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4人の魔法使いの冒険  作者: 藤見倫
第2章:スターリー神殿の謎
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第36話:水の都デート(前編)

 朝食から二手に分かれることになり、俺と高松さんペアの起床は7時だった。バターを塗った食パンにベーコンエッグを乗せたものを食べながら高松さんと話す。


「こんな時間に行って開いてる所があるの?」


「公園に行きましょ。ウェステストパークってあったでしょ」


「あー、あったね」


 あったけど、軽く1時間はそこで過ごすことになるよね・・・。停留所の名前になってるぐらいだから大きい公園かもしれないけど、どうだろう。まあ、いざとなったら寝ればいいか。膝枕とかしてくれるかなあ。”眠い”って言った瞬間に膝蹴りされるかも知れないけど。


「せっかくなんだから、どこかが開くまで待ってるなんて損じゃない」


 その分を睡眠時間に回せば損じゃないよ? むしろ俺は睡眠時間を損した。


「で、公園の後はどうするの?」


「あたしが決めていいの?」


「別に。僕にとっては考える手間が減って何よりだよ」


「”手間”って何よ”手間”って・・・まあいいや、川沿いで昼寝とか言われたら堪ったものじゃないし」


「あ、いいねそれ」


「昼寝はしないからね! あと葵の時もダメだから」


「えー何で」


「”何で”じゃないでしょ”何で”じゃ」

(なんかグリンタウンのが終わってからずっとこんな感じじゃない? 素を出してくれるようになったなら良いことなんだけど・・・これが素なら大問題ね)


「はーい」


「大体の行きたい所は決まってるけど、その時に言っていくね。どうせ大村君は行き当たりばったりでもいいんでしょ?」


 Oh・・・”どうせ”とか言われちゃったよ。その通りだけれども。


「うん。高松さんの行きたい所について行くよ」


「そんな姿勢で葵の時はどうすんのよ・・・」


「その時に何とかするよ」


「んもう・・・ちゃんと楽しませてあげなさいよね」


「できるだけストレスを与えないように努力するよ」


「はあ・・・。後で葵に聞くからね」


 それは恐ろしい。けどさすがの俺も相手は選ぶ。こんな態度を取るのは相手が高松さんだからできることだ。かなり楽だから助かる。花巻さんと2人で過ごすのは気力を消耗しそうだ。当の花巻さんは中野からの俺だから辛いだろうな。せめて俺がオアシスになれればいいが。


 水上バスに乗り込み、ウェステストパークを目指した。途中で見えたキングダムホテルがヤバかった。あれはヤバい、マジで。

 出発から30分ほどで目的地に到着。芝生の広場が目の前に広がっており、小さな川や噴水が至る所にある。


「ねえ、迷路だって。歩き疲れる前にやってみようよ」


「うん」


 池の上に幅50cmぐらいの道があり、うねったり分岐したりしている。水を跨がずにゴールを目指そう、というものらしい。


「ゴール結構遠いわね~」


「いいんじゃない、これくらいで」


 あんまり近いと全部見えちゃうからね。基本的には高松さん主導で「う~~ん」とか「こっちかなぁ」とか言いながら進んでいく。


「わっ」

「お?」


 突然、両サイドから水が飛んできて、頭上を通って反対側に落ちる、水のトンネルみたいな感じになった。ミスト状の水しぶきが顔にかかって気持ちいい。手を伸ばして水に直接触ってみた。


「あ、結構冷たい」


「夏にピッタリじゃん」


「・・・そういえば、この世界に夏ってあるの? 今8月だけどあんまり暑くないよね。思えば雨も降らないし」


「言われてみればそうねえ、どうなのかしら。でもゲームって土地で季節決まってるの多くない? 砂漠エリアとか雪山エリアとか」


「あー、そうだね。北にあるスノーウィーンってのは寒そうで、その北の山のさらに北にユニオンって国があるけど、さすがに国中銀世界ってことはないよね」


「あたしは国中銀世界でもいいけどな~。どうなってるか、楽しみね」


「うん。行こうよ、僕たち4人で」


「ええ、頑張りましょ」


 迷路は15分ほどでゴールした。まあこんなものだろう。自販機で飲み物を買い、見かけたベンチに腰を下ろした。


「大村君って、凄いね」


「え?」


 思わず高松さんの方を見た。目が合った。逸らすことはできない。でも高松さんは自然な笑顔。見ていられる。


「色々と、凄いと思ってるわよ。ここまで来れたのは大村君のおかげ。頼りにしてるからね」


 まあ、チームに貢献してるとは思ってるけど。


「僕は、僕にできることをしてるだけだよ」


「その”できること”の範囲が凄いのよ」


「ふ~ん」


 ここが視線を逸らすタイミングだと判断して顔を正面に戻した。高評価なようで何よりだ。高松さんからの信頼を得られれば、これからの旅が楽になる。さし当たっては、中野の軽いノリをもう少し抑えたい。


「でも、ダメな部分も多いからね」


 今度は説教タイムのようだ。


「何が?」


 自覚は思いっきりあるけどね。


「そこで”何が?”とか聞いちゃうトコとか」


「あははははっ」


「笑わない! ・・・あと、女子にはもう少し優しくすること。大村君雑過ぎ」


「僕は良くも悪くも、男女平等がモットーだから」


「男女平等に、優しくしなさい」


「えーやだめんどくさい」


「こら」


 高松さんの「こら」が癖になりそうだ。


「ふあぁ~~ぁあ」


 あくびが出た。


「こらぁ」


 高松さんが呆れたように笑う。俺の中での高松さんは、面倒見が良くて口うるさ・・・じゃなくて優しいオカン。高松さんから見た俺は、さっき言われた通りだろう。俺と高松さんの場合、わざわざ2人にならなくても既にある程度はお互いのことを分かっていた。かと言ってこの時間が無駄だったかと言うと、そうでもない。割と楽しめている。


 高松さんが立ち上がった。


「んじゃ、もうちょっと歩きましょ」


 その後も、歩いては休憩を繰り返した。さすがにまだ8時ちょっとだから人は少ない。そのうち親子とかが来ると思うが、この世界、曜日の概念はあるのだろうか。



「次に行きましょ。水族館よ」


 何となく、そんな気はしていた。水上バスに乗り、”クロスポイント”で乗り換えて水族館を目指した。”クロスポイント”では降りる時に乗り換えることを告げると、乗り換えチケットがもらえて乗り換え先はタダになる。ちなみに運賃は一律500円だ。

 途中、観覧車の前を通った。近くで見るとよりデカく感じる。置いてある看板によると直径100mらしい。やはりゴンドラに水が思いっきりかかっている。今日はまだ営業していない。水族館の次はこれにするそうだ。これも、そんな気がしていた。



 次の目的地に着いた。立派な建物だ。水が流れる透明な管で”WATERLAND AQUARIUM”と書いてある門が印象的だ。


「大村君って生き物とか詳しかったりする?」


「いや、あんまり」


「そっか。じゃあ一緒に解説とか見て楽しもうね」


 高松さんなら、ドヤ顔でうんちくを語りまくる男にも合わせられるだろう。俺は女性にとってのオアシスを目指しているので、魚に詳しくても語り過ぎないようにするが。


 水族館には、なんかデカい魚、それっぽい名前の熱帯魚、エビ、イカ、タコ、ウニ、サメ、貝類など、いろんな水生生物が展示されていた。川の上の街なのに海水魚が多いのだが、無粋なツッコミはやめよう。一応、淡水魚エリアもあったが華がなかった。イチオシ淡水魚がオオサンショウウオじゃなぁ・・・。いや、可愛いと思うぞ? オオサンショウウオ。ただ、華がない。


 俺の中でのイチオシは、クラゲだ。以前、家族旅行で田舎に行って海水浴場で遭遇した時はヌメっとして気持ち悪かったが、管理されている水族館で優雅に舞う姿を見ると、こんなにも違うのか。ああ、癒される。


「ああ、クラゲになりたい」


「何言ってるの?」


 あれ、声に出てた? まあいいや、心からの本音だし。

 俺たちはクラゲがたくさんいる巨大な水槽の前のベンチで休憩している。クラゲは色付き照明で照らされているためか、その魅惑的ボディに青や赤などの色がかかっている。

 クラゲは、何を考えて、何を思って水の中を舞っているのだろうか。もし、何も考えずに、本能に任せて体を動かすだけでいいのなら、もし俺の願いが叶うなら、クラゲになりたい。クラゲになれる魔法、ないのかな。


「ああごめん、つい思ったことが口に出ちゃった」


「だから何言ってるの」


 ちゃんと答えたのに高松さんのセリフは変わらなかった。言わんとしていることは分かる。


「心からの本音を」


「だから・・・もう・・・。大村君は人間なんだから、変なこと考えてないで人間らしくしてなさい」


「えー何でめんどくさい」


「めんどくさくてもダメ! 何でそんなセリフで即答できるのよ・・・」


「この想いが僕の中に根付いてるからね」


「はあ・・・。そんなことばっかり言ってると、1人になっちゃうわよ」


「そっか、そうすれば念願のお1人様になれるんだね」


「だーめっ」


 高松さんが俺の手首をつかんで立ち上がった。引っ張られる形で俺も立ち上がる。手が離され、高松さんはその離した手で進行方向を指さした。


「さ、つぎ行きましょ」


「はーい」


 その後も水族館をうろつき、全部見て回った。すげぇ、水族館って3時間も潰せるんだ。水族館、世界中のコミュ障にお勧めするデートスポット第2位だな。来る前は、場をつなぐのに苦労しそうだと思っていたが、魚がいれば話題には事欠かないし、全部回れば2~3時間は余裕で潰せる。なお、1位はもちろん映画館。黙って見てるだけでいいからね。



 12時を過ぎた辺りで昼食を取ることにした。水族館内のレストランは混んでいたので外に出た。どんな説教が来るのやらと警戒していたが、何のことはない雑談だけだった。ここに来るまでの間にも十分いろいろ言われたからね。ごちそうさま。

 ちなみに雑談の内容は主に”大村君の好き嫌い”。俺はトマト・貝類・果物が苦手なのだが、生トマトは無理だけどナポリタンやミネストローネは大丈夫、果物も100%ジュースなら普通に飲める、などの特性が付いている。高松さんからも”めんどくさい”の評価をいただきました。苦手食材を摂取する手段があるからいいじゃないか。


「じゃあ最後、観覧車に乗りましょ」


「はーい」


 水上バスで隣の”フェリス・ホイール”停留所へ移動。未だに”フェリス”の意味が分からない。観覧車は、コミュ障にお勧めできないデートスポット第1位だ。高松さんなら適当に話題を振ってくれるが、花巻さんのような寡黙タイプの人と一緒に乗った日には息が詰まって死ぬ。


 行列もなくすぐに乗れた。2人で横に並びに座る。1周するまでの時間は30分らしい。高松さんがメッセージを使って2時の集合場所を連絡し合っている。”クロスポイント”停留所に決まったようだ。中野たちは映画を見ていたらしい。・・・げ。じゃあ午後映画館使えないじゃん。


 やがてゴンドラが最頂部に近づいていく。俺は立ち上がり、北の方を見た。プライマリから街道の北側にずっとあった森はウォーターランドの真北だけボリュームが少なく、その森を境に北の方は白く色付いている。


「やっぱり、気になるの?」


「え? ・・・うん、次の目的地だからね」


「せっかくのお休みなのに冒険のことを気にするなんて、大村君らしいね」


「あはは・・・ごめん」


「いいのよ、それが大村君なんだから」


 それじゃあ、お言葉に甘えて開き直ろう。


「うん、これはもうどうしようもないね。気にせずにはいられないんだよ。自分にはそういう血が流れてるんだと、割り切ることにしてる」


「・・・そっか、大変だね」


 冗談混じりで言ったのだが、普通に受け止められた。高松さんに自虐ぎみの冗談はしない方がいいかも。でも、せっかくだから、


「だからこそ、クラゲになりたいんだよ」


 クラゲは何も考えてないだろうと失礼なレッテルを貼っているけど。


「それはダメよ。 ・・・あ」


 ゴンドラに水がかかった。窓の外の景色がゆがむ。


「見えなくなっちゃったね」


「いいよ別に。ちょうど、ずっと同じ景色に飽きてきてたし。これはこれで味があっていいんじゃない? 水がかかる観覧車なんて見たことないよ」


「そうね」


 俺は外を見るのをやめて歩き出し、高松さんの横ではなく向かい側の椅子の方に行った。どんな顔をされたか分からないが、そのまま仰向けになって右手を額に当てた。


「ごめん、ちょっと休ませて」


 さすがに、慣れないことに疲れた。中学の頃は女子と2人で出掛けてもただ引っ張り回されるだけだったが、高松さんはそこまで元気ハツラツじゃないし、俺は俺で妙に相手の様子を伺うようになったしで、疲れた。


「しょうがないわね。でも葵の前で寝ちゃダメよ?」


「はーい」


 そう言って俺は目を閉じた。10分そこらじゃ寝付くことはできなかったけど、少しは楽になった。


「着いたよ」


 目を開けると、高松さんの顔が目の前にあった。


「お疲れさま」


 おだやかに微笑んで言ってくれたその言葉は、今日1日だけを指して言った訳ではないだろう。



 観覧車を降りて水上バスで”クロスポイント”に移動した。1時55分だったが、花巻さんたちは既にいた。


「ごめん、待たせちゃったね」


「ううん、大丈夫。それにまだ2時になってないよ」


「んじゃ交替だな。千尋ちゃん、よろしくな」


「よろしくね、それじゃ行きましょうか」


「おう」


 高松さんと中野が移動を始め、俺と花巻さんが残される。


「えっと・・・、花巻さんも、よろしく」


「うん。よろしくね、大村君」



次回:水の都デート(後編)

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