第53話:帰り道
さて、宝箱があったはいいが、行き止まりだったので来た道を戻らなければならない。
「まずは僕と花巻さんから行こう。4番目の足場で降りてもらっていい? 僕は5番目まで行くから」
「うん」
本当は、俺は魔法無しでも戻れるから花巻さんは高松さんに頼みたいのだが、多分断られるし俺の評価が下がるだけだ。
杖を股に挟み、後ろに花巻さんが座るのを待つ。さっきと同じように横向きに座って俺の肩をつかんだ。
「行くよ」
「うん」
「あ、その前にMP回復、お願い」
「あ、うん」
MPが50回復。体が浮いて、前進。さっきより少しスピードを上げた。足場をたどると微妙にカーブしてるが4番目の足場を一直線に目指す。やはり、首の後ろに額を当てられた。気が散るから動き出す前にやって欲し・・・と言うのは贅沢か。
「・・・1、・・・2、・・・3、・・・4。じゃあ降りて」
「うん」
一時停止して降下、花巻さんが完全に降りたのを確認。やっぱ5つ目までいくのMPもったいない。その場で風を止めて左足だけ着地、右足を前方に出して5番目の足場に乗り移った。成功。消費MPは48、節約にも成功だ。
「中野くんが勢い余ってこっちまで来るかもしれないから、5番目ぐらいまで空けとこう」
「うん」
それぞれ6番目と7番目に移動した。
「ありがとね、大村君」
「どういたしまして」
残っている2人に向かって手を振り、
「次、いいよー」
「よっしゃ、俺が行くぜ」
中野が2~3歩分の助走スペースを作った後、動き出す。
「はっ、・・・よっ、・・・とうっ、・・・ぃよっ! ・・・と、っとと」
何とか来れたようだが、
「ととととっ、やべっもういっちょっ!」
やっぱ勢い余ったか。
「ぃいっ!?」
あ。
「きゃあっ」
「中野君!」
4番目の足場でバランスを崩した中野は5番目に乗り移ろうとしたが、踏み外して体が傾いた。花巻さんは両手を口に当てて驚き、高松さんは大声を出した。俺は黙って中野が大穴に吸い込まれるのを見届けた。すまない中野、落ちたらどうなるかも知りたかったんだ。
「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
中野の姿が見えなくなった。心の中で5秒数えた頃に、
ドボォン。
という音が小さく聞こえて来た。中野のHPは、あと33。
「水・・・みたいだね。中野君も生きてるっぽい」
「そっか・・・良かった」
花巻さんがほっと胸をなでおろす仕草を見せる。
<中野くん大丈夫?>
と4人全員のチャット板にメッセージを送った。だがしばらく待っても反応はない。
「まだ返事する余裕はないみたいだね。高松さん、来れる?」
「え!? う、うん・・・でもちょっと、待って」
目の前で仲間が落ちた後だ、仕方ない。何回か深呼吸とか背伸びとか屈伸運動をした後、意を決したように正面を向いた。今度は受け止めるつもりはない。それは本人も分かっているはずだ。杖の真ん中辺りを持って真下に向け、体を浮かせる。足場に沿って進んだあと4番目で停止、ゆっくりと着地。
「ふぅ・・・ふぅ・・・ふぅ・・・」
「千尋ちゃん、おつかれ」
「ふぅ・・・ありがと」
高松さんは、はにかむように歯を見せた。
「お疲れのところ悪いけど、落ち着くところまで戻ろうか」
「うん、早く休みたいわ。お昼食べた分すっ飛んじゃった」
中野が隠しスイッチを押した辺りまで戻った。途端に高松さんが腰を下ろす。周囲が奈落の底なのにはもう慣れたのかな。足場の径もさっきの倍はあるし。
<すまねぇみんな、落ちちまった! けどなんか水あって助かった。プールみたいだぜここ!>
元気そうで何よりだ。
<悪いけど先に戻っとくよ?>
<ああいいぜ? ここは俺が先に調べとくわ。マップはみんな見れんだろ?>
地下3階を確認、少し線が入っている。地下2階も、みんなであちこち動き回った丸足場の部分は網みたいになっている。3階で少しできてる線と、2階で中野が落ちた辺りの位置が大体合っている。
<みたいだね。誰か1人でも行ったことがあれば全員見れるから、よろしく>
死んだ後で移動した分も有効なのだろうか。そうでなくても、プールみたいのがあるなら死んでもらって是非とも水の中を調べてもらいたい。残りHPは33、MPが尽きれば肉弾戦しかないから助からないだろう。
<中野君ごめんね。助けに行けなくて>
高松さんのメッセージだ。
<いいってことよ! 生きて帰るからレイズデッドは要らねえって葵ちゃんに言っといてくれ>
と、花巻さんも見れるチャット版にメッセージが打たれた。
「だってさ、葵」
花巻さんは高松さんに頷き返し、
<頑張ってね、中野君>
とメッセージを打った。
<おう!>
さて戻るわけだが、どうしようか。と言っても来た道を戻る選択肢はない。マップを見る限り明らかに遠回りだし、現在地と上への階段の位置は分かっているし、行ったことがない場所はいずれ行かなければならない。
「ひとまずは、階段までの最短経路を目指そうか」
「うん」
「大村君ならそう言うと思ってたわ」
「じゃあ決まりだね」
時折マップを確認しながら丸足場の間を移動していく。やがて、その先に一本橋がある広い足場に到着。みんなで腰を下ろした。
「中野君大丈夫かな?」
「さあ。僕らにはどうしようもないね。中野君が安心して探索できるように、僕らは確実に街まで戻ろう」
「そうね」
5分ほどで立ち上がり、俺、花巻さん、高松さんの順に一本橋を進む。最初の分岐を左、次の分岐は左にしか曲がれないから真っ直ぐ、でスタート地点から最初の交差点に着いてマップの線が重なった。そこを右に曲がり、階段がある大きな足場が見えてくる。
「あ」
「どうしたの?」
「向かい側から人が来た」
「え。でもそっか、そうだよね。この幅ならすれ違えるかな」
「そうだね。向こうも止まるつもりなさそうだし、このまま進もう」
ほどなくして近づいた。男の4人組だ
「こんにちは」
「こんにちは、帰りかい?」
「はい。一旦戻って休憩しようかと」
「ははは、食料とかはちゃんと詰め込まないとダメだよ」
先頭の男が体をひねってリュックを見せた。
「今度からそうします」
「さあどうぞ。狭いから気を付けて」
男たちは、俺から見て左側に寄って通るスペースを作った。
「ありがとうございます。でも僕は魔法使いなので」
俺は右前方に向かってジャンプした。
「「えっ」」
「うおっ」
「ちょっと!」
何人かが声を上げるのをよそに杖を股に挟み、風魔法で4人組の奥まで飛んで着地した。
「へえぇぇ~~。いいなあ、魔法」
「あはは・・・」
俺は頭を掻きながら答えた。
「君たちも飛ぶのかい?」
女性陣は2人して両手を胸の前で振った。
「いえいえ、せっかく道を空けてもらったのにそんな。あの子は後で叱っておきますね」
「ははは、ありがとう。でも女の子に叱られるのをご褒美だと思う人もいるから気を付けてね」
「あ、はい。彼は人を怒らせるのが好きみたいですからね。でもその時は、あたしを怒らせたことを後悔させてあげようと思います」
高松さんがこっちを見た。俺は瞬時にそっぽを向いた。
「あはは、仲がいいみたいだね」
「う~~ん、どうでしょうね。 じゃ、行こ。葵」
「うん」
高松さんが花巻さんの背中を押し、男たちの横を通ってこっち側に来た。
「ありがとうございました」
高松さんのお礼の言葉の後、3人で軽く頭を下げた。
「ううん、気にしないで。それじゃあ、神殿を調べる者同士ということで、またね」
男4人組は正面を向き直して立ち去って行った。一応、花巻匠については話しておいたが、やはり収穫なし。
階段にはすぐに着いた。
「大村君、さすがにさっきのは失礼よ。あとMPの無駄使い」
「失礼だったのは否定しないよ。むしろみんなが思ってる以上に失礼なことを考えてた。突き落とされる可能性もあったから飛んだ。だから単なるMPの無駄使いじゃないよ」
「ホントに失礼ね・・・疑い過ぎよ」
「しょうがないじゃん突き落とされてからじゃ遅いんだから。魔法を見せるフリして疑ってたことを隠したんだから、褒めてよ」
「褒めはしないわよ」
「そっか・・・ざんねん」
俺は肩を落として見せた。
「そんなことで落ち込むような人じゃないでしょ、早く上に行くわよ」
「バレちゃったか」
「”バレたか”じゃないっ。は・や・く・い・く」
「はーい」
地下1階に戻った。石の壁に囲まれてるから圧迫感がある。出口に近い方の壁は通れそうにない。3人であちこち杖でつついてみたが、何もなし。
中野の残りHPは31。なんか2減ってる。地下3階のマップは少し成長しているようだ。
「とりあえず、最短経路を意識しつつ行ったことない部屋を通って行こう」
「そうね」
「うん」
特にこれと言ったことがないまま出口に着いた。高松さんが両手をYの字に上げて大きく背伸びをする。
「う~~~ん。やっっっと出れた~~~~~」
「早いとこ戻って女将さんからお菓子をもらおう」
「もらえるのを期待するのも失礼よ、大村君」
どら焼きをもらえた。部屋に戻り、高松さんは複雑な表情でそれを食べている。もらった物を食べないのも失礼だからね。
「大村君は、どう思う?」
口を開いたのは花巻さんだ。弟のことだろうか。宿泊記録はもう調べてくれていたらしいが、2年前のゲームプレイ初期に数回泊まった記録があったっきり。残念ながら、あまり参考にはならなさそうだ。
「何が?」
「スターリー神殿のこと。ただ階段や隠し通路を探すだけだと思う? それとも、ルイナさんが言うように、何かあるのかな」
神殿のことだったか。
「さあ、どうだろうね。なんかDr. スターリー派とルイナ派、と言ってもルイナ派はあの2人だけみたいだけど、派閥が分かれてるね。でも、Dr. スターリー派の人たちがルイナさんを良く思ってないだけで、Dr. スターリー本人とルイナさんは対立とかはしてないと思う。今の段階では、どっちの味方にも付かないのが吉かな」
花巻さんは俺に目を向けたまま話を黙って聞いている。
「”奇跡の光”も気になるけど、僕たちの一番の目的は匠くんを探すことだから、隠し通路が見つかればラッキーぐらいに考えよう。あまり根詰め過ぎるのも良くないよ。頭は、自然に回る程度に回せば問題ないから」
「うん。・・・そっか。私、考え過ぎだったかも」
「あんまり無茶しないでね、葵。 でも大村君、匠君探すには隠し通路も探さないといけないんじゃない?」
「それはそうだけど、ほどほどにしよう。グリンタウンやウォーターランドでも1つ1つの民家を調べたりしてないよね。まずはこの世界全体をざっくり調べて、細かい部分はそれからにしよう。レベル40になったらBランクの装備が使えるようになるらしいから、」
その後は、指で1、2と示しながら話した。
「1つは神殿の最下層まである程度調べ終わること、もう1つは全員がレベル40になること。この2つが揃ったら一旦ウォーターランドに戻って装備を整えた上でエコノミアに進む。それでいい?」
ああ、また俺が指揮を執っている。しかも1人欠けてる時に方針の話をするとは・・・気を付けよう。2人はしばらく視線を落として考え込んだ後、
「うん、そうだね。それでいいと思う」
「私も」
「中野君にも後で話さなきゃね」
中野の状態と地下3階のマップを確認しようと思ったその時、
<中野勘太郎さんが戦闘不能になりました。他のメンバーが全員宿屋にいるため強制送還されます>
「「「あ」」」
3人の声が重なった後、ポンッと中野の姿が現れた。呆然と立ち尽くしている。
「中野くんまだ回復しないで。花巻さん、レイズデッドお願い」
「・・・ち、ちっきちょおおおおおおぉぉぉ!!」
次回:大穴の層を攻略せよ




