第49話:神殿に人生を捧げた男、Dr.スターリー
「そこに掛けたまえ、お主ら。これからDr. スターリーを呼ぶ」
謎のポーズと共に自己紹介を終えたあと5秒程の膠着があったが、スターは見張りに戻り、ムーンは食事の準備、サンはDr. スターリーを無線で呼んだ。石の壁に囲まれた空間に似合わない洋風のテーブルについて待っていると、ムーンがお茶を持ってきた。紅茶だ、本日2度目の。
「で、サン。こいつらがDr. スターリーに会わせるほど面白いのか?」
「”この者たち”と言うよりは”この者”だな。その男、中々に面白いぞ。少女の方は仲間だそうだ。他にも2人いたのだが、この者が帰した。まだ信用されていないようだな」
「ふん。まあ後はDr. スターリーが決めることだ。久々の来客、喜んでもらえるといいけどな」
「私としては、結構自信があるのだがね」
サンが笑みを浮かべながらこちらを見た。そういう自信、いらないです。その横のムーンは疑心暗鬼といった表情だ。俺がDr. スターリーに気に入られるかどうかがそんなに重要なのか? てか本人がいる前で人の評価とかやめてくれないかな。
前方から物音がして、見ると右端のドアが開いて白髪の爺さんが出てきた。Dr. スターリーだろう。もう見ただけで分かる、この人に気に入られたら、ヤバい。
突然、両手をバッ!とYの字広げた。
「科学こそ! 全て!!」
やっぱヤバい人だったか。てか科学って・・・爺さん考古学者なんじゃないの?
2人して黙ったまま爺さんを見続けていると、やがて広げていた手を戻し、咳払いして進んで来た。テーブルの向かい側まで来て、止まる。
「Dr. スターリー、右側にいる男の方です」
「ふむ」
Dr. スターリーがしばらく俺の顔を覗き込む。
「この者、とあるプレイヤーを探しているようですが、”心当たりはないがその人物がいる可能性はゼロではない”と伝えたところ、”自分の足で探すしかない”と答えました。他にも中々に面白いことを言う者で」
「なるほど。それはワシが研究を続けるに当たり大切にしとるものだ。確かに、見込はあるな」
何の見込みですか・・・。
「どうも最近の者は、カネのためにしか研究をせん。自分は手も足も動かさず下の者に働かせて茶をすするだけ、教育もロクにせん。予算が得られればそれでよし。探究心、人情、誇り、研究者に必要なもの全てがない。お主、どう思うかね」
Dr. スターリーはこちらを見据えたままだ。答えろということだろう。
「・・・確かにそういう人が多いのは嘆かわしいですが、そういう人たちが生き残れてしまうことの方が問題ですね」
Dr. スターリーの白くて太い眉がピクッと動いた。
「いいぞ、いいぞお主。やはり見込みがあるようだな」
「何の見込みかは知りませんが、質問いいですか。誇りと探究心はともかく、人情も必要なんですか? それと、さっき科学がどうとか言ってましたけど、60年この神殿のこと調べてるんですよね。科学が何か関係あるんですか?」
Dr. スターリーの目力が弱まり、右手で白いアゴ鬚をなで始めた。
「ふむ。ごもっともな質問だな。だが、研究者にも人情は必要だ。1人だけでは限界があるからな。共に進む仲間、支援してくれる助手、そういった人たちがいるからこそ研究が続けられる。敬意を払うことは重要なのだよ」
へーえ。第一印象ほどはヤバい人じゃなさそうだ。むしろ話が通じるというだけでマシな方の部類に入る。75でもこんな爺さんがいるんだな。ゲームの世界であることが残念だ。でも、さっきの口ぶりからすると、こっちの世界でも立場だけ偉くて下の人間をこき使う人間がいるようだ。
「もう1つは、科学についてだったか。確かにワシはこの神殿を調べて60年になるが、それまでは科学だけの虜だったのだよ。色んなガラクタを作っては母親に呆れられていた。今となってはガラクタとは呼ばせないほどに便利な物を作れるがね、こんな風に」
Dr. スターリーが指をパチン、と鳴らすと同時に椅子が後ろに下がった。
「うわっ」
「きゃっ」
さらにテーブルが真っ二つに分かれて俺たちの正面は何もない状態になり、次は地面がスライドドアのように開いた。そこから新たなテーブルが出てきて1つの長いテーブルが出来上がる。椅子足りないじゃんと思っていると、他の所も地面が開いて足りない分の椅子が出てきた。
最後に俺たちが座っている椅子が前に進み、テーブルについている状態に戻る。左右に分かれたテーブルに残されたお茶は・・・サンとムーンが手で俺たちの前に運んだ。
「どうだね、科学の力は。神殿の調査を始めた今でもワシは科学者であり、研究・生活に役立つものを作っているのだよ」
「ははは・・・凄いですね」
最後だけ、中途半端に手動だったが。
「そうだろう? ワシの部屋にも色々とあるのだが、あそこは極秘にしているのでね」
Dr. スターリーが指を立てて口元に当てる。75の爺さんがそれやる?
「しかし久々だ、このテーブルを長くするのも。サンよ、よく連れて来てくれたな。この者、悪くない」
「お気に召されて良かったです。その者も光栄に思っていることでしょう」
思ってねーよ。
「ところでお主、このテーブル、ワシが指を鳴らしただけで動いたが、科学的におかしいとは思わないか? ワシは科学者なのに」
「サン・ライトさんがボタンを押してましたね」
Dr. スターリーは一瞬きょとんとした後、
「くっ、はははははは! 何だ気付いておったのか、やはりお主、何か持っておるな」
「持っているのは、この杖だけですよ。いいんですか? 科学者が魔法使いなんかと仲良くしちゃって」
「確かに魔法は気にくわぬ。科学を無視する存在だ。だが、この世界がそういう風にできていると割り切れば、認められなくもない。それでも魔法を研究する者とは反りが合わないがね」
「魔法の研究者もいるんですか」
「無論だ。人の探究心は計り知れない。存在する物1つ1つに対して、それを究めたいと思う者が必ず現れる。だからこそ、人を使って金儲けのために研究する者は許せぬ。研究は、ビジネスではない」
「なるほど、そうですか・・・。で、科学で色々な物を作っていたあなたがどうして神殿の調査を?」
「フッフッフ、お主なら聞いてくると思っておったぞ。元々は、ガラクタ作り用の鉱石を採りに来た。ところが、あちこち調べているとどんどん部屋が増えていくのが楽しくてな。下へ行く階段も見つかって、この神殿の全てを知りたくなった。そう長くかからないだろうと思っていたのだが、終着点が見えぬまま60年が経ったという訳だ」
「30年前にあったと言う奇跡の光は、見たんですか?」
「無論だ。あの時は助手もいなくてな、ちょうど街へ調達に行った戻りだった。神殿から上空に向かってひと筋の光が放たれ、その後、まるで曇り空が晴れていくかのように星の数が増えていった。元々も満天の星空だが、比較にならぬ。あれは、吸い込まれるなどと言うレベルではなかった」
「でも、消えちゃったんですね」
「そうだ。次の夜は、前日のことなど忘れたかのように元の星空に戻った。これでも光の街として十分だが、あれを見た者は多くいるし、メディアも飛んで来て世界中に発信されたからな。個人的にもあの奇跡の謎を解き明かしたいものだが、あの日も調べたが全く分からず、その後も30年、復活させることができないでいる」
「そうですか」
このゲームが解禁されたのが15年前。それ以前の歴史は全てプレイヤーの介入がないプログラムだ。
「だが、それもワシの手で蘇らせてみせる。そうすれば、あの光景も”奇跡”ではなくなる」
Dr. スターリーは、どこに焦点を合わせているか分からない視線でそう言った。
「昨日のよりも凄いなんて、どんな景色だったんだろうね」
花巻さんがそう口を開いた。
「さあ。気にはなるけど、専門家が何十年もかけて復活できてないからね。匠君を探しつつ、もしチャンスがあればって感じにしよう」
「そうだね」
「そう言えばお主ら、人を探しておるのだったな」
「はい、花巻匠といって、15歳ぐらいの少年です」
「その者もプレイヤーか? もしこの手のものに興味があるのなら居るかもしれぬが・・・」
Dr. スターリーがこちらを見る。だが俺には分からないので花巻さんに視線を投げる。
「どうなの?」
「う~~~ん。こういう、神殿? みたいなのが好きかは分からないけど、世界遺産には興味があったのかな。本もたくさん持ってて、何分の1スケールの模型とかもよく作ってた」
「そっか。なら可能性はゼロではないかも・・・30年前の奇跡も有名みたいだし。ま、どの道レベル上げにちょうどいいし、しばらく探してみようよ」
「うん」
「見つかるとよいな。・・・1つ聞くが、”自分の足で探すしかない”と言った、その心は?」
俺としては当たり前の事を言っただけのつもりなんだが、あえて言うなら、
「もちろん、人に頼ることだってあります。でも、信用してないと言ったら悪いのですが、やっぱり、忘れられたり失敗されたりすることもあります。でも相手を責めるのはお門違いですね。自分ができない、あるいは面倒でやりたくないことを人に頼んだのだから」
「ふむ」
せっかくだ、ついでに毒も吐こう。
「世の中、人に頼んだ上に失敗すると怒ったり、断るだけで怒ったりする人もいますからね。そういう人は、人に頼ることを前提に生きてると思うんです。で、”あの人に頼んだのに”とか言って責任も押し付ける。僕は、もちろん人に頼ることもありますが、協力してくれたらラッキーぐらいで、最終的には自分で何とかするしかないって思って生きてます」
花巻さんが俺に対して持っている印象が、今ので悪い方に変わったかも知れないな。そうだとしても、これも何かの機会だと思うことにしよう。自分のことを知っておいてもらって、損は無い。
「・・・なるほど。サンよ、良い者を連れてきたな」
「はい、自信はありました」
「ほっほっほっ。言いよる。・・・花巻、匠だったか。もし何か聞いたらお主らに知らせよう。神殿内を探すならライトブラザーズに会うこともあるだろうし、ここにまた訪れてもよい」
「はい、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
2人でお礼を言った。それじゃあ、そろそろ帰らせていただきますかね。2人して立ち上がり、今度は軽めに頭を下げた。
「では、僕らはこれで。今日はありがとうございました」
「気にするでない。ワシとしても、お主に会えて良かったぞ。”自分の足で探すしかない”、その心を忘れるな。現地調査さえも部下に行かせるようなクズになるなよ」
「はい」
よっぽど、憂いてるみたいだな。
「お? 帰るのか? 食わねえのか?」
ムーン・ライトがミトンで土鍋持っていた。もう信用しても良さそうだが、宿屋の飯もあるし、ここで帰るタイミング逃したくない。帰ろう。
「すみません、仲間が待っているので」
「そうか、んじゃ、またな」
軽く会釈をして歩き出した。スター・ライトはずっと部屋の入り口で見張りをしていたようだ。傲慢ではないにしても、あの爺さんの助手も楽じゃなさそうだな。
スターリー神殿を後にして、今度こそホワイライトの街に帰る。
「協力者が増えて良かったね」
「うん。ありがとう、大村君」
「別に。僕は変な人に連れてかれただけだから」
「じゃあ、大村君の、変な人を惹きつけるところに、ありがとう」
「花巻さんも言うようになったね・・・」
「ふふふ」
高松さんと中野にメッセージを送り、満天の星空の下、建物の明かりが点いている街に向かって歩き続けた。30年前の奇跡とは、どんなものだったのだろうか。
次回:調査開始




