第58話:地下4階に広がるものは
ルイナさんたちと別れ、北東の角に向かうのを再開した。
「凄かったなぁ~、さっきの大ジャンプ」
「ホント。こっちの世界の人は皆あんな身体能力なのかしら」
「一部の人だけだと思うけど、どっちにしても現実離れしてるよね。ゲームの世界ではあるんだけど」
「あのワニも一撃で仕留めちゃうし、あんな強い人がいるんだからルイナさんも安心ね」
「逆を返せば、敵に回したらやばいね。今の僕らでは勝てないよ」
「まさか敵になったりしねぇよな」
「大丈夫だとは、思うけど」
むしろ味方になってくれる可能性だってある。
先頭を歩く中野が立ち止まり、次の言葉を小声で話した。
「でもよ、良かったのかよ。あの光のこと言わなくて」
そういうことはメッセージで言おうか。
<大丈夫。本人が望んでないだろうから、言わない方がいい。ましてゲームのマップ機能で分かったことなんて。それにまだ、ルイナさんの味方にも、Dr. スターリーの味方にもつきたくない。僕らは第3勢力でいよう>
<なるほどな~~。じゃあそれでいいや>
4人全員のチャット板でやりとりした。あっさり話がついたのはいいが、どこまで理解してくれたことやら。
そのまま10分ほど進んだところで、北東の角に到着。やはり丸まっている。
<結構視界がいいし穴を開けるのはやめとこう>
<りょーかい>
<オッケー>
そのまま、南東の壁を目指す。途中でまた壁が現れる。外周の壁から出っ張っている感じだ。
「ここは、2階と1階をつなぐ階段の辺りだね」
その壁に沿って逆の”コ”の字型に移動。途中、地下2階スタートの一本橋となっている壁が現れたが、ちょっと壁沿いに進んだだけで反対側に行けた。その後も壁に沿って再び東側の壁に到達。当然この壁の内側がポッカリ空いたマップになる。
「これ、どうする?」
「う~~ん。気になるし、この壁は壊してもそこまで不自然ではないだろうけど、あんまり目立つ行動を取りたくない。やめとこう」
「そっか。じゃあさっさと行きましょ、南東の角」
「そうだね」
そうと決まれば長居は無用。南東の角を目指して歩き出した。
途中で誰かが水に落ちるようなこともなく、南東の角に到着。やはり丸まっている。さて、このまま西を目指して外周を固めますかね。と思った瞬間、
「あ、階段!」
「え?」
高松さんが指差した方向に、確かに階段があった。
「うがー! また負けたー!」
中野が両手で頭を抱える仕草で悔しがる。正直、階段が見つかったならそれでいい。見つけてやるぜっていう気持ちが、見つける可能性を上げることもあるけど。
「ふっふ~ん」
高松さんは両手を腰に当ててドヤ顔。中野は「くっそ~」とか言ってる。
「高松さんナイス。じゃ、下りよっか」
<え、いいの? 外周回らなくて>
<四隅の角は見れたし、帰りに通ればいいから>
「そっか。それもそうね」
いつものように中野を先頭に、いざ地下4階へ。
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螺旋階段を下りきり、地下4階に着いた。
「なんだ・・・? これ・・・」
そこには、星空が広がっていた。声を発したのは中野だけで、他3人は固まっていた。
階段付近はこれまで通りの石造りだが、目の前には星空のような景色が広がっている。床・壁・天井の区別がつかない。歩いてる人がいるから宙に投げ出されることは無さそうだ。それと、”これが道です”と言わんばかりに、星が密集している天の川のような帯が対角に向かって伸びている。
「お? もしかしてここに来るのは初めてかい? 凄いだろ。”星の層”の名は伊達じゃないね」
景色に見惚れていると、学者っぽい人から声を掛けられた。
「あ、はい。凄いですね」
辺りを見回すと、結構な人たちがここで休憩していた。これまでは人に会うことの方が珍しかったが、この下は最下層の地下5階だし休憩場所にはちょうどいいのだろう。ざっと50人は居る。地下5階への階段はもっと多いかもしれない。あと、明らかに学者じゃなさそうな4人組も居るが、プレイヤーだろうか。トレジャーハンターだろうか。
「まさか神殿の地下にこんな場所があるとは、”スターリー神殿”の名も伊達じゃありませんね」
「はははっ、そうだな。しかもここは階段の近くだけじゃなくて、あの道の上でもモンスターが出ない。さらに次の階段まで一本道ときた。この景色も相まって観光客もチラホラ見かけるぜ。ま、ここに来るまでに護衛と体力は要るがな」
なるほど。実質上、残すは地下5階ということか。Dr. スターリーが60年と、多くの学者たちが歳月を要しても攻略できていない難関。その地下5階で、角の壁をくり抜く必要がある。一応ここ4階でも天の川の道を無視して外周を回るつもりだが、
「道から外れたらモンスターが出るんですか?」
「ああ。イエロースライムとブラウンバットに加え、シルクリッスにストーンゴーレム、キュートウィッチも出る。手強いが、そのぶん稼げるからトレジャーハンター連中もよく見かける。でもお前さん達はやめときな、魔法使いばかり4人じゃキツいだろうからな」
シルクリッスは昨日の宝箱のとこの奴、ストーンゴーレムはまだ戦ったことがないが、森にいたクレイゴーレムの上位版か。キュートウィッチは初めて聞くが、どうだろう。リスのスピード、ゴーレムのパワー、それからキュートウィッチは恐らく魔法を使う。でも気を付ければ大丈夫だとは思うが・・・魔法使いの4人組、やはり甘く見られるな。時間は掛かるだろうが払拭したいところだ。
「ありがとうございます、では僕らはこれで」
「ああ、お互いせいぜい頑張ろうぜ」
話し掛けてきた学者と別れた。
「外周回るのでいい? 次の階段は対角にあるみたいだから遠回りになるけど」
「いいんじゃない? 確認はしとかないと何かモヤモヤするし」
「俺もいいぜ? モンスター出た方がレベル上がっしな」
そう。そっちの理由の方が大きい。四隅の角はもう、全部丸まってるだろう。
「私も、大丈夫」
「んじゃ、ちょっと休んでから行こっか」
「オッケー」
「おう」
「うん」
空いてるスペースを探していると、
「よぉ、オームラじゃねぇか。こんなトコで会うなんてな」
ロージがいた。取り巻き2人も一緒。
「なんだてめぇ、観光か? レベル上げか? 金稼ぎか? まさか神殿の調査って訳じゃねぇよな」
その”まさか”です。レベル上げと金稼ぎもやるけど。あと人探しも。コイツには花巻さんの弟の話はしなくていいや。
「ま、そんなとこ。じゃ」
肩をつかまれた。
「おいおいおいおい、ツレねぇなあ。ちょっとぐらい話すことねぇのかよ」
「ない」
「ハンッ、ったく。あ、そうだ。魔法だけじゃキツくなったら護衛として雇ってくれよ? 稼げるらしいんだよ、あれ」
「誰がトレジャーハンターを護衛として雇うのさ」
「魔法使いだろ」
「そ。じゃあ頑張って探して」
「あ、おい! ・・・くそ、行っちまいやがった」
ロージの声を背中で受け止めながら休憩スペース探しを再開した。
階段から壁に沿って西にちょっと進んだ辺りで人が少なくなった。天の川の道が離れているからか、トレジャーハンターっぽいのしかいない。まだ床は石造りだからモンスターは出ない。
「なあ、あの何もねぇとこ歩けんのか?」
「歩けるんじゃない? トレジャーハンターがいて、道から外れるとモンスター出るってさっきの人も言ってたし」
「でも何なんだろうね、あれ。足はちゃんと着くのかな?」
「それも大丈夫だとは思うけど。せっかくだからジャンケンで負けた人が思いっきりジャンプ、ってのはどう?」
「面白そうだなそれ」
「絶対ヤだかんね!」
花巻さんは首を何度も横に振って拒絶した。
「じゃあ中野くんよろしく」
「俺1人でかよ! もう勘弁だぜ1人で先に落ちんのは」
「ついでに地下5階を調べてもらおっかな」
「おい!!」
結局、普通に近づいてツンツンすることになった。今は10時40分手前。もう少し休むか。
「なあちょっと弁当食っていいか? 腹減っちまって」
ちょうどいい。
「別に。んじゃ11時ぐらいまで休憩だね」
「よっしゃサンキュな」
中野の手元にポンッと弁当が現れ、それを開けて食べ始めた。これはプレイヤーである限り誰でもできるのだが、もはや魔法の領域だ。あと、中野の弁当だけ大盛りになっている。
「それにしても、あのロージって人、随分とまるくなったわね」
「あー、そうだね。最初は手足を縛られて放置された上にアニキに殴られて見捨てられる、次は狼に首くわえられた上に組織が壊滅、って訳だけど、今度は上手くやってるみたいだね。もしかしたら、チンピラ時代は誰かの下にいたから余裕がなかったのかも」
「それはあるかもね。あの人、アニキとか上の人の目を気にしてそうだったし。トレジャーハンターなら害は無さそうだし良かったわね」
「でもちょっとウザくねぇか? あいつ」
「ま、適当にあしらってればいいから大丈夫だよ。今のとこ害は無いけど、仲良くするメリットも無さそうだからね。リリーさんぐらいに強ければ話は変わるけど」
「人と仲良くなるのに”メリット”なんて言葉を使わないでよ」
「それは、私も、そう思う、かな」
「あはは・・・気を付けるよ」
とは言ったものの無理だなー。人間関係とか損得の都合だけでしょ。「俺たち友達だろ?」とか言う奴ほど人を道具扱いする。対等だと思ってるのはそいつらだけだ。
そうこうしているうちに11時を回った。
「んじゃ、そろそろ行こっか」
「うっしゃ」
床が石になってる部分の端まで行き、しゃがみこんでその一歩先、星空になってる部分に手を出す。床に星空が広がっているというのも変な感じだな。
「確かに、手は置けるね」
「いやでも怖ぇだろこれ」
今度は右足を、石の部分から擦りながら前に出した。確かに足はつくようだ。少しずつ体重を右足に移していき、やがて石の部分と星空の部分の境界を挟むように立った。
「おおーーっ」
そして左足も星空に移した。
「本当に立てるみたいだね、この星空の上」
「マジかよ。まぁそうなんだろうけど」
他の3人も、恐る恐ると言った感じで星空の上に体を移した。
「うっひょ~~う。なんかすげえなこれ」
「星空の上に立つなんて、不思議な気分ね」
「す、ごい」
「んじゃ進もっか。敵出るみたいだから気を付けて」
「おう」
「「うん」」
まずは南西の角を目指し、西に向かって出発。壁(これも星空になってる)に手を当て、マップで方向を確認しながら前に進む。始めの方はぎこちなかったが、少しずつ慣れてきて普通に歩けるようになった。が、上下左右とも同じ景色というのは方向感覚が狂いそうだ。モンスターが出た時は壁から離れて戦うが、マップ様のおかげで真っ直ぐ壁沿いに進むことができている。
「あ」
初見のモンスター、キュートウィッチ登場。ホウキに乗った魔女、身長は1mぐらいか。
「確かに結構キュートね」
サイズ感もさることながら、愛くるしい表情をしている。だがモンスターはモンスター。キュートウィッチはホウキに乗ったまま杖をこちらに向けてきた。魔法陣が発生し、その中央に光が集まり、
「おわっ」
光の線が飛んできた。光の下級魔法、ホーリーラインだ。予備動作が露骨だったので避けるのは割と簡単だった。反撃しようと杖を向けると、
「は?」
キュートウィッチはそのまま飛んで逃げて行った。
「あいつ逃げやがった!」
「捕まえてごらんってトコかしら。ますますキュートね。今度は、倒すけど」
まさか一発魔法かまして逃げるとは。次は手早く仕留めてしまおう。
その後もモンスターがチラホラ出て来た(キュートウィッチとの再戦はまだ)。地下3階までと同様、一度に大量に出ることは無かった。照明は無いが、散りばめられている星の明かりで、5mぐらい離れていても難なく姿がとらえられる。
こちらも初の顔合わせとなったストーンゴーレムも、しぶといだけで動きは遅く、大したことは無かった。2回目からは弱点が水だと分かって戦いやすくなった。シルクリッスの方がよっぽどウザい。コットンよりも突進までのタイムラグが短く、他の敵や進行方向に気を取られた際に突進を食らうことが何度かあった。
「本当に、星空の中を歩いてる気分ね」
「マジ凄ぇよなこれ、敵出んのがウゼぇけど」
「ま、ダンジョンだししょうがないね。敵に気を付けながら星空を満喫しよう」
そんな感じでたまに雑談をしながら進んで行く。
「お、来たぞキュートウィッチ。・・・死ねぇ! シャドウクロス!」
中野が先制攻撃を仕掛けた。キュートウィッチの真下の床に紫色の魔法陣が現れ、縦線からの横線の順で十字架が出て来た。クリーンヒット。さすがに下級魔法では一撃で倒せなかったが、かなり痛がっている様子で目には涙を浮かべている。可哀相だけど逃げられる前に、泣きっ面に雷だ。
「サンダーランス」
雷を飛ばすと、これもヒット。キュートウィッチはホウキごと落ちて、両手を目に当ててメソメソしながら消えていった。
「ちょっと、可哀相だったね。泣いてたわよ、あの子」
「やりづらいけど、敵だし、しょうがないよ。弱点は闇みたいだから中野くん今みたいな感じでよろしく」
「おう。なんか俺もやりづれぇけど」
その後もそのまま進み続け、しばらくして南西の角の辺りに到着。マップ上では地下2階と3階の壁はこの辺りから曲がっている。ここ地下4階の壁は、見た目は完全に星空で床や天井との区別がつかない。壁を触りながら進んでいると、マップ上で角が曲がってきた。触っている感触としては、曲がってるような、曲がってないような。
やがて90°曲がりきり、進行方向が北になった。やはりここも角が丸まっているようだ。
「葵、大丈夫?」
花巻さんの顔色は確かに良くない。
「うん・・・大丈夫。ここ敵出るし、階段までは、頑張るよ」
「キツくなったらいつでも言ってね。葵を休ませて戦うぐらいのことは出来るから」
「うん。ありがとね、千尋ちゃん」
「いい景色ではあるんだけど、これは確かにちょっと感覚がおかしくなりそうだね。足ついて歩けることが唯一の救いだよ」
ぶっちゃけ、あまり長居できる空間じゃない。
「・・・そうね。全然景色が変わらないのって、結構キツいのね。あたしは方向感覚もう狂ってるし。マップがなきゃ今頃迷子ね」
「そうなのか? 俺はいっそ宙に浮きたい気分なんだけどな」
中野が羨ましい。こいつ、あんまり繊細じゃなさそうだし。
花巻さんの様子を気にしつつ、北西の角を目指す。多分だが、階段があるだろう。天の川の道を辿れば迷わず着けるのだ、難しい位置には無いはずだ。
図星だった。壁沿いに進んでいると地面が石になってる部分が見えた。ポツポツと休憩している人たちの姿が見える。やはり学者っぽいのが多めだ。
「やっと着いたね」
「階段、角にあったのね」
「ちぇっ、こんな簡単だったら勝負できねぇじゃねぇか。今度は勝つつもりだったのによぉ」
「別に勝負なんてしなくてもいいでしょ。それに、次の地下5階は学者たちも攻略できてないから、何か見つければ本当に一番乗りだよ」
そう言いつつメッセージを添える。
<どこかの角に穴を空けるよ>
「っ・・・と、そうだったな。よっしゃ! 楽しみだな!」
「頑張りましょ。でもその前にお昼ね。11時半過ぎだけど、いい景色だしちょうどいいでしょ。葵も、ゆっくり休んでね」
「うん、ありがとう。疲れちゃった。戦ってないのにごめんね」
「気にすんなって。結構歩いたんだからさ。腹も減ったし休もうぜ」
「さんせ~~い。僕もお腹空いちゃった」
みんなして弁当箱を出して、食べ始めた。
次は地下5階。いよいよ四隅の角の光に迫る。
果たして、何が待っているのだろうか。
次回:学者たちの壁、未知の眠る地下5階




