第54話:大穴の層を攻略せよ
レイズデッドでのHP回復量は、最大値の30%だった。あとは宿屋の機能で回復してもらった。
「ちっきちょ~。死んじまったぜ」
「大丈夫? 何があったの?」
高松さんが空気を読むように聞いた。
「それがよぉ、いきなりワニが出てきて噛まれちまってよぉ」
そりゃHP30ちょっとじゃ持たないな。ワニはウォーターランド西のやつだろうか。それよりも気になるのが、
「で、下はプールだったんだって?」
「ああ、そりゃでっかいプールよ。たぶん上で足場になってた柱がめっちゃあってな、それ以外はもうプール。これがまた深ぇんだよ。 ってか気にするのそこかよ大村」
「まあ助かるとは思ってなかったからね」
「ひでぇなおい!」
「悔しいなら、次は結果で示してね」
「くっそ~~」
「でも1回は陸に上がれたんでしょ? よく助かったわね。泳ぐの得意なの?」
「いやそれがよ、近くに学者がいたみたいで助けてくれたんだ。一応は足場があってな。落ちた先が水で良かったぜ」
「そ、そうね・・・」
高松さんが顔を引きつらせて中野から目を逸らした。
「”水牢の層”って言うらしいぜ、地下3階。なぁ今日もっかい行くよな?」
「ん? そうだね。今2時半だし、3時ぐらいまで休んだらまた行こっか」
「うっし、そうこなくっちゃな。次は死なずに戻って来るぞお~っ」
頑張ってくれ。
「あ、そうだ。さっき、最下層まである程度調べてレベルが全員40になったらエコノミア目指そうって話をしたんだけど、それでいい? レベル40になったらBランク装備できるから一旦ウォーターランドに戻るつもり」
自分で言ってても分かる、”こう決まったからよろしく”みたいな言い方。あんまり良くないから直さねば。
「お、うん? ・・・いいぜ。オレ頭悪ぃからよ、その辺はみんなに任せるぜ」
頼むからちょっとは自分で考えてくれ。
「んじゃ休憩~」
俺は畳んである布団の上に、手を頭の後ろに回して仰向けになった。
「せっかく皆そろったのに、もうお話しする気はないみたいね」
「つ、疲れてるんだよ。きっと」
「まぁいいんじゃね? コイツはこんなもんだろ」
では遠慮なく、30分間休憩します。
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体が揺さぶられる感覚がした。
「大村君起きて。3時過ぎたよ」
「ん? う~ん。・・・え?」
バッと体を起こした。3時8分。
「あ~~。ごめん、寝ちゃってたみたいだね」
「確かに疲れてたみたいね。あたしたちと話す気も失せるほど」
あ、いや、そんなことは・・・あるけど。ここは眠いフリをして、
「う~~ん、みんなは大丈夫?」
「平気よ。後は大村君待ち」
「じゃ、行こう」
「そんな寝起きですぐに大丈夫?」
「うん。でも中野くんが負ぶってくれたりしたら嬉しいな」
「何でだよ。あ、でもそうだな、地下2階で一緒にダイブしようぜ」
中野が左手でグッと親指を立てた。
「自分で歩くことにするよ」
「中野君ナイス」
高松さんも左手の親指を立てて、中野に向けた。何その結託。
今度は通ったことのある道で知る限りの最短経路―――ほぼ午前中の帰り道と同じ―――で隠しスイッチがあった場所まで来た。MPは全員200以上残している。上出来だ。
「そう言えばこれ、消えないんだな」
「ずっとそのままなんじゃない? 道が増えたことに気付いた学者が行ったりするかもね。行き止まりで空っぽの宝箱は見つかっちゃう。地下3階に行くのにここが通り道なら、勘のいい人は僕らだって気付くかも」
「さっきの帰りも学者っぽい人とすれ違ったしね」
「バレたら何か問題あんのか?」
「いや無いよ。だから気にせず行こう。マップができてない場所を進もうか」
既に変な人たちに気に入られているからね。今更その辺の学者に目を付けられるぐらい、何のことはない。
とりあえず西、つまり1階への階段から離れる方向に進んだが、しばらくして壁にぶち当たった。石の壁が目の前に立ちはだかった。
「あれー」
「げっ行き止まりかよ!」
「どこにあんのよ階段~」
「どうするの? 大村君」
やはり意思決定を俺がする雰囲気がチーム全体にできてしまってるな・・・それはおいおい何とかしよう。
「うーーん。とりあえず壁に沿ってぐるっと回ろう」
「うん」
「頼むから出てきて階段~」
「また隠しスイッチとかねぇのか? ・・・ねぇな~」
さすがに何回もは出てこないか。壁に沿って北の方に進むことにした。マップはいい感じで埋まっていくが、そろそろ下に降りたい。
30分ほど壁沿いに進んだ結果、広い足場に来た。位置的に、一本橋エリアと丸足場エリアの間。午前中の往路で4人で休憩した場所だ。途中で壁が大きな右カーブになっていたから進路が90°曲がって東になっていた。ちょくちょくマップを見てたから気付いていたが、誰かが何か言わないかと思って放っておいた。その途中に階段がある可能性だってあったし。
「そんな気はしてたけど、戻って来ちゃったね」
「はあ~~」
パンパン、と高松さんが自分の両手で頬を叩いた。
「いけないイケナイ、気をしっかり持たなきゃね」
その通りだ。
「北西の角は丸まってるみたいだね。部屋の輪郭がちょっと分かっただけでも良しとしようか」
マップには、太い線で壁が表示されている。ある程度近づけば表示されるようになっているのだろう。
「でもどうするよ? マジで飛び降りるか? 風魔法あんだろ」
「それはやめようよ。全員で降りて上がって来れなくなったら文字通りゲームオーバーだよ。降りるのはともかく、上がるのは絶対MP足りないから階段の場所を知りたい。下は水が広がってるみたいだし、足場が限られてる分こっちの方が見つけやすいはずだよ。中野くん1人で飛び降りるなら、止めないけど」
「や、やめとくぜ。言われてみりゃそうだし、やっぱ俺もこっちで探すわ」
「それがいいよ。マップを埋めつつ反対側の壁を目指して、あとはシラミ潰しに調べていこう。もし丸足場エリアになければ、一本橋だね。魔法が使えない学者が行けるんだから、人が歩ける範囲にあるはず」
「根気が要りそうね」
「世界中のどこにいるか分からない人を探してるんだ。神殿の1つで音を上げてはいられないよ」
「ふーーっ。そうね。頑張ろ、葵。中野君も」
「うん」
「おう」
とりあえず壁と垂直に広い足場を進んだが、途中から塞がれていたのでやむなく丸足場に移って南を目指す。また途中から広い足場に乗れるようになり、そのままマップの線が繋がって一度通ったことのある場所に来た。今度は、午前の復路と、ついさっきにも通った方だ。
「せっかくだし、マップ上の壁つなげようか。部屋全体の広さが分かってた方が気が楽でしょ」
「そうね。手さぐりで探すしかないんだもの。探さなきゃなんない範囲だけでも先に知っておきたいわ」
という訳で、そのまま壁にぶつかるまで南に向かい、その壁に沿って西に進んだ。
南西の角も丸まっているようだった。そのまま壁沿いに進んでメニュー画面マップ上の部屋の輪郭をつなげた。そして、今度は未知の部分を通りつつ広い足場に戻った。
「結局なかったわね、階段」
「くっそお~どこなんだよ~~」
「とりあえず丸足場エリアの輪郭は分かったね。後はシラミ潰し大会だ」
「ここからが本番ね」
そうだよ~? 輪郭を埋めるっていう目的を失ったからね。精神的にはここからが辛い。
「でも、一旦休もっか」
「おにぎり食おうぜおにぎり」
腰を下ろし、女将さんが作ってくれたおにぎりを食べた。中野だけ2個。
もう5時過ぎか。せめて階段は見つけたい。
「しょうがない、バラバラに行動しよう。その方が効率がいい。階段を見つけた人がメッセージで連絡。階段が見つからないまま6時になるか、誰か1人でも落ちたらもう1回ここに集まって帰ろう。3人は一緒に行動しててもいいけど、少なくとも僕は単独行動でいくよ」
1人で動く、というだけで移動スピードがかなり変わる。こんな点々とした足場で4人一緒は動きづらい。単独行動なら、みんなも好きな時に休憩できるし。
「そうね、あたしもそれがいいと思う」
「うっし。俺が階段見つけてやるぜ」
「葵は、あたしと一緒に行こ」
「うん、そうするね」
「決まりだね。それじゃあ僕はお先に。みんな気を付けて」
「大村君もね・・・って早っ」
返事があるとは思わずにスタートしてしまった。まあいいや。マップの奥、つまり西側から順に埋めていこう。南の壁がギリギリ見える位置をキープしつつ、一番奥を目指す。高松さんか中野のどっちかが手前ばかり探してくれるといいが、余計なことは言わずに本人の判断に任せよう。
やはり奥に進むほど足場が小さくて間隔も広いようだ。だからと言って奥側に階段があるとは限らないが。
壁のカーブが見えた。カーブを曲がり終え、今度は北に進み出す。北側の壁が見えたら少し東に移って南側の壁を目指す、を繰り返そう。何往復で階段が見つかるだろうか。
5時半手前、1往復ちょっとしたところで、
「あったーーーー!!」
と、高松さんの声が聞こえた。さらに2~3秒後にメッセージ。
<階段あったよ! マップにも出てる!>
マップを見ると、丸足場エリアのド真ん中のちょい左下に黄色い点が出ていた。これまでみんなで通った分は不規則な網目状になっていたが、確かに階段付近だけ避けていたかのように空いていた。高松さんが通ったと思われる線が目立つ。
<くっそ負けた~!>
<じゃあそこ行くから待ってて>
<みんな待ってるね~>
5分ほど移動すると、女性陣2人と、そのそばの階段が見えた。
「おーい」
「あ、大村君が先に来た。大村君のか・・・いやアタシの勝ちだね」
「あーあ、負けちゃった」
「もうちょっと悔しそうにしてよ」
「中野君のが見れると思うよ」
「そりゃそうだろうけどさ」
さらに3分ほどで中野が到着。
「くっそお~~、俺が見つけるつもりだったのに~」
「ふっふ~ん、あたしの勝ち~」
「次は負けねえぞ」
「いやみんなで行こうよ」
「それもそうか、忘れてたぜ」
それから10分ほど休んで、階段を下り始めた。階段付近はモンスターが出なくてゆっくりできた。
「これ長くね?」
「自然落下で5秒は掛かったからね、3階建ての学校の屋上よりは確実に高いよ」
「何で5秒なんて分かんだよ?」
「中野くんさっき落ちたじゃん。水の音が上まで聞こえてきたよ」
「てめぇ時間測ってたのかよ!」
「気になるじゃん、高さ」
「いやそうだけど、仲間落ちたのに時間とか数えてんなよ」
「ごめん、せっかくの機会だったから」
「くっそお~、何で俺ばっかり・・・」
「まあまあ中野君、大村君が冷たいだけだから」
「だよな! やっぱそうだよな!」
「でもおかげで階段の大体の長さが分かるんだよ? ビル10階ぐらいだと思えばいいかな」
「う~ん。でもやっぱりヒドいと思う方が強いわね」
「それは、私も、かな」
花巻さんまで・・・。
「へっへ~~。やっぱ大村が悪いんじゃん」
「えー」
悪いとまでは言われてないだろう。まあいいけど。
長い螺旋階段を下りきり、地下3階に着いた。
「なるほど、確かにこれはプールだね。しかも上で足場になってる柱が邪魔で遠くが見えないし。”水牢”の名前は、この大量の柱が檻みたいに見えるからかな」
そびえ立つ柱は、もちろん水の中から出てきている。底は一応見えるけど、あの高さから落ちて助かるんだから深いだろう。
「とりあえず足場を行きましょ。でも疲れたわ。7時ぐらいには帰る?」
「そうだね、それでいいと思う。最後のひと踏ん張り、頑張ろう」
「よっしゃ行くぞ!」
地下3階、水牢の層




