表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4人の魔法使いの冒険  作者: 藤見倫
第1章:グリンタウンを救え
6/349

第6話:魔法使いの拳

 こいつを倒せば街に入れる。でも中々にしぶとい。中野を前にして狼とのにらみ合いが続く。今度は狼の方からきた。


「おら!」


 中野が杖を縦に振り下ろす。だが狼はよけなかった。後頭部に杖をくらいながら中野に飛びかかった。


「うおっ! このっ!」


 中野は受け止めつつ右手で狼の横腹を殴る。しかし勢いに押されて地面に倒された。狼の下に中野がいるのでは殴りづらい。狼と中野の間に足を入れて前方に蹴り出した。それは失敗だった。狼は着地後こちらを見たが、突然右に向かってに走り出した。

 ――その先には女性陣がいた。


「うそっ、こないで!」


 高松さんは杖を前に向けて光の玉を飛ばす。狼に当たり、煙が立ち込めたが、その煙から狼がのっそりと出てきて、また走り出す。


「あんにゃろう! させるか!」


 中野も高松さんの方向に走り出した。だが狼には勝てないだろう。俺が土の壁を出すしかない。残りMPは36、できれば防御に使いたくはないが仕方ない。節約のため俺もできる限り近くに行こう。


「ちょっと! この! このっ!」


 高松さんは「この!」に合わせて光の玉を飛ばす。連続魔法攻撃をくらい、さすがの狼も動きが止まる。高松さんのMPは36。玉を大きくしているせいだろう、消費が大きい。

 ・・・まずいな。だが狼も限界が近いはずだ。明らかに足を痛めている歩き方だ。高松さんも安心したのか魔法を使うのをやめ、花巻さんを背中に回したまま少しずつ後ずさって狼と距離を取る。この分だと中野が追いつきそうだ。


「この野郎っ! それ以上近づくんじゃねぇ!」


 中野はヘッドスライディングするように狼に飛びつき、そろって地面に倒れこんだ。


「離すかよ!」


 中野は両手両足を使って狼をがっちりと絞めている。狼はガウッ!ガウッ!と吠えながら首を動かしているが、牙はどこにも届かない。動きを封じれたか? そうならあとは狼をひたすら殴り続ければいい。


「中野くんナイス。このまま殴り続けることにするよ」


「じゃああとはよろしくな、ぜってぇ離さねえから」


 俺は地面に横たわっている中野と狼に近づき、振りかぶった右手を狼の腹を目がけて振り下ろした。


「ぐっ!」


 中野の力が抜けるとまずいからほどほどにしたが、本人は痛そうな反応をした。中野のHPは残り10。今ので減ったのか?


「もう一発いくよ」


「おう!」


 もう一発同じぐらいの力で殴った。中野は一瞬顔をしかめ、狼はガウガウ吠え続けている。

 残りHPは8、一発で2減ったか。だめだ、狼に攻撃すると中野までダメージを受ける。魔法でも巻き添えをくらうだろう。中野のHPがゼロになったら狼はこの束縛から逃れられる。


「花巻さん、回復は使わないで。敵も回復するかもしれないから」


「うん・・・」


 狼にまで回復される可能性がある以上、中野の回復はできない。かといってこのまま黙ってるわけにもいかないから・・・


「大村! 俺ごといいからデカいの一発かましてやれ!」


 中野も同じことを考えていたらしい。自分のHPが減ってることは自覚しているはずだ。だが相手が動けない大チャンス、活用しない手はない。悪いけど中野には戦闘不能になってもらおう。


「言い遺す言葉はある?」


「俺が死んでもお前らが勝つんだったらいいだろ」


「勝てるとも限らないよ」


「負けたら許さねぇぞ」


「負けたら二度と会えないからいいよ」


「ぜってぇ勝てよ」


「最善は尽くすよ」


 俺は中野と狼の近くに階段状に3つ踏み台を作った。


「高松さん、これで決まらなかったら本格的にやばいよ? 心の準備してて」


「え? ・・・うん、分かった」


 高松さんにひと声かけ、一番低い踏み台からさら10mほど離れた位置まで歩いた。


「中野くん、いくよ!」


「いつでも来い!」


 俺は踏み台に向かって全力で走り出した。そのまま、1、2、3、と走ってきた勢いで最後の踏み台からもジャンプした。高さは2mぐらいか。俺は右手を上に上げて、踏み台の土と、取れるだけの地面の土を集めて大きな拳を作った。下には狼と中野が見える。中野は少し顔を引きつらせて笑った。


「いくぞ!!」


 体が重力に引っ張られて落ちていく。あとは着地に合わせて右手を振り下ろすだけ。



「グランドブロウ!!」



 ドォン! と音を立て、魔法で作った大地の拳が狼に直撃した。拳は砕けて破片が周囲に散らばる。俺は立ち上がり、少し距離を置いて立ち止まった。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 俺は呼吸を整えながら狼の方を見る。瓦礫に埋もれているらしい。決まれ、決まっていてくれ。


<中野勘太郎さんが戦闘不能になりました>


 突然ポップアップで表示が出た。そうか・・・中野、すまない。女性陣に目をやると2人ともハッとした表情をしている。戦闘不能になると痛みは感じないはずだが中野は瓦礫の下か? そうだ、経験値は? 倒せているなら増えてるはずだ。



 ・・・増えてない。狼はまだ生きている。



「高松さん、準備して。経験値が増えてないからまだみたいだ」


「え? ・・・うん」


 瓦礫が崩れて狼が出てきた。しぶといやつめ。しかしもう立っているだけで精いっぱいのようだ。足はガクガクに震えている。これなら何とかなりそうだが、動きが良くなると面倒だ。もう少し呼吸を整えたかったが追撃なら今しかない。

 あれ、そういえば杖がない。もういいや、探すのも面倒だから素手でいこう。どうせMPも残ってない。俺は狼のそばまで走って近寄り、右足に体重をかけて再び右手を振りかぶった。今度は魔法で作った拳はない。



「マイ拳ブロウ!」



 そう叫ぶと同時に体重を左足に移動させながら狼の後頭部を殴った。


「がぁ・・・!」


 かなり痛い。左手で右手をさすりながら後ずさる。次に備えて狼の方を見ていると、地面に倒れたまま動かない。


 そして・・・



 狼の姿がその場で消えた。



「え?」


<レベルが2になりました>


 またポップアップだ。メニュー画面を開くと、HPとMPの最大値が増えていた。その分回復したのか、残りMPは5。どうやら勝ったらしい。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 俺はその場に座り込み、女性陣に向かって手を軽く振った。


「勝ったみたいだよ、僕たち」


 女性陣はしばらくお互いを見合ったあと、表情を明るくしてこちらに駆け寄ってきた。


「やったじゃん! 大村君すごい!」


「大村君、手、大丈夫?」


 回復してくれた。もうMP節約する必要はないか。


「ああ~、どうなるかと思った~」


 俺は両手を地面につき、天を仰ぎながらそう言って返事をする。


「ホントにもう出てこないよね?」


「怖いこと言わないでよ」


 すると後ろから瓦礫が崩れる音がした。ビクッとして振り返ると、中野がいた。なんだよ心臓に悪い。


「なんだ中野君か~、驚かさないでよ」


「そんなひどいよ千尋ちゃん、俺だって頑張ったんだぜ?」


「それもそうね。ありがと、お疲れ」


「ひっひひ。しっかし大村お前すげぇな~! ま、俺は勝ってくれるって信じてたけどな」


「何とかなってよかったよホントに。それより早く街に行こうよ、もう寝たい」


「そうだな、行くか。俺も早く生き返りてぇし」


 街の門は開いていた。俺は立ち上がり、4人そろって街へ向かって歩き出す。


「“いくぞ! グランドブロウ!” か~、俺もあんな風に決めてみてえな~!」


「あれでは決まらなかったけどね」


「いいんだよそこは。ていうかマイ拳ブロウってなんだよ、そこに名前いらねえだろ」


「勢い余って言っちゃった。二度と使わないかもね、MPを使い切らない限り」


「マジでもうMPナシで戦うなんてごめんだぜ」


 ホントもうごめんだよ。てか狼一匹にこんな苦戦してたんじゃ次の街行けないだろ。しばらくはこの辺でレベル上げか? うわー嫌なんだが。でも、魔法使い4人組というのも案外悪くないかも、と思い始めてきた。周囲に哀れみの目を向けられないようなチームにせねば。



「やっと着いたわね」


「本当に、やっとだな」


 高松さんのコメントに中野が答える。本当に”やっと”だよ。俺たちは4人横に並んで街の門をくぐる。ここは始まりの街プライマリ。俺たちはやっと、スタートラインに立ったんだ。


次回:これからどうする? 作戦会議

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ