第69話:奇跡の光
渡された杖を地下6階中央の台座に置くと、エレベーターのように動き出して地上に上がって来た。左手を杖から離して腰に当て、周囲の様子を伺った。
「さあ、その魔法を唱えるがよい」
コク、と首だけを縦に振って答えた。本当に、Bランク装備が使えるようになっていて良かった。
「くるんだよな、くるんだよな!」
「そう、みたいね」
中野の問いかけに高松さんが返事。花巻さんは無言で、両手を顔の前で組んで祈るような仕草。
上を見た。既に十分すぎるほどに、綺麗な星空だ。これを超えるものが、かつてこの空に広がり、今からそれが蘇るらしい。風は穏やか。微妙に揺れるローブの裾が、時折ひざ裏に当たる。
「他の者は少々離れておれ」
Dr. スターリーのその言葉で、一同がゆっくりと離れ始めた。その動きが止まった後、再び杖の方を向き、それを握る右手に少しだけ力を入れた。
「フォールスター」
その杖と同じ名前の魔法を唱えると、俺を中心に半径3mほどに大量の小さな光が降ってきた。
「おわっ、痛ぇ!」
攻撃魔法だったか。中野に当たってしまったようだ。
「す、すまぬ。正確な範囲は覚えてなくてな」
光が降ってくるのが止むと、また地面が光った。今度は点滅なし。
「うおっ! うおおおおおおぉぉぉ、キターーーーー!!」
中野の奇声を皮切りに、外にいたギャラリーたちも声を上げ始めた。
「本当に、本当なのね」
高松さんが近くまで寄って来た。Dr.スターリーが何も言わないから、もう近づいても大丈夫なのだろう。
「多分ね」
「多分、本当なの?」
「多分」
「んもう・・・」
台座と、杖も光り出した。そして、杖の先端が強く光る。
「花巻さん、目をつぶっていたら見えないよ」
「う、・・・うん」
花巻さんもこっちに来た。ゆっくりと、歩いて。
「おい俺だけ仲間外れはやめてくれよ!」
中野も来た。ダッシュで。
次の瞬間、杖の先端から、ひと筋の光が上空に向かって放たれた。
「おわっ! なんだ!?」
その場にいる全員が一斉に空を見上げた。上空に一直線に向かう光が、ゆっくりと細くなり、やがて消えた。同時に、地面や台座、杖本体の光も消えた。
「蘇るぞ、”奇跡”が」
Dr.スターリーのその言葉を最後に、全員が黙ったまま空を見上げていた。
まず1つ。2つ。3つ4つ5つと、ひと筋の光が向かった先を中心に、星と星の間を埋めていくように、1つずつ、みるみるうちに星が増えていった。
今はまだ一部だけだが、圧倒的な星の密度。その超密度の星空が、少しずつ広がっていく。俺も出せ、俺も出せと、星たちが言っているかのようだ。これまでも十分に満天の星空だったが、比べ物にならない。
まだまだ、まだまだ、空全体の1/10にもならない。星の数が増えていくペースは、まるでガトリングで打ち抜かれているようなのだが、星の密度が尋常じゃないのと、空が広すぎる。
誰も、言葉が出ない。感嘆の1つぐらい出てもいいだろうに、誰も言葉を発しないまま、空が星で埋め尽くされるのを待った。
そして、空全体が超密度の星に覆われた。しばらく上を見上げたまま固まっていたが、ゆっくりと杖から手を離した。当然、景色は変わらない。
一旦目を閉じ、ついでに視線を落とした。どれほどの時間が経ったか分からないのだが、ずっと上を見ていたせいか首が疲れた。星の明かりで、地上の景色もよく見える。
腰を下ろし、手を頭の後ろで組んで仰向けになり、
「フーーーーーッ」
大きく息をついた。沈黙を最初に破るのが、俺になろうとは。
「マジヤバすぎだろ、これ」
「夢でも、見てるみたい・・・」
「夢だとしても信じられないぐらいだよ」
「本当に、すごい・・・」
それからまた誰も言葉を発さなくなった。
何分経っただろうか、
「うわっ、何だコレ!? おい、凄いことになってるぞ!!」
神殿の中から、人が出てきたようだ。
「え? うおっマジかよ!? ”奇跡”復活?」
「そうじゃなきゃ何なのさ!?」
「なにこれ・・・凄い」
「こんなことが、起こり得るのか・・・?」
わらわらと出てきているのか、一気に騒がしくなった。
「ちょっと、静かな所に行きたいね」
「そうね」
高松さんの返事を聞き、体を起こそうとしたらまた、体が上に上がる感覚がした。
「っ、っと」
「なんだ? また動いたぞこれ?」
「はっはっは。杖を差した者の願いが通じたようだな。特等席で見られるぞ」
「どこまで上がるのかしら」
「息ができる範囲で止まるといいね」
「怖いこと言わないで」
仰向けになったまま、近づいていく星空を見続けた。周囲の喧騒が聞こえなくなってしばらくして、
「そろそろ、いいかな」
と言ったら止まった。本当に、俺が言ったら止まるんだな。
「え~。もうちょっと上行こうぜ~~」
「もういいじゃん、キリがないよ」
「まぁな~」
「浮いているかと思えば、柱のようになっているのだな」
リリーさんの声だ。声がした左の方に顔を向けると、下を覗いていた。
「どれくらいの高さなんですか?」
「50mはあるな。随分と上がったようだ」
「本当に、特等席ですね」
それから30秒ほど沈黙になったが、
「よいしょっと」
高松さんが俺の右隣に座ってきた。足の向きは俺と同じだが、少し曲げている。さらに花巻さんに手招き。
「大村君の横、もう1つ空いてるよ? ”男やめる”って言ってたし、女子で挟んでひっくり返しちゃおう」
(あたしもさっき”女やめる”って言っちゃったけど、中野君覚えてないよね?)
花巻さんが俺の左側に来て、座った。星空ではなく、高松さんの方を見ている。
「あはは・・・。私はどっちかと言うと、ぐうたらを直したいかな」
「あ、それいいかも」
勘弁してくれ。
「もう病気のレベルよね。治るのかしらこれ」
「病気じゃないから治らないよ」
「な・・・」
「意志がないから治らない」
「っ・・・! っ・・・」
高松さんが握り拳を作る。
「・・・でもいいの? クラゲになったら見れないよ、空」
「星の海でも泳げる、新種のクラゲを目指すよ」
「はあ・・・葵~~」
「え、っと・・・」
「こんな時ぐらい、一緒に空を見ようよ」
「だったらこんな時ぐらいバカなこと言わないでよ」
「じゃあ普段は言って良いんだね」
「ダメ」
「ダメなんじゃん・・・」
ま、言うけど。中野は俺たちの話が耳に入らないのか、ずっと立ったまま空を見ている。
「みんな、首疲れないの?」
「ん? あたしは別に」
「私も、大丈夫」
「お、みんないつの間に座ってんだ? 俺も、っと」
中野は3~4歩ぐらい歩いて高松さんの向かいの位置、中野と女性陣2人で直角三角形を作る位置で腰を下ろして胡坐をかいた。
「すっげぇよな、これ」
「うん。これ、毎日見られるのかしら」
「その杖が抜かれない限りは、永遠だ」
Dr. スターリーの声だ。
「随分と簡単な解除法ですね」
「だが、抜くことができるのは、差した者だけだ」
「じゃあ、永遠ですね」
「そうか」
「・・・ちなみに、他の街では?」
「さあな。30年前の時はホワイライトと周辺だけだったいう話だが・・・念じてみたらどうだ? 魔法使いなのだろう」
「そうですね。では」
目を閉じて、声に出して唱えた。
「この星空を、世界中の人に」
目を開けたが、特に何も変化はない。確かめる術もない。
「どうなったんだろうね」
「きっと、大丈夫だよ」
「葵が言うなら、大丈夫だね」
「え? どうして?」
「そんな気がするだけよ」
「あはは・・・」
またしばらく、沈黙になった。
黙って空を見ていると、1つの人影が近づいて来た。
「私も、混ぜてもらってもいいかしら」
ルイナさんだ。その後ろにはリリーさん。
「どうぞ」
返事をしたのは高松さん。ルイナさんは花巻さんの向かい、既に座っている3人と合わせて長方形を作る位置で腰を下ろした。リリーさんはそのそばに立っている。
「これから、どうするんですか?」
気になっていたので聞いてみた。
「変わらないわ。この神殿の調査を続ける。見取り図もまだ全然だし、”奇跡の光”が復活したってだけで、まだ分からないことだらけだもの」
「Dr. スターリーの見取り図と全然違ったりして」
「んふふ。1人よがりを避けるためにも、やらなくちゃね」
「それこそが、ワシの目指す未来だ。頼んだぞ」
「あなたの為ではないわ」
「ははは、そうか。・・・だが、この現象をどう解明する?」
「それならさっき、魔法使いさんも言ってたわ。協力してもらうのよ、魔法学の研究者に。最後の引き金が魔法なんだから、魔法に詳しい人がいなきゃ無理だと思うの」
「魔法学の研究者って、国の魔導士以外にもいるんですか?」
「ええ。むしろ魔導士の人たちは一定の知識はあるけれど、教科書レベルね。研究者の方が詳しい。この世界では色んな形で魔法が使われていて、そういったのを紐解くのは趣味の領域か、専門の研究者だけよ。あなたもどう? 魔法使いさん♪」
「僕は、魔法を使うのが専門なので」
「あらそう、ざんねん。だけど期待しているわ。次はどんな奇跡を起こしてくれるのかしら」
「無論、誰もが純粋な好奇心だけで学問の扉を叩く世の中の実現だろう」
またそんな、無理難題を。
「・・・だってさ、みんな」
「大村君もやるのよ。あたしたちも、手伝うから」
「はーい」
本当に、よろしく頼むよ。
「確かに、ずっと気になっていたわ。話題性だけで神殿を調べる人が増えて、揃いも揃って唯1人の調査報告を鵜呑みにしていたのは」
「・・・変わり、ますかね」
魔法があればできる、なんてことを言いはしたが、どうだろう。大勢の人の意識を変えることが、俺にできるだろうか。
「お主がそういった発言をするとは、珍しい」
「できるかどうか分からないことしか、僕はやらないので」
「ははは、さすがだな。・・・お主は何もしてくれぬのか?」
後半はルイナさんに向けて言ったようだ。
「変わって欲しくはあるけれど、私はそこに労力を割きたくないわ。敵も増えるし」
実際、Dr. スターリー派には疎まれていたようだからな。
「だからそういうのは冒険家の皆さんに任せるわ。私は、学術界どころかこの世界がどうなっても、自分のやりたいことだけをやる。まずはこのスターリー神殿、そして世界中の全ての遺跡の謎を解き明かすの。それが、考古学者だから」
「そうか。それもまた、1つの生きる道だな」
それからまた、しばらくの沈黙。
「・・・ルイナさんは、どうして考古学者に?」
「言わなかったかしら? 飽くなき探求心よ。不思議だと思ったことを解き明かしたい、当然の感情だと思うけれど」
「これまでの経緯を聞いても?」
「ちょっと大村君」
「いいわよ。せっかくの機会だから話すわ」
そう言って、ルイナさんも仰向けで横になった。
「ルイナ殿・・・」
「私の生まれ、カーミーン家は王国で3本の指に入る貴族よ。ウォーターランドにあって、今も変わらず大きな影響力を持っている」
「家出、ですか」
「そんなところね。幼い頃から色んな教養を受けてきたけど、どうもこの分野が気に入っちゃったみたいで、両親に頼んでは各地の遺跡に連れて行ってもらってたわ。18を過ぎてからは1人で勝手にあちこち行って、パーティーはすっぽかすし何週間も帰らないこともあったしで問題視されてた」
思った以上に、おてんばだったんだな。
「1人っ子だったこともあって、いい加減にしろと言わんばかりにお見合いを設定されたの。婿入りを承諾してくれたという、それなりの地位の家系とね。顔も名前も確認しなかった。それまでと打って変わって、お見合いの当日までは家で普通に過ごして、当日の朝、夜が明ける前に姿を消したっきり戻ってないわ」
貴族にありがちな話だな。ゲームやマンガとかでしか貴族社会を見たことがないけど。
「大捜索が始まるのを見越して、人が多いビジナでほとぼりが冷めるのを待ったけど、1週間も経たないうちに見つかってしまったわ。お互いに10歳の頃から私の護衛だった、リリーに。私の考えなんてお見通しだったみたいね。変装までしてたのにいきなり手を掴まれたわ」
ビジナは確か、お隣、経済大国エコノミアの首都。
「直感的に、そこにいるような気がして行ってみた。姿を見たら、一目で分かった」
「けれどルイナは私を連れ戻そうとしなかったわ。それどころか、時々ウォーターランドに戻って家の状況を確認してくれた」
「確かに捜索隊は、遺跡やその近くの街を主に探していたな。ビジナで過ごしたのは正解だった訳だ」
「結局、私を諦めて叔父の長女、2つ年下のいとこが正式に跡取りになった。全世界に配信されたわ、ルイナ・カーミーンは性格に難があるから勘当した、って」
「プフッ」
思わず噴き出してしまった。
「こら! ご、ごめんなさい、後で…」
「あっははははは! 今ので笑うなんて、あなたも相当ね?」
「それは光栄ですね」
「ホントに、もう・・・」
「それからは、ただのルイナとして生きているわ。顔を知られてる人にはカーミーン付きで呼ばれるし、たまに面白半分でカーミーンの姓を名乗るけど」
「ルイナ殿、ほどほどにしておいた方が」
「それは分かってるんだけど・・・でもおかげでさっき、あんなに笑うことができたのよね。いつ以来だろう、心の底から笑ったのは。 これも、あなたの魔法?」
「さあ。僕にも分かりません。解明したらどうです? 学者なら」
「私は、遺跡の調査が専門だから」
「そうですか」
そう言って俺は、体を起こして立ち上がった。
「そろそろ、降りよっか」
「そうね」
「どっ、こら、せと」
全員が立ち上がったのを確認して、下に戻るように念じると降下し始めた。
「うわ、かなり人が集まってる。なんか、神殿のそばだけは空いてるけど」
「よく下とか見れるわね。こんな高いのに」
「やっぱ俺ら注目の的じゃーん。なんてったって30年間の謎を解いたんだからな」
「ん? あれは」
「なんかあるの?」
電車だ。あれは、
「ホワイライト、エクスプレス、だね」
「ふ~ん。停めて外に出てるのかしら」
「珍しいな、あれが途中で停まるとは。それほどのことが、起きてはいるが」
やがて、地上が近づいてきた。人の群れがぽっかり空いていた神殿の位置には、1人の若い男と、その後ろに10人ほどの護衛が半円状にずらり。あの人は・・・、
パチ、パチ、パチ、パチ。
中心にいる男が拍手で出迎えた。
「お見事。まさか、あなたたちだったとはね」
「確か、王宮資料館で会った・・・」
「エリオ王子」
その人の名前を思われる単語を、ルイナさんが放った。
「名家を追い出された元貴族も一緒とはね。ま、いいけど。 僕は、国王ナチュレ12世の次男、エリオ・アクオールだ。今日はたまたまユニオンに寄った帰りだったが、立ち寄らせてもらったよ」
「え、王子? マジで?」
「ちょっと静かにしてよ」
「わ、悪ぃ」
「そう身構えなくていいよ。この快挙をどんな人が成し遂げたか気になっただけだから。Dr. スターリーにカーミーン家の1人娘、それに4人の魔法使い、か。噂の”奇跡”がこれほどのものだったとは。良いものを見せてもらったよ」
「明日、会見を開かせてはもらえぬか」
Dr. スターリーが会見の打診をした。王子相手にもその口調、さすがだ。
「構わないよ。小さな街だから、聴衆はこちらで制限をかけよう」
「恩に着る」
「君たちにも、ご褒美をあげよう」
エリオ王子が再び俺たちに体を向けた。
「はい?」
「乗ってみたいと思わないかい、豪華特急列車。もう街が近いから、一旦国境の手前まで戻ってからホワイライトへ行くように頼んでみよう」
「お、マジで!?」
中野は無視しよう。
「いいんですか?」
「一応、車掌と他の乗客には聞いてみるけどね」
王子に頼まれたら誰も断れんだろう。最悪、ここからホワイライトまでは歩ける距離だし。
「やったねみんな、1200万円の豪華特急だよ」
「乗ろうぜ乗ろうぜ!」
「楽しみね、葵」
「うん」
「僕が使っていた部屋を使うといい。一般人は1200万どころか、どんなにお金を積んでも乗れないVIPルームだ」
おいおい、マジかよ。
「僕はもう少しだけこの星空を眺めたら、ウォーターランドに戻ることにするよ」
「遠慮なく、使わせていただきますね」
それからまた、俺たちもその場でしばらく空を見上げていた。
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グリンタウン、とある兵士の家庭。
「お父さん! お母さん! 見て見て! 空が凄いことになってるよ!」
「どうした、あまり大声を出すと近所に・・・なんだ、これは・・・?」
息子の声に応じて父親が窓際に行ってみると、たまに遠征で行くホワイライトでも見たことがないような満天の星空が広がっていた。父親の頭に浮かんだのは、確か30年ほど前に、一夜に限り”奇跡”と呼ばれる星空が観測されたという話だ。その時に天に向かって光を放った、スターリー神殿の調査をずっと続けている考古学者もいるらしい。
「外に出て見ようよ! お母さんも早く!」
「なあに? 皿洗いの途中なんだけど・・・」
「いいからいいから早く!」
「しょうがないわねえ」
母が息子に手を引かれ、作業を中断して外へ向かう。それに父も続いた。
「わああぁっ」
「うそ・・・何これ・・・」
「・・・・・・」
息子は満面の笑みで、母は驚愕の表情で、空を見上げていた。父親も、言葉が出ないまま固まっていた。やがて空模様の変化に気付いた住民たちが少しずつ外に出て来て、賑やかになってきた。
「すっごーーーい」
はしゃぐ息子に、なおも驚きの色を隠せない母。
「これって、あれよね? 30年前にホワイライトであったって言う噂の」
「・・・そうだな」
「なんで、今? しかもこの街まで。昔の時は噂が入るだけで全然見れなかったのに」
この兵士は、1つの可能性を感じている。あの騒ぎから今日で7日、タイミング的にも妥当だ。
「もしかしたら、魔法使いがやったのかもな」
「魔法使い? あ、もしかして」
「もしかして佑人お兄ちゃんたちかな!?」
「そうかも知れないし、そうじゃないかも知れない」
「絶対そうだよ! こんな凄いことできるなんて!」
「そうだと、いいわね」
その後も、気の済むまで満天の星空を眺め続けていた。
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ウォーターランド、ウェステストパーク。
「おおおぉぉ・・・なんだ、これは・・・!」
ベンチで仰向けに横たわる男の目の前で、夜空が変貌を遂げた。男は立ち上がり、再び空を見上げる。公園に散歩に来ている人たちも、異変に気付いて足を止め、騒ぎ始めた。この時間になると、カップルが多い。今日のデートに失敗する者はいないだろう。
「これは、まさか・・・!」
男の中に、30年前の記憶が蘇る。
「間違いない、”30年前の奇跡”だ。Dr. スターリーが、遂にやったのか・・・?」
そう呟いた瞬間、男の脳裏に、Dr. スターリーではなく別の人物の姿が浮かんだ。
「有り得る・・・有り得るぞ・・・! もしや、あの魔法使いが・・・!」
その予感が、やがて確信に変わっていく。根拠は無いが、そんな気がしてならない。男は、全身が震え上がるのを感じた。
「あの男、やりやがった・・・! こりゃ本当に、今年は覇者の鐘がもう1回鳴りそうだな・・・!」
男は、カップルたちが盛り上がる喧噪の中、希望に満ちた表情で星空を見上げ続けた。
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エコノミア、とある病院。
「大変申し上げ辛いですが・・・」
医師が、とある夫婦に対してそう告げた。夫婦は元から覚悟を決めていた表情だったが、医師からの一言で一気に崩れた。昼間に交通事故に遭った娘の意識の回復は困難で、その命も時間の問題とのことだった。夫婦はその場で、できる限りで声を抑えながら涙を流し続けた。
夫婦の様子が落ち着いてきた。
「もう、手術はいいです。命のあるうちに、娘に会わせて頂けませんか」
「・・・手術を止めることで命を落とす危険もありますが、それでもよろしいですか・・・?」
「構いません」
「・・・分かりました。では、扉のすぐ前まで移動しましょう」
医師が立ち上がるのに夫婦も続き、集中治療室の前まで来た。手術中を示すランプが消え、しばらくしたあと扉が開いた。
「まだ、大丈夫です。最後の別れをどうぞ」
「家族だけで、いいですか」
「どうぞ」
治療室から医師たちが出て、夫婦が入る。母親が娘の手を握ろうとした瞬間、
「「メリア!?」」
夫婦が揃ってそう叫んだ。突然、娘が目を開けたのだ。
「どうされました!?」
医師たちが入って来る。メリアと呼ばれた娘は半開きの目をしたまま、
「マ、マ・・・。パパ・・・?」
と声を出した。
「メリア・・・メリア・・・っ!!」
母親が、ベッドで横たわる娘を抱きしめた。
「どうしたの、ママ? 苦しいよ。・・・それより、お外に出ないと。ここはどこ?」
「え、外・・・?」
「お星さまが、呼んでるの」
夫婦の顔に、また絶望の色が灯る。
「ダメよメリア! お星さまなんて呼んでないから!!」
母親が、また強く娘を抱きしめる。
「ダメ・・・放してママ。お外に出なくちゃ、いけないの」
「どうして、どうして・・・!」
「お星さまが待ってるから。僕たちを見てほしい、って」
「僕たちを、見てほしい・・・?」
母親が怪訝な表情で娘の顔を見ると、治療室の外も騒がしくなった。
「305号室の患者が目を覚ましました!」
「707号室の患者、目が見えるようなったと家族から報告が・・・!」
「誰か814号室に行ってカーテンを開けてください! 患者がどうしても外を見たいと・・・」
「先生! 今度は508号室で・・・!」
一気に、病院中がパニックになった。
「ママ、お願い。お外に連れてって」
「体は、何ともないの?」
「体? なんで?」
「どこも、痛くないの?」
「痛くないけど、なんで?」
夫婦が、顔を見合わせる。もう、訳が分からない。
「メリアっ!」
待ちきれなくなった娘が、ベッドから飛び降りた。そして走り出す。
「ママもパパも行こう! お星さまが呼んでるよ!」
夫婦も後を追って屋外に出ると、そこには信じられない光景が広がっていた。
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エコノミア、とある街。
今日は朝から、実に14時間に及ぶ労働。いや今日は水曜の定時退勤日(笑)で早めに帰れた方か。まだ8時過ぎだ。今日は、何を食べよう。ここのところ、早く帰れる水曜は無駄遣いを覚悟で外食にしている。スーパーの惣菜や弁当も飽きたからだ。夜1時まで開いてるのはいいけど、サラリーマンの為ってんなら品揃え増やしてくれねぇかなぁ。
4月の頭に人事異動でこの街に引っ越してきてからというもの、食生活が完全に乱れている。妻と2人の子供は、こんなヘンピな街には住めないとビジナに残り、俺は単身赴任。当初は週末にはビジナに帰っていたが、その帰宅手当が7月に廃止されてからは節約しろと妻に止められた。自分は毎日ママ友と2,000円のランチ食ってるくせに。
なんで結婚しちまったんだろう。結婚しなけりゃ、給料は全部自分で使えたのに。・・・俺が惚れちまったせいか。あーあ、人生棒に振った。
生きる気力が湧かないまま歩き続けていると、空が明るくなったような気がした。なんだ? 月が雲から出てきたか? そう思って空を見上げると、
「は・・・?」
これまで見たこともないような星空が広がっていた。マシンガンで撃たれるように星が増えていく。
「なんだ、これ・・・?」
思わず見惚れて、時間も忘れて空を眺めた。早く帰って寝たいのに、体が動かない。むしろここで、立ったまま意識を失っていたと言ってもいい。そんな状態で、ただ1つだけ思考が働いた。
今夜は、ハンバーグにしよう。
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ユニオン、とある教会。
「んん~~~っ」
今日の仕事を終え、背伸びをする。寝るにはまだ早いから、ちょっと外で涼もう。空になったカップに紅茶を注ぎ、1冊の本を持ってバルコニーへ。
「あの子たち、元気にしてるかしら」
ふと、ホワイライトで会った魔法使いたちが頭をよぎった。特にあの、大村って子。かわいくて、面白い。入信してくれなかったのは残念だけど、またどこかで会いたいな。でもホワイライトにそう長くいるとは思えないし、これからエコノミアかあ。適当に理由付けて遊びに行こうかしら。
幸いにして、彼らは探し人の情報を求めに教会に来るから、その気になれば全部の教会に連絡とって4人の魔法使いが来なかったか聞けるのよね。職権乱用? いやいや。スクエア教として彼らに協力してるんだから、必要な状況確認よ。でも、そんなことをするよりも偶然会えた方が楽しいから、適当にうろつくことにしよう。
考え事をやめて、本の栞を挟んでいるページを開いた瞬間、違和感を感じて外の景色を見た。
「うそ・・・」
それは、ホワイライトをも超える星空だった。今まさに、地平線の方まで高密度の星空が行き渡った。私は立ち上がり、手すりに手を置いて辺りを見渡した。
「一体、何が・・・?」
もしかして、スターリー神殿の謎が解かれた? あの爺さんか、カーミーン家を追い出された女か、
「まさか、あの子たち・・・・・・。ふふっ、ふふふふふふ♪」
笑いが止まらなくなった。こんなにも早く、実績を残すなんて。さすが、私の見込んだ子。きっと、これだけじゃない。あの子たちは、まだまだ何かやるはずだ。
コンコン、とノックの音がした。
「マリーナ様、マリーナ様・・・!」
「空なら私も見てるわよー?」
「し、失礼しました!」
今日は、なんて素晴らしい日。もう少しだけ、この星空を見ていよう。
「早く、ここまでおいで」
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ユニオン、とある街。
今夜は大雨かあ。この街は、よく雨が降る。傘を開き、歩き出す。大学の友人と”今年フラれた同盟”で飲んでいたが、これからドシャ降りになるという予報が入ったので早めに切り上げて解散になった。ちょっと、物足りなかったかも。
3人で飲んでいたが、私だけ逆方向なので1人になった。ま、いっか。でも、雨が降るとあの日のことを思い出す。1年ものあいだ想いを寄せ続けて、これじゃ埒が明かないと勇気を出してアタックしたら大勝利。それから1年の付き合いが続いてたけど、先月、ドシャ降りのある日、「お前より可愛いコに告られた」という理由で捨てられた。相合傘をしていたけど、彼は自分の傘を持ったまま、立ち尽くす私を置き去りにした。しばらく呆然として、涙と雨を頬に流しながらトボトボと歩いて帰った。そして3日寝込んだ。
次第に雨が強くなり、予報通りのドシャ降り。あの日と一緒。”フラれた同盟”で傷舐め合った日になんなくたっていいのに・・・。お天道様は知らないか、1人1人の失恋なんて。
「バーカバーカバーカ!!」
雨の音がうるさいのをいいことに、叫んだ。バカは私だ、叫んだって彼は戻って来ないのに。てかあんな奴もう戻って来なくていい。別の男、と思って辺りを見ても、チャラそうなのばっか。良さそうな人には既に女あり。
「はぁ~あ」
ため息まじりでそう呟くと。ドシャ降りだった雨がスゥッと止んだ。
「え?」
傘を傾けて空を見る。
「は!?」
ドス黒い雲が晴れていくのと同時に、ありえないぐらいの満天の星空が現れた。
「なに、あれ・・・」
周りの人たちも騒ぎ出す。少しずつ雲が晴れて、その奥の星空が広がっていく。手の力が抜けて、傘が落ちた。でもどうでもいい。傘どころか、失恋の方もどうでも良くなった。なんて、キレイな星空。
男よりも、星!
なんて思ったのは一瞬だけ。この景色を、誰か大切な人と一緒に見てたいな。他に誰もいない丘の上で、手をつないで横になって・・・。さらに欲を言えば、その人に甘えたい・・・。あの星空よりも輝いていて、かつ心が広い王子様、現れないかなあ。
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8月14日、20時19分。
この1分間に限り、誰1人の例外もなく、世界中の人が空を見上げていた。
次回:夢の豪華特急(前編)




