第67話:1人の魔法使い 対 1人の科学者
大村君に続いて、サン・ライトさんと、中野君までもここに来た。千尋ちゃんとムーン・ライトさんは地下1回で倒れていて、残るスター・ライトさんはリリーさんが戦ってくれているみたい。私は相変わらず、檻の中で助けを待っているだけ。さっき中野君を回復させて少しだけ役に立てたけど、本当に、少しだけ。Dr. スターリーの仕掛けで痺れた拍子に杖を落として、届かない場所に放り投げられてしまった。
杖はあれ1本しか持ってないし、予備があったところで今の状態で交換できるかは分からない。役に立てると思った矢先に・・・。
中野君とサン・ライトさんの勝負が始まり、少しずつ離れていったけど、明るくて障害物もないから見える。さっきムーン・ライトさんと戦ったばかりで無理してなければいいけど。さっき、一気に回復させてあげるべきだったんだ。MP10ずつ使って何度も回復魔法を出してたら、途中で止められるに決まっている。とっさの判断を、間違えた。
目の前では、大村君とDr. スターリーがこれから戦おうというところ。ロボットのようなものが出てきて中にDr. スターリーが入り、大村君も杖を構えた。
Dr. スターリーたちのしていることは褒められたことじゃない。私も大村君の意見に賛成。大村君は、ぐうたらしたいとか、動きたくないとか言ったりもするけれど、人を思いやることができる優しい人。やっぱりそうなんだと分かって、安心した。
だけど、だからこそ、何もできないのが悔しい。ここまで私を助けに来て、世界中の人たちよりも大切だと言ってくれたけど、そんなに役に立ててる気がしない。私がいなくたってここまで辿り着けているだろうし、いないよりはマシ・・・と言えるかどうかだって怪しい。実際に今、こうして足を引っ張っているのだから。
大村君がさっき言った中で約束できるのは、絶対に裏切らないことだけ。こんなの、誰にだってできる。今度は胸を張って皆の役に立てていると言えるようになるから、もう二度と、こんなことが無いようにするから、お願い、負けないで。
・・・こんな時にまで自分のことばかり、最低だ。もしここで負けたら、ルイナさんを始め多くの学者の人たちが、存在を隠されている地下6階を何年も探し続けることになるんだ。私たちは、夏休み真っ只中の元の世界に戻るだけ。匠のことだって、この世界の人たちからすれば他人。今戦っている2人に、大勢の人たちの何年という時間―――それは、人生の一部だ―――が懸かっている。
「どうして・・・」
見守ることしかできない自分が腹立たしくて、気付けばそう呟いていた。
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「どうした。そちらが来ないのならこちらから行くぞ」
「お構いなく」
「では、・・・・・・シャアアァァァ!!」
「っ・・・!」
Dr. スターリーが入ったロボットが右手を振り下ろしてきた。動きは単調そのもので大して速くもない。避けると、ガン、とロボットの右手と地面が当たる音がした。まず、試さなければならないのが、
「フレイムボックス」
標準魔法のキューボイドフレアに似た、四角い炎を出した。消費MPは15、キューボイドフレアの半分以下に抑えた。火が効くか確かめるだけならこれでいい。案の定、四角い炎が直撃した後もロボットは健在だった。
「火など効かぬ!」
今度は左手でストレートを繰り出してきたが、これも簡単に避けることができた。次は、
「ドロップウォーター」
ロボットの頭上から湯舟一杯分ほどの水を掛けた。
「無駄だぁ!」
ロボットは水をものともせず、両手を頭上で組んでそれを振り下ろしてきた。当たると大ダメージになりそうだが、予備動作が大きいうえに動きも遅いので問題ない。
ゴオォン!
と地面が殴られる音が響く。
「ちょこまかと動きよる。だが、その体力がいつまでもつかな。こっちの動力は10時間! 炎も水も、電気も効かぬ材料を選んでおる。魔法ではワシを止めることはできぬぞ!」
元から試すつもりはなかったが、雷属性はやめておこう。あのロボットの内側にまで電気が通る気がしない。風も試すまでもないな。体勢を崩すのは土属性でもできる。火と水が効かなかった時点で、土属性の物理攻撃で戦うしかない。
「ぐあああああぁぁぁぁぁぁ!!」
中野の叫び声が聞こえてきた。軽く首を回して横目で見ると、両手を両膝を地面に着いていた。頼む、もう少し持ち堪えてくれ。
「中野君!」
花巻さんが心配するように叫んだ。花巻さんの性格なら、檻の中にいるだけで何もできないのは悔しいだろう。
「よそ見をする暇がどこにある。 せいっ!」
右ストレートがきたが、これも簡単にかわせた。だがDr. スターリーの言うようにスタミナは確実にこっちが先に切れる。中野が負けるのも時間の問題だ。サン・ライトに合流される前にDr. スターリーを倒さないと、まずい。
地面を殴ったロボットが体勢を整えている隙に、
「グランドブロウ」
地面の石で拳を作り正面から殴ってみたが、左手で止められた。押されている。
「ふん、そのていグァッ!」
押されている拳を引っ込めると同時に、後ろからも石の拳で殴った。ロボットは勢い余って両手と両膝を地面に着いた。
「こっからが第2ラウンドだぁ!!」
中野の声だ。見ると、杖を放り投げている。まさかあいつ・・・!
とにかくこっちを急ごう。2つの石の拳を組み、
ドゴオォン!
背中に向かって振り下ろしたが、ロボットは一瞬ピクリとしただけだった。
「おのれ・・・」
ロボットの顔がこちらを向き、
「う゛わっ!」
目から光線が飛んできて肩をかすめた。ヒリヒリする痛みだ。俺のコントロールから逃れた石の拳が力なく崩れる。
パッとメニュー画面を開いて中野のMPを確認。2だ。メニューを閉じ横目で中野の方を確認。召喚した悪魔はまだいるようだ。
「どこを見ている!」
「っ・・・!」
また光線が飛んできたが、今度は間一髪でかわせた。くそ、こっちに集中しろ。中野はもう勝てない。全速力でDr. スターリーを潰すんだ。
ロボットが手をついている場所を沈下させると、
「ぬうっ!」
さらに前のめりになり、腹部が地面に接するぐらいになった。
「こうなったら」
左手だけで体を支え、右手をこちらに向けてきた。
「ロケットパンチ!」
「ぐあ・・・!」
とっさに壁を作って盾にしたが、壁は砕かれ、その破片とともに俺の体は宙に浮いた。幸いにも痛みはそうでもなかった。風魔法で横に逃れて地面に倒れ込んだ。
「な・・・」
体勢を整えて顔を上げると、ロボットは宙に浮いていた。足の膝から先が引っ込んでおり、その膝からジェットのようなものが噴出されている。右腕の肘から先は地面に転がったままで、戻すつもりも無さそうだ。
向こうは向こうで、あれこれ様々な策を講じてきている。それらが全て、魔法を一切使っていないものであることには、恐れ入る。
俺の残りMPは、163。あと6割ぐらいか。そんなに余裕は無いぞ。
「杖を向けるだけで地形を変えるとは、やはり魔法とはふざけた存在だな」
「ふざけているつもりは無い。だがちょうど今、あなたが魔法抜きでここまで出来ていることに感心していたところだ」
「ふん、当然だ。科学を認める気になったか?」
「初めから、認めている。あなたの方こそ、もう少し魔法を認めたらどうだ」
「到底認められぬわ!」
ジェットを使ってロボットが体当たりしてきた。
「くっ・・・」
風魔法で真上に飛んで避けた。ロボットは勢い余って地面にかすれるも、すぐに体勢を立て直し、
「ん゛っ!」
3m以上は離れていたのだが、左手が伸びて来たので風魔法で移動して避けた。
「ふんっ!」
だが、後ろから手がついて来る。手が開いているところからして、捕まえる気のようだ。そのままぐるりと円を描くように回り、伸びている腕に結び目ができるように移動した。目論見通りになったのだが、
「甘い!」
ガチャン。
「なっ・・・!」
手首から先が切り離され、
「ぐあっ!」
反応が遅れた隙を突かれて捕まった。
「左手は伸ばすことしかできぬと思ったか? 科学の力を舐めるな」
油断した。右手でロケットパンチをしてきた時点で、左手も切り離せると想定していたはずだったんだ。
「う゛・・・! あ゛・・・!」
強く握られ、体が締め付けられる。
「ようやく捕まえられたか。手こずらせよって」
「ぐ、あ゛・・・・・・はぁ・・・」
最後に一度強く握られた後、体を締め付ける力が緩められ、今度は左手を掴まれて宙づりにされた。
「はぁ・・・、はぁ・・・」
少しずつ、動き出す。結び目ができた左腕は一度バラバラになった後、元に戻った。そして俺は、ロボットの操縦席正面の窓近くに運ばれた。窓越しに、Dr. スターリーの姿が見える。
「ちきちょおおおぉぉぉぉ!!」
中野の声だ。後ろを確認することはできないが、中野のHPは残り35、あまり良い状況ではないだろう。
「向こうも終わったようだな。 サンよ、そのまま抑えておれ! むやみに戦闘不能にすると何をするか分からんぞ!」
「了解」
どうやら中野は身動きが取れない状態のようだ。あとは俺が、何とかするしかない。右手にはまだ、杖がある。
「よい目をしているな。まだ、諦めぬというのか」
「まだ、目的を果たしていない」
右手を前に出して杖をDr. スターリーに向けると、コツン、と窓に当たった。その瞬間、スッ、と、何かが頭の中に舞い降りてきたように思い付いた。
「無駄だ! ウィンドウもボディと変わらぬ強度、隙間も無い。石で殴っても壊れぬし、火も水も電気も通らぬぞ!」
「魔法なら、通る」
念じると、窓の向こう側、操縦席の中に魔法陣が浮かび上がった。
「何・・・!?」
「リトルサンダー」
「があぁっ!!」
上手くいったようだ。
「くっ・・・バカな・・・!」
「ドクター!」
「来るな!! お主はその男を押さえておれ!」
サン・ライトの呼びかけをDr. スターリーが制止する。また何かをされる前に、次だ。今度は水色の魔法陣を出した。
「なっ・・・! まさか!」
「フライングリバー。 う゛っ!」
唱えた直後、投げ飛ばされた。だが、水が出たのは見えた。標準魔法だから発動さえすれば最後まで出るはずだ。
風魔法でバランスを整えて、着地。ロボットの方を見ると、窓にヒビが入っていき、割れて大量の水が出てきた。Dr. スターリーも流されて転げ落ちた。
「くっ・・・がはっ! ごほっ!」
水を飲んだのか、Dr. スターリーは苦しそうにしている。それでも気を抜くにはまだ早い。悪いが、追い打ちを掛けさせてもらう。
「サンダーランス」
「があっ!!」
「ドクターー!!」
<中野勘太郎さんが戦闘不能になりました>
サン・ライトか。急いで振り向くと、
「来るなと言っておるだろう!!!」
Dr. スターリーの怒鳴り声が聞こえ、サン・ライトは止まった。Dr. スターリーの方を向き直すと、足をガクガクさせながら立ち上がっている姿が見えた。その目にはまだ、闘志が宿っている。
「これは、ワシの・・・科学者の尊厳を懸けた戦いだ。はぁ・・・2対1で勝つことに、意義など無い・・・!」
ここで俺を捕らえてルイナさんに”奇跡の光”の復活を託すことよりも、そっちを選ぶか。その誇りは、認めよう。
「何も無い所に電気や水を・・・っ! 科学を舐めるなぁっ!!」
地面に転がっていたロボットの右腕が変形しながらDr. スターリーのもとに飛んで行き、大きな光線銃のような形になった。そして、
ゴオオォォォッ、
と火が噴いてきた。火炎放射器か。だが俺が相手では、相性が悪い。
ザパン。
水を掛けて火を消した。火炎放射器本体にも掛けたからか、カチッ、カチッ、とDr. スターリーが引き金を引く無機質な音だけが響く。
「くそっ!」
火炎放射器を放り投げ、今度は胸の内ポケットから小さな銃の形をしたものを出した。何かは分からないが、引き金を引かれると厄介だ。その前に、
「サンダーランス」
「があぁっ!!」
普段の3倍の強さにした。Dr. スターリーが再び地面に倒れ込む。さらに、手から離れて落ちた銃を、
ガシャン。
地面から作った石の塊で叩き潰した。破片だけが、空しく残る。
「ぐ、があ・・・。 来るでないぞ、サン・・・」
「ドクター・・・」
少し近づいて来ていたサン・ライトが、止まった。あくまでDr. スターリー本人の意思を尊重するようだ。だがその目はもう、これ以上は無理をしないで欲しいと言っている。攻撃をしている俺としても、見ていられない。戦況そのものは良いにも関わらず、花巻さんも中野も視線を落としている。だが、退く訳にもいかない。Dr. スターリーに戦う意志がある限り、俺も止まることはできない。
早く、楽にしてあげよう。
次回:科学を超える魔法




