第64話:到達、地下6階
突然声がして反射的に振り向いたらリリーさんとスター・ライトがいて、リリーさんが横からスター・ライトの顔のすぐ前に剣を突き出していた。スター・ライトは両手を軽く上げて無害をアピール。
「な、なんの話だ。それに君こそ何のつもりだ、剣を下ろせ。ルイナ・カーミーンの護衛だろう」
「貴様がその魔法使いの後をつけていたのは知っている。突然走り出して何をするつもりだったのかと聞いている」
ずっとつけられていたのか・・・気付かなかった。スター・ライトにも、リリーさんにも。
「そ、その魔法使いは知り合いだ。一昨日にはうちの部屋にも招いている。見かけたからちょっと驚かしてやろうと思っただけだ」
一体どこから・・・? リリーさんは地下2階か3階、俺がスター・ライトにつけられていたのを見たからだろう。となるとスター・ライトはやはり、1階からか。
「だと言っているが、どうなんだ? お主。 すまないが名を知らない」
「大村と言います。一応、その人たち、ライトブラザーズって言うらしいんですけど、知り合いです。一度招かれたのも本当です。ですが、仲間が1人、その人たちに攫われています」
「なっ!?」
「ほう」
「知っていたのか・・・!」
他の2人が置かれている状況も知っているが、メッセージ機能の存在は伏せたいから知らない事にしておこう。花巻さんの事だけ言えば十分だ。俺はロープを取り出し、火を使って3mほど焼き切った。
「リリーさんにお願いしたい事があります。その人を、捕まえてくれませんか。僕は仲間を探します。他の2人も今、敵地に乗り込んでいます」
「・・・なぜ、狙われている」
隠しても仕方がない。
「おそらくは僕らが、プレイヤーにしかない能力を使って”奇跡の光”の復活に近づいたからだと思います」
「・・・そうか。・・・いいだろう、協力する。ロープはそこに置いて行け」
「ありがとうございます。終わったら、この地下5階の中央まで来てください。できればルイナさんも一緒に」
「・・・承知した」
リリーさんの心情も分からぬまま俺はロープを置いて南東の角に向かい始めた。地下6階に残る1人、サン・ライトがいると考えていいだろう。
「何故そいつらの肩を持つ! これはお前たちの為でもあるんだぞ!」
ルイナさんたちのため・・・? 今はいいや、地下6階を目指そう。
「何の話だ。それに私は、どちらの肩を持つべきかは見極めているつもりだ」
「くっ・・・」
その言葉を最後に、2人の会話は聞こえなくなった。
ムーン・ライトは2対1とは言え高松さんと中野が倒した。リリーさんには4人掛かりでも勝てる気がしない。ライトブラザーズ3人の戦闘能力が同等なら、まず言ってリリーさんは負けない。
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「覚悟はいいか、話は後で聞かせてもらうぞ」
剣をスター・ライトの顔の前にかざしたまま脅しを掛けた。先ほどの大村の発言も気になるが、まずは目的を達成しよう。
「くそ!」
予想通り、スター・ライトは一旦後ろに退いて横から回り込む形で私の方に向かって来た。甘い。
「うおっ! ・・・くそ、さすがはカーミーン家の護衛だな」
進路を塞ぐように剣を振ると相手は止まった後で下がり、私との距離を置いた。
「私はカーミーン家ではなくルイナ殿個人に仕えている」
大村の依頼は、足止めではなく捕獲だ。早めに済ませてしまおう。
「この!」
こちらよりも先に向こうが仕掛けてきた。銃を取り出し、
ピュンッ、
と光線が放たれたので避けた。光線銃か。だが弾丸も光線も同じだ。身を屈めて避けたのを利用し、地面を蹴って一気に前に出た。
「なっ・・・!」
相手は驚き、その場で動くこともできずにいる。そしてそのまま、
「うっ!」
剣を柄を向けて腹部を突いた。
「が・・・、あ・・・・!」
ドサッ。
スター・ライトは力なく地面に膝を着いた。
「悪いが、念のためだ」
「ごっ・・・!」
首の横に手刀を浴びせた。意識を失ったのか、そのまま横向きに倒れた。後は頼まれていた通り、大村から預かったロープで縛った。
確か、ルイナ殿を連れて地下5階の中央に来るように、とのことだったな。スター・ライトは有名人。照明が届かず暗い場所に移動してルイナ殿を呼ぶことにしよう。
スマートフォンと呼ばれる機械を取り出し、メッセージを送った。大まかな位置も知らせると、すぐに向かうと返事があった。
ルイナ殿と合流し、スター・ライトの目が覚めたら指定された場所へ向かおう。大村は先ほど「”奇跡の光”に近づいた」と言っていた。もしも今日それが起こるなら、これから先どうするかルイナ殿と話しておく必要がある。
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スター・ライトの捕獲をリリーさんに頼み、南西の角を目指す。さっきは危なかった、と言うよりはアウトだった。リリーさんがいなければ捕まるのは俺の方だった。中野とメッセージを交わしつつも警戒していたつもりだったし、上の層から既につけられていたなら完全に集中してい時もあったはずだ。まだまだだな、俺も。
反省会なら後からでもできる。今は花巻さんの救出に集中だ。Dr. スターリーはまだ地下1階にいるとして、地下6階にいるであろうサン・ライトとの戦いだ。戦いにならない可能性もあるが、敵も連絡手段はあるだろうし、ムーンとスターの状況は既に知っているはずだ。すんなり花巻さんを返すとも思えない。
花巻さんはどんな形で捕えられているだろうか。檻かロープだとは思うが、もし人質にされて脅されても構わず攻撃しよう。サン・ライトさえ倒すことができれば、花巻さんは助け出せる。その為ならば、一時的に仲間を見捨てることぐらい、それが女の人であっても余裕だ。男として有り得ないということであれば、俺は男をやめる。大事なのは手段ではなく結果だ。花巻さんも理解してくれるだろう。つまらないことを気にして失敗したら、それこそ怒られる。
南西の角に到着。幸運なことに、周囲には誰も見当たらない。横になって楽に入れるよう、地面の高さに穴を開けることにした。直径50cmぐらいで、少しずつ、少しずつ壁を引き抜いていく。やはり、光が出ている。手を入れてみると、その光は下から来ていた。よし、入ろう。
地面を変形させて輪っかを作り、そこにロープをくくり付けた。光の中に投げ入れて、下に垂らす。7mほど残っているから下まで届くとは思うが。
ロープをつかみ、足から穴の中に入って行く。顔まで入ったところで下を確認したが、眩しくて何も見えない。足の感覚だけで進んでいくしかないな。くり抜いた壁を戻すのは面倒だったので、周囲の壁を薄くして穴を埋めた。地面に輪っかがあってロープが壁に入っていたり、そばに直径50cmの石柱が置いてあったりするが、壁のそばまで来ないと分からないし大丈夫だろう。最悪はバレても問題ない。有象無象には何もできないだろうから。
一歩ずつ、足で壁を確認しながらロープをつたって下りていく。明るいのは結構なことだが、眩し過ぎる。これじゃ真っ暗なのと変わらないな。
中野と高松さんのHP・MPに変化はない。高松さんはまだ目覚めてないとして、中野とDr. スターリーもその部屋に留まっているのか? Dr. スターリーからすれば、そのまま2人を拘束しておいてサン・ライトに俺を捕まえさせる手もあるが、リリーさんが敵に回ったことを知れば考えが変わるはずだ。正規ルート―――地下5階中央―――はリリーさんに居てもらうように頼んだから突破できないだろうが、ライトブラザーズの部屋から地下6階までの直通ルートも有り得る。合流される前に花巻さんを解放したいところだ。
<まだDr. スターリーと一緒?>
<ああ>
向こうの状況は変わってないようだ。とにかくこのまま地下6階を目指そう。
<僕は今南西の角から地下6階に向かってる。さっきスター・ライトに襲われそうになったけどリリーさんが助けてくれた。多分捕まえてくれる>
<マジで!? リリーさんいんなら最強じゃん!>
<スター・ライトの方は任せていいと思う。中野君はDr. スターリーをお願い>
<おう! 大村も葵ちゃん頼んだぞ!>
<うん>
中野とのやりとりを終え、4~5分ほど下り続けたところで、
ザッ。
「っ・・・!」
右足を踏み外した。爪先で壁をつつくように確認してみたが、無い。地下6階に着いたか? 左足もゆっくりと壁を触りながら下ろしていくと、途中で踏み外した。地下6階のマップを見ると、南西の角付近の壁が太い線で表示されていた。地下1階と同様、角は直角だ。ロープをゆっくり下りて、足が地面に着いたところで手を離した。2~3歩前に出ると眩しくなくなったので目を開けたが、ずっと明るい空間にいたのでまともに見えない。瞬きしたり手で目を覆ったりしながら視力の回復を待った。
少しずつ、見えるようになってきた。真後ろ、つまりこの南西の角の光が部屋の内側も照らしていて明るい。フロア全体を見渡せるレベルだ。他の角も同様になっているらしく、左右とも遠くに強い光が見える。対角側の光はよく見えなかった。中央にある階段に遮られて。
そのすぐそばに花巻さんがいるはずだが、遠くてよく分からない。
進む前に後ろにある光を確認しよう。腕で目を覆いながら近づいてみる。手で触った感じは普通に地面だ。地面そのものが光っているように見えるが、眩しくて分からない。
これくらいにしておこう。地下6階に辿り着いたところで”奇跡の光”の復活方法がまだ分からないが、そんなものは後だ。Dr. スターリーの私室にあるスイッチ1つでポン、なんてことも有り得る。もしそうなら、ここにいる学者たちはずっとDr. スターリーの掌の上で転がされていたことになるな。話題性に飛びついただけの有象無象とは言え気の毒だ。真実を知らずに日々神殿での探検を楽しむなんて、俺にとってはこれ以上ない屈辱だ。
あと、理由はどうあれ花巻さんを攫ったことも許すつもりはない。学者どものゴタゴタに俺たちを巻き込むな。
中央に見える階段に向かって歩き出した。コッ、コッ、と足音が響く。その気になれば抑えて歩くこともできそうだが、もうバレているし、敵は前方に1人だけ。これだけ視界が開けていれば問題ない。
やがて、階段付近の2つの人影が見えるようになってきた。1人は檻に入っている。花巻さんだ。メッセージの返事は無いままだったが、既に意識は回復しているようだ。
「大村君・・・」
そして、その檻のそばに立っている人物は・・・、
「よもや、ここに最初に辿り着くのがプレイヤー、それも魔法使いになろうとはな」
「Dr. 、スターリー・・・」
次回:あるべき未来




