第51話:スターリー神殿の謎
「貴様ら、何者だ」
剣士が、ルイナ(と思われる人)と俺たちの間に入って剣をこちらに向けてきた。
「あ、えっと・・・」
敵意がないアピールのため両手を胸の前で開いて見せる。それでも剣士は鋭い目つきで睨みつけてくるままだ。
「待って、リリー。きっと大丈夫よ」
ルイナ(と思われる人)が剣士を手で制止して前に出て、リリーと呼ばれた剣士は腕を下ろした。鞘にはまだ納めていないが。
「うおぉ・・・」
「すごい、キレイな人・・・」
中野と高松さんがそんな声を上げる。”美人”と呼ばれても違和感ない顔立ちだ。他の人が掛ければ微妙な感じになりそうな丸いメガネも、ものすごく似合っている。
「どうして、私がルイナだと思ったの?」
その眼差しに圧倒されそうになるが、持ち堪えた。
「勘です」
「貴様そのような根拠のないものが…」
「待ってリリー。・・・勘、にしたって多少なりとも根拠はあるわよね。プレイヤーが、”ルイナ”の名を知ってるんだもの」
相変わらず、澄んだ瞳のまま俺を見続けている。
「上のフロアで学者に会って、Dr. スターリーについて聞いたら、Dr. スターリーを慕っている学者たちに対して厳しい意見をもつルイナという女性の学者がいる、とのことでした」
「女の学者は1人じゃないわ」
「Dr. スターリーを慕うことに厳しい意見を持つ学者で、有名なのは1人だけです。”プライドは無いのか”という趣旨の発言もあることから、Dr. スターリーの調査報告を参考にすること自体に疑問を持っているようですね。ここにいるということは、その学者か、Dr. スターリーの調査報告を持つ有象無象かのどちらかです。あとは、勘です。そこに立っているあなたの姿から、この人がルイナさんかも知れないと・・・、いえ、正確に言いますと、この人がルイナさんだという確信に近いものを感じました」
目の前の学者は、一瞬目を閉じてフーッと息を吐いた。剣士は、剣を鞘に納めた。
「その通りよ。私はルイナ、・・・ルイナ・カーミーン」
「ルイナ殿・・・!」
「いいわよ、これくらい」
昨日のマリーナの話だと、この世界でファミリーネーム、つまり苗字を持つのは王族か由緒ある家系だけらしい。
「カーミーン、覚えておきます」
「忘れても損するほどの名じゃないわ」
「覚えてても損はないので」
「それで、何か用かしら。私がルイナであることを知りたかっただけなら、これで失礼するけれど」
あー・・・特に考えてなかったな。
「そうですね・・・地下3階から5階は、何と呼ばれてるんですか? ここは”大穴の層”らしいんですが」
特に興味は無かったが、聞いてみた。
「知らないわ。それはDr. スターリーが付けたものだから。どんな仕掛けがあるかは教えられるけど」
「いえ、結構です。その代わり、あなたがスターリー神殿を調査している理由を教えてください」
「飽くなき探求心、それだけよ。考古学者だもの」
「そうですか。失礼ながら随分とお若く見えます。教えを請う師などはいないのですか?」
20代前半ぐらいに見える。俺たちよりは年上だと思うが、学者にしては若い方だろう。
「おい貴様っ!」
「いいわよ別に。当然の疑問だから。・・・師は、いたわ。私はその人助手をしていた。”先生”と呼ぶわね。親元を離れてから5年、先生と共にこの神殿の調査を続けていた。先生も、あなたの言う”有象無象”の1人で、Dr. スターリーが見つけた分はそっちのけで新たなる進路を探していた。けれど去年、”30年前の奇跡”の復活は叶わぬまま病気で亡くなられたわ」
「・・・そうですか」
仲間の3人も暗い表情で視線を落とす。
「しばらくはショックで立ち直れなかったのだけれど、3ヶ月後に再出発したわ。だけど、先生が5年、Dr. スターリー本人が60年も調べても分からないのだから、それまでの成果を捨てて、一から調べ直すことにしたの」
「なるほど。でもこの神殿は、基本的には隠し通路や階段を探すということになってますが」
「基本的には、そうね。壁・床・天井、それらを探るしか出来ることがないもの。だけど私は、何かを見落としていると思うの。”奇跡”の復活につながる、大事な何かを。だから私は、隠し通路や階段を探しながらそれを考えてる。ただの宝探しじゃないわ。この神殿には、謎がある」
「謎、ですか・・・。難しそうですね」
「ええ。でも難しい方が面白いわ。もし良かったら、あなたたちも頭を使って欲しい。それとも、宝探しだけで十分かしら」
「そうですね・・・、僕たちが探しているのは―――」
--------------------------------
結局、ルイナさんたちも花巻匠のことは知らなかった。彼女たちはしばらく階段辺りにいるらしい。階段の近くはモンスターが出ないんだとか。休憩にもってこいだな。行動を共にする気はお互いないし、先に行かれるとどう進むのか見てしまうから、ちょうどいい。
で、”大穴の層”だが、
「うっわ何だこれ。全然下が見えねえ」
「地下3階、あるのよね?」
大穴は想像以上に深いようで、奈落の底に続いてるんじゃないかって感じだ。
「落ちたらそのまま地下3階に行くって話だけど、深そうだね。階段もめっちゃ長かったりして。風魔法使えば近道できそうだけど、まずは普通に歩いてみよう」
「落ちたら死ぬだろこれ」
「その時はレイズデッドの出番だね」
「うわ絶対ヤダ」
「み、みんな、気を付けてね」
足場は幅1.5mぐらい。よほどバランスを崩さないと落ちることはないだろう。でもモンスター出るんだよなあ。開けた景色になったのはいいが、所々で天井に吊るされている明かりだけでは、遠くまでは見えない。
さあスタートだ。まずは俺が、幅1.5mの一本橋に足を乗せる。後ろは中野、花巻さん、高松さんの順だ。もしもの時のために全員が見える一番後ろが良かったのだが、男が先に行けと言われた。救助係は高松さんにやってもらおう。
「ちょっと、ゆっくり歩いてよ」
歩くペースまで指図されるし・・・。みんなしてトロトロと歩く。まあ無理もない。足場自体はその辺のアスレチックよりも簡単なものだが、一歩踏み外せば奈落の底だ。慣れるまではこんな感じだろう。
必然的に、モンスターは俺と中野が倒すことになる。後ろからコウモリが来たら女性陣よろしくだ。足場は頑丈、少しだけ体を曲げて下を覗き込んで見ると、ずっと下の方まで続いている。側面が綺麗だから下から積み上げたと思うが、何のためにこんな物を。言ってしまえばこの神殿自体分からん。人工物なのは間違いなさそうだが。
分岐点が現れた。交差点で、正面と左右に分かれている。特に根拠はないが、
「右で」
「おう」
「「うん」」
右に分岐した先も、相変わらず遠くは見えない。
みんな慣れてきたのか歩くペースが上がり、早くも次の分岐点に着いた。今度はT字路で、左右に分かれている。ここで右に行くとUターンみたいになるが、どうしようか。
「で、また右か?」
「でもスタート地点に戻っちゃわない?」
「うーん。それならそれでもいいさ、地図を書くぐらいのつもりで行こう」
「んじゃ、スタート地点に戻ったら大村君のせいね」
しまったー。人に判断させといてダメだったら責任を押し付けられる、トラウマなんだが。今わざとそれ言ったでしょ。高松さんもこういった経験があるはずだ。
「ねぇあたし前行っていい?」
「別に。じゃあ僕が下がろうか」
風魔法使える人が1人は後ろにいた方がいい。
「もし落ちそうになったら助けてね、大村君」
「自分の風魔法で何とかして」
「何でそんなことが平気で言えるの・・・」
「メンタルは鍛えてきたから」
「発揮の仕方が間違ってるわよ!」
俺は正しいと思ってるよ? こうして上手くクズ人間アピールできてるんだから。
2度の分岐を両方とも90°右に曲がったが、その先で大きな左カーブのUターンがあって進行方向は正面に戻った。しばらく進んでいると、
「あ、やった。あたしもゲイルタイガーとスターストリーム使えるようになったよ」
高松さんのレベルが30になったようだ。
「お、やったじゃん千尋ちゃん。スターストリームまじ強ぇから」
「うん、使うの楽しみ」
さらに進んでいると、広い足場が現れた。
「あ、あそこ着いたら休もっ」
「よっしゃ! 一本橋の上じゃちっとも休めねぇからな」
「あ・・・」
その広い足場の先の道が見えて、高松さんが絶句した。道というか、飛び石のように途切れ途切れになっている。要は、飛び移って行かなければならない。
「おいおいマジかよ」
「いやこんなの最初から分かってたでしょ」
「あたしたちは大村君ほどネガティブ思考が身に付いてないの」
「それは褒め言葉として受け取るよ」
「何でそこだけポジティブなのよ・・・」
到着してすぐ、俺は腰を下ろした。
「ふぅ~~っ、やっとひと息つける」
「よく呑気に休んでられるわね。この先はこんなんなのに」
「休もうって言ったの高松さんじゃん」
「休む気にもなれないわよ。せっかく慣れてきたのに今度は奈落の底を跨がなきゃいけないなんて」
近づいてみると、飛び移るほどの距離ではなかった。1つ1つの足場も直径2mぐらいあるから簡単には落ちないだろう。だがこれは中々にスリルがある。
ふと、歩いてきた一本橋の方を見ると、黄色のスライムが近づいて来ていた。
「はあ、ここでも敵出るのね」
スライムを片づけた。
「本当に休めるのは階段の近くだけみたいだね」
それでもたまに現れるザコを倒しつつ15分ほど休憩した。中野は弁当を少し食べた。まだ11時だけど、腹が減っては何とやらだ。MPは残り7割といったところ。半分か、遅くとも4割を切ったら引き返すべきだな。
「んじゃ、そろそろ行こっか」
「うっし。待ってろよ次の階段」
「大村君、また前お願い」
「はーい。でも落ちそうになったら助けてね」
「自分で何とかして」
人に冷たくすると、時としてそっくりそのまま返される。
途切れ途切れの足場だが、数が少ないので進行方向は限られる。道なりに進んで分岐はその場で適当に、を繰り返しながら進む。少しずつ、足場が小さくなって間隔も開いているような気もするが、難易度が上がるのは先に進んでいる証拠。みんなでそうポジティブに考えて進み続けた。
だが・・・・・・、
「も~~~階段どこにあるの~?」
休憩明けから1時間、一向に見えないゴールに高松さんが音を上げる。
「きっともうすぐだよ。頑張ろ、千尋ちゃん」
「う~ん、頑張るけどぉ」
「俺ももう疲れたぜ~~~」
中野が直径1.2mほどになった足場に腰を落とした。よく手をついて座れるな、そんな所に。
「ったく、どっかに隠しスイッチとかねぇのかよ」
中野は足場の側面を覗き込み、手でドンドンと押し始めた。
「お?」
「え?」
見ると、中野の手が側面に食い込んでいた。もしかして、当たり?
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・
「え、ちょ、何?」
音と共に地面が揺れ始めた。立っていられない程ではない。
「分かんねえ! なんかスイッチ押したっぽい!」
「え!? それ押しちゃダメなやつじゃないよね!?」
あ、そっちの可能性もあるのか。
「分かんねぇ!」
「嘘でしょ!?」
そして、中野がいた足場から、元々何も無かった方に向かって新たな足場が出てきた。微妙にカーブを描きながら足場が並ぶ。遠近法は関係なしに、明らかに遠くの足場ほど小さい。だがその先に大きな足場も現れた。四角いトンネルっぽい感じになっていて、壁が邪魔で奥は見えない。
「とりあえず行ってみよっか」
果たして、宝が出るか蛇が出るか。
進むと、途中からは人ひとり乗るのがやっとぐらいの大きさになった。直径で、靴を3つ縦に並べたぐらい。俺、中野、花巻さん、高松さんの順で、一歩一歩踏みしめながら進む。
だが残り3つ、明らかに飛び移らなければならない距離が開いていた。足場自体も小さくなっていき、最後の1つに至ってはキッチンの排水口ぐらいの大きさだ。
「ちょっこれどうすんの?」
足場の並びがカーブしてるせいで後ろからも見えるようだ。俺や中野はともかく、女性陣がこれを突破するのは辛いだろう。MPを消耗するが、仕方ない。
「しょうがない、風魔法を使おう」
次回:空飛ぶ魔法使い




