第62話:千尋/中野 対 ムーン・ライト
「そんじゃあ大人しくしてもらおうか」
ムーン・ライトが、スタンガンのような物を取り出した。時折ボタンを押して電気を出している。本気で、私たちを捕まえる気だ。
「大人しくするのはテメェだぁ!」
中野君が走り出した。
「中野君待って!」
「うりゃあ!」
杖を横に振って暗い紫に光る闇属性魔法を横一線に飛ばした。けど、それをムーン・ライトはしゃがんで避けた。そして前進、中野君との距離を一気に詰めた。
「ぐあああぁっ!!」
スタンガンを使ったのか、中野君がのけぞって叫び声を上げる。さらにムーン・ライトは背中に蹴りを入れ、
「ごほっ!」
ドサーーーッ、と中野君が地面に倒れた。HPは25減って残り174。
「遠距離攻撃で勝てると思ったか? 残念だったな」
ムーン・ライトは中野君を一瞥し、私の方を向いた。
「さて次は嬢ちゃ…」
「うらぁ!」
「ぐおっ! 」
中野君が身を起こして闇属性魔法を出し、ヒット。ムーン・ライトが振り返る。
「テメェまだ…」
「スパイラルショット!」
「のわっ!」
ムーン・ライトが中野君を飛び越え、ドサーーッと地面に倒れた。よし。真っ正面からの攻撃は避けられるけど、2人で隙を突いていけば問題ない。
私は中野君のもとに駆け寄った。
「大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。結構ビリッとくるから気を付けた方がいいな」
「そうみたいね」
一撃で気絶するような威力じゃなくて良かった。中野君が立ち上がり、2人でムーン・ライトの方を見る。敵も立ち上がっている最中だった。
「チッ。クソ、やるじゃねえか。普通はこれ一発で動けなくなるはずなんだがな。久々に使うから出力落ちたか? まあいい。本当に久々なんだ、楽しませてくれよ? 魔法使いさん」
「っ・・・」
向こうの方が余裕がありそうだ。さっきぐらいの攻撃なら問題ないのか、そもそも不意打ちがもう効かないのか。でも、私たちはさっきの展開を繰り返してダメージを与えていくしかない。
「どうした。そっちが来ねえならこっちから行くぞ」
ムーン・ライトが動き出した。先に反応したのは中野君。
「おりゃあ!」
中野君が杖を前に突き出して闇属性の玉を飛ばすも、またしてもしゃがんで避けられた。今度は私の番だ。
「んっ!」
しゃがんだムーン・ライトに高さを合わせて杖を横に振り、光属性で攻撃。
「うっ! ・・・つ」
右腕を盾にして受け止められたけど、ダメージはあるはず。
「っ・・・ぜーんだ、よっ!」
「があぁっ!」
中野君にスタンガン、さらに、
「ごぉっ!」
背中にキック。中野君がまた地面に倒れた、さっきとほぼ同じパターンになった。違うのは、ムーン・ライトが既に私の方に動き出していること。やはり隙が少なくなっている。一点攻撃で避けられるぐらいなら、
「ん・・・!」
範囲を広めにして風を出した。
「ぐおっ」
バランスを崩せた。同じ手は何度も通用しなくなるから、優位に立てるうちに強い技でダメージを与えておこう。杖を両手で持って前に向け、念じると背中の後ろに白く光る大きな魔法陣が現れた。
「スターストリーム」
その魔法陣から、大量の光の粒がムーン・ライトに向かって収束しながら飛んでいく。
「ぐあっ! ・・・クソが!」
ムーン・ライトは両手を顔の前に出して盾にして、すぐに横に倒れ込んで逃れた。標準魔法だからか当たらなくなっても止まらないけど、私自身は自由に動ける。
<中野君!>
「よっしゃ!」
既に立ち上がっていた中野君が、まだ地面に手をついているムーン・ライトに向かって走り出す。。
「もういっちょ行くぞ! ブラックインパクがあぁっ!」
杖を振りかぶったところにスタンガンを浴びせられた。
「邪魔だあ!」
「ぉおおぅ!!」
今度はお腹を蹴られた。
「スターストリーム!」
「ぐおおっ!」
蹴られたお腹を抱えている中野君に当たらないようにスターストリームで攻撃。ゲイルタイガーもレベル30で覚えたけどけど、風属性はちゃんと効くかどうか不安。
また横に抜け出された。発射は範囲が広いけど、収束するように飛んで行くから敵との距離次第では範囲が狭くなってしまう。
「はあ、はあ、・・・くそ、魔法も厄介だな」
やはり、甘く見られていたようだ。魔法使いは強い、これを定着させることも大村君は目標にしていた。でも今は葵を助け出すことが絶対。なんとか息切れさせるところまでは持ってこれたけど、倒せなければ意味がない。
<中野君大丈夫? 声出すと読まれるから合図とかはメッセージでいこう>
<おう、そうだな。これ以上食らうとヤベぇぜ>
中野君の残りHPは101。私は部屋から出た勢いで転んだダメージだけで196だけど、MPが136。ここまでで半分近い129消費してしまった。スターストリームは強いけど40使うのがネック。一方で中野君の残りMPは243、バランスの悪い戦い方をしている。中野君がやられてるところに私が攻撃しているから、だけど。
ムーン・ライトもその場を動かず、中野君の体勢が整って2人でムーン・ライトを挟む形になった。
「なんで狙われてるのか、聞かねえのか?」
体力回復を図るつもりなのか、話を始めた。でもちょうどいい。緊張感のある戦闘で、隙を突いて攻撃していくのは精神的に疲れる。今の、2人で敵を挟んでいるフォーメーションは崩さないようにしよう。
「・・・そうね、じゃあ教えてもらいましょうか」
<せっかくだし乗っかって息を整えましょう>
<おう>
メッセージから2秒の間が開いて、
「なんで葵ちゃんを攫ったんだ」
と発言。まだ、表向きの発言とメッセージでのやりとりの併用に慣れてないみたい。
「ひひ・・・」
ムーン・ライトが不敵な笑みを浮かべる。
「困るんだよ、お前らに”奇跡の光”を復活されちゃな」
「はあ? 先を越されたくねぇってことか?」
「はははっ! んなことのために人攫いなんてしねえよ」
「・・・私たちに、と言うよりはプレイヤーに、と言うことかしら」
「鋭いな嬢ちゃん。そうさ、Dr. スターリーは学者に、いやもう言っちまうか、ルイナ・カーミーンに”奇跡の光”を復活させたいのさ」
「ルイナさんに? どうして・・・?」
「そっから先は、力尽くで聞いてみな!」
「うわっ!」
「きゃっ!」
ムーン・ライトが突然飛び出してきた。
「う゛う゛っ!」
スタンガンを使われた。結構、痺れる。
「こんにゃろう!」
中野君が闇属性で攻撃するも、空振り。
「テメェもだ!」
「ぐあぁっ!」
今度は中野君にスタンガン。まだちょっと痺れてるけど、
「んっ!」
杖を振り上げて光属性を出した。が、避けられた。
「おせーよっ」
「きゃあぁっ!」
またスタンガン。力が抜けて膝と手を地面についてしまった。
「くそがっ!」
「おら、よっ!」
「どあっ!」
中野君が蹴られ、地面に倒れる。残りHP79。敵の思うようにやられている。まさか話の最中に仕掛けてくるなんて。甘かった。敵が休憩するつもりならと思って乗ったけど、失敗だった。挟み撃ちできる有利な状態のうちに攻めなきゃダメだったんだ。
悔やんでも仕方がない。今は、これからどうするかを考えないと。
「ひっひひ。どうした、魔法使いさんよ」
「っ・・・」
向こうはまだ余裕を見せている。けど、不意打ちをしてきたということは、さっきのが効いたんだ。じわじわ追い詰めていくと何をしてくるか分からない。中野君がやられてしまうと勝ち目が無くなるから、一気に決めたい。
<私が前に出るから中野君攻撃お願い。できるだけ強めで>
<いや千尋ちゃん危ねぇって! 蹴られんだぞ!?>
<中野君がMP残したまま戦闘不能になっちゃもったいないわ。私はもう半分もないし、逆にHPに余裕があるから>
<でもよぉ>
<勝ちたいの。勝って、葵を助けたいの。お願い>
<やっぱりダメだ! 千尋ちゃんが蹴られるのなんて見たくねぇ!>
その気持ちは嬉しいけど、必要ない。そんなことを気にして勝率を下げるようなことを、したくない。大村君の言う、”良くも悪くも男女平等”が、今は欲しい。
<・・・大丈夫よ。向こうだって女の子は蹴りたくないはず。さっきも中野君しか蹴られなかったし。もしためらったりしたらチャンスじゃん。しっかり狙ってね>
<お、おい、待てって>
<ダメって言っても行くわ>
中野君は予備動作や掛け声が大きくて読まれやすいけど、当ててくれるように信じるしかない。
「はあぁぁぁぁあああ・・・!」
私は走り出した。
「おい千尋ちゃん!」
<お願い! 隙ついて攻撃して!>
「まじかよ・・・」
「何の作戦だ? それとも開き直って正面突破か?」
一応私も、MPは節約しよう。これまで前衛に回ったことはないけど、思い切ったことも必要だとさっき分かった。やるしかない。走りながら風属性魔攻アップの装備に切り替えた。
敵は避けるつもりで構えている。2~3mぐらいまで近づいて、
「やぁっ!」
「ぬっ」
前方に直径1mぐらいの風を起こした。ムーン・ライトは避けようとしたけど風の影響は受けてバランスを崩した。転ぶぐらいに強くすれば良かった・・・? MP節約と攻撃範囲・威力のバランスが難しい。でもチャンスはチャンス。
<中野君!>
「っと、今か! スターストリーム!」
小さな光の粒が飛んで来る。
「ちぃっ!」
少しタイムラグがあったこともあり、肩をかすめる程度になった。空振りの光の粒が、空しく出続ける。
<すまねぇ遅れちまった!>
<気にしないで、少しずついきましょう。だけど杖を構える時は動きも声も小さい方がいいわ>
<お、おう! 気を付けるぜ>
こればかりは慣れていってもらうしかない。中野君のMPは、183。さっきので60使ったんだ・・・。私が"強めで"と頼んだから、文句は言えない。
「作戦は伝わってて合図が伝わらねえみたいだな。連携が良いんだか悪いんだか」
メッセージ機能のおかげで辛うじて連携できている。向こうはその存在を知らなさそうだ。
杖を光属性魔攻アップに交換。多分もう風で体制を崩すのは通用しない。
「杖を切り替えたなあ? 白いから今度は光か?」
そこも読まれるのか。
「ええ」
と答えると同時にムーン・ライトの方に向かった。
「んっ!」
今度は魔法を出さずに杖だけで突き攻撃、もちろん避けられる。
「う゛っ!」
スタンガン。
「え?」
今度は後ろから羽交い絞めにされた。
「うおっ」
中野君の動きも止まった。
「どうした、使わねえのか? スターストリーム」
私がムーン・ライトに羽交い絞めにされ、中野君が挑発される形になった。相手は成人男性、もがいてみるも抜け出せない。
「こいつは厄介だな」
「あっ」
杖を奪われ、放り投げられた。しまった。杖が手にあるうちは魔法が使えたんだ。ちょっとした判断の遅れが、足枷になっている。装備の交換を念じてみるも、できない。杖を手に持ってないとダメなんだ。
「くそ、卑怯だぞ! それでも男か!」
「1対2で戦ってるんだ、これぐらい許せ」
「許す訳ねぇだろ! 千尋ちゃんを離せ!」
「だったら魔法を使えばいい。俺に攻撃できるチャンスだぞ? 嬢ちゃんもタダじゃ済まないがな」
そうだ、今はチャンスでもある。私ごと攻撃してしまえば、ムーン・ライトにも攻撃できる。
「中野君、いいからやって!」
「何言ってんだ! できる訳ねぇだろ!」
「ま、お前が何もしなくても嬢ちゃんはタダじゃ済まねえがな」
バチバチッ、とスタンガンを私の前で鳴らす。
「っ・・・」
威力としては一瞬痺れる程度だけど、何度も連続や長時間されるのはマズい。
「中野君早く!」
「くそ・・・」
「はははっ! できねえみたいだな。仲間想いで良かったじゃねえか、嬢ちゃん」
「きゃああ゛っ!」
スタンガンを使われた。
「おいテメ・・・!」
「どうした、来ねえのか?」
「中野君、お願い・・・」
「くそ・・・」
やっぱりためらってる、中野君もだけど、ムーン・ライトも。蹴らずに捕まえたし、捕まえてもなお威嚇ぐらいの攻撃しかしてこない。だけど、いつまでもこの膠着状態が続くとは思えない。中野君はもう無理だ。このままじゃスタンガンでやられる。
「きゃああ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」
今度は長めのスタンガン。じわじわとHPが削られていく。残り105。MPは128。
「くそがあぁぁぁぁぁあああ!!」
中野君がこっちに向かって走り出した。
「おおっといいのか?」
「くっ・・・!」
再びスタンガンを突き付けられ、それを見た中野君が止まる。
「はははっ、こりゃいいゴアアァァァ!!」
噛みついてやった。手首に。さらにスタンガンを持ってる方の手を思いっきり引っ叩いた。
「しまっ・・・!」
スタンガンが地面に転がる。
「ぎゃあぁぁぁぁぁああ!!」
それを持っていた手を引き寄せて、指に噛みついた。決めるなら、ここだ。ムーン・ライトを離し、距離を取るついでに杖を拾いに行きながら、
<中野君! 思いっきりやっちゃって!>
「よっしゃ! スターストリーのわっ!」
ナイフが中野君めがけて飛んで行った。当たらなかったけど、驚いた中野君が攻撃を止めてしまった。
「うらぁ!」
「きゃあっ!」
突然のことに私も固まっていると、一気に距離を詰められて蹴られた。とっさに右腕を盾にしたけど、痛い。ムーン・ライトも噛まれた指を痛がっている。私を蹴ってきたということは、なりふり構って居られなくなっているみたいだ。
「ち、千尋ちゃん! すまねぇ・・・!」
「突然だったもの、仕方ないわ」
それに、中野君に任せて見ているだけになってしまった。相手は1人、早く杖を拾って2人同時に攻撃していれば通ったはずだったんだ。だけど、私が羽交い絞めにされていた時に攻撃しなかったのは、少しだけ根に持っている。ムーン・ライトに勝つことを優先すべきで、そのために巻き添えにされるのなら私は構わなかったのに。
いや、中野君を責めるのはダメだ。仲間を、それも女子を、巻き添えにしたくない。当然の感情だ。中野君が感情を優先することを踏まえた行動を取らなければならない。
「それよりも、頑張りましょう」
「おう」
ムーン・ライトから目を離さないように後ろ向きで中野君の所まで歩いた。ムーン・ライトがスタンガンを拾う。しまった。落とした時に壊しておけば・・・。
「やってくれたじゃねえか嬢ちゃん。もう容赦しねえぞ」
これまでよりも険しい表情を向けて来ている。ナイフを投げてきたし、まだ何を隠し持ってるか分からない。だからこそ一気に決めたかったけど、こればかりは私たちの力不足。でも隠してる物を出してくるのは、それだけダメージを与えられているということ。
何をしてこようとも、勝つ。不安が無いと言えば嘘になるけど、強気で、強気でいかないと。
「望むところよ」
次回:捨てるべきもの




