第59話:学者たちの壁、未知の眠る地下5階
12時半に休憩を終えて出発。昼食後は、俺は横になって、花巻さんは壁に寄っかかって少し寝た。花巻さんの顔色が少し良くなっている。
階段に向かって歩く。昼飯どきだからか、休憩している人は多い。階段に近づくにつれて人が増える。魔法使い4人という組合せに視線を投げてくる人もいる。同情よりも、「よくここまで来れたな」といった感心の方が多い。「ここまで」とは、「地下4階まで」ではなく「スターリー神殿まで」だろう。上出来だ。この調子で魔法使いの株を上げていこう。
階段を下りて地下5階へ。ここもやはり休憩している人が多い。ただし学者だけ。観光客やトレジャーハンターはここには用は無いらしい。上ほど騒がしくはなく、あの景色を見る必要がなければ、こっちの方が落ち着いて休憩できそうだ。
「見た感じは、普通ね」
地下5階に到達した訳だが、地下1階から壁を取っ払った感じで、何も無い空間が広がっている。こっちの方が“無の層”にふさわしいぐらいだ。
「普通過ぎて不安になるぐらいにね」
「お、出たな大村のネガティブシンキング」
「人をネガティブ思考みたいに言わないで」
「違うのか?」
違います。慎重派だと言っていただきたい。
「警戒するに越したことはないってこと。何でネガティブ思考だと思われちゃうんだか」
「ネガティブなことばっかり言うからでしょ」
そうですね・・・でもこれ絶対何かあるでしょ。学者たちが長い時間かけても攻略できてないんだよ? ・・・うん、俺、ネガティブ思考だね。
「・・・とにかく行ってみよっか」
<ここからだと、南西が一番近い角になるね。いけそうだったらその場でいくよ>
発言と同時にメッセージ。ちょっと前に高松さんが使ってきた技だが、意外と使い勝手が良さそうだ。
「そうね」
「うお~~~っ、緊張してき…」
「おや? 君たちは」
「え?」
「ん?」
「お?」
突然話し掛けられて、花巻さん以外の3人がそろって素っ頓狂な声を上げた。同時に振り向いたのだが、そこにいたのはDr. スターリーと愉快な仲間た・・・もとい、ライトブラザーズのうちの2人だ。昨日の帰りに会ったムーンさんがいないから、今日は彼が地下1階の部屋の見張りだろう。
正直、これから角の壁に穴を空けに行こうという時に会いたくはなかった。
「あ、Dr. スターリーさん」
「どうだ? 調子は」
「まずまず、と言ったところですかね。ここまで到達した時点で学者の人たちにも大きく近づいたんじゃないかと思います。人探しに関しては、手掛かりナシのままですが」
「そうか。そうすぐに見つかるものでもないだろう。だがノーヒントで2日間でここまで来るとは、やはりワシの見込んだ通りだな」
「そもそもノーヒントで行こうなんて殊勝なことをする者がいませんからね。サンのスカウトは成功かな?」
「まあな。自分で言うのも難だが、筋の良い者を拾ってきたと思っている」
「はっ、言うね」
いや、“スカウト”とか“拾ってきた”とか何なの? アンタらの仲間になるつもりはないよ? むしろ何か隠してないか疑ってるんだが。
「では、僕たちは休憩を終えたばかりなので、これで」
「うむ、健闘を祈る。ワシらも先を越されないようにせねばな」
Dr. スターリーたちと別れ、壁に沿って南西の角を目指して歩き始めた。出てくる敵は、キュートウィッチが出ないことを除いて地下4階と同じ。頻度は大したことないから大きな足止めを食うことなく進んでいる。
「さっきの爺さんがDr. スターリーか?」
「そっか、2人は初めて見たんだね。あれがDr. スターリーで、他の2人がスター・ライトさんとサン・ライトさん。昨日会ったムーン・ライトさんは、今日は部屋の見張りかな」
「75なんでしょ? こんなトコまで来るなんて元気ね」
「自分の足で調べることが大事だって言ってるからね、それ位のことはするでしょ」
「ほえ~~。凄ぇ爺さんだな」
「いいじゃん。“年寄りを敬え”とか言ってコキ使われるよりは、ずっと。さすがにモンスター退治はライトブラザーズに任せてるみたいだけど」
「そこまでDr. スターリーがやってたらマジ凄いよ」
「共に進む仲間や支援してくれる助手がいるから研究が続けられて、そういった人たちに敬意を払うことも大事だ、ってことも言ってたね。こんな75歳はそうそう居ないよ」
「ホントに、凄いお爺さんね」
年を取ると態度が大きくなる人も結構いるからな。もちろん俺だって、相手が目上であることに一定の配慮はする。でも当の本人が、その配慮があるのが当たり前だと思うのは間違っている。あくまで対等な関係であるという前提の上で、配慮があることに感謝すべきだ。
もし、これまで社会を支えてきたんだから敬え、と言うことであれば俺は、よくもこんな腐った社会にしてくれたな、と返したい。あなた方は今の社会に一切の不満が無いのか? 山ほどあるだろう? こんな社会にしたのは、“これまで社会を支えてきた“あなた方だ。その不満の解決を次の世代に押し付けて、さらには”敬え“など、有り得ない。
おっと愚痴が過ぎたな。今は神殿内、それも未だ誰も突破することが出来ないでいる地下5階の探索中だ。集中しよう。
しばらく進んでいると、少し離れた位置に地面に境目があるのが見えた。境目の線は大きな円を描くようになっていて、その境目の向こう側は、メリーゴーランドのように回っていた。
「なに、あれ」
最初に口を開いたのは高松さんだ。答えてあげるが世の情け。
「あの辺だけ円盤状にくり抜かれてて、回ってるみたいだね」
「いや、そりゃ、見ての通りなんだけど・・・」
壁に電気が付いてるから壁の近くは明るいが、離れると真っ暗になるだろう。懐中電灯があっても照らせるのは地面だけだ。
もちろん回る地面はあれ1つだけじゃないはずだ。半径もデカそうだし、回転速度もそれなりにある。マップがなければ確実に迷う。ルイナさんぐらいに緻密な図を作らないと全容を把握するのは無理だ。Dr. スターリーはどこまで攻略できているのだろうか。それとも・・・?
いずれにせよ、俺たちは角に行きさえすればいい。
「マップがあっても壁から離れたらマズいかもね。とにかく僕たちは角を目指そうか」
「だな。こんなとこで迷子なんてゴメンだぜ」
回る地面を横目に、南西の角に向けて移動を再開。その後も何度か回る地面が現れた。半径や回転速度は物によって違う。統一感がないところも厄介だ。
あと、これまでのフロアと違って学者グループをチラホラ見る。彼らにとって地下1~4階は通り道だが、ここは調査対象だから、あちこち調べてるのだろう。カンテラを持って回転地面に乗ったりしている。よく迷わないな。
しばらくして南西の角に到着。だが、近くに学者がウロついている。こんな所で壁をくり抜くことはできない。穴を開けたら光も出るし。
<ここじゃ無理だね。誰もいなくなるのを待つぐらいなら南東の角を目指そう>
<オッケー>
<いいぜ>
<うん>
特に何もせず、南東の角に向かって進み出した。相変わらずたまに学者を見かけるが、壁に張り付いてるのは俺たちだけだな。さすがに何ヶ月、何年と調査してる学者たちは外周は調べ終えてるか? 測量してるように見えるグループもいるが、地下5階だけを測量しても四隅の壁の奥の空間には気付けないだろう。
地下5階を制覇して何もないと分かれば他のフロアに移るかも知れないが、その前にルイナさんが気付くだろう。だがそのさらに前に、俺たちが”奇跡の光”を復活させてみせる。
途中、回る地面が思いっきり壁に迫ってる場所が訪れた。近づいてみると完全に壁に接していた。結構な大きさで、見た感じは大股でも5~6歩ぐらいはこの上を進む必要がある。救いなのは、反時計回りだから進行方向に向かって動いている。降りるのが遅れると壁から離されるが。
どの道いずれ逆パターンも出るだろうが、とにかく乗り過ごさないように気を付けよう。
「風魔法を使うほどじゃないし、小走りぐらいで行こう。まずは僕。次は、悪いけど一番運動が苦手そうな花巻さん。あとの2人は適当に決めて」
「うっし」
「それが妥当だとは思うんだけど、“適当“って何よ”適当“って」
「便利だよね、“適当”」
「せめて取り繕いなさいよ・・・」
怒られるような言い訳しか無いからね、ここは開き直って呆れてもらった方がいい。もう随分と本性さらけ出してるし、俺に対する評価は落ちるところまで落ちてるだろう。いつからだっけ・・・? グリンタウンでヤクザと戦った後ぐらいからか、ボロが出始めたの。
結局、花巻さんの後ろは、中野、高松さんの順にしたらしい。4人そろったところで前進。
その後も壁の近くまで回る地面が迫っている所がいくつもあり、もうガッツリ回る地面がたくさん見えている。ただの平地の方が少ないぐらいだ。しばらく進むとまたしても壁と接するものが出てきた。今度は時計回り。
「うげーっ、逆回転かよ」
「こんなのさっきのヤツがあった時点で想像できたでしょ。乗ってると戻されるからピョンピョン跳ねながら進んだ方がいいね」
「そうみたいね。さすが大村君は予想が早いこと」
“さすが”と“大村君”の間に“ネガティブ思考の”って言葉が聞こえたよ。
「それはどうも」
「分かってるだろうけど褒めてないからね」
「えーそんな」
「はあ・・・」
わざとらしく驚いたような言い方をしたら、呆れられた。反応としては、“バレちゃったか”って言った方が面白いかな。どっちにしても高松さんが疲れるのは変わらない。俺みたいな人間の相手をしなければいいものを。
時計回りの回転地面もさっきと同じ順番で1人ずつ突破。その直後にまた反時計回りで壁に接する回転地面が現れたが、一言二言ぐらいの会話で済ませ、最初と同様に小走りで突破した。照明が壊れているのか、暗い。先頭を行く俺が平地に着地した直後、
「ごぉっ!」
腹に衝撃を受けた。シルクリッスにしてはゴツゴツしてる。と思ったら、うっすらと見えた陰はストーンゴーレムのようだった。
「大村どうした!?」
「ストーンゴーレム、倒しとくから普通に来て。花巻さんも、回復は要らないから急がないで」
弱点の水ばかり使ったが、急いで来たらしい中野が来るまでには倒せず、2人でちょうど始末した頃に高松さんの「よいしょっと」という声が聞こえた。
「大丈夫?」
「何とかね。 行こっか。なんか暗いから気を付けて」
と声を掛けて、どうせ顔は見えないので特に振り向きもせずに進み出した。
「電気壊れてんのか?」
「みたいね。さっきからメリーゴーランドだらけだし迷子になりそ。 ね、葵。
・・・葵?」
「ん?」
高松さんの発言に違和感を感じ、振り返った。また気分が悪くなったりでもしたか?
「あれ・・・?」
人影が2つしか見えないので仕方なく火を出して周囲を照らした。気分が悪くなってうずくまってる訳ではなかった。
花巻さんが、いなくなっていた。
「え、葵・・・? 嘘、でしょ・・・?」
次回:消えた葵




