち去ると少しずつまばらになっていった。


「それじゃ、まず宿屋に行きましょっか。大村くん寝たいんでしょ?」


 さすが高松さん、覚えていてくれた。だけど、


「うーん、確かに寝たいけど、先にご飯かな。お腹空いちゃった」


「お、いいねえ。俺も何か食いたいと思ってたんだよな」


「じゃあお昼にしましょっか。花巻さんも大丈夫?」


「うん、大丈夫。ありがとう」


 道は正面と、左右にもあった。宿屋は正面にあるらしいが、屋台が多くてレストラン的なのはなさそうだ。が、それは左右の道も同じだった。もしかしてこの街レストランないの?


「とりあえずあの交差点まで行ってみよう。宿屋の近くには何かあるかもしれない」


「そうね」


「てか何で野菜とか手作りネックレスとかの屋台ばっかなんだよ。プレイヤーのための街じゃないのか? ここ」


「まあプレイヤー用のお店の人たちにも生活はあるからね。プレイヤーは反対側の門から出ていくしかないから、こっち側はこの世界の住人用かも」


「ふーん、まあいいや」


 そんなことを話しながら俺たちは交差点に向かう。やっぱり花巻さんほとんどしゃべらないな。俺も学校ではあまりしゃべらない方だが、俺よりしゃべらない。ていうか俺こっちに来てからよくしゃべってるな。まあ、まだ始まったばかりだし仕方ない。慣れてきたら口数も減るだろう。そう思っていたら早速会話のメインは高松さんと中野だけになった。「ここの住人はプログラムで動いてるのかな」とか、「でも人間っぽい感じだったな」とか聞こえてくる。高松さん、中野の相手はよろしく頼むよ。とか思ってたら、


「大村君はどう思う?」


 こっちに振ってきたーー。中野と2人で会話とか辛いもんね、しょうがない。と思ったら救いがきたーー。屋台が並んでるところにレストランっぽい建物発見。フォークとスプーンが並んでる絵の看板があるから間違いない。


「あ、これレストランじゃない?」


 俺は会話から逃げるようにその建物を指さして立ち止まった。高松さんと中野もそれまでの会話は忘れたかのように「あ、いいじゃん」とか「もうここにしようぜ」とか言ってドアに向かう。振り返って俺や花巻さんが来てるか確認するところが高松さんらしい。実際、それまで2人とも立ち止まってた。

 4人掛けのボックス席に通され、注文も済ませたところで一息ついた。宿屋よりも先に食事にした目的が腹を満たす意外にもある。


「ところで、これからどうしようか?」


「え? 宿屋に行くんじゃないのか?」


「この後のことじゃなくて、明日からのことだよ。ひとまずは次の街に行くことを目標にしたいけど、みんなはどう思ってるかなって」


「そうだなー、クリア条件も決まってねぇしどうすりゃいいか分かんねぇからなあ」


「うん、特に目的があって始めた訳じゃないし、次の街で考えてもいいんじゃない?」


 2人とも大体は俺に同意のようだ。残るは花巻さんだが・・・、


「そういえば千尋ちゃんは、ゲームとかすんの?」


 中野が話を逸らしやがった。あまりしゃべらないタイプは無視されやすいが、今は4人しかいないから聞かなきゃだめだ。特に花巻さんは、高松さん以上にゲームをしなさそうに見える。俺らみたいに大した目的がないならいいが。


「え、私? 最近はあんまりしないけど小学生の時はRPGとかやってたよ。このゲームはバイト先でゲーム好きの先輩から教えてもらったんだ。冒険とか面白そうだし、自分でどこまでできるのか試してみたいって思って」


 それで何日拘束されるか分からんゲームに挑戦するのか、中々に肝が据わってらっしゃる。目的は自分試しといったところか。


「へえ、そうなんだ。俺も冒険面白そうって思ってやってみたんだよな。ひひひ、仲良くしようぜ」


 高松さんのことが聞けたから中野も少しは役に立ったな。そして花巻さんに振りやすい流れにもなった。花巻さんのようなタイプにあまり深いこと聞くのは良くないが、これから一緒に冒険するんだ、聞いておかなければならない。


「花巻さんはどうしてこのゲームやろうと思ったの? あんまりゲームとか興味なさそうだけど」


「わ、私は・・・」


 花巻さんは口をつぐむ。ゲーム好きというのが恥ずかしいのか、何かあるのか。高松さんと中野も黙って花巻さんに注目している。


「もし、みんなに迷惑だからとか思ってるんなら遠慮はいらないよ。中野くんは文字通りゲーム感覚。高松さんは自分試し、僕は賞金1億円のために挑戦してるからぶっちゃけ大した目的はないから。むしろ、目的がなくて困ってるから何かあれば言ってくれると助かるんだけど」


 花巻さんのようなタイプから話を聞き出すのは難しい。今ので話してくれるだろうか。


「大村君もああ言ってるから、何かあるなら言っていいんじゃない? あたしも、花巻さんに何かあるんだったら手伝いたいな」


 高松さんがフォローを入れた。中野は黙ったままだ。なかなか口を開かない花巻さんに痺れを切らしてのか、つまらなさそうに頬杖をついて窓の外を見ている。お前な・・・。まあいいやお前はしゃべるな。「言いたくないんなら無理に聞くことなくね?」とか言われたらたまらん。


「弟が、・・・いるの」


 花巻さんがようやく口を開いた。・・・弟? 思うだけじゃなくて答えよう。


「弟?」


「うん。2つ下の弟が、2年前にこのゲームに挑戦してから戻ってこないの。それで去年から家族みんなで応募してて、今年、私が当たったの」


 そうだったのか。高松さんも、頬杖をついていた中野も驚いているようだ。続きを聞こう。花巻さんは聞けば答えてくれそうだ。


「つまり、クリアできてないしゲームオーバーにもなってないってこと?」


「うん、そうだと思う。案内人の人に弟の名前教えて聞いたら、まだこの世界にいるって」


「そっか・・・」


 花巻さんの事情を聞けたのはいいが、予想外に空気が重くなってしまった。


「それじゃあ、ひとまずは花巻さんの弟を探すのを目標にしよっか。その為にも、まずは次の街を目指す。そしてできれば、世界中の街を制覇だね」


「え?」


 花巻さんが驚いたように顔を上げる。


「2人とも、いいよね」


 驚いているせいか黙ったままだった2人にも声を掛けた。


「もちろんよ。元々クリアするつもりではあったけど、なおさら簡単にはゲームオーバーになれなくなったわね」


「よっしゃ決まりだな。葵ちゃんの弟をみんなで探そうぜ!」


 よしこれで決まったな。というか中野、さっきまで興味なさそうだったくせに調子いいなお前。別にいいけど。


「え、でも・・・いいの?」


 満場一致と思ったら当の本人がついてこれてなかった。自分の意見が通ることなんてなかったのかもしれない。そう思って少し同情した。


「僕は構わないし、2人ともいいって言ってるからいいんじゃない? ちゃんとした目的があった方が旅はしやすいし、むしろ助かるよ」


 花巻さんは何度か大きくまばたきをする。まだ驚いているようだ。花巻さんが高松さんの方を見る。高松さんは無言でうなずき返す。今度は中野の方を見る。中野もひひひっと笑ってうなずき返す。そして、


「みんな、ありがとう。それじゃあ、私の弟、花巻匠を探すのを手伝ってください」


 そう言って花巻さんは律儀に頭を下げた。


「よっしゃ任せろ!」


「そんな大げさに頭下げないで、ホントに大したことじゃないから」


「そうそう、むしろ僕としては目的持って旅ができるから良かったよ」


 ちょうどそこへ料理が運ばれてきた。中野は多分何も考えずに、俺と高松さんは花巻さんに余計な気を使わせないように、料理の方に意識を移し「いただきます」と言って食べ始めた。おいしい。数秒後、花巻さんも両手を合わせて小さく「いただきます」と言って食べ始めた。その表情は既に柔らかくなっている。


 さて、1億円の他にも目的ができたし、頑張りましょうかね。


次回:それぞれの心境(前編)

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