第68話:科学を超える魔法
「こんなことが・・・あってたまるか・・・! こんなことがあっ!!」
Dr. スターリーが両手で地面を叩いた。もう、立ち上がることもできないようだ。
「電気が、水が・・・っ!」
「あなたの敗因は、魔法を、物理法則を無視するものを計算に入れなかったことだ」
頭では、分かっているはずだ。目の前で起こっている現象が。この世界では魔法が普遍的なものであることが。
「ふざけるな! 呪文を唱えるだけで電荷が取り出せるものか! さらには動かすなど、有り得ん!!」
体でも、分かっているはずだ。自身で”有り得ない”と言った現象で、立ち上がることさえも出来なくなっていることが。
「そのデンカが、実際に取り出されて動いているのではないのか?」
「それがふざけていると言うのだ! マクスウェルの方程式を知らないのか!」
「知らないな」
知っていたとしても、関係ない。
「電気・磁気の全ての現象の基礎となるものだ。知らない者が扱ったとしても、この式に従うべきなんだ・・・!」
俺たちのいた世界では、そうなのかも知れない。だけど、この世界には魔法がある。ごく最近出てきたものでもないだろう。昔から存在を知っていて、魔法の研究をしている者がいることも知っていて、なぜそこまで意地を張る。
「これを見ても、それが言えるのか」
「ぬ・・・!」
杖を前に向けて、Dr. スターリーの周りに小さな電気の玉を大量に発生させた。
「バカな・・・バカな・・・っ!」
大量の電気の玉に囲まれたDr. スターリーが、信じたくないものを見るような目で辺りを見回す。
「僕は信じている。魔法に不可能はない」
信じることができなければ、魔法使いは務まらない。
「ふざけるな!! 何が魔法だ!!」
「これが魔法だ」
杖を握る手に力を入れた。
「イグノア・マクスウェル」
「がああああああああぁぁぁぁぁ!!!」
大量の電気の玉を一斉に放電させた。放電されている間Dr. スターリーは体を反らして悲鳴を上げ、おさまった後、どさっ、と横向きに倒れた。
<レベルが40になりました>
<火・水属性合成魔法(中級):ホットレインが使用可能になりました>
<火・雷属性合成魔法(中級):ファイアショックが使用可能になりました>
<水・雷属性合成魔法(中級):スパークウォーターが使用可能になりました>
<風・土属性合成魔法(中級):サンドストームが使用可能になりました>
<土・雷属性合成魔法(中級):エレキトラップが使用可能になりました>
<装備ランク(魔法)がBになりました>
「ドクターーーーー!!!」
サン・ライトが走り出したが、俺の方がDr. スターリーに近い。
「来るな」
Dr. スターリーのそばまで行き、杖を向けて人質を取るような形になった。
「貴様・・・!」
「仲間を檻から出せ」
「くっ・・・」
花巻さんさえ戻れば、中野と2人がかりで挑める。
「勝負は着いたようね」
上の方から、声がした。見上げると、ルイナさんが螺旋階段から顔を覗かせていた。さらに高松さん、スター・ライト、ムーン・ライト、一番後ろにリリーさんの姿があった。全員、揃っていたのか。
「ここまで、か・・・」
サン・ライトが諦めたように呟いた。リリーさんには、ライトブラザーズが束になっても勝てないだろう。
一同が下りて来るのを待つ間に、花巻さんを解放することにした。
「檻の鍵は」
「Dr. スターリーの懐だ」
倒れているDr. スターリーのジャケットを探ると、あった。それを取り出し、檻に向かう。
「大村君・・・」
花巻さんは、申し訳なさそうで、かつ悔しさを秘めた表情。途中で地面に置かれていた杖を拾い、檻の錠に手を掛け、外し、扉を開けて杖を差し出した。
「回復、お願い」
「うん。ありがとう」
杖を受け取った花巻さんは、その場で俺のHPとMPを50ずつ回復。さらに、
「レイズデッド」
中野を復活させた上で、
「俺はMPはいい。もう大丈夫だろ」
メンタルヒールをしようとした花巻さんを中野が止めた。それから程なくして、ルイナさんたちが階段を下りきった。ムーン・ライトが杖を持っているのが見えた。高松さんは・・・自分のを持っている。
「ごめん。眠らされちゃってた」
高松さんが早歩きで寄って来て、軽く笑みを浮かべて手を合わせた。口調も仕草も軽いが、さぞ悔しかっただろう。今は周りに人がいるから大丈夫そうだが、後で1人で泣くと決めているような顔だ。わざわざ責めるまでもなく、この人は必ず強くなる。労いの言葉を言っても何の慰めにもならないだろう。
「次は、最後まで一緒に頑張ろう」
高松さんは一瞬だけ驚いたような表情を見せた後、
「うん」
と笑顔を見せた。
「葵、お帰り」
「うん、ただいま。ありがとう」
「いいわよお礼なんて、結局、助けたの大村君だし」
「じゃあ、助けようとしてくれたことに、ありがとう」
「んっふふ。どういたしまして」
「・・・さて、」
どうしましょうかね。と思ってDr. スターリーの方を見ると、
「まさか、地下6階があったなんてね」
ルイナさんが口を開いた。
「それにあの光、あれが”奇跡の光”の復活の鍵、ということかしら」
そう、まだ地下6階に着いただけ。それだけでは”奇跡の光”は蘇らない。
「さあ。それは僕にも分かりません。ひとまず、Dr. スターリーたちが知っていることを全部聞きましょうか」
「そうね。あと、それを隠していた理由についても」
「それなら、もう聞きました」
簡単に、Dr. スターリーたちの行動の理由を説明した。その間、ライトブラザーズは神妙な面持ちのまま黙り続けていた。
「そう・・・。それは止めてもらえて良かったわ。そんなことで手に入る名誉に、意味なんてないもの。そうと知らずに快挙達成なんて騒がれでもしたら、この上ない屈辱だわ。止めてくれて、ありがとう」
「いえ。僕らにも理由があったので。・・・リリーさん、ありがとうございました」
「気にするな。助かったのは我々の方なのだからな。無事に仲間を取り戻せて、良かったな」
「はい」
俺の返事と同時に花巻さんが深々と頭を下げた。
「う、うぅ・・・」
Dr. スターリーの声だ。意識が戻ったようだ。
「「「ドクター!」」」
ライトブラザーズの3人が駆け寄る。
「すまないな、お主ら・・・ワシらの、負けのようだ」
「いえ、大丈夫です」
返事をしたのはサン・ライト。
「う、おぉ・・・!」
Dr. スターリーが顔を引きつらせながら立ち上がろうとしたところに、スターとムーンの2人が肩を貸した。
「助かる。・・・・・・はぁ、・・・ふぅ」
呼吸を整えて、顔を上げた。
「お主らの勝ちだ、4人の魔法使いよ。・・・敵ながら、見事だった」
花巻さんも含めて、誰か1人でも欠けていたら勝てなかったと思う。悔しい気持ちもあるだろうけど、自分が少しでも”役に立った”と思うことがあれば、それは自分自身でも評価してあげて欲しい。
「ルイナ・カーミーンよ、ワシの目的にお主を利用しようとしたこと、申し訳なかったな」
「いえ、あなたは単に自分の成果を表に出さなかっただけ。それも研究戦略の1つかと」
「そういう”戦略”などというものを学術界から排除したかったのだがな・・・。自分で自分の理想に反することをするとは、ワシもまだ未熟だな」
「私の方こそ、人の思惑に気付けないのも未熟な証。今回のことは、勉強になりました」
「はっはっは。では成熟しているのは、一番にワシに疑いの目を向けて、この地下6階にも辿り着いた魔法使いということだな」
「2人して負けちゃいましたね、魔法使いに」
「だな。ワシらの知恵では、魔法には勝てんらしい」
2人がこちらに顔を向けてきた。リリーさんとライトブラザーズも続く。なんか気恥ずかしいんだが。
「勝者に褒美をやろう。ムーンよ、例の物は持って来ているようだな。あの者に、渡してくれぬか」
「はい。・・・サン、頼む」
「うむ」
ムーンは持って来ていた杖をサンに渡し、サンがそれを俺の方に持って来た。見覚えのある杖だ。これは確か・・・。
「聞かせてくれ。なぜそこまで、根拠の無いものを信じることができる」
サンが俺の前で立ち止まったところでDr. スターリーが聞いてきた。
「僕らは、魔法使いですから。科学者が科学を信じるのと、同じです」
「・・・そうか」
「なんなら作りましょうか、”大村の法則”。 ”魔法は、科学では有り得ない現象を起こすことができる”」
「はっはっは。”ふざけるな”と言わせてくれ」
「本気ですよ」
「あるべき未来の実現は、ワシらが先に成し遂げてみせる」
「それも負けませんよ」
「抜かしおる。・・・だが、これから起こることは、科学で説明できるか少々不安だ」
サン・ライトが杖をこちらに差し出した。
「この杖が何か、知っているようだな」
「はい」
「階段の中央に台座がある。置いてみるがよい」
「では早速。・・・みんな、行こう」
「「うん」」
「おう」
階段に向かって歩き出した。ルイナさんとリリーさんも一緒だ。Dr. スターリーとライトブラザーズに動く気配は無い。歩きながら、話を続けた。
「僕は、科学も凄いって思ってますよ?」
「何を今更」
「科学と魔法、もう少し仲良くしましょうよ。科学には科学の、魔法には魔法の、それぞれにかできない事がありますから、協力すればとんでもない事ができるかも知れませんよ」
「魔法に不可能はないのではなかったのか?」
「魔法には、人の生命力が必要です。僕らプレイヤーはMPですが、この世界を動かしてるのは、この世界の人たちですから。科学の発展があるからこそ、人々の豊かな暮らしがあるんです」
そして、俺たちはこの世界にも来れている。
「嫌ですよ、人の生命力を使う水道局や発電所なんて」
「はははっ、それもそうだな」
一緒に歩く仲間たちにも、笑みがこぼれている。
階段のそばに着いた。螺旋階段の中央に台座があり、いかにも杖が置けそうな穴が空いていた。ちょうどさっき、レベルが40になって良かった。なっていなければこの杖が使えないところだった。
ストン、
と杖を穴に置いた。その直後、地面が光った。と思ったら消え、また光り、もう1回、2回、と点滅し始めた。
「な、なんだ!?」
「分かんない。何これ・・・?」
7回目の光が、消えることなくそのまま残った。このフロア全体で地面が光っているようだ。角で下りてきた時ほどは眩しくない。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・
地面が揺れ始めた。
「うわっ! 今度は何だ!?」
「葵、大丈夫!?」
「う、うんっ!」
高松さんが花巻さんの手をとり、険しい表情で揺れに耐えている。
「のわっ! っと」
中野は尻餅をついた。俺は黙ったまま杖を支えに立っている。
「そう言えば、中央にいなければならぬのだった」
結局、Dr. スターリーたちも近くに来た。
「この密閉空間にも疲れたな。人々を閉ざし続けるのも」
「これからどうするので?」
「さあな、落ち着いたら考えるさ。数日は忙しくなるだろうからな」
Dr. スターリーがそう言った直後、
ガーーーーッ、
と螺旋階段が開き始めた。天井に穴が空いている。地下5階だ。と思ったらその先、地下4階、3、2、1階をも通り越して、ずっと遠くに見える穴から微かに星空が見えた。
ガコン。
今度は、地面ごと体が上がっていく感覚がした。真っ二つになった螺旋階段が、下にスクロールしていく。
「お、これもしかして外に出れるのか?」
「みたいだね」
やがて天井に到達し、地下5階へ。未開とされていた地下5階に突如として光が現れたためか、騒がしい。辺りが暗くて誰も見えないが、周囲からはこっちが見えているのだろう。俺たちは、なおもエレベーターに乗ったように上に向かって行く。
地下4階。ここは大騒ぎになっていた。神殿のド真ん中ということは、地下4階だと円形になっている天の川の道の中心だ。
「なになに? もしかして”奇跡”復活?」
「Dr. スターリーがいるぞ!」
「なんかのイベントじゃないの?」
「ルイナも一緒だぞ、なんでだ!?」
「あの魔法使い誰?」
色んな声が聞こえてくる。みなさん、早く外に出た方がいいですよ。
「おーーい! やっほーー!」
中野のやつ、手ぇ振ってるし。
地下4階を過ぎると、完全に壁に囲まれた。そう言えば、地下2階と3階の中央部は完全に壁だったな。しかも、3階の方は結構な高さがあった。時間が掛かりそうだ。
「俺らかなり注目の的じゃね?」
「そりゃあね。Dr. スターリーによると後が忙しいらしいよ?」
「なんでだ? あ、まさか取材とかか!?」
「かもね」
「くぅ~~~~っ!!」
そうなると、話さなければならなくなるな。
「どうするんです? これ。 説明とか要るんですよね?」
「全てを話すさ。それが理想なのだからな。責任はワシが取る。最も、責められるような真似をしたのはワシらだけだがな」
「そうですか」
「これはこれで、真に探求心のある者しか学術に携わらなくなるやも知れぬな」
「そうだといいですね」
地下1階まで上がって来たが、なおも上昇は続く。地上まで出られそうだ。ここは、壁に囲まれてるし地下2階へのルートでもないしで人は居ない。そのまま、近づいてきた星空に向かって上がって行った。
そして、地上に到着。乗っていた地面が穴を埋めたところで止まった。周囲には12~3人ほどの人がいて、こちらに視線を向けている。偶然通りかかった時に神殿から光が出てきたのだろう。その光が出ていた穴が埋まり、これから何が起こるのだろうかという疑問と期待の混ざった表情をしている。
Dr. スターリーが俺の方に向かって3歩進んだので顔を向けた。
「さあ、その魔法を唱えるがよい」
次回:奇跡の光




