第5話:初のボス戦、4人の魔法使い 対 ブルーウルフ
「じゃあ俺から行くぜ。ぬぅぉおおお!!」
中野が狼に向かって走り出す。狼も中野に向かって走り出した。
「じゃあ僕らも行こう。さっさとスライムを倒して中野くんに加勢しないと」
「うん」
高松さんと目を合わせお互い首を縦に振り、中野とある程度の距離を置いて走り出した。中野と狼が戦い始めた。「くっ」とか「このっ」とか「ガルッ!」とか聞こえる。うまく足止めできているようだ。さっさとスライムを片づけよう。火属性でいいや。
スライムに接近するなり杖を3回縦に振り下ろしてスライムを殴るとこれまで通りあっさり消えてくれた。高松さんの方も終わったらしい。中野のHPを確認すると40ちょいぐらいになっていた。思ったより減るのが早い。
「高松さん援護射撃お願い」
「任せて」
俺は中野の方の接近戦に加勢しよう。雷なら痺れて動きが鈍ったりしてくれないかな。
「ぐぉほぉっ!」
中野の方に向かっている最中に中野が狼のタックルをくらい尻もちをついた。狼は口を大きく開いて中野に迫る。噛みつきか? 距離があるけど仕方ない。俺は杖を前に向けて中野の前に壁ができるよう念じた。すると地面から壁が出てきた。狼は突然目の前に現れた壁に激突する。壁は壊れたが狼の動きも止まった。
そこへさらに突風が吹いてきて狼がよろける。高松さんの魔法だ。風属性がどれくらい効くか分からないけど、おかげでチャンスだ。俺は雷付きの杖を上から下、左から右の順に振って二発攻撃し、中野の近くまで下がった。狼も後ずさり、距離が取れた。中野が壁の破片を払いながら立ち上がる。残りHPは25。
「サンキュー、助かった」
「HPかなり減ってるけど大丈夫?」
「倒さなきゃ回復できねえんだ。最後までやるさ」
「僕と高松さんのMPが尽きたら中野くんにも回復回せるけど」
「魔法の援護があった方がやりやすいぜ」
「そっか」
「千尋ちゃんもサンキュー!」
中野が高松さんに手のひらを向ける。
「いいから前見て! 前!」
狼は低姿勢でこちらを威嚇するように見ている。左前足を軽く浮かせているのは、もしかして壁にぶつかった時に痛めたか? 火や雷で隙を作りつつ戦うのを最初は考えていたが、MPがなくなってからのことを考えるとボコボコにして動きを鈍らせた方がいいかも。土属性でいこう。
俺は杖の先に土の剣を作った。武器は長い方がいい。消費MPは2。残り51。一発で砕けて作り直してたら25発か・・・どうだろう。さっきの壁で15減ったのが痛い。
狼が走ってこちらに向かってくる。俺も前に踏み込んで杖を横に振った。顔を狙ったが狼が高めに飛んだので右前足に当たった。土の剣はまだ砕けない。狼はひるむことなく、走ってきた勢いで俺に迫る。俺は体を右に倒して狼をよけつつ、狼の背中めがけて杖を振り下ろした。クリーンヒット。案の定、土の剣は砕けた。
「ギャウン!」
狼が声を上げるのを聞いて再び土の剣を作り追撃の構えをとった。しかし狼は着地後すぐ方向転換をして俺に襲い掛かった。
「うおっ!」
顔面めがけて口を大きく開けてきたので思わず杖を盾にしてしまった。狼は杖に噛みついて俺を押し倒す。
「ぐぇっ!」
俺は背中と後頭部を地面にぶつけた。痛ぇ、絶対HP減った。でも衝撃で杖が狼の口から離れた。今度は杖で狼の首を押す。しかし狼は俺の顔に噛みつかんとばかりにその牙を何度も前に突き出してくる。
「このっ! 離れなさい!」
横からに光の玉が何回か飛んできた。高松さんの魔法だ。しかし狼は変わらず俺の顔に噛みつこうとしてくる。
「おらぁっ!」
今度は突然、狼が右の方に飛んで行った。中野が蹴ったんだ。ナイス。狼はすぐさまこちらを向き走ってくる。そこへ大きめの光の玉が直撃し、狼は体勢を崩す。高松さんもナイス。俺はこの隙に土の剣で後頭部を殴った。
砕けたのでまた作り今度は左から右に振って顔面を殴り、また作り直して今度は横腹に突き刺すように剣の先を前に出した。あまり尖らせてはいなかったからか、刺さることはなく狼を突き飛ばしただけに終わった。もしかして尖らせてたら腹を刺して即死にできたのか? 失敗したな、チャンスだったのに。
今のでは剣は砕けなかった。もう一度構えて狼とにらみ合う。俺のHPは70。うわ、さっきので結構くらったな。
「大村君!」
花巻さんの声が聞こえた。すると体が青白い光に包まれて痛みが引いた。回復してくれたらしい。全回復だ。花巻さんのMPは85。あまり使わせられない。
「ありがとう花巻さん!」
後ろを見る余裕はないので声だけで答える。どれくらい後ろにいるんだ?
狼とのにらみ合いが続く。お互い微妙に左右に動きながら様子を探る。狼はさっきよりも足が痛そうだ。ダメージは確実に与えられている。MPは俺45、高松さん70。中野のHPは22、自分の蹴りで減ったのか? 物理攻撃は杖でやった方がいいかもな。
狼が走ってきた。俺はその場を動かず、自分の1歩前辺りに1mほどの壁を出した。狼が壁にぶつかるタイミングで横に回り込み、見えている背中に剣を振り下ろした。やっぱり砕ける。今度は壁と剣の破片ごと踏みつけた。
「ギャウン!」
よし、今のは結構効いただろう。
「があああああぁぁぁぁぁ!」
今度は俺が声を上げた。左足を噛まれている。雷属性で攻撃すると狼の力が緩んだ。一旦下がろう。痛みをこらえながら左足を支えにして右足で狼のアゴを蹴り、後ずさって距離を取った。狼も、雷とキックの連続攻撃が効いたのか後ずさってくれた。
また花巻さんが回復してくれたのか、光に包まれて痛みが引いた。花巻さんのMPは68。HP見てる余裕なかったけど結構くらったらしい。今は全回復。花巻さん、ありがたいけどほどほどに頼む。俺がダメージくらうのがいけないんだけど。
「おい大丈夫か?」
「今のは結構痛かった」
「まず俺がいこうか」
「噛まれたら即死かもよ?」
「お前が死ぬよりマシだ。俺が囮になるからその剣で頼むぜ?」
「分かった」
今度は中野を前にして狼とのにらみ合いが始まる。
「いくぞぉ!」
中野が先に仕掛けた。高松さんは右の方にいる。10mはありそうだが念のため右に回り込もう。中野が杖を左から右の方に振ったが狼は左後ろ方向に避けて中野に体当たりを仕掛ける。そこに俺が土の剣を振り下ろして背中に攻撃。狼は一瞬ひるむも今度は俺の方に向かってきた。
「大村君、横に飛んで!」
左の方に飛んで着地後振り返ると大きな光の玉が飛んできた。狼に直撃。俺はすぐさま土の剣を作って狼を殴る。さらに中野も杖で殴る。いいぞ、もうこのまま袋叩きにしよう。
「ガウッ!」
また狼が俺の足を噛もうとした。後ろに飛んでよけたが今度はタックルがきた。
「ぐっ!」
狼の頭が俺の腹に当たる。
「おら、離れろぉ!」
中野が狼をつかんで投げ飛ばした。さらにそこに光の玉が直撃する。
「一旦下がろう」
「おう」
俺と中野は下がって狼と距離を取る。ちらりと後ろを見ると女性陣2人がいた。いつの間に揃ったのか。
「大村君!」
「ありがとう」
回復がきた。今のダメージは小さかったのだが。ダメージ受けるたびに回復してくれなくてもいいのだが、余計な指示はしないでおこう。花巻さんが判断に迷うことになるし、MP残したまま倒れる訳にもいかない。
再び狼とにらみ合う。ひたすらヒットアンドアウェイを繰り返すしかない。アウェイがうまくいかずダメージ受けてるけど。狼の方も少しよろよろしている。動けなくできればこっちのものだ。杖で殴り続けるだけで勝てる。
残りMPは俺36、高松さん60、花巻さん63。中野のHPは22。
ここからが正念場だ。何としてもこいつを倒そう。
次回:魔法使いの拳