第37話:水の都デート(後編)
さて、花巻さんと2人になった。
「どうしよっか?」
「うーん・・・」
まあ、こうなるか。まず確認すべきは、
「花巻さんたちは前半どこに行ってたの? せっかくだからどっちも行ってない所にしよっか」
「あ、うん。私たちはこの近くの映画館で映画見てたよ」
うん、そうだよね。さっき高松さんから聞いた。これでコミュ障にお勧めするデートスポットの上位ワンツーが潰れたわけだ。
「そっか。僕らは西の公園と南の水族館に観覧車だったから、北の方に行ってみようか。王宮と、”ノースブリッジ”水上バス停留所だね」
「うん」
早速水上バスに乗り込んだ。
「まず王宮に行ってみよっか。もし見学コースとかがあったら夕方には閉まっちゃうだろうし」
「うん。・・・王宮ってどんな感じだろうね」
お、花巻さんから話題を振ってきた。
「さあ・・・ゲームの世界だし、”ザ・王宮”みたいな感じのが出てくるんじゃないかな。楽しみだね」
「うん」
せっかくの話題もあっさり終わる。でも、花巻さんが後半の方で良かった。前半のことを聞けばそれが話題になる。それも、映画だって?
「ところで、映画ってどんなのがあったの?」
「映画? えっと・・・2つ見たんだけど、1つはカンフーのアクションで、主人公が”ここぞ”って時にお酒飲んで酔っ払って戦うの。もう1つはミステリーみたいな感じで、古い絵と遺跡の謎を追っていくの。私あんまり映画は見ないんだけど、どっちとも結構おもしろかったよ」
「そっか。ゲームの世界でも映画は割とこっちの世界と変わらないんだね」
映画2回って中野のやつ手ぇ抜き過ぎだろ。さすがの俺も2回はないぞ2回は。それでも移動とか飯では場をつながないといけない訳で、花巻さんと中野の2人、どんな会話をするんだろうか。中野のノリに花巻さんが合わせる感じか? 心労お察しする。
だけどせっかくの話題だ。ここで終わらせるよりは少し突っ込んでみよう。あまりプライベートに干渉したくはないが、場をつなぐためだ。ついでに俺がデリカシーない奴だってことを把握しといてもらおう。その方が楽に過ごせるから。俺が。
「せっかくだから、元の世界に戻っても映画見に行ったりしてみれば? もちろん、弟くんは連れ戻した後で」
「・・・うん、そうだね。でもあんまり皆に頼りきりにならないように頑張るね」
まずい。話が収束に向かう。どうする。このまま真面目な話に入ってしまうのもアリだが。
「・・・大村君は、映画をよく見るの?」
花巻さんが世間話の方向を保ってくれた。
「いや全然。テレビで放送される分は見ることもあるけど、映画館まで行くことはほとんどないね。そんなことのために外に出たくないし」
「んっふふ」
花巻さんが手を口に当てて笑う。もしかして”外に出たくない”がツボに入ったか? 任せろ、クズ人間アピールは得意分野だ。それ以前にアピールも何も普通に俺はクズ人間です。
「休みの日は家に籠ってることが多いね。雨降るとか暑いとかいう日はもうそれだけで外に出たくないし、何もなくたって、動きたくないからやっぱり外に出たくない」
花巻さんはまだクスクス笑い続けている。どうやら上手くいったようだ。
「どうしてそんなに動きたくないの?」
「う~~~ん。いや、ほら、だって、面倒くさいし」
人と関わりたくないという理由もあるが、これを言うのはやめておこう。
「そもそも人が動くことの方に何らかの理由があるもので、僕はその”動く理由”がないから動かないんだよ。逆に聞くけど、動かないのに理由なんているの?」
花巻さんはキョトンとした顔になって俺の目を見たまま数回まばたきをした後、また表情を緩めた。
「んっふふ、そうだね」
「このゲームに挑戦したのにはちゃんとした理由があるよ? 1億円を手に入れて、一生ぐうたらして暮らすんだ。社会には出ずにひっそりと生きていく。そのためならどんな苦労も惜しまないよ」
花巻さんは目を逸らした。
「あはは・・・一生ぐうたらするっていうのは、ちょっと、応援できないかも・・・」
「あっははははは!」
今度は俺が笑う番だった。花巻さんは笑うのを通り越して呆れ気味だ。
「確かに”ちゃんとした”理由ではなかったかもね。でも理由にはなるから、ゲームクリア目指してお互い頑張ろう」
「・・・う、ん。やっぱりその理由には賛成できないけど、頑張ろうね」
王宮が姿を現してきた。さすがに水上バスの水路からは距離がある。
「すごい・・・」
「王宮と言うだけのことはあるね」
本当に絵に描いたような王宮だ。王宮の周辺には庭とかが広がっているのか建物は一切なく、半径何百メートルかは分からないが、王宮を囲うように水路と塀がある。そこを突破しても王宮までの間には見晴らしが良い庭園が広がっていて、見つからずに進むのは難しそうだ。
「どこまで近づけるかな」
「うーん、どうだろう」
「とりあえず行ってみよっか」
「うん」
水上バスを降りると、王宮に向かう道が一直線にあった。遠くに門が見える。
門の近くまで来た。水路の幅は50mぐらいはあり、この正面だけは橋が架かっていてその先に門がある。塀のせいで奥の方は全く見えない。橋全体にわたって兵士が10人ほどいる。橋の手前にいた兵士が近寄って来た。
「お前たち、何をしに来た。ここから先は民間人・プレイヤーとも立ち入り禁止だ」
「ああ、そうですか。ちょっと王宮を近くで見たくて。水上バスを降りたら道が一直線だったので見学ルートとかあるのかなと思ったんですが、ないですか?」
「王宮の見学などない。ただ、ここから南の方角に資料館がある。そこの展望台が一番近くで王宮が見える場所だから行ってみるといい」
「あ、ありがとうございます」
水上バスを降りて西に進んできたから、南は左か。さすがに王宮の近くともなると、これまでの雑多だった街並みと違って落ち着いた雰囲気だ。道に沿って進んでいると、今度は小さめの門と兵士が2人いた。今度はこっちから話し掛けよう。
「王宮の資料館は、この道を行けばいいんですか?」
「そうだ。この道を進んだ先にある。この門の内側は貴族街のため大きな音など出さぬよう気を付けろ」
「はい、分かりました。ありがとうございます」
さらに5分ほど進み、45°ぐらいの左カーブを曲がったすぐそばに建物があった。資料館だ。民間人も入れる割には目立たない場所にあるし、わざわざ王宮や貴族街の入口の前も通るルートだし、プロモーションはあまりしていないようだ。
「む、資料館の来客か」
「はい、大丈夫ですか?」
「構わない。ただし、防衛上の理由で兵士が2人同伴する。良いか」
「構いません」
ホントにこの資料館、何のためにあるんだ?
資料館には、古い手紙やら陶器やらが展示されていた。日本で言うナントカ城と似たような感じだ。このゲームは15年前に作られたそうだが、この世界の歴史そのものが設定されているようだ。どう見ても15歳以上の人もウジャウジャいるし。15年以上前の分はプレイヤー非干渉で完全にプログラムだけの歴史なのだろう。
展望台に着いた。王宮を囲う塀より高く、その内側がしっかりと見えた。
「へぇ・・・やっぱり近くで見ても立派だね」
「うん」
特に会話は続かなかったが、無理に話さなくてもいいや。沈黙も、続けばそんなに気にならなくなる。
とりあえず360°一周回った。王宮以外の方角はウォーターランドの街並みが遠くに見えるだけで、さして変わり映えはなかった。観覧車より圧倒的に低いし。
「そろそろ戻ろっか」
「うん、そうだね」
展望台から階段を降りようとしたら、下から足音が聞こえてきた。待っていると、明らかに高層階級のような格好をした人が現れた。若い、10代かな。護衛は10人ほどいる。貴族だろう。
「ここに来客とは、珍しいね」
相手は階段の途中で立ち止まったが、こちらが見下ろすような形になっているのはまずかろう。数歩下がって道を空けると上がって来た。上りきった後も結構近づいて来たが、さすがに護衛が止めた。
「さすがにこれ以上は・・・」
「大丈夫だよ。この人たちは危害を加えるような感じじゃない。・・・君たちは、ゲームプレイヤーかな?」
「そうですが、あなたは・・・?」
「ふふふ・・・、名乗らないでおくよ。でもせっかくだから言っちゃうけど、王族だ」
「「!?」」
護衛たちが一瞬ピクッとなったが、特に行動を起こさずに止まった。王族だと、貴族街じゃなくて王宮に住んでるのか?
「そうですか、王族の方にお会いできるなんて光栄ですね」
「ふふ。 機嫌を取るわけでもなく、身構えるわけでもないところが、いいね」
「・・・では、僕たちはこれで」
「ああ、失礼したね。お先にどうぞ」
王族のお兄さんが道を空けて階段の方に手を向けた。俺は軽く、花巻さんは深々と頭を下げつつ前を通り、階段を下りた。その後は何事もなく資料館の入口まで戻った。監視係とも別れ、来た道を戻り始めた。
「さっきの人、王族だって。何だったんだろうね」
「さあ。ビックリしちゃったね」
たまに散歩に来るのか、資料館に来客と連絡を受けて来たかのどっちかだろうけど、物好きなものだ。
「まいっか。じゃあ次は”ノースブリッジ”だね」
「うん」
その”ノースブリッジ”だが、本当に橋しかなかった。北に進むにつれて王宮付近の華やかさは無くなっていき、停留所に着く頃にはただの住宅街になった。停留所からは東側に向かって大きな橋が架かっていて、川をいくつか跨いでいた。その先には門があり、兵士に聞いたらやはり北にある街―――スノーウィーン―――に続いているそうだ。モンスターが強いので気を付けるように、とのことだった。
さて、北側は行きつくした訳だが、まだ4時だ。晩飯には早すぎる。残るは、
「あと行ってないのは、”クロスポイント”の1つ西、”キングダムホテル”だね。行ってみる?」
「・・・そうだね。また、立派な建物なのかな」
「うん、それはもう。午前中その先の公園に行った時に水上バスから見えたけど、凄かったよ。いつか、金持ちになって泊まってみたいね」
「・・・それで、ぐうたらするの?」
「・・・あっはははははは!」
まさか花巻さんがそんなジョークを言うとは。それとも素か?
「そうだね、是非とも、少なくとも花巻さんの弟さんを見つけ出した状態で、高級ホテルでのんびりしたいね」
「私も、その時は1日ぐらいだったらいいかな」
「あんまり僕のぐうたらが移らないようにね」
「うん、気を付ける」
その後は特に会話もなく”キングダムホテル”に着いた。ホテルの入口は目の前、佇まいがもうヤバい。
ロビーとレストラン、ショッピングエリアは宿泊客以外でも入れた。言葉では言い表せないほど豪華な造りで、俺のようなチンチクリンが来てはいけないような雰囲気で溢れている。マジ、高級家具たちに”帰れ”って言われてる気分だ。ショッピングエリアの方も、アクセサリーや洋服などのブランド品ばかり。5ケタとか6ケタの値段の物がたくさんある・・・。
そうこうしているうちに5時を回った。少し早いが晩飯にすることにした。この辺りは高級レストランしかないのと、移動で時間を稼ぐために宿屋の近くまで戻った。ファミレス。俺にはこれぐらいがちょうどいいです、本当に。
「さすがに1日中ウロチョロしてると疲れるね」
一番疲れるのは、人と過ごすことだが。
「うん、結構歩いたもんね。私は前半は映画だったけど、後半だけでもやっぱり疲れちゃった」
「ごめんね、歩きがメインになっちゃって」
言った瞬間後悔した。花巻さんに対して謝っても気を使わせるだけだ。
「ううん、気にしないで。楽しかったから」
「そっか、それは良かった。外に出た甲斐があったよ」
「んふふ。あんまりそんなこと言ってると、千尋ちゃんに怒られるよ」
「もうとっくに怒られてるから大丈夫だよ」
「え・・・それって大丈夫なの?」
ダイジョブダイジョブ、問題ない。個人的には花巻さんの「こら」も聞いてみたいな。
「花巻さん」
「何?」
本当に不思議そうに、キョトンとした顔を向けてくる。結構心臓に悪い。
「トマト、食べる?」
出されたばかりのサラダの器を両手で持って花巻さんに向けた。
「え・・・? トマト、食べれないの?」
何でそんな不思議そうな顔をしてるんだ。俺からすれば生トマト食べれる人の方が不思議なんだが。
「うん。ちょっと・・・あ、いや、ちょっとどころじゃなく苦手なんだ」
「そうなんだ・・・珍しいね」
「まあね。で、これ食べる?」
「じゃあ、もらっちゃおうかな」
花巻さんが箸でトマトをつまんで自分の器に移した。花巻さんとの食事でも、俺の好き嫌いの話になった。”大変だね”のお言葉をいただいた。本当に大変なんだよ、苦手食材があるの。じゃあ克服しろって? 何それおいしいの? 絶対不味いよね?
「匠も好き嫌いが多いから、ちょっと似てるかも」
「そうなんだ」
余計なことを思い出させてしまったか。だけど、自分から言ってきたんだ。気にせず続けよう。
「花巻さんがお姉ちゃんだと、気楽にぐうたらできそうだね。僕も姉がいるんだけど、手厳しくって」
昔は優しかったんだけどなー。一時期は高松さん以上のやかましさで、最近は諦めたのかクズ扱いするようになっている。
「あはは・・・。大村君のお姉ちゃんって、大変そうだよね」
「だっっははははは!!」
「い、今のは、笑うところじゃないと思うんだけど・・・」
いや~笑うところでしょ。笑い過ぎて涙出てきた。自分でも思う、俺自身も俺の姉にはなりたくない。だけど、”大村君の姉”の弟も大変だよ?
そんなこんなで食事を終えて宿屋に戻った。着くなり解散してそれぞれの部屋に戻る。今は7時前、中野は戻って来てない。もう人と話す気分にはなれないし、さっさと風呂に入って寝よう。今日という日を乗り切ることができて本当に良かった。
次回:いざ北へ




